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特別な人
特別な人 第79話
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口に出したことはないけど、自分の見た目に多少なりとも劣等感はある。
双子の片割れである茂斗と違い過ぎる容姿を恥ずかしいと思ったことも、実はあったりする。
だから、女の子扱いされるのは苦手。
(『可愛い』って言われるのには慣れたけど、でもやっぱり『女の子』として扱われるのは嫌だ)
男には見えない。でも、女の子でもない。
それを『中性的』だと言えば聞こえはいいけど、僕は中途半端な存在だと言われてるみたいで凄く悲しい。
不貞腐れる僕は、虎君に言葉の撤回を求めた。
でも虎君は「そういう意味じゃない」って僕の思考を止める。ちょっぴり困ったように笑いながら。
「俺は、男とか女とかそういう括りで葵のこと見てないよ。……葵は『葵』だろ?」
「……嘘吐き」
「嘘じゃないって」
尋ねられた言葉に、ぴくって反応しそうになる。でもさっき虎君が口にした言葉が引っかかってるから、喜ばない。
信じないからって意思表示のつもりで顔を背けたら、なんで信じてくれないんだって尋ねられた。
「虎君が言ったんでしょ。『男はみんな狼だ』って」
「それがどうしたんだ?」
「僕は、僕は『みんな』に入らないんでしょ……」
言葉尻は小さくなっていくから、聞き取り辛かったと思う。
でも虎君にはちゃんと聞こえたみたいで、凄く視線を感じた。
(僕、馬鹿みたい……)
虎君に他意はないかもしれないのに言葉の上げ足を取って責めて、挙句の果てに拗ねるとか、自分じゃなかったら面倒すぎて嫌になるに違いない。
口にした後の自己嫌悪に表情はますます険しくなるし、散々だ。
絶対虎君も呆れてるに違いない。って思った僕だけど、ポンって頭に乗せられた手にびっくりした。
でも、びっくりする僕の顔を無理矢理自分の方へと向ける虎君にはもっとびっくりした。
「虎君、痛いよっ……」
「当たり前だろ。痛くしてるんだから」
「! なんで……?」
予想通りの呆れた声。自分が招いたことだけど、ショックだった。
けどそんな僕の耳に届くのは小さく笑う虎君の声で……。
「人の話を聞いてないから、お仕置き」
「え……?」
「言っただろ? 俺は葵のことをそういう風に見てないって」
意地悪な言い方だけど、声は優しい。
ポカンとする僕に、虎君は目を細めて笑った。
「着替え、取ってくるな。なんでもいい? 何かリクエストある?」
言葉が出てこなくてただ黙って見つめていたら、虎君は僕に部屋に入るように促してくる。
「な、なんでもいい」
「なら、適当に持ってくるよ」
笑う虎君は僕の隣を通り過ぎる。僕の髪を撫でる手がその動きに合わせて離れていくのが少し寂しかった。
(僕って現金なやつだ)
虎君が撫でてくれた髪をなぞるように髪に触れて、思い出す。虎君の言葉を。
「僕は『僕』だから、か……」
男じゃない。女じゃない。僕は『三谷葵』なんだから。
虎君は誰よりも僕を認めてくれる人。僕は『僕』のままで言ってくれるその言葉が嬉しくて、人知れず笑った。
「本当、虎君って最高の『お兄ちゃん』だよね」
自分の頬っぺたが緩み切ってることは分かってる。きっと今誰かに顔を見られたら『だらしない顔だ』って言われそうなぐらいだってことも、分かってる。
でも、引き締めようと思ってもふよふよと笑みが込み上がってくるから、仕方ない。
「口がムズムズする」
誰も居ないのに声が出るのは照れ隠し。
僕は締まらない表情のまま部屋の中へと足を進めるとベッドにもたれかかるように座って落ち着かない気持ちを持て余す。
双子の片割れである茂斗と違い過ぎる容姿を恥ずかしいと思ったことも、実はあったりする。
だから、女の子扱いされるのは苦手。
(『可愛い』って言われるのには慣れたけど、でもやっぱり『女の子』として扱われるのは嫌だ)
男には見えない。でも、女の子でもない。
それを『中性的』だと言えば聞こえはいいけど、僕は中途半端な存在だと言われてるみたいで凄く悲しい。
不貞腐れる僕は、虎君に言葉の撤回を求めた。
でも虎君は「そういう意味じゃない」って僕の思考を止める。ちょっぴり困ったように笑いながら。
「俺は、男とか女とかそういう括りで葵のこと見てないよ。……葵は『葵』だろ?」
「……嘘吐き」
「嘘じゃないって」
尋ねられた言葉に、ぴくって反応しそうになる。でもさっき虎君が口にした言葉が引っかかってるから、喜ばない。
信じないからって意思表示のつもりで顔を背けたら、なんで信じてくれないんだって尋ねられた。
「虎君が言ったんでしょ。『男はみんな狼だ』って」
「それがどうしたんだ?」
「僕は、僕は『みんな』に入らないんでしょ……」
言葉尻は小さくなっていくから、聞き取り辛かったと思う。
でも虎君にはちゃんと聞こえたみたいで、凄く視線を感じた。
(僕、馬鹿みたい……)
虎君に他意はないかもしれないのに言葉の上げ足を取って責めて、挙句の果てに拗ねるとか、自分じゃなかったら面倒すぎて嫌になるに違いない。
口にした後の自己嫌悪に表情はますます険しくなるし、散々だ。
絶対虎君も呆れてるに違いない。って思った僕だけど、ポンって頭に乗せられた手にびっくりした。
でも、びっくりする僕の顔を無理矢理自分の方へと向ける虎君にはもっとびっくりした。
「虎君、痛いよっ……」
「当たり前だろ。痛くしてるんだから」
「! なんで……?」
予想通りの呆れた声。自分が招いたことだけど、ショックだった。
けどそんな僕の耳に届くのは小さく笑う虎君の声で……。
「人の話を聞いてないから、お仕置き」
「え……?」
「言っただろ? 俺は葵のことをそういう風に見てないって」
意地悪な言い方だけど、声は優しい。
ポカンとする僕に、虎君は目を細めて笑った。
「着替え、取ってくるな。なんでもいい? 何かリクエストある?」
言葉が出てこなくてただ黙って見つめていたら、虎君は僕に部屋に入るように促してくる。
「な、なんでもいい」
「なら、適当に持ってくるよ」
笑う虎君は僕の隣を通り過ぎる。僕の髪を撫でる手がその動きに合わせて離れていくのが少し寂しかった。
(僕って現金なやつだ)
虎君が撫でてくれた髪をなぞるように髪に触れて、思い出す。虎君の言葉を。
「僕は『僕』だから、か……」
男じゃない。女じゃない。僕は『三谷葵』なんだから。
虎君は誰よりも僕を認めてくれる人。僕は『僕』のままで言ってくれるその言葉が嬉しくて、人知れず笑った。
「本当、虎君って最高の『お兄ちゃん』だよね」
自分の頬っぺたが緩み切ってることは分かってる。きっと今誰かに顔を見られたら『だらしない顔だ』って言われそうなぐらいだってことも、分かってる。
でも、引き締めようと思ってもふよふよと笑みが込み上がってくるから、仕方ない。
「口がムズムズする」
誰も居ないのに声が出るのは照れ隠し。
僕は締まらない表情のまま部屋の中へと足を進めるとベッドにもたれかかるように座って落ち着かない気持ちを持て余す。
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