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第9話 『地下室』

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エイジの周りには暗闇が広がっていた。 

「ここは…夢…」 

漆黒の中ただ呆然と立ち尽くしていると、後ろからヒタヒタと足音が近づいてくる。
振り向こうとする彼だったが、夢の中だからか体が思うように動かない。
すると、足音の主と思われる者の声が後ろから聞こえた。 

『お前に問おう……お前は…"何"だ?…』 

「誰だ?一体何をいってーー」 

その瞬間、左胸に激痛が走った。後ろにいる何かが彼の心臓を握っていたのだ。 

「ぐああああああッ」 

『もう一度問う…お前は"何"だ?』
「は、離せぇッ!」 

『ふむ、全然駄目だな。答えを導きだした時、力を貸してやろう。それまでによく考えておくんだな。自分は"何"なのか…』 

耐え難い激痛に苦しむ中、アイビスが呼ぶ声が聞こえてきていたーー





「ご主人様、大丈夫ですか ? 起きてください」 

「うわああああッ!」 

慌てて飛び起きたエイジの目の前には心配そうなアイビスがいた。 

「酷くうなされていました。大丈夫ですか?」 

「あ、ああ…大丈夫だ……胸が少し…痛いだけだ…」 

そう答える彼の左胸には、夢の中で味わった痛みがまだ少し残っていた。 

「以前も胸を痛がっていましたね。心臓に関する疾患をお持ちなのですか ?」 

「いや…そんなはずはない…ただ…昏睡から目覚めた後から度々…痛みが押し寄せることがあるんだ……」 

「少し安静にしておきますか ?」 

「いや、問題ない。いつもすぐに治る。それに、今日はやりたいことがある」 

「やりたいこと…ですか?」 

アイビスはキョトンとしてエイジを見つめる。 

「ああ、準備しろ。すぐに出発する」 

「分かりました。少々お待ちください」 

早急に準備を済ませ宿を出た2人は、村の門へと向かい歩き始めた。 

そうして歩いていく途中6、7人の村の子ども達が1ヶ所に集まり何やらわちゃわちゃとしているのが見えた。近づいていくと、その中心にはカミラの姿があった。おそらく、子供の遊び相手をしている最中だろう。
すると、歩いてくる2人に気付いたカミラが大きな声で 

「おはよー」
とエイジ達に挨拶をした。
それによって周りにいた子ども達も2人に気付いたと思えば、駆け足で2人の方へ走ってきた。 

「なんだなんだ!?」 

そう言いそれに驚くエイジだったが、子ども達が寄っていったのはアイビスの方だった。 

「ねぇねぇ、おねえちゃんって"あんどろいど "ってやつなんでしょ ? 」 

「すご~い!」 

「うわ~ !あたままっしろだ ! すげ~!」 

「おれこれしってる ! "めいどふく"ってやつでしょ?」 

子ども達はどうやらアイビスが珍しいようで、よってたかって彼女に群がった。 

「あの…私は……その……」 

始めてのことで珍しく焦ってしどろもどろになっているアイビスの様子が面白く、それを見てエイジは笑っていた。
すると、カミラもこちらへと近づいてきて群がる子ども達に声をかける。 

「アンタ達、お姉ちゃん達ちょっとお話があるから向こうで遊んでて」 

「は~い!」 

子ども達は声を揃えて元気よく返事をしどこかへと走り去っていき、カミラはそれを微笑みながら見届けた。 

「元気いっぱいだな、あの子達」 

「ええ…子どもはいいわ。こんな世の中でも毎日キラキラしてて、素直で純粋で…」 

「ああ、そうだな…」 

例えどれだけ世界が悪にまみれていようと、廃れきっていようと、どんな時代でも子どもは変わらず煌めいている。
ここの村の人々にとって子ども達は宝物であると同時に、未来へバトンを繋いでくれる希望の象徴であった。
それらを今目の当たりにしたエイジは、村を守りこの子達を必ず救うと、そうもう一度心に刻んだ。 

「で、アンタ達今からどこにいくのよ?」 

カミラは首をかしげながら聞いた。 

「…ただの視察だ……なあ…カミラ」 

「…なによ?」 

真剣な顔つきのエイジから発される言葉が気になり、彼女も真剣な面持ちへと変わったた。 

「あの子達を救いたいか?」 

「…どういう意味よ?」 

カミラは首を傾げて聞いた。 

「…昨日ジークさんから鴉のことについて聞いた…奴らが今日から2日後の朝に来ることも、次は一体どれだけの数来るのか分からないことも」 

「…へぇー、そうなんだ…それで?」 

「…俺達は奴らと戦うことにした」 

その言葉にカミラは口を大きく空け驚く。 

「まさか、アンタ達2人だけであいつらに挑むつもり ? 」 

「ああ、今のところはな……そこで頼みがーー」 

「それで、アタシも協力して戦えってわけ?」 

皆まで言わずともエイジの意図を理解したようで食いぎみに彼の頼みをすぐに言い当てた。 

「ああ、頼む…カミラ」 

エイジはそう言うと、彼女の目を見つめた。その真っ直ぐな瞳から彼の本気さが伝わったのか、彼女は顎に手を当て少し考えた後、ただ一言こう言った。 

「…なるほどね…わかったわ……見せたいものがある。ついてきて…」 

そのまま彼女は村の門の方へと歩き始めた。
エイジとアイビスは互いに目を見合わせた後、すぐに彼女についていった。 

門に着くとカミラは村の外へと出た。
すると、門番の男が彼女に話しかける。 

「おいおい、また出ていくのか ? 長が怒るぞ、カミラ」 

「はいはい、分かりましたよー」 

彼女はそう軽くあしらい歩いて行く。2人も続いて外に出た。 

「な、今度はあんた達まで…」 

「大丈夫です。すぐ戻ります」


「…分かったよ。気をつけて」 

門番に会釈した後、カミラの後を追った。 

歩くこと30分程、着いたのはカミラと初めて遭遇したあの場所だった。
エイジの記憶では、ここにはテーブル以外何もなかったはずだ。 

「…見せたいものって、ここにあるのか?」 

「いいから早く入るわよ」 

3人は隠れ家へと入っていった。 

なかに入るやいなや、カミラはしゃがんで床の一ヶ所に積もった砂を払いのけた。
するとなんと、地下への入り口であろうハッチが姿を見せた。 

「これは…地下室か?」 

驚くエイジをよそに、カミラはローブにあるポケットのケースから蝋燭とマッチを取り出した。 

「ちょっとアンタ…これ、火つけといて」 

彼女はそう言いい、それをエイジに押し付けるように渡した。 

「あ、ああ…」 

少しポカンとした後、言われるがままにエイジはマッチを擦り、蝋燭に火をつける。 

するとカミラは、ハッチの取っ手を持ち力一杯にこじ開けた。
そしてその先には、真っ暗な中に地下へと続く階段が見えた。 

「ん」 

彼女はそれだけ言い、エイジの方へ顔を向けずに手を差し出す。
察した彼は火のついた蝋燭を手渡した。 

「着いてきて…あとそこ、頭ぶつけないように」 

彼女はそう言いながら入り口の縁を指差した後、下へと降りていった。 

「ああ、分かった」 

エイジが頭をぶつけない用に姿勢を低くして降りる。
アイビスもそれに続くが、話を聞いていなかったのか盛大に頭をぶつけ、ガツンという音が響いた。
それに気づいたエイジがしかめっ面で問う。 

「…アイビス、話聞いてたか?」 

アイビスは真顔で答える。 

「はい。フリというものかと思いまして」 

「お前のその冗談のセンスは一体なに譲りなんだ… 」 

エイジは頭を抱えた。 

2人のその問答を見ていたカミラは少し引き、ここに連れてきたのは間違いだったのかもしれないと思い、大きなため息をついた。
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