特別な人

鏡由良

文字の大きさ
上 下
10 / 552
特別な人

特別な人 第9話

しおりを挟む
 不審人物を見るかのように僕達を見る茂斗は、「気が散る」って睨んできた。
「なん、で……?」
「あぁ? 凪が帰ってきたのに全然こっちに顔見せないお前らの心配して勉強に集中しないから呼びに来たんだよ。ったく、凪はマジ優しいよな」
 腕を組んでドアの前に仁王立ちした茂斗は、「可愛いうえに優しいとかマジで凪の欠点何処にあるんだよ、なぁ?」って怒ってるのに惚気てくる。
 それに僕はびっくりしすぎて圧倒される。でも、圧倒されてばかりもいられないから、まず不安を払拭しようと口を開いた。
「無事、なの?」
「無事? それって俺に言ってるわけ?」
 大好きな凪ちゃんを怒りながらも褒め称える茂斗は、僕の言葉ににやけ面を強張らせて冷たい目で僕を見据えてきた。
(あ、これ本気で怒ってる顔だ……)
「な、何怒ってるんだよ、茂斗……」
 この顔は、茂斗が他人にはよく見せる表情。でも、僕達家族にはよほどのことがない限り見せない顔。
 流石の僕も茂斗のこの表情には怯えてしまう。茂斗は怒ると本当に怖いから……。
 答えを間違えたら殴られるかもしれない。でも、何に対して茂斗が怒ってるのか分からないから間違えないように頑張っても間違えてしまいそうで怖い……。
 今度は茂斗が怖すぎて虎君にしがみつく。そんな自分の行動に気づいたのは、虎君が僕を守るように抱きしめてくれた時だった。
(虎君……)
 本当に毎回毎回、僕は虎君の優しさに助けられてばっかりだ。
 って、改めて虎君に敬愛の眼差しを向けたんだけど……。
「茂斗、落ち着け。葵は茂斗の頭が無事か聞いたわけじゃないから」
 茂斗に向けて虎君が言った言葉は、実に信じがたいものだった。
「何言ってるの虎君! 当たり前でしょ?!」
 双子の片割れにそんなひどい事思うわけないでしょ?!
 そう僕が怒ろうとしたら、茂斗は「本当に?」って確認してくる。それに僕は、なんでその言葉? ってもうパニックだ。
「葵は昔を思い出しただけだ」
「『昔』? ……! あぁ、あの時か」
 虎君の言葉に茂斗は意味が分からないとばかりに顔を顰める。でも、すぐに何のことを言っているか分かったみたいで、ポンっと手を叩いて見せた。
 もしかしなくても、茂斗、忘れてたな……?
「葵、もしかして強盗に俺達が殺されたかと思った?」
 信じられない。あんな怖い目にあったのに忘れるとか……。
 そう脱力してその場に座り込んでしまう僕に、茂斗は視線を合わせるようにしゃがみ込んで「葵は馬鹿だな」って笑う。ものすっごくいい顔で。
「俺はもう小学生のガキじゃねぇーし強盗の一人や二人返り討ちにしてやるよ」
 頭をポンポンって叩いてくる茂斗の表情はさっきまでの怒り顔とは全然違う、『馬鹿な弟が可愛くて仕方ない』って感じですごく複雑な気分だ。
 同じ年なのに完全に子ども扱い。僕は髪をぐしゃぐしゃとかき乱す茂斗の手を鬱陶しい! って振り払う。でも、茂斗は『兄馬鹿』な表情のままで……。
「茂斗、葵が本気で怒る前にやめとけ」
「んぁ? ああ、そうだな」
 不貞腐れる僕に助け船を出してくれるのはやっぱり虎君。本当、虎君って良い『お兄ちゃん』だ。
「お前のその自信満々なところは別にいいけど、玄関の鍵ぐらいかけとけよ。流石に不用心だぞ」
「あれ? 鍵かかってなかった?」
 僕が勘違いした原因の一つを虎君が指摘したら、茂斗は驚いた顔を返してくる。どうやらただの掛け忘れみたいだ。
 でも鍵の謎は解けたけど、一番の謎がまだ残ってる。それは誰の声も聞こえなかったこと。
「ねぇ、みんなは? すごく静かなんだけど……」
「ああ。そうだな。お喋り好きが居ないと静かだよな」
 笑顔のまま茂斗は立ち上がると、母さんも姉さんもめのうも居ないと教えてくれた。なんでも、みんなで夕食に出かけたらしい。
 一言もなく置いてけぼりを食らった僕は、それにちょっとショックを受ける。でもショックを受ける必要がないってその後すぐに分かった。
「姉貴ももう少し空気よめばいいのに、親父と母さんにくっついて行った。めのうを口実に使って」
「! 父さん帰ってきてるの?」
「おう。禁断症状出て限界だからって一週間帰国早めたんだと」
 仕事で国外に出張に行っていたはずの父さんがもう家に帰ってきたことにまたびっくり。帰国予定は一週間後だったのに、いくら何でも前倒ししすぎだ。
 でも僕は『なんで?』とは聞かない。だって茂斗の言った『禁断症状』ですぐわかったから。
「本当、親父の母さん中毒は何とかならないのかねぇ。仲良いのはいいけど、流石に引くわ」
 未だかつて父さんの出張は1ヶ月持ったことがない。その理由は表向きには『家族に会いたい』ってことになっているからまだ美談なんだけど、家族である僕達がしる真実は『愛しい妻に会いたい』ってものだから笑ってしまうのだ。
 僕は失笑する茂斗を見上げると、内心では(父さんの事言えないくせに)って自分の事を棚に上げる双子の片割れに笑った。けど、茂斗が父さんに似てるって言われることを嫌っているって知ってるから、何も言わない。
 そしてそれは虎君も分かっているから、僕達は視線だけで笑いあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】

はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。  前世で52歳で亡くなった主人公はその自我を保ったまま、生前にプレイしていた『星鏡のレイラ』という乙女ゲームの世界に攻略対象のリヒトとして転生した。  ゲームでは攻略が難しくバッドエンドで凌辱監禁BL展開になってしまう推しのカルロを守るべくリヒトは動き出す。  まずは味方を作るために、ゲームでもリヒトの護衛をしていたグレデン卿に剣の指南役になってもらった。  数年前にいなくなってしまった弟を探すグレデン卿に協力する中で、 リヒトは自国の悍ましい慣習を知ることになった。  リヒトが王子として生まれたエトワール王国では、権力や金銭を得るために子供たちを上位貴族や王族に貢ぐ悍ましい慣習があった。  リヒトはグレデン卿の弟のゲーツを探し出してグレデン卿とゲーツを味方にした。  ゲームでカルロの不幸が始まるのはカルロの両親が亡くなってからのため、カルロの両親を守って亡くなる運命を変えたのだが、未来が変わり、カルロの両親は離婚することになってしまった。  そして、そもそもカルロの両親はカルロのことを育児放棄し、領地経営もまとも行なっていなかったことが判明した。  カルロのためにどうしたらいいのかとリヒトが悩んでいると、乳母のヴィント侯爵がカルロを養子に迎えてくれ、カルロはリヒトの従者になることになった。  リヒトはこの先もカルロを守り、幸せにすると心に誓った。 リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

処理中です...