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第4章:春、ダンジョン都市にて
第13話:たまたま居合わせた人たち
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「そろそろ出たいものだね」
「まあな」
「うむ」
カミロとイサークとナサリオの三人は、今日も商人ギルドに来ています。北にいるはずの盗賊団の情報を集めるためです。
去年の秋、三人は他の商人たちと組み、大規模な商隊を作ってオグデンからダンカン男爵領まで移動しました。そしてそこからはそれぞれが別行動をとることにしました。この幼馴染三人組はベイカー伯爵領まで足を伸ばして商売をしていたのです。
あれから半年が経ちました。商人ギルドで北へ向かう商人を探し、大規模な商隊を組もうと考えていますが、なかなか北に向かう商人がいません。盗賊団を警戒しているからです。
一方で、本当に大規模な盗賊団がいるのかと疑問に持つ商人もいます。実際に盗賊に襲われたという話をほとんど聞かないからです。ですが、カミロたちは油断はしません。オグデンまで行って戻ってくると言っていた知り合いの商人が戻ってきていないからです。それがまた盗賊団の話に信憑性を与えます。
カミロたちは何日も、どうするべきかと話し合い、そして結論が出せていません。北へ向かうか、それともまた南へ戻るか。商売を考えれば南でしょう。それでも、なかなか故郷に戻れないというのは、気分的に疲れるのです。
もう一つ方法があるとすれば、アクトンから北へ向かわず、別の場所から戻ることです。領都クラストンまで戻り、そこから西にあるサントン男爵領に向かい、そこから北東に向かってオグデンに戻るという案もあります。ところが、それも安全だとは言い切れません。アシュトン子爵領の南部に大規模盗賊団がいるらしいという情報しかないからです。
このようなヤキモキした状態が一〇日ほど続きましたが、ある日、先が見えるようになりました。
「領境にいた盗賊団が排除されたことが確認されました」
その日、カミロたちが商人ギルドに向かうと、そのような報告がデカデカと貼り出されているのが見えました。
「お、あいつらが言ってたとおりだな」
イサークが腕を組みながらうなずきます。
「そうですね。彼らと話してから……三日目ですか」
「ちーっと情報を集めるとすっか」
「そうですね。あっちで聞いてみましょう」
盗賊団がいなくなったのは嬉しいことですが、その経緯も知りたいと思うのが商人の性です。そういうのは話のネタになりますからね。
三人は開いている窓口に向かいました。
「すみません。盗賊団の規模がどれくらいだったとか、どうやって壊滅させたとか、情報は入っていますか?」
カミロが窓口でそう聞くと、ここ何日かで顔見知りになった職員がうなずきました。
「細かな部分まではわからないが、大まかな経緯だけならわかるぞ。それでいいか?」
「ええ、ぜひ」
返事を聞くと、職員は机から書類を取り出しました。
「えーっとだな……今回倒したか捕縛した盗賊だけで、少なくとも五〇人はいたそうだ」
「思ったよりも多いですね」
「だから少々の商隊では包囲されてアウトだったんだろうな」
その言葉を聞いて、カミロたちは顔を見合わせました。この町で知り合ったホレスとウォーレンという二人の商人が、護衛を雇って北へ向かったのを知っているからです。
「それで……盗賊退治は二段階あったそうだ。まず、四人組のものすごく強いパーティーが主力を含む過半数を潰したらしい。それで生き残りを尋問して、根城の場所を聞き出し、それを冒険者ギルドに伝えた。そこから兵士と冒険者たちが根城を急襲して残党を殺すか捕らえたそうだ」
三人が酒場で聞いたのは、冒険者と兵士が合同で排除を行ったという話でした。四人組の話は聞きませんでした。
「どんなパーティーだったんだ?」
「こちらに伝わっているのは、リーダーの男性一人と女性三人の四人組。リーダーの男性と女性の一人が人間、一人が犬人、一人が獅子人だそうだ。名前までは書かれていないな」
それを聞いたイサークは、またカミロとナサリオの顔を見ました。そして、二人の驚いている顔を見て、おそらく自分も同じような顔をしているだろうとイサークは思いました。
~~~
泊まっている宿屋の酒場に、彼らよりも若い四人組の冒険者がいました。どうやら犬人の女性が上級ジョブに転職できたようで、それを祝って乾杯しているようです。
隣のテーブルなので、聞こうと思わなくても話の内容が聞こえてきます。女将と彼らの話が耳に飛び込みました。
「俺たちはオスカーから来たんですけど、少し前に兵士と冒険者が組んで盗賊団を壊滅させたそうですよ」
「ホントかい? それなら嬉しいねえ」
「だからそのうち客足は戻りますよ」
北に巣食っていた盗賊団が排除されたというものでした。
「ホントに盗賊がいなくなったんですか?」
思わずカミロが椅子を寄せて話しかけてしまったのです。すると青年は、自分たちは衛兵たちから聞いただけなので確証はないと言いました。だからこう続けたのです。
「もう少ししたら情報が伝わるでしょうから、それを待ってからでも問題ないと思いますよ」
~~~
彼がそう言っていたのをカミロは覚えています。実際にあれから三日が経ち、あの青年の言ったとおりになりました。それよりも、そのパーティーの編成が問題です。
「たしか、あの四人ってオスカーから来たって言ってたよな」
「ええ。ラケルって犬人の女性が上級ジョブになったからお祝いをしていましたね」
「全員が上級ジョブ」
「そうでした。たしか小柄な女性が、これで全員が上級ジョブというようなことを言っていた気がします」
「サラ」
ナサリオは無口ですが、記憶力が抜群です。特に顔と名前を覚えることに関してはカミロもイサークも敵いません。
「めちゃくちゃ美人な獅子人もいたよな?」
「そうですね」
「シーヴ」
「編成が同じだな。他にはない組み合わせってわけでもないが」
「偶然というにはできすぎていますね」
盗賊団が退治されたと連絡が届いた数日前にこの町に来た四人組です。その編成が盗賊団の主力を潰したパーティーとまったく同じ。時期を考えれば本人たちだと考えてもおかしくありません。
「自分たちでやっておいて、自分たちがやったと言わなかったのか」
「奥ゆかしいというか、騒がれたくなかったのでしょうね」
「だろうな。あまり冒険者っぽくなかったな」
イサークたちは冒険者に護衛を頼んだことがあります。ほとんどの冒険者は依頼料を引き上げようと、自分の活躍を大げさにアピールしていました。鼻持ちならないと思ったことも一度や二度ではありません。ところがあの四人は、傲慢・尊大・横柄・自意識過剰など、冒険者によくありがちな態度とは無縁に思えたのです。
「あのリーダーの青年はおそらく育ちがいいのでしょう。生まれが貴族か準貴族で、冒険者になりたてではないでしょうか」
「レイ」
「そんな名前だったな。でも、なりたてで強いのか?」
「そういう人も中にはいるでしょう。最初から上級ジョブだった可能性もありますよ」
「そういうこともあるか」
貴族の家に生まれると、幼いころから様々な教育を受けます。そのおかげで上級ジョブになりやすい、または最初から上級ジョブになれることもあります。
「僕たちとしては、とりあえず無事にオグデンに戻れるだけで十分でしょう」
「まあな。それにまたどこかで会うかもしれないな」
「そうですね。王都に行けばいるかもしれませんね」
◆◆◆
「久しぶりだな」
「ええ。やっぱり故郷はいいものですね」
「うん」
無口で無表情なナサリオですら、オグデンに着いた今ばかりはその顔に笑顔を浮かべています。盗賊がいなくなったと聞いたものの、それでも少し前まで大規模な盗賊団が活動していた地域を抜けてきたのです。少し急ぎ気味に。
「とりあえずギルドに行きましょう。活動報告もありますし」
遍歴商人は町から町へ移動しますので、今どの町にいるかは曖昧です。ところが、彼らは三人ともオグデンの生まれで、それぞれ実家が店をしています。跡を継がない息子たちが、いわゆる子会社や関連会社のようなものを作って、親会社と提携して商売をしている感じですので、完全な根無草というわけではありません。
「ダッシュさん、お久しぶりです」
カミロが顔馴染みの男性職員に声をかけました。
「あ、カミロさん。イサークさんもナサリオさんも。無事でなによりです」
「おう、無事だったぞ。アクトンからこっちにどうやって来るか迷ったけどな」
「結局、待っただけでしたけどね。そのおかげで無事に戻れました」
彼らは都合一〇日以上、あの町に滞在していました。ちょうどその間に盗賊団がいなくなりましたので、ある意味では運がよかったのだと思うことにしたのです。
「それで、ものすごく強い四人組が盗賊団を壊滅させたと聞いたのですが、情報はありますか?」
「ええっと、ありますよ」
「もったいつけずに教えろや」
「はいはい」
イサークは故郷に無事戻れたという安堵感からか、ついつい調子に乗ってそんな言い方をしました。ダッシュも笑いながら答えます。
ダッシュが説明したのは、カミロたちがアクトンの商人ギルドで聞いた話と大きな違いはありませんでした。ただ、やはりこの町で活動していたので、もう少し詳しいことが知られているようでした。
その四人組は北からやってきて、しばらくオスカーに滞在していました。そして、冒険者ギルドに頼まれ、週に五日ほど、大量の大型の魔物を倒して売却し、かなり儲かっていたようです。
ある日、その四人組が森に向かったところ、三〇人ほどの盗賊に襲われましたが、それを撃退しました。生き残りから根城や残党についての情報を得ると、それを衛兵隊の詰め所と冒険者ギルドに報告しました。このギルドに伝わったのは、そのような内容でした。
「そこまですると、オスカーを出たそうです」
「残党退治は任せますってことか」
「でしょうね。自分たちが盗賊団を壊滅させた英雄だと吹聴する性格ではないでしょうし、ギルドと兵士たちに花を持たせたのかもしれませんね」
カミロがそう言うと、ダッシュは驚いた顔をしました。
「その人たちに会ったのですか?」
「たしかレイって呼ばれていた若者ですよね?」
カミロはあの酒場でのやり取りを思い出しながら聞きました。カミロの言葉を聞くと、ダッシュはうなずきました。
彼の背は年齢としては高いほうでしょう。ものすごく強いと言われているわりには強そうには見えませんでした。よくいる見た目で威圧するタイプではなかったことを三人とも覚えています。
「リーダーはギルモア男爵の三男のレイモンド様だそうです」
「やっぱり貴族の生まれか」
彼の雰囲気は、村から出てきて一旗揚げようというガツガツした感じではありませんでした。むしろ、のんびりしているように思えました。四人で三〇人を超える盗賊団を潰せるなら、徒歩での旅は危険でもなんでもないでしょう。大型の魔物だろうがなんだろうが、いくらでも倒せるはずです。
「それと、これは三人にも関係するでしょうが……」
そう前置きをすると、ダッシュは真面目くさった顔になりました。
「セルデン商会が潰れました」
「「「……は?」」」
まさに青天の霹靂。三人とも、それ以上言葉が出ません。
セルデン商会は、この町で最も力のある大店です。領主と血の繋がりがあります。どう考えても潰れるはずがありません。
「漏れ聞いた話によると、盗賊団と繋がりがあったのではないか、ということです」
去年の終わりごろから、このギルド内の雰囲気が悪くなっていました。なぜかギスギスしていたのです。そして、冒険者ギルドと間で揉め事が起き、冒険者ギルドで職員が一人辞めました。
「どうやら商会長のジャレッドさんにはマリオンの冒険者ギルドにいる女性職員に気になる人がいたようです。それでここの冒険者ギルドに無理やり空きを作らせたみたいですね。それでその女性を引っ張ってこようと」
事情を知ったその女性はすぐにギルド長に報告し、衛兵隊が幹部を捕縛しました。
「あっちとこっちで七人が捕まりました。他にも二〇人ほどクビになっています。ただ、そのときは幹部だけで済んでいたんですよ」
今回、盗賊団がいなくなった途端に、セルデン商会が取り潰しになりました。支店も含めて、すべて潰されることになったようです。
「だからセルデン商会は盗賊団と組んでいたのではないかという噂です。ジャレッドさんの弟のバートさんも去年、賞罰欄に何かが付いたらしく、町からいなくなりました。盗賊団の被害が酷くなったは秋以降です」
「なるほどな。あくまで可能性だが、表の顔がセルデン商会で、裏の顔が盗賊団だったってことか。兄が商会長をしつつ、盗賊団の運営をしていて、弟が盗賊団を取り仕切っていたってことかもしれないな」
「そう噂をする人は多いですね」
いずれにせよ、ジャレッドがちょっと金を握らせたくらいで職員が不正を働いたのです。よほど以前からセルデン商会が二つのギルドに食い込んでいたのか、それともセルデン商会に脅されて不正に加担したのか。そのような噂も出ています。
「それで、冒険者ギルドとここだけでなく、他のギルドにも不正がないか、おかしなやつが入り込んでいないか、一度徹底的に調べることになりまして、いまだに調査が続いています」
「ダッシュさんがここにいるってことは問題ないってことですよね?」
「何かやっていたら、もうここにはいませんよ」
ダッシュは苦笑しながら、自分で首を切るジェスチャーをしました。
「まだ見つかってないってこともある」
「だな。しれっと悪いことをしてそうだ」
「冗談でもやめてくださいって」
四人は笑って今後の方針について話し合いました。盗賊団はいなくなりましたが、まだまだ流通の混乱は続いています。運搬の人手は多ければ多いほうがありがたいからです。
話し合いの最後に、カミロは一つ聞いてみることにしました。
「ところで、そのジャレッドさんが引っ張ってこようとした女性はどんな人だったんですか?」
最後の答え合わせですね。
「とても美しい獅子人だったそうですよ。これは冒険者ギルドの知人から聞きました」
「間違いないな」
「ないでしょうね」
「うん」
三人は明日の朝、またここで落ち合うことを約束すると、それぞれの実家へと顔を出しに向かうのでした。
「まあな」
「うむ」
カミロとイサークとナサリオの三人は、今日も商人ギルドに来ています。北にいるはずの盗賊団の情報を集めるためです。
去年の秋、三人は他の商人たちと組み、大規模な商隊を作ってオグデンからダンカン男爵領まで移動しました。そしてそこからはそれぞれが別行動をとることにしました。この幼馴染三人組はベイカー伯爵領まで足を伸ばして商売をしていたのです。
あれから半年が経ちました。商人ギルドで北へ向かう商人を探し、大規模な商隊を組もうと考えていますが、なかなか北に向かう商人がいません。盗賊団を警戒しているからです。
一方で、本当に大規模な盗賊団がいるのかと疑問に持つ商人もいます。実際に盗賊に襲われたという話をほとんど聞かないからです。ですが、カミロたちは油断はしません。オグデンまで行って戻ってくると言っていた知り合いの商人が戻ってきていないからです。それがまた盗賊団の話に信憑性を与えます。
カミロたちは何日も、どうするべきかと話し合い、そして結論が出せていません。北へ向かうか、それともまた南へ戻るか。商売を考えれば南でしょう。それでも、なかなか故郷に戻れないというのは、気分的に疲れるのです。
もう一つ方法があるとすれば、アクトンから北へ向かわず、別の場所から戻ることです。領都クラストンまで戻り、そこから西にあるサントン男爵領に向かい、そこから北東に向かってオグデンに戻るという案もあります。ところが、それも安全だとは言い切れません。アシュトン子爵領の南部に大規模盗賊団がいるらしいという情報しかないからです。
このようなヤキモキした状態が一〇日ほど続きましたが、ある日、先が見えるようになりました。
「領境にいた盗賊団が排除されたことが確認されました」
その日、カミロたちが商人ギルドに向かうと、そのような報告がデカデカと貼り出されているのが見えました。
「お、あいつらが言ってたとおりだな」
イサークが腕を組みながらうなずきます。
「そうですね。彼らと話してから……三日目ですか」
「ちーっと情報を集めるとすっか」
「そうですね。あっちで聞いてみましょう」
盗賊団がいなくなったのは嬉しいことですが、その経緯も知りたいと思うのが商人の性です。そういうのは話のネタになりますからね。
三人は開いている窓口に向かいました。
「すみません。盗賊団の規模がどれくらいだったとか、どうやって壊滅させたとか、情報は入っていますか?」
カミロが窓口でそう聞くと、ここ何日かで顔見知りになった職員がうなずきました。
「細かな部分まではわからないが、大まかな経緯だけならわかるぞ。それでいいか?」
「ええ、ぜひ」
返事を聞くと、職員は机から書類を取り出しました。
「えーっとだな……今回倒したか捕縛した盗賊だけで、少なくとも五〇人はいたそうだ」
「思ったよりも多いですね」
「だから少々の商隊では包囲されてアウトだったんだろうな」
その言葉を聞いて、カミロたちは顔を見合わせました。この町で知り合ったホレスとウォーレンという二人の商人が、護衛を雇って北へ向かったのを知っているからです。
「それで……盗賊退治は二段階あったそうだ。まず、四人組のものすごく強いパーティーが主力を含む過半数を潰したらしい。それで生き残りを尋問して、根城の場所を聞き出し、それを冒険者ギルドに伝えた。そこから兵士と冒険者たちが根城を急襲して残党を殺すか捕らえたそうだ」
三人が酒場で聞いたのは、冒険者と兵士が合同で排除を行ったという話でした。四人組の話は聞きませんでした。
「どんなパーティーだったんだ?」
「こちらに伝わっているのは、リーダーの男性一人と女性三人の四人組。リーダーの男性と女性の一人が人間、一人が犬人、一人が獅子人だそうだ。名前までは書かれていないな」
それを聞いたイサークは、またカミロとナサリオの顔を見ました。そして、二人の驚いている顔を見て、おそらく自分も同じような顔をしているだろうとイサークは思いました。
~~~
泊まっている宿屋の酒場に、彼らよりも若い四人組の冒険者がいました。どうやら犬人の女性が上級ジョブに転職できたようで、それを祝って乾杯しているようです。
隣のテーブルなので、聞こうと思わなくても話の内容が聞こえてきます。女将と彼らの話が耳に飛び込みました。
「俺たちはオスカーから来たんですけど、少し前に兵士と冒険者が組んで盗賊団を壊滅させたそうですよ」
「ホントかい? それなら嬉しいねえ」
「だからそのうち客足は戻りますよ」
北に巣食っていた盗賊団が排除されたというものでした。
「ホントに盗賊がいなくなったんですか?」
思わずカミロが椅子を寄せて話しかけてしまったのです。すると青年は、自分たちは衛兵たちから聞いただけなので確証はないと言いました。だからこう続けたのです。
「もう少ししたら情報が伝わるでしょうから、それを待ってからでも問題ないと思いますよ」
~~~
彼がそう言っていたのをカミロは覚えています。実際にあれから三日が経ち、あの青年の言ったとおりになりました。それよりも、そのパーティーの編成が問題です。
「たしか、あの四人ってオスカーから来たって言ってたよな」
「ええ。ラケルって犬人の女性が上級ジョブになったからお祝いをしていましたね」
「全員が上級ジョブ」
「そうでした。たしか小柄な女性が、これで全員が上級ジョブというようなことを言っていた気がします」
「サラ」
ナサリオは無口ですが、記憶力が抜群です。特に顔と名前を覚えることに関してはカミロもイサークも敵いません。
「めちゃくちゃ美人な獅子人もいたよな?」
「そうですね」
「シーヴ」
「編成が同じだな。他にはない組み合わせってわけでもないが」
「偶然というにはできすぎていますね」
盗賊団が退治されたと連絡が届いた数日前にこの町に来た四人組です。その編成が盗賊団の主力を潰したパーティーとまったく同じ。時期を考えれば本人たちだと考えてもおかしくありません。
「自分たちでやっておいて、自分たちがやったと言わなかったのか」
「奥ゆかしいというか、騒がれたくなかったのでしょうね」
「だろうな。あまり冒険者っぽくなかったな」
イサークたちは冒険者に護衛を頼んだことがあります。ほとんどの冒険者は依頼料を引き上げようと、自分の活躍を大げさにアピールしていました。鼻持ちならないと思ったことも一度や二度ではありません。ところがあの四人は、傲慢・尊大・横柄・自意識過剰など、冒険者によくありがちな態度とは無縁に思えたのです。
「あのリーダーの青年はおそらく育ちがいいのでしょう。生まれが貴族か準貴族で、冒険者になりたてではないでしょうか」
「レイ」
「そんな名前だったな。でも、なりたてで強いのか?」
「そういう人も中にはいるでしょう。最初から上級ジョブだった可能性もありますよ」
「そういうこともあるか」
貴族の家に生まれると、幼いころから様々な教育を受けます。そのおかげで上級ジョブになりやすい、または最初から上級ジョブになれることもあります。
「僕たちとしては、とりあえず無事にオグデンに戻れるだけで十分でしょう」
「まあな。それにまたどこかで会うかもしれないな」
「そうですね。王都に行けばいるかもしれませんね」
◆◆◆
「久しぶりだな」
「ええ。やっぱり故郷はいいものですね」
「うん」
無口で無表情なナサリオですら、オグデンに着いた今ばかりはその顔に笑顔を浮かべています。盗賊がいなくなったと聞いたものの、それでも少し前まで大規模な盗賊団が活動していた地域を抜けてきたのです。少し急ぎ気味に。
「とりあえずギルドに行きましょう。活動報告もありますし」
遍歴商人は町から町へ移動しますので、今どの町にいるかは曖昧です。ところが、彼らは三人ともオグデンの生まれで、それぞれ実家が店をしています。跡を継がない息子たちが、いわゆる子会社や関連会社のようなものを作って、親会社と提携して商売をしている感じですので、完全な根無草というわけではありません。
「ダッシュさん、お久しぶりです」
カミロが顔馴染みの男性職員に声をかけました。
「あ、カミロさん。イサークさんもナサリオさんも。無事でなによりです」
「おう、無事だったぞ。アクトンからこっちにどうやって来るか迷ったけどな」
「結局、待っただけでしたけどね。そのおかげで無事に戻れました」
彼らは都合一〇日以上、あの町に滞在していました。ちょうどその間に盗賊団がいなくなりましたので、ある意味では運がよかったのだと思うことにしたのです。
「それで、ものすごく強い四人組が盗賊団を壊滅させたと聞いたのですが、情報はありますか?」
「ええっと、ありますよ」
「もったいつけずに教えろや」
「はいはい」
イサークは故郷に無事戻れたという安堵感からか、ついつい調子に乗ってそんな言い方をしました。ダッシュも笑いながら答えます。
ダッシュが説明したのは、カミロたちがアクトンの商人ギルドで聞いた話と大きな違いはありませんでした。ただ、やはりこの町で活動していたので、もう少し詳しいことが知られているようでした。
その四人組は北からやってきて、しばらくオスカーに滞在していました。そして、冒険者ギルドに頼まれ、週に五日ほど、大量の大型の魔物を倒して売却し、かなり儲かっていたようです。
ある日、その四人組が森に向かったところ、三〇人ほどの盗賊に襲われましたが、それを撃退しました。生き残りから根城や残党についての情報を得ると、それを衛兵隊の詰め所と冒険者ギルドに報告しました。このギルドに伝わったのは、そのような内容でした。
「そこまですると、オスカーを出たそうです」
「残党退治は任せますってことか」
「でしょうね。自分たちが盗賊団を壊滅させた英雄だと吹聴する性格ではないでしょうし、ギルドと兵士たちに花を持たせたのかもしれませんね」
カミロがそう言うと、ダッシュは驚いた顔をしました。
「その人たちに会ったのですか?」
「たしかレイって呼ばれていた若者ですよね?」
カミロはあの酒場でのやり取りを思い出しながら聞きました。カミロの言葉を聞くと、ダッシュはうなずきました。
彼の背は年齢としては高いほうでしょう。ものすごく強いと言われているわりには強そうには見えませんでした。よくいる見た目で威圧するタイプではなかったことを三人とも覚えています。
「リーダーはギルモア男爵の三男のレイモンド様だそうです」
「やっぱり貴族の生まれか」
彼の雰囲気は、村から出てきて一旗揚げようというガツガツした感じではありませんでした。むしろ、のんびりしているように思えました。四人で三〇人を超える盗賊団を潰せるなら、徒歩での旅は危険でもなんでもないでしょう。大型の魔物だろうがなんだろうが、いくらでも倒せるはずです。
「それと、これは三人にも関係するでしょうが……」
そう前置きをすると、ダッシュは真面目くさった顔になりました。
「セルデン商会が潰れました」
「「「……は?」」」
まさに青天の霹靂。三人とも、それ以上言葉が出ません。
セルデン商会は、この町で最も力のある大店です。領主と血の繋がりがあります。どう考えても潰れるはずがありません。
「漏れ聞いた話によると、盗賊団と繋がりがあったのではないか、ということです」
去年の終わりごろから、このギルド内の雰囲気が悪くなっていました。なぜかギスギスしていたのです。そして、冒険者ギルドと間で揉め事が起き、冒険者ギルドで職員が一人辞めました。
「どうやら商会長のジャレッドさんにはマリオンの冒険者ギルドにいる女性職員に気になる人がいたようです。それでここの冒険者ギルドに無理やり空きを作らせたみたいですね。それでその女性を引っ張ってこようと」
事情を知ったその女性はすぐにギルド長に報告し、衛兵隊が幹部を捕縛しました。
「あっちとこっちで七人が捕まりました。他にも二〇人ほどクビになっています。ただ、そのときは幹部だけで済んでいたんですよ」
今回、盗賊団がいなくなった途端に、セルデン商会が取り潰しになりました。支店も含めて、すべて潰されることになったようです。
「だからセルデン商会は盗賊団と組んでいたのではないかという噂です。ジャレッドさんの弟のバートさんも去年、賞罰欄に何かが付いたらしく、町からいなくなりました。盗賊団の被害が酷くなったは秋以降です」
「なるほどな。あくまで可能性だが、表の顔がセルデン商会で、裏の顔が盗賊団だったってことか。兄が商会長をしつつ、盗賊団の運営をしていて、弟が盗賊団を取り仕切っていたってことかもしれないな」
「そう噂をする人は多いですね」
いずれにせよ、ジャレッドがちょっと金を握らせたくらいで職員が不正を働いたのです。よほど以前からセルデン商会が二つのギルドに食い込んでいたのか、それともセルデン商会に脅されて不正に加担したのか。そのような噂も出ています。
「それで、冒険者ギルドとここだけでなく、他のギルドにも不正がないか、おかしなやつが入り込んでいないか、一度徹底的に調べることになりまして、いまだに調査が続いています」
「ダッシュさんがここにいるってことは問題ないってことですよね?」
「何かやっていたら、もうここにはいませんよ」
ダッシュは苦笑しながら、自分で首を切るジェスチャーをしました。
「まだ見つかってないってこともある」
「だな。しれっと悪いことをしてそうだ」
「冗談でもやめてくださいって」
四人は笑って今後の方針について話し合いました。盗賊団はいなくなりましたが、まだまだ流通の混乱は続いています。運搬の人手は多ければ多いほうがありがたいからです。
話し合いの最後に、カミロは一つ聞いてみることにしました。
「ところで、そのジャレッドさんが引っ張ってこようとした女性はどんな人だったんですか?」
最後の答え合わせですね。
「とても美しい獅子人だったそうですよ。これは冒険者ギルドの知人から聞きました」
「間違いないな」
「ないでしょうね」
「うん」
三人は明日の朝、またここで落ち合うことを約束すると、それぞれの実家へと顔を出しに向かうのでした。
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神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
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