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第六章:領主三年目、さらに遠くへ
ブラーノに到着
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「向こうにブラーノが見えました」
「分かった」
行列の先頭から連絡があり、ここで休憩を取ることになった。それほど時間をかけずに王都に到着だろう。そのタイミングで俺はマリーナにビアンカ殿下を呼び戻してもらうことになった。
「普通にしていたら、この間ずっと馬車の中だったのですね」
ビアンカ殿下は馬車を出て周囲を見渡すとそのように呟いた。。
「そうですね。予定よりは早くなりましたが、それだも一月半はかかりましたね」
「この行ったり来たりの生活も嫌ではありませんでしたが、少し物足りなかったでしょうか」
「刺激が欲しければ抜け出せばいい。付き合うから」
「こら」
マリーナが余計なことをいったので軽く頭を小突いておく。ビアンカ殿下と馬車の中で話すことも多く、少々仲が良くなったようだ。
しかし誰でも同じなんだな。俺の場合、ろくでもないことが多かった軍学校時代だったが、それでも卒業が近づくともう少し続いてもいいかと思ってしまった。実際には卒業して領地に戻った方がよほど気楽なのにな。まあ最後の方はレオナルト殿下と仲良くできたのでそこまで面倒なことは多くはなかったが。
「王太子妃に余計なことを吹き込むな。しかし立場上、嫌でも出かけることがあるでしょう」
「そうですね。それにヴァーデンに戻ることもできますし」
「あまり頻繁にお戻りになるとマルツェル殿下が悲しまれますよ」
「それは大丈夫です。同行してもらいますので」
最後の休憩を終えてしばらく走るとブラーノの北門が見えてきた。途中では特筆すべきことはなかった。殿下の一行に関しては。盗賊団も何度か現れたがマリーナに焼いてもらった。生け捕りにして強制労働というのもあることはあるがそんなには必要ないと。
殿下の一行については問題がなかったが、個人的には大きな変化があった。あれ以降、町に入れば宿でマリーナを抱いた。抱いていればいずれこうなることは分かっていた。マリーナが妊娠したらしい。
◆ ◆ ◆
「竜に戻れない」
「できたか」
「たぶん」
元々彼女は人の姿で昼寝をすることが多かったが、それでもたまには竜の姿に戻っていた。だが体に違和感を感じたので姿を変えようと思ったら戻らなかったと。
「妻になったからには夫に尽くす。尽くすからにはしっかりと子育てをする」
「それよりも前に、無事に生まれるかどうかだな。どうする? ここで一度戻っておくか?」
俺とは違ってマリーナは魔力が多い。彼女は途中で「そろそろ帰りたい」と言ったが、実はいつでもドラゴネットに戻ることはできた。ただ俺と約束したので戻らなかっただけだ。逆にそのせいで俺は彼女を抱く羽目になったが。
「戻っても退屈だからこっちにいる」
「そうか。でも妊娠したのなら抱かないからな」
「安定期に入ったら大丈夫」
「そうなのか?」
そんなことは初めて聞いた。子供ができたら安静にする、適度な運動はしてもいい、そう聞いていた。
「四か月経てば流産の可能性は下がるから大丈夫だと聞いている。それでも臨月はダメ」
「それは誰から聞いたんだ?」
「ローサさんのお祖父様」
「そうか」
もの凄い魔法と知識を持った人だとは聞いている。それなら間違いないだろう。
「だが四か月は駄目だということだ」
「それまでは我慢する」
「別に今さら抱かれなくても問題はないだろう。逃げたりはしない」
「うん」
マリーナは口数は少ないが何も考えていないわけではない。むしろ頭はいい。ただ竜だからか、考えるよりもまず行動というのが基本のようだ。その行動も力尽くが多いので今のような状況になったのだが。
◆ ◆ ◆
北の城門は婚礼の行列のために閉ざされているようだ。城門前にはおそらく正規兵、そしてその前に近衛騎士だろう、煌びやかな甲冑を纏った騎士たちが整列していた。俺たちの馬車が近づくと城門が開かれ、兵士たちが立ち並ぶ中を王城に向かって進む。王都の中は町の外よりも進むのが遅くなる。馬車は二時間近くかけて王城に辿り着いた。
さて、俺は婚礼そのものとは関係がないので全て護衛騎士と役人に任せることになる。
「辺境伯、お手数をおかけしました」
「ここまでは仕事だからな」
俺の仕事は護衛隊の護衛。大規模な盗賊団が現れればそれを排除するのが仕事だ。マリーナはその手伝い。いきなり帰ったりはしないが、俺はビアンカ殿下の結婚式には臨席しない。しないはずだった。ただし予定が変わった。
「余と一緒に出ればいい」
「よろしいのですか?」
転移ドアから現れたカミル陛下からいきなり言われた。こういうことはあらかじめ決まっているものじゃないのか?
「転移ドアのおかげで移動が楽になり出席者も増える。そのことは向こうにも伝えている。あとから役人も増えるはずだ」
「そうでしたか」
俺は聞いていないのだが? 普通は結婚する当人とお付きの者たちだけのはずだ。まあ国王同士が仲良くするのを見せる意味もあるか。
「それとだな、辺境伯」
カミル陛下が真面目な顔でこちらを見た。
「はい」
「お主は妻が多かったな?」
「すでに一〇人を超えておりますが、それが何か」
「もう一人か二人くらい増えても構わんか?」
「は?」
国王に対して少し失礼な返事だったかもしれないが、思わず口から出た」
「エヴシェン殿がな、お前に王族から一人か二人くらいどうかと言っておった」
「初耳なのですが」
「うむ、言い忘れだ」
「大切なことを言い忘れないでいただきたい」
うっかり失言も多いが、言い忘れも多い気がする。
「しかし王族ですと私ではなくレオナルト殿下に嫁ぐのが筋ではないでしょうか」
ゴール王国からレティシアが嫁いだのだからシエスカ王国から嫁いでもおかしくはないが、まずは王族からではないか? 国と国の関係を強化するのであれば。
「そのことだか、あれはエルメンヒルトをどうしても正妻にしておきたいらしくてな」
「ああ、そちらでしたか」
自国の貴族の娘と隣国の王族のどちらを王妃にするかという話だ。貴族であれば正妻と側室を入れ替えるということはある。それで妻の実家と険悪になることもあるらしいが、まあやろうと思えばできる。ただ王妃になるはずの女性を入れ替えるというのは難しいだろう。
レオナルト殿下の正妻はバーレン辺境伯の娘のエルメンヒルト殿。殿下の結婚からこちら、俺もそれなりに忙しくしているので人柄が分かるほど話をしているわけではないが、しっかり者だと聞いている。
カミル陛下は近いうちに退位して王位をレオナルト殿下に譲ると言っていた。そうすればエルメンヒルト殿は王妃になる。国母は自国出身者にしたいということだろう。そのエルメンヒルト殿にはシエスカ王国の王族の血が入っているわけだが。
「私でなくとも相応しい貴族は何人もいるはずですが」
「それはそうだが」
辺境伯なら、バーレン辺境伯の息子のエルンスト殿、新しくマルクブルク辺境伯になったアルノルト殿など、俺よりも長く辺境伯の立場にあった家柄でまだ若い人もいる。たしかに一時的に上級貴族は減り、特に公爵と侯爵が少なくなったが、伯爵は元に戻りつつある。いずれは伯爵から侯爵に陞爵する者も出るだろう。
ドレッツ子爵とウルツェン子爵は陞爵して伯爵になった。このお二人は大公派にけっして媚びを売らず、常に距離を取っていた。大変な日々だっただろうが、その結果として陞爵と領地の加増ということになり、息子たちは一つ上の爵位を継げるようになった。ツェーデン子爵もたしか五〇代だと言っていたが、上の五人が娘で、ようやく授かった息子が俺よりも下だ。
「まあそのような話もあったということだ。心の端にでも留めておいてくれ」
そう言うと陛下はビアンカ殿下や役人たちを引き連れて結婚式のために王城の奥へ向かった。
「で、どうするの?」
「陛下に出ろと言われたからには出るだろう。マリーナも食べて帰るか? もちろん今日明日には式は始まらないとは思うが」
おそらく最後の準備に数日はかかるだろう。予定よりも早く着いたから調整も必要かもしれない。
「この国を少し見てから帰ろうと思った。それならお城の中も見てみたい」
「そうか。では式が終わるまではこちらにいるか」
やるべきことはやった。あとは少し疲れを取ってから帰ろうか。
「分かった」
行列の先頭から連絡があり、ここで休憩を取ることになった。それほど時間をかけずに王都に到着だろう。そのタイミングで俺はマリーナにビアンカ殿下を呼び戻してもらうことになった。
「普通にしていたら、この間ずっと馬車の中だったのですね」
ビアンカ殿下は馬車を出て周囲を見渡すとそのように呟いた。。
「そうですね。予定よりは早くなりましたが、それだも一月半はかかりましたね」
「この行ったり来たりの生活も嫌ではありませんでしたが、少し物足りなかったでしょうか」
「刺激が欲しければ抜け出せばいい。付き合うから」
「こら」
マリーナが余計なことをいったので軽く頭を小突いておく。ビアンカ殿下と馬車の中で話すことも多く、少々仲が良くなったようだ。
しかし誰でも同じなんだな。俺の場合、ろくでもないことが多かった軍学校時代だったが、それでも卒業が近づくともう少し続いてもいいかと思ってしまった。実際には卒業して領地に戻った方がよほど気楽なのにな。まあ最後の方はレオナルト殿下と仲良くできたのでそこまで面倒なことは多くはなかったが。
「王太子妃に余計なことを吹き込むな。しかし立場上、嫌でも出かけることがあるでしょう」
「そうですね。それにヴァーデンに戻ることもできますし」
「あまり頻繁にお戻りになるとマルツェル殿下が悲しまれますよ」
「それは大丈夫です。同行してもらいますので」
最後の休憩を終えてしばらく走るとブラーノの北門が見えてきた。途中では特筆すべきことはなかった。殿下の一行に関しては。盗賊団も何度か現れたがマリーナに焼いてもらった。生け捕りにして強制労働というのもあることはあるがそんなには必要ないと。
殿下の一行については問題がなかったが、個人的には大きな変化があった。あれ以降、町に入れば宿でマリーナを抱いた。抱いていればいずれこうなることは分かっていた。マリーナが妊娠したらしい。
◆ ◆ ◆
「竜に戻れない」
「できたか」
「たぶん」
元々彼女は人の姿で昼寝をすることが多かったが、それでもたまには竜の姿に戻っていた。だが体に違和感を感じたので姿を変えようと思ったら戻らなかったと。
「妻になったからには夫に尽くす。尽くすからにはしっかりと子育てをする」
「それよりも前に、無事に生まれるかどうかだな。どうする? ここで一度戻っておくか?」
俺とは違ってマリーナは魔力が多い。彼女は途中で「そろそろ帰りたい」と言ったが、実はいつでもドラゴネットに戻ることはできた。ただ俺と約束したので戻らなかっただけだ。逆にそのせいで俺は彼女を抱く羽目になったが。
「戻っても退屈だからこっちにいる」
「そうか。でも妊娠したのなら抱かないからな」
「安定期に入ったら大丈夫」
「そうなのか?」
そんなことは初めて聞いた。子供ができたら安静にする、適度な運動はしてもいい、そう聞いていた。
「四か月経てば流産の可能性は下がるから大丈夫だと聞いている。それでも臨月はダメ」
「それは誰から聞いたんだ?」
「ローサさんのお祖父様」
「そうか」
もの凄い魔法と知識を持った人だとは聞いている。それなら間違いないだろう。
「だが四か月は駄目だということだ」
「それまでは我慢する」
「別に今さら抱かれなくても問題はないだろう。逃げたりはしない」
「うん」
マリーナは口数は少ないが何も考えていないわけではない。むしろ頭はいい。ただ竜だからか、考えるよりもまず行動というのが基本のようだ。その行動も力尽くが多いので今のような状況になったのだが。
◆ ◆ ◆
北の城門は婚礼の行列のために閉ざされているようだ。城門前にはおそらく正規兵、そしてその前に近衛騎士だろう、煌びやかな甲冑を纏った騎士たちが整列していた。俺たちの馬車が近づくと城門が開かれ、兵士たちが立ち並ぶ中を王城に向かって進む。王都の中は町の外よりも進むのが遅くなる。馬車は二時間近くかけて王城に辿り着いた。
さて、俺は婚礼そのものとは関係がないので全て護衛騎士と役人に任せることになる。
「辺境伯、お手数をおかけしました」
「ここまでは仕事だからな」
俺の仕事は護衛隊の護衛。大規模な盗賊団が現れればそれを排除するのが仕事だ。マリーナはその手伝い。いきなり帰ったりはしないが、俺はビアンカ殿下の結婚式には臨席しない。しないはずだった。ただし予定が変わった。
「余と一緒に出ればいい」
「よろしいのですか?」
転移ドアから現れたカミル陛下からいきなり言われた。こういうことはあらかじめ決まっているものじゃないのか?
「転移ドアのおかげで移動が楽になり出席者も増える。そのことは向こうにも伝えている。あとから役人も増えるはずだ」
「そうでしたか」
俺は聞いていないのだが? 普通は結婚する当人とお付きの者たちだけのはずだ。まあ国王同士が仲良くするのを見せる意味もあるか。
「それとだな、辺境伯」
カミル陛下が真面目な顔でこちらを見た。
「はい」
「お主は妻が多かったな?」
「すでに一〇人を超えておりますが、それが何か」
「もう一人か二人くらい増えても構わんか?」
「は?」
国王に対して少し失礼な返事だったかもしれないが、思わず口から出た」
「エヴシェン殿がな、お前に王族から一人か二人くらいどうかと言っておった」
「初耳なのですが」
「うむ、言い忘れだ」
「大切なことを言い忘れないでいただきたい」
うっかり失言も多いが、言い忘れも多い気がする。
「しかし王族ですと私ではなくレオナルト殿下に嫁ぐのが筋ではないでしょうか」
ゴール王国からレティシアが嫁いだのだからシエスカ王国から嫁いでもおかしくはないが、まずは王族からではないか? 国と国の関係を強化するのであれば。
「そのことだか、あれはエルメンヒルトをどうしても正妻にしておきたいらしくてな」
「ああ、そちらでしたか」
自国の貴族の娘と隣国の王族のどちらを王妃にするかという話だ。貴族であれば正妻と側室を入れ替えるということはある。それで妻の実家と険悪になることもあるらしいが、まあやろうと思えばできる。ただ王妃になるはずの女性を入れ替えるというのは難しいだろう。
レオナルト殿下の正妻はバーレン辺境伯の娘のエルメンヒルト殿。殿下の結婚からこちら、俺もそれなりに忙しくしているので人柄が分かるほど話をしているわけではないが、しっかり者だと聞いている。
カミル陛下は近いうちに退位して王位をレオナルト殿下に譲ると言っていた。そうすればエルメンヒルト殿は王妃になる。国母は自国出身者にしたいということだろう。そのエルメンヒルト殿にはシエスカ王国の王族の血が入っているわけだが。
「私でなくとも相応しい貴族は何人もいるはずですが」
「それはそうだが」
辺境伯なら、バーレン辺境伯の息子のエルンスト殿、新しくマルクブルク辺境伯になったアルノルト殿など、俺よりも長く辺境伯の立場にあった家柄でまだ若い人もいる。たしかに一時的に上級貴族は減り、特に公爵と侯爵が少なくなったが、伯爵は元に戻りつつある。いずれは伯爵から侯爵に陞爵する者も出るだろう。
ドレッツ子爵とウルツェン子爵は陞爵して伯爵になった。このお二人は大公派にけっして媚びを売らず、常に距離を取っていた。大変な日々だっただろうが、その結果として陞爵と領地の加増ということになり、息子たちは一つ上の爵位を継げるようになった。ツェーデン子爵もたしか五〇代だと言っていたが、上の五人が娘で、ようやく授かった息子が俺よりも下だ。
「まあそのような話もあったということだ。心の端にでも留めておいてくれ」
そう言うと陛下はビアンカ殿下や役人たちを引き連れて結婚式のために王城の奥へ向かった。
「で、どうするの?」
「陛下に出ろと言われたからには出るだろう。マリーナも食べて帰るか? もちろん今日明日には式は始まらないとは思うが」
おそらく最後の準備に数日はかかるだろう。予定よりも早く着いたから調整も必要かもしれない。
「この国を少し見てから帰ろうと思った。それならお城の中も見てみたい」
「そうか。では式が終わるまではこちらにいるか」
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