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第十五章【禁忌】
第七十七節 その手を取って
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ビアンカに向かって差し出されたハルの左手。
そのハルの左手を取ろうと、ビアンカが自らの手を伸ばした瞬間だった――。
突如、空を切る音と共に、差し出されていたハルの左手が何かに薙ぎ払われ、叩き落とされた。
「いっつ……っ!!」
力加減の全く感じられない一撃を受け、ハルは痛みから苦悶の声を上げる。
「ハル……ッ!!」
あまりにも突然の出来事に、ビアンカは慌てた声を張り上げた。
ビアンカが狼狽の様を見せ、ハルの左手を叩き落としたものの正体に目を向けると――、そこには険しい表情を見せ、赤い瞳に増悪に近い感情の色を宿したルシトが立っていた。
「ルシトッ?!」
ビアンカは、はたと我に返ったように、ルシトの名を呼ぶ。
ハルの差し出されていた左手を薙ぎ払い叩き落としたのは――、ルシトの持つ杖だった。
そうして、ルシトはなおも杖を構え――、警戒した様子を垣間見せ、ハルを睨みつけている。
「ルシト、どうして……っ?!」
ルシトの突然の介入と暴挙に、ビアンカが抗議の言葉を投げ掛けようとした。
だが、ルシトはビアンカに、その言葉を続けさせなかった。
「――僕は言ったよな。心を強く持てと……」
「え……?」
ビアンカに目を向けず、ハルを睨みつけたまま――、ルシトは怒りを含んだ声音で呟いた。
「なのに――、“魂の解放の儀”を始めて早々に、あんたは何をしている。いきなり“喰神の烙印”の呪いに惑わされて……、馬鹿なんじゃないのかっ!!」
ルシトの激しい叱責の言葉に、ビアンカは唖然とする。
「“喰神の烙印”の呪いの……、惑わし……?」
ルシトの言葉を聞き、ビアンカは譫言のようにその言葉を繰り返す。
(――そうだ……。私は……、“喰神の烙印”の呪いから、ハルの魂を解放しようとして……)
そこでビアンカは、自身が行おうとしていた“魂の解放の儀”の存在を思い出す。
ビアンカが“魂の解放の儀”のことを思い出した刹那――、賑やかな様相を呈していたリベリア公国が静寂に包まれる。
色鮮やかな印象を受けていた城下街も、どこか薄暗い陰鬱な気配を感じるものに取って代わっていた。
「“傲慢の一族”か――。忌々しい……」
ハルはルシトによって叩き落された左手を押さえ、ルシトを睨みながら禍々しい雰囲気を身に纏い始める。
ハルの赤茶色の瞳の奥底には――、ビアンカにも察せられるほど、深い闇が湛えられていくのが分かった。
「――僕には……、貴様のその顔でその台詞を言われる方が忌々しいね」
ハルの発した言葉に――、ルシトは鼻で笑うように答える。
「――ビアンカ。こいつはハルじゃない……。ハルの姿を模して、あんたを惑わそうとしている“喰神の烙印”の呪いだ……」
ルシトは言いながら、ビアンカを庇うように前に一歩進み出て――、手にした杖をハルに差し向ける。
ビアンカは――、そのルシトの発した真実に、言葉を失っていた。
「良いか。戯れもほどほどにしておけ。さもなければ――、自分がどうなるか。分かっているだろう……?」
ルシトの脅すような――、威圧的な声音で発せられた言葉に、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは「ちっ」と、忌々しげに舌打ちをする。
「僕は、貴様たちが恐れて止まないあいつの命を受け、『調停者』として、今――、この場にいる」
良く通る凛とした声でルシトは言う。
「そして――、貴様は今の宿主であるビアンカが、何故に貴様の意識の中に入って来たか……。理由は分かっているんだろう?」
ルシトの言明を聞き、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、ニヤリと厭わしい笑みを見せる。
「――前の宿主……、その魂の解放だろう……?」
そう言うと、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、くつくつと可笑しそうに笑いだす。
「俺の用意した舞台に惑わされ、手の内で踊るその娘に――、それが成し遂げられるとお前は思っているのか?」
ビアンカに向け、言い放たれる言葉。その言葉にビアンカは眉を顰める。
「今だって――、この姿で優しい言葉を掛けてやったら……、あっという間に堕ちそうだったじゃないか」
ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは言いながら、闇を湛えた赤茶色の瞳をルシトが庇うようにして立つビアンカに向け、嫌らしい笑みを浮かべる。
“喰神の烙印”の呪いが発した言葉に――、ビアンカは憂悶な表情を見せた。
ビアンカには――、何も反論できなかった。
信じられないという思いを心の片隅に抱きつつも、ビアンカは“喰神の烙印”の呪いの惑わしにかかり、ハルの姿をした“喰神の烙印”の呪いに、危うく意識を乗っ取られそうになってしまったからである。
ルシトの介入が無ければ――、ビアンカは間違いなく、ハルから差し出されたその手を取っていた。
そうなれば――、ルシトが案じていた事態。“喰神の烙印”の暴走が起こっていたであろう。
そう考え、ビアンカはゾクリとした感覚を覚えて、身を震わせた。
「――それ以上、こいつを惑わすな……」
ルシトは、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いから決して目を離さず、静かに――、だが怒気を纏った声を発する。
「大人しく“魂の解放の儀”を受け入れるか――、それとも今すぐに僕に始末されるか。貴様に与えられた選択肢は……、この二つだけだ」
「ふふ……」
ルシトの言葉に――、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、可笑しそうにして薄く笑いを浮かべた。
「“風の申し子”の神官将が――、随分と丸くなって、人間らしくなったじゃないか」
ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、ルシトに向けて言う。
楽しげな声音で向けられた言葉の内容に、ルシトは眉を微かに動かし反応を示した。
「――いや。群島諸国で起こった戦争の時でも、お前はどこか人間臭さを漂わせてはいたか……」
言いながら、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、暗い闇を湛えた瞳を細める。
「“大地の申し子”の聖女……、お前の姉の方が――、あのお方に従順な人形らしくて食えない奴だったな」
「貴様――、お喋りも大概にしておけ……」
ルシトは不愉快さをあらわにした声音で、静止の声を吐き捨てる。
そんなルシトの不愉快さの中に怒りの感情を滲ませた声に、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは肩を竦め、やれやれ――と。そう言いたげな仕草を見せた。
「まあ……、女の方が存外強かで恐ろしい。それだけは、良く覚えておくと良い。――その娘のように私怨もあらわに、思いもかけない行動を起こしたりしてな……」
ビアンカは“喰神の烙印”の呪いが、何を言っているのかを察し、眉を寄せた。
“喰神の烙印”の呪いが口にした言葉が意味することは――、ビアンカが“喰神の烙印”の呪いの囁きに従い、リベリア公国を滅亡させたことを揶揄するものだった。
「案外――、女が宿主の方が、俺は“糧”に困らずに済むのかも知れないな。男が宿主だと……、どうにも優柔不断なことが多くて、腹が減って仕方がなかった」
ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、再びくつくつと笑いを零す。
「――それで。貴様は、どうしたい……?」
ルシトは不愉快という感情を漂わせたまま、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いに問い掛ける。
ルシトの問いに、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、深く溜息を吐き出した。
「良いだろう。その娘の願い――、俺が聞いてやる」
「え……」
思いもかけていなかった“喰神の烙印”の呪いからの一言。それにビアンカは、驚いたように短く声を漏らす。
ビアンカの声を聞き、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いはビアンカに目を向け、口角を上げる笑みを作る。
「腹を存分に満たさせてもらった恩を返す――。そう思ってもらって構わない」
「そう……」
“喰神の烙印”の呪いが揶揄する言葉に、ビアンカは険悪感を抱き、短く返事をするだけに止まった。
「但し――、これから起こることは、俺の範疇外だ。そこで起こったことが、現実の世界の何に影響するかは俺にも分からない。どんな結果になろうとも……、それは俺には関係のないものということを、良く理解しておけ」
「……分かったわ」
ビアンカは翡翠色の瞳を、“喰神の烙印”の呪い――ハルに向け、頷いた。
ビアンカの同意を意味する頷きを目にし、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは微かに笑みを見せ、左手を高く掲げ上げる。
そうした仕草と同時に――、辺りの景色が真っ白く一変し、その姿を変えていったのだった。
そのハルの左手を取ろうと、ビアンカが自らの手を伸ばした瞬間だった――。
突如、空を切る音と共に、差し出されていたハルの左手が何かに薙ぎ払われ、叩き落とされた。
「いっつ……っ!!」
力加減の全く感じられない一撃を受け、ハルは痛みから苦悶の声を上げる。
「ハル……ッ!!」
あまりにも突然の出来事に、ビアンカは慌てた声を張り上げた。
ビアンカが狼狽の様を見せ、ハルの左手を叩き落としたものの正体に目を向けると――、そこには険しい表情を見せ、赤い瞳に増悪に近い感情の色を宿したルシトが立っていた。
「ルシトッ?!」
ビアンカは、はたと我に返ったように、ルシトの名を呼ぶ。
ハルの差し出されていた左手を薙ぎ払い叩き落としたのは――、ルシトの持つ杖だった。
そうして、ルシトはなおも杖を構え――、警戒した様子を垣間見せ、ハルを睨みつけている。
「ルシト、どうして……っ?!」
ルシトの突然の介入と暴挙に、ビアンカが抗議の言葉を投げ掛けようとした。
だが、ルシトはビアンカに、その言葉を続けさせなかった。
「――僕は言ったよな。心を強く持てと……」
「え……?」
ビアンカに目を向けず、ハルを睨みつけたまま――、ルシトは怒りを含んだ声音で呟いた。
「なのに――、“魂の解放の儀”を始めて早々に、あんたは何をしている。いきなり“喰神の烙印”の呪いに惑わされて……、馬鹿なんじゃないのかっ!!」
ルシトの激しい叱責の言葉に、ビアンカは唖然とする。
「“喰神の烙印”の呪いの……、惑わし……?」
ルシトの言葉を聞き、ビアンカは譫言のようにその言葉を繰り返す。
(――そうだ……。私は……、“喰神の烙印”の呪いから、ハルの魂を解放しようとして……)
そこでビアンカは、自身が行おうとしていた“魂の解放の儀”の存在を思い出す。
ビアンカが“魂の解放の儀”のことを思い出した刹那――、賑やかな様相を呈していたリベリア公国が静寂に包まれる。
色鮮やかな印象を受けていた城下街も、どこか薄暗い陰鬱な気配を感じるものに取って代わっていた。
「“傲慢の一族”か――。忌々しい……」
ハルはルシトによって叩き落された左手を押さえ、ルシトを睨みながら禍々しい雰囲気を身に纏い始める。
ハルの赤茶色の瞳の奥底には――、ビアンカにも察せられるほど、深い闇が湛えられていくのが分かった。
「――僕には……、貴様のその顔でその台詞を言われる方が忌々しいね」
ハルの発した言葉に――、ルシトは鼻で笑うように答える。
「――ビアンカ。こいつはハルじゃない……。ハルの姿を模して、あんたを惑わそうとしている“喰神の烙印”の呪いだ……」
ルシトは言いながら、ビアンカを庇うように前に一歩進み出て――、手にした杖をハルに差し向ける。
ビアンカは――、そのルシトの発した真実に、言葉を失っていた。
「良いか。戯れもほどほどにしておけ。さもなければ――、自分がどうなるか。分かっているだろう……?」
ルシトの脅すような――、威圧的な声音で発せられた言葉に、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは「ちっ」と、忌々しげに舌打ちをする。
「僕は、貴様たちが恐れて止まないあいつの命を受け、『調停者』として、今――、この場にいる」
良く通る凛とした声でルシトは言う。
「そして――、貴様は今の宿主であるビアンカが、何故に貴様の意識の中に入って来たか……。理由は分かっているんだろう?」
ルシトの言明を聞き、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、ニヤリと厭わしい笑みを見せる。
「――前の宿主……、その魂の解放だろう……?」
そう言うと、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、くつくつと可笑しそうに笑いだす。
「俺の用意した舞台に惑わされ、手の内で踊るその娘に――、それが成し遂げられるとお前は思っているのか?」
ビアンカに向け、言い放たれる言葉。その言葉にビアンカは眉を顰める。
「今だって――、この姿で優しい言葉を掛けてやったら……、あっという間に堕ちそうだったじゃないか」
ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは言いながら、闇を湛えた赤茶色の瞳をルシトが庇うようにして立つビアンカに向け、嫌らしい笑みを浮かべる。
“喰神の烙印”の呪いが発した言葉に――、ビアンカは憂悶な表情を見せた。
ビアンカには――、何も反論できなかった。
信じられないという思いを心の片隅に抱きつつも、ビアンカは“喰神の烙印”の呪いの惑わしにかかり、ハルの姿をした“喰神の烙印”の呪いに、危うく意識を乗っ取られそうになってしまったからである。
ルシトの介入が無ければ――、ビアンカは間違いなく、ハルから差し出されたその手を取っていた。
そうなれば――、ルシトが案じていた事態。“喰神の烙印”の暴走が起こっていたであろう。
そう考え、ビアンカはゾクリとした感覚を覚えて、身を震わせた。
「――それ以上、こいつを惑わすな……」
ルシトは、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いから決して目を離さず、静かに――、だが怒気を纏った声を発する。
「大人しく“魂の解放の儀”を受け入れるか――、それとも今すぐに僕に始末されるか。貴様に与えられた選択肢は……、この二つだけだ」
「ふふ……」
ルシトの言葉に――、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、可笑しそうにして薄く笑いを浮かべた。
「“風の申し子”の神官将が――、随分と丸くなって、人間らしくなったじゃないか」
ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、ルシトに向けて言う。
楽しげな声音で向けられた言葉の内容に、ルシトは眉を微かに動かし反応を示した。
「――いや。群島諸国で起こった戦争の時でも、お前はどこか人間臭さを漂わせてはいたか……」
言いながら、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、暗い闇を湛えた瞳を細める。
「“大地の申し子”の聖女……、お前の姉の方が――、あのお方に従順な人形らしくて食えない奴だったな」
「貴様――、お喋りも大概にしておけ……」
ルシトは不愉快さをあらわにした声音で、静止の声を吐き捨てる。
そんなルシトの不愉快さの中に怒りの感情を滲ませた声に、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは肩を竦め、やれやれ――と。そう言いたげな仕草を見せた。
「まあ……、女の方が存外強かで恐ろしい。それだけは、良く覚えておくと良い。――その娘のように私怨もあらわに、思いもかけない行動を起こしたりしてな……」
ビアンカは“喰神の烙印”の呪いが、何を言っているのかを察し、眉を寄せた。
“喰神の烙印”の呪いが口にした言葉が意味することは――、ビアンカが“喰神の烙印”の呪いの囁きに従い、リベリア公国を滅亡させたことを揶揄するものだった。
「案外――、女が宿主の方が、俺は“糧”に困らずに済むのかも知れないな。男が宿主だと……、どうにも優柔不断なことが多くて、腹が減って仕方がなかった」
ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、再びくつくつと笑いを零す。
「――それで。貴様は、どうしたい……?」
ルシトは不愉快という感情を漂わせたまま、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いに問い掛ける。
ルシトの問いに、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは、深く溜息を吐き出した。
「良いだろう。その娘の願い――、俺が聞いてやる」
「え……」
思いもかけていなかった“喰神の烙印”の呪いからの一言。それにビアンカは、驚いたように短く声を漏らす。
ビアンカの声を聞き、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いはビアンカに目を向け、口角を上げる笑みを作る。
「腹を存分に満たさせてもらった恩を返す――。そう思ってもらって構わない」
「そう……」
“喰神の烙印”の呪いが揶揄する言葉に、ビアンカは険悪感を抱き、短く返事をするだけに止まった。
「但し――、これから起こることは、俺の範疇外だ。そこで起こったことが、現実の世界の何に影響するかは俺にも分からない。どんな結果になろうとも……、それは俺には関係のないものということを、良く理解しておけ」
「……分かったわ」
ビアンカは翡翠色の瞳を、“喰神の烙印”の呪い――ハルに向け、頷いた。
ビアンカの同意を意味する頷きを目にし、ハルを模した“喰神の烙印”の呪いは微かに笑みを見せ、左手を高く掲げ上げる。
そうした仕草と同時に――、辺りの景色が真っ白く一変し、その姿を変えていったのだった。
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