ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第六章:領主三年目、さらに遠くへ

拠点の移動

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「もちろんドラゴネットが拠点になればやりやすいという職人は多いでしょう」

 そう言ったのは赤ん坊をあやしているダニエルだった。ここしばらくは仕事を減らして家で子供の面倒を見ている。そのせいか乳幼児向けの魔道具が増えている。

 魔道具には実用性が求められる。実用性がない魔道具は貴族向けだ。見栄を張るためだけの。俺にはそういうものは必要ないが、子供たちが喜ぶなら十分ありだと思う。素材はあるわけだから。

「素材を持っていって作ることを考えればこちらで作った方がよほど楽でしょう。今ではペガサスで運べますので以前ほどは大変ではないかもしれませんが」
「それはそうだな。以前ならもっと効果は大きかっただろう」

 ドラゴネットまで荷馬車で運べば二週間から三週間はかかる。自分一人単騎で急いで移動すればもっと早く着くことはできるが、物を運ぶとなると破損などを気にしなければならない。それがペガサス便の登場で、ヴァイスドルフ男爵領のバーランまで空を飛べる。そこから王都までは比較的平坦なやや下りの道が続くので、物を運ぶのは非常に楽になる。一週間あれば十分王都まで運べる計算だ。

「それでだな、ギルドは独自のものを作るか、それとも国の方にするか」
「どちらも一長一短ですが、最終的には国の組織にした方が揉め事は少なくなると思いますよ」
「やっぱりそうなるよな」

 領内の独自ギルドにすれば収入は全てこの領地に入る。国の組織にすれば一定額は国に納めることになる。だが何か問題があった時、例えば難癖を付けられた場合など、それは国に対して喧嘩を売るようなものなので国が解決してくれる。金で問題を国に押し付けるようなものだ。

「それならギルド長は向こうに任せるか。そうなった時にダニエルには何か役職を付けた方がいいか?」
「私は特には。ですがこの領地にいる誰かが何らかの立場が必要なのでしたら喜んで就きますよ」
「それならその時には頼む。そのあたりに伝手がないからなあ」

 王都からやって来たギルド職員に好き勝手されるのは面白くないが、どのような職員が来るかは分からない。だからギルド長は王都から呼ぶとして、例えば副ギルド長にダニエルやヨーゼフを置くというのはあり得る。実際にそうやって押し込むのは領主としてはごく普通のことだ。

 そもそもギルドは国からの補助金だけでは活動できない。領地はギルドを置いてもらう代わりに運営費を出すというのが普通だ。だからある程度は無理を押し通せる。「これだけ払っているのだから副ギルド長くらいはこちらで指名する。分かったな?」というように。結局のところ持ちつ持たれつな関係だ。

 そうと決まれば王都で相談するだけだ。伝手はないが、商会の方で魔石などは販売している。その関係でうちの商会と縁がある職員ももしかしたらいるかも知れないな。



◆ ◆ ◆



「事情は分かりました。それではギルド長候補を見繕っておきます」
「よろしく頼む。問題を起こさない人間ならそれでいい。あまり野心的でも困るからな」
「地位にこだわるような者は王都から離れたがりませんので問題ないはずです」

 俺は王都の魔道具職人ギルドに赴いて依頼をしている。ギルド長と職員を一人か二人派遣してほしいと。他の職員、正式には職員ではなくあくまで手伝いだが、それはドラゴネットの住民の中でできそうな者を充てる。ゴール王国からやって来た娘たちの中に、まだ手持ち無沙汰な者がいる。彼女たちは読み書き計算ができる上に魔法が使える者もいる。役場で単なる事務仕事をさせるよりも魔道具職人ギルドで仕事をする方がいいだろう。

「ところでノルト男爵領にはどれくらい魔道具職人がいるのですか?」
「今のところ親方と呼んでもいいのがダニエルとヨーゼフとブリギッタの三人だ。そこに去年の秋くらいから何人か増えたらしい。うちの商会と取り引きしていた職人たちだ。弟子の中でそれなりに力を付けた者も入れれば一〇人少々いる感じだろうか」

 ライナーに聞けば正確な人数が分かるかも知れないが、俺には大まかな数字しか分からない。そうだ、クラースも魔道具が作れたな。

「それが多いのか少ないのか分からないがな」

 人口六五〇〇人の領地だ。その中で魔道具職人と呼んでもいい人数が一〇人から一五人くらいだろう。五〇〇人に一人くらいなのか。多いのか少ないのか分からないな。

「領地の規模を考えれば多いでしょう。魔道具職人がいない場所もあるでしょうから。ですが……言い方が悪いかも知れませんが、かなりいびつな構成になっている領地のようですので、私としても判断しかねます」
「そうだろうな」

 素材はいくらでもある。ダニエルが竜の鱗を加工できるし、ブリギッタは時空関係が得意だ。ダニエルは水属性や光属性、ヨーゼフは火属性が最も得意だ。この三人で大半のことができる。よくうちに来てくれたものだ。

「とりあえずギルドへの運営費は問題ない。ギルド長を含めて二、三人頼む。多少多くても問題ないが、仕事がなくて暇を持て余しても困るだろう」
「そうですね。とりあえず最小限で初めて、必要に応じて増やす方向で行きましょう。人選はお任せください」
「頼む」

 冒険者ギルドのハインリヒとロミーは、日々口げんかをしつつも仲はいい。仲がいいと言えばハインリヒは怒るかもしれないが、あれくらいなら険悪ではないだろう。それにロミーも仕事はしている。雑なところは多いがどうしようもないほど適当ではないというのがハインリヒの感想だ。書類にミスがあってそれをハインリヒが指摘した時、「そういうのは人知れずサッと直しておくのが気が利くということですよ」と言ってのける女だ。ちなみにハインリヒはロミーにおやつ抜きを命じていた。

 しかしわざわざ王都からやって来てくれるわけだ。王都のせわしない雰囲気よりもドラゴネットの落ち着いた雰囲気がいいという人なら一番だな。
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