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第十章【リベリア解放軍】
第五十一節 焦燥
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「な……、何があったの――?!」
呆然とファーニの丘の高台から――火の手と黒煙を上げるリベリア公国を見つめていたビアンカが、震える声で狼狽えた様子を見せる。
そしてビアンカは――はたと我に返ったように顔色を変えた。
「みんなはっ?! お家のみんなは――っ?!」
ウェーバー邸の屋敷に仕える使用人たち――。
執事――ノーマン。
メイド長――エマ。そのエマの下で働くメイドの三人組――アメル、エミリア、リスタ。
料理番――ポーヴァルに、馬の世話係――ディーレ。
リベリア公国に残っている者たちの存在を思い出し、ビアンカは弾かれたかのように踵を返し、駆け出していた。
「ビアンカッ!! 待てっ!!」
突如、駆け出していったビアンカにハルは静止の声を掛ける。
しかし、ビアンカはハルの声が耳に届かぬほど慌てた様子で、置いたままになっている荷物も手に取らず走って行ってしまう。
「くそ――っ!!」
先駆けて行ってしまうビアンカを目にし――、ハルも急ぎビアンカの物も含めた荷物を手に取り駆け出す。
(――火の手と黒煙が上がっているのは、リベリア王城と高級住宅街のある辺りだった。まさか……)
ハルは、ファーニの丘を駆け下りていくビアンカの背中を追いかけながら、高台から目にしたリベリア公国のことを考えていた。
――“リベリア解放軍”の残党が動き出したのか……?!
ハルは――、一つの考えに思い至る。
ビアンカ誘拐事件の時に、“リベリア解放軍”の頭目を務めていたとされていたホムラは、ハルの宿す“喰神の烙印”――、人々を死に至らしめる呪いの力によって殺められていた。
その後、リベリア公国の将軍――ミハイルと、その部下であるヨシュア率いる小隊によって、ホムラたちが根城としていた坑道の調査を行っていたが、“リベリア解放軍”に関する詳しい資料や計画書といった類の物は何も出て来なかったという。
そのため――、“リベリア解放軍”の起こした事件は、頭目であるホムラを討伐し、その根城とされていた坑道を制圧した――という宣言を持ってして、かつ、『“リベリア解放軍”の残党狩りを行う』――という牽制を行う形で幕を閉じる結果となっていた。
(――そもそも、考えてみれば……。何も出て来なかったって言うのはおかしかったんだ。俺は――あの時、ホムラ師範代が何か計画書らしき物に目を通しているのを見ていた……)
坑道の奥――洞穴となっている場所で、ビアンカに己の思想論を語っていたホムラ。
その際にホムラは――、何かの資料もしくは計画書のような物に目を通していた。
その様をハルは物陰に隠れ、自身の目で見ていたことを思い出す――。
(頭目だと思っていたホムラ師範代の裏に――、“リベリア解放軍”を真に統率して暗躍している誰かがいたってことか……?!)
ハルは自身の考え違いが及ぼしたのであろう結果に、悔しげに歯噛みをするのだった。
◇◇◇
「オルフェーヴル号、お願い! 急いでリベリア公国に向かってっ!!」
ファーニの丘を急ぎ駆け下り、息を切らせながらビアンカは、樹木に手綱を括りつけ待機させていた愛馬――オルフェーヴル号の手綱を解く。
漸くビアンカに追いついたハルも急ぎ、自身の愛馬――ペトリュース号の手綱を樹木から解き、ペトリュース号に跨る。
「――ビアンカ、あまり慌てるな。何があったのかわからないんだ……っ!」
オルフェーヴル号に跨り、今にも駆け出さんとするビアンカに、ハルは叱責に近い声音で諭す。
「でも――っ!」
「ウェーバー邸のみんなが心配なのはわかる。だけど――、だからこそ慎重に行動をしないと駄目だ……っ!!」
ハルの諭しの言葉に、ビアンカは眉を寄せる。
「……わかったわ」
ハルの言うことは正論であった。それはビアンカにも理解できた――。
だが、ビアンカの気持ちが、焦燥感から付いて来られずにいた。
それでも――、ビアンカは焦りの色を滲ませる表情を浮かべつつ、ハルの言うことに大人しく従う返事を口にするのだった。
大人しく同意を口にしたビアンカに、ハルは頷く。
「こういう時こそ焦りは禁物だ。――でも、早くしたいお前の気持ちもわかるから……、なるべく急ごう」
「うん……っ!」
ハルの言葉にビアンカは大きく頷きながら答える。
そうしてハルとビアンカは、二頭の馬を駆け――リベリア公国へと急ぎ戻って行った。
オルフェーヴル号とペトリュース号――、二頭の馬に限界近くまで早駆けをさせ、リベリア公国近くにまで辿り着いたハルとビアンカは、少し遠めから目にしたリベリア公国の様子に絶句していた。
二頭の馬を進ませ、徐々に近づいてくるリベリア公国――。
その城門前から見える城下街の様相は――荒廃し、凄惨を極めていたのだった。
黒煙を燻ぶらせるリベリア王城――。
炎の上がる城下街は――、特に高級住宅街近辺が火の手が強い様子を窺わせる。
辺りに漂うは、焦げ臭い匂いと――、むせ返るほどの血の匂い。
城門前からでも見える場所に倒れ込むリベリア公国の騎士や兵士は、血溜まりの中にひれ伏していた。
その状態からでもわかるように――、リベリア公国が何かに襲撃されたということが明らかであった。
(――あれは……っ!)
ハルはリベリア王城の方に目を向け、あることに気が付く。
常時であればリベリア公国旗が掲げられているリベリア王城の旗が下ろされ、代わりに掲げられていたのは――黒地の布に赤い茨、そして白い二本の剣が描かれた旗であったのだった。
(――やっぱり、“リベリア解放軍”の仕業か……っ!!)
リベリア王城に掲げられた旗を目にして、ハルは確信する。
そしてハルは、目にしたその光景に――、いつか悪夢で見た出来事を思い出すのであった。
呆然とファーニの丘の高台から――火の手と黒煙を上げるリベリア公国を見つめていたビアンカが、震える声で狼狽えた様子を見せる。
そしてビアンカは――はたと我に返ったように顔色を変えた。
「みんなはっ?! お家のみんなは――っ?!」
ウェーバー邸の屋敷に仕える使用人たち――。
執事――ノーマン。
メイド長――エマ。そのエマの下で働くメイドの三人組――アメル、エミリア、リスタ。
料理番――ポーヴァルに、馬の世話係――ディーレ。
リベリア公国に残っている者たちの存在を思い出し、ビアンカは弾かれたかのように踵を返し、駆け出していた。
「ビアンカッ!! 待てっ!!」
突如、駆け出していったビアンカにハルは静止の声を掛ける。
しかし、ビアンカはハルの声が耳に届かぬほど慌てた様子で、置いたままになっている荷物も手に取らず走って行ってしまう。
「くそ――っ!!」
先駆けて行ってしまうビアンカを目にし――、ハルも急ぎビアンカの物も含めた荷物を手に取り駆け出す。
(――火の手と黒煙が上がっているのは、リベリア王城と高級住宅街のある辺りだった。まさか……)
ハルは、ファーニの丘を駆け下りていくビアンカの背中を追いかけながら、高台から目にしたリベリア公国のことを考えていた。
――“リベリア解放軍”の残党が動き出したのか……?!
ハルは――、一つの考えに思い至る。
ビアンカ誘拐事件の時に、“リベリア解放軍”の頭目を務めていたとされていたホムラは、ハルの宿す“喰神の烙印”――、人々を死に至らしめる呪いの力によって殺められていた。
その後、リベリア公国の将軍――ミハイルと、その部下であるヨシュア率いる小隊によって、ホムラたちが根城としていた坑道の調査を行っていたが、“リベリア解放軍”に関する詳しい資料や計画書といった類の物は何も出て来なかったという。
そのため――、“リベリア解放軍”の起こした事件は、頭目であるホムラを討伐し、その根城とされていた坑道を制圧した――という宣言を持ってして、かつ、『“リベリア解放軍”の残党狩りを行う』――という牽制を行う形で幕を閉じる結果となっていた。
(――そもそも、考えてみれば……。何も出て来なかったって言うのはおかしかったんだ。俺は――あの時、ホムラ師範代が何か計画書らしき物に目を通しているのを見ていた……)
坑道の奥――洞穴となっている場所で、ビアンカに己の思想論を語っていたホムラ。
その際にホムラは――、何かの資料もしくは計画書のような物に目を通していた。
その様をハルは物陰に隠れ、自身の目で見ていたことを思い出す――。
(頭目だと思っていたホムラ師範代の裏に――、“リベリア解放軍”を真に統率して暗躍している誰かがいたってことか……?!)
ハルは自身の考え違いが及ぼしたのであろう結果に、悔しげに歯噛みをするのだった。
◇◇◇
「オルフェーヴル号、お願い! 急いでリベリア公国に向かってっ!!」
ファーニの丘を急ぎ駆け下り、息を切らせながらビアンカは、樹木に手綱を括りつけ待機させていた愛馬――オルフェーヴル号の手綱を解く。
漸くビアンカに追いついたハルも急ぎ、自身の愛馬――ペトリュース号の手綱を樹木から解き、ペトリュース号に跨る。
「――ビアンカ、あまり慌てるな。何があったのかわからないんだ……っ!」
オルフェーヴル号に跨り、今にも駆け出さんとするビアンカに、ハルは叱責に近い声音で諭す。
「でも――っ!」
「ウェーバー邸のみんなが心配なのはわかる。だけど――、だからこそ慎重に行動をしないと駄目だ……っ!!」
ハルの諭しの言葉に、ビアンカは眉を寄せる。
「……わかったわ」
ハルの言うことは正論であった。それはビアンカにも理解できた――。
だが、ビアンカの気持ちが、焦燥感から付いて来られずにいた。
それでも――、ビアンカは焦りの色を滲ませる表情を浮かべつつ、ハルの言うことに大人しく従う返事を口にするのだった。
大人しく同意を口にしたビアンカに、ハルは頷く。
「こういう時こそ焦りは禁物だ。――でも、早くしたいお前の気持ちもわかるから……、なるべく急ごう」
「うん……っ!」
ハルの言葉にビアンカは大きく頷きながら答える。
そうしてハルとビアンカは、二頭の馬を駆け――リベリア公国へと急ぎ戻って行った。
オルフェーヴル号とペトリュース号――、二頭の馬に限界近くまで早駆けをさせ、リベリア公国近くにまで辿り着いたハルとビアンカは、少し遠めから目にしたリベリア公国の様子に絶句していた。
二頭の馬を進ませ、徐々に近づいてくるリベリア公国――。
その城門前から見える城下街の様相は――荒廃し、凄惨を極めていたのだった。
黒煙を燻ぶらせるリベリア王城――。
炎の上がる城下街は――、特に高級住宅街近辺が火の手が強い様子を窺わせる。
辺りに漂うは、焦げ臭い匂いと――、むせ返るほどの血の匂い。
城門前からでも見える場所に倒れ込むリベリア公国の騎士や兵士は、血溜まりの中にひれ伏していた。
その状態からでもわかるように――、リベリア公国が何かに襲撃されたということが明らかであった。
(――あれは……っ!)
ハルはリベリア王城の方に目を向け、あることに気が付く。
常時であればリベリア公国旗が掲げられているリベリア王城の旗が下ろされ、代わりに掲げられていたのは――黒地の布に赤い茨、そして白い二本の剣が描かれた旗であったのだった。
(――やっぱり、“リベリア解放軍”の仕業か……っ!!)
リベリア王城に掲げられた旗を目にして、ハルは確信する。
そしてハルは、目にしたその光景に――、いつか悪夢で見た出来事を思い出すのであった。
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