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特別な人
特別な人 第58話
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「俺も偶に正門前で見かけるけど、そんなに怖い印象はないけどな」
「普段はね。幼馴染のお兄さん、本当に葵君の事が大事なんだろうね。葵君と一緒にいると値踏みされてる感じが凄くするもん」
「マモの友達として『相応しいか』って?」
「そうそう。そんな感じ」
悠栖と朋喜の会話を聞きながらも、気持ちが落ち込んでしまって笑うことができない。僕は俯いてお弁当を口に運ぶんだけど、さっきまで美味しかったはずのそれは全く味がしなかった。
(僕が心配かけてるせいで虎君、みんなに誤解されてるんだ……)
虎君は凄く心配症だから、朋喜達の言ってることは理解できる。誰だってよく知らない人にじっと見られたら品定めされてる気になっちゃうだろうから。
でも、それでも分かって欲しいのは、虎君が朋喜達をじっと見てしまう理由。間違っても『値踏みしてる』からじゃない。虎君は僕が傷つかないように気にしてくれてるだけ。僕が、茂斗みたいに他人に対して心を閉ざしてしまわないように心配してるだけ……。
「……葵、反論しないの?」
「したら、ちゃんと分かってくれるの……?」
らしくない。って言う慶史。いつもみたいに『そんなことないよ!』って言ってきてよ。って。
でも、いつもみたいに言葉が出てこない。だって慶史も朋喜も虎君のことを理解しようって思ってないから……。
「マモ、大丈夫か? なんか顔色ヤバいぞ?」
「ごめん、気持ち悪い……」
見て取れるぐらい青ざめてる。
そう言って身を乗り出す悠栖に、僕は不快感を訴える。
いつも健康優良児な僕だけど気持ちが急に落ち込んだりすると偶にこうなってしまうことがあった。でも本当に『偶に』だし、こうなることを知ってるのは虎君だけ。それは父さん達も知らない僕の体質。
だから、三人は僕の異変に慌ててしまう。大丈夫? って背中を擦ってくれる朋喜と、吐いた方が楽になるしトイレ行こうって席を立つ慶史。悠栖は「お弁当箱片づけておくから」って言ってくれて、本当に申し訳ない気持ちになってしまう。
「ごめん、大丈夫……」
「大丈夫じゃないって。青ざめてるし、指先も冷たくなってるじゃん」
平気だって強がる僕の手を握る慶史は、「俺に隠し事できないのは分かってるだろ!」って僕の手を掴んだまま歩き出す。当然僕もそれにつられて後ろをついて歩くことになるんだけど、体調が悪くなってる時にいきなり動くと気分の悪さに拍車がかかって本当に吐きそうになってしまう。
「け、慶史、待って……、吐きそうっ……」
「! ちょ、待って待って! トイレまで待って!」
胃がひっくり返ったみたいに襲ってくる嘔吐感。
僕の訴えに慶史は凄く慌てて、昼休みに廊下で遊んでた人達に「邪魔! 退いて!」って叫んで道を作ってくれた。
慶史に邪険にされながらも僕達の慌てた様子にみんな好奇心が押さえられないのか、なんだなんだ? って視線を向けてくる。
「ちょっと! 退いてってば!!」
「何怒ってんだよ、藤原。あ、もしかして生理か?」
「ばっか! おまっ、藤原は男だろ!」
「そーだぞ。可愛い顔してるけど男だから俺達助かってるんだろ? 女だったら今頃妊娠しちゃってるよなぁ?」
何とかまだ耐えれてる吐き気に口を押えながらも慶史の後をついて歩いてたら、慶史の剣幕に掛けられる笑い声。
笑い声と共に聞こえる慶史への心無い言葉に、僕は頭が真っ白になる。
(この人達、知ってる。軽音部の人達だ……)
気分の悪さにもともと顔を上げることができなかった僕だけど、それに拍車をかけるのは、慶史に絡んでくる人たちのせい。
「煩い! 今急いでんの!」
「そんなに急いでどうしたんだよ? って、あれ? 三谷も一緒じゃん。 何? 連れション?」
「おーい! そこ男子トイレだぞー!」
女子は女子トイレ使ってくださーい! とか、一緒に便所とか女かよ! とか、そんな笑い声が凄く不快で、怖い。
僕も慶史も男だし、『女の子扱い』しないで欲しい。でも何か反応を返したら余計に危ない気がしたから、僕は吐き気と不快感と恐怖を我慢して唇を噛みしめた。
慶史もそれが分かってるのか、「葵、行こ」って軽音部の人たちを無視して僕の手を引いてくれる。
だから僕は、このままやり過ごせるって思った。悪ふざけにしては行き過ぎてるけど絶対関わりたくないし、早くこの場から立ち去りたかったし、僕は慶史に促されるまま足早にその場を通り過ぎた。
でも、後ろから聞こえるのは複数の足音。
「……ついてくんなよ」
「藤原さー、自意識カジョーなんじゃねーの? 俺達もションベン行くだけだぜ? なぁ?」
「そうそう! 別に藤原と三谷と遊ぼうとか思ってないぜ?」
「ばらしてるばらしてる!」
耳障りな笑い声が聞こえて、恐怖は一気に大きくなる。だって、この人たちの悪い噂は学園では有名だったから。
クライスト学園に通っておよそ3年。全寮制の男子校っていう特殊な環境からか、色んな話は耳にしたし、男同士の恋愛が多いってことも知ってる。
でも、そんな中で異色ともいえる噂がある。ううん、異色っていうよりも、犯罪だと思う噂。それが、『軽音部の連中は気に入った奴を輪姦して言いなりにする』ってやつ。
それは真実だって裏付けがあるわけじゃないし、あくまでも『噂』。ただ他の噂よりも耳にする頻度が多いし、火のないところに煙は立たないって言うし、巻き込まれるのも嫌だったから僕は極力関わらないように過ごしてきた。だってやっぱり何かされたら怖いから。
それなのに今僕の背後には噂の元となってる人たちがいて、何をされるんだろうって気が気じゃない。
「普段はね。幼馴染のお兄さん、本当に葵君の事が大事なんだろうね。葵君と一緒にいると値踏みされてる感じが凄くするもん」
「マモの友達として『相応しいか』って?」
「そうそう。そんな感じ」
悠栖と朋喜の会話を聞きながらも、気持ちが落ち込んでしまって笑うことができない。僕は俯いてお弁当を口に運ぶんだけど、さっきまで美味しかったはずのそれは全く味がしなかった。
(僕が心配かけてるせいで虎君、みんなに誤解されてるんだ……)
虎君は凄く心配症だから、朋喜達の言ってることは理解できる。誰だってよく知らない人にじっと見られたら品定めされてる気になっちゃうだろうから。
でも、それでも分かって欲しいのは、虎君が朋喜達をじっと見てしまう理由。間違っても『値踏みしてる』からじゃない。虎君は僕が傷つかないように気にしてくれてるだけ。僕が、茂斗みたいに他人に対して心を閉ざしてしまわないように心配してるだけ……。
「……葵、反論しないの?」
「したら、ちゃんと分かってくれるの……?」
らしくない。って言う慶史。いつもみたいに『そんなことないよ!』って言ってきてよ。って。
でも、いつもみたいに言葉が出てこない。だって慶史も朋喜も虎君のことを理解しようって思ってないから……。
「マモ、大丈夫か? なんか顔色ヤバいぞ?」
「ごめん、気持ち悪い……」
見て取れるぐらい青ざめてる。
そう言って身を乗り出す悠栖に、僕は不快感を訴える。
いつも健康優良児な僕だけど気持ちが急に落ち込んだりすると偶にこうなってしまうことがあった。でも本当に『偶に』だし、こうなることを知ってるのは虎君だけ。それは父さん達も知らない僕の体質。
だから、三人は僕の異変に慌ててしまう。大丈夫? って背中を擦ってくれる朋喜と、吐いた方が楽になるしトイレ行こうって席を立つ慶史。悠栖は「お弁当箱片づけておくから」って言ってくれて、本当に申し訳ない気持ちになってしまう。
「ごめん、大丈夫……」
「大丈夫じゃないって。青ざめてるし、指先も冷たくなってるじゃん」
平気だって強がる僕の手を握る慶史は、「俺に隠し事できないのは分かってるだろ!」って僕の手を掴んだまま歩き出す。当然僕もそれにつられて後ろをついて歩くことになるんだけど、体調が悪くなってる時にいきなり動くと気分の悪さに拍車がかかって本当に吐きそうになってしまう。
「け、慶史、待って……、吐きそうっ……」
「! ちょ、待って待って! トイレまで待って!」
胃がひっくり返ったみたいに襲ってくる嘔吐感。
僕の訴えに慶史は凄く慌てて、昼休みに廊下で遊んでた人達に「邪魔! 退いて!」って叫んで道を作ってくれた。
慶史に邪険にされながらも僕達の慌てた様子にみんな好奇心が押さえられないのか、なんだなんだ? って視線を向けてくる。
「ちょっと! 退いてってば!!」
「何怒ってんだよ、藤原。あ、もしかして生理か?」
「ばっか! おまっ、藤原は男だろ!」
「そーだぞ。可愛い顔してるけど男だから俺達助かってるんだろ? 女だったら今頃妊娠しちゃってるよなぁ?」
何とかまだ耐えれてる吐き気に口を押えながらも慶史の後をついて歩いてたら、慶史の剣幕に掛けられる笑い声。
笑い声と共に聞こえる慶史への心無い言葉に、僕は頭が真っ白になる。
(この人達、知ってる。軽音部の人達だ……)
気分の悪さにもともと顔を上げることができなかった僕だけど、それに拍車をかけるのは、慶史に絡んでくる人たちのせい。
「煩い! 今急いでんの!」
「そんなに急いでどうしたんだよ? って、あれ? 三谷も一緒じゃん。 何? 連れション?」
「おーい! そこ男子トイレだぞー!」
女子は女子トイレ使ってくださーい! とか、一緒に便所とか女かよ! とか、そんな笑い声が凄く不快で、怖い。
僕も慶史も男だし、『女の子扱い』しないで欲しい。でも何か反応を返したら余計に危ない気がしたから、僕は吐き気と不快感と恐怖を我慢して唇を噛みしめた。
慶史もそれが分かってるのか、「葵、行こ」って軽音部の人たちを無視して僕の手を引いてくれる。
だから僕は、このままやり過ごせるって思った。悪ふざけにしては行き過ぎてるけど絶対関わりたくないし、早くこの場から立ち去りたかったし、僕は慶史に促されるまま足早にその場を通り過ぎた。
でも、後ろから聞こえるのは複数の足音。
「……ついてくんなよ」
「藤原さー、自意識カジョーなんじゃねーの? 俺達もションベン行くだけだぜ? なぁ?」
「そうそう! 別に藤原と三谷と遊ぼうとか思ってないぜ?」
「ばらしてるばらしてる!」
耳障りな笑い声が聞こえて、恐怖は一気に大きくなる。だって、この人たちの悪い噂は学園では有名だったから。
クライスト学園に通っておよそ3年。全寮制の男子校っていう特殊な環境からか、色んな話は耳にしたし、男同士の恋愛が多いってことも知ってる。
でも、そんな中で異色ともいえる噂がある。ううん、異色っていうよりも、犯罪だと思う噂。それが、『軽音部の連中は気に入った奴を輪姦して言いなりにする』ってやつ。
それは真実だって裏付けがあるわけじゃないし、あくまでも『噂』。ただ他の噂よりも耳にする頻度が多いし、火のないところに煙は立たないって言うし、巻き込まれるのも嫌だったから僕は極力関わらないように過ごしてきた。だってやっぱり何かされたら怖いから。
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