ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第六章:領主三年目、さらに遠くへ

新しい種族、そして結婚と子育て事情

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 アレタとマレンには下がってもらった。俺の相手ばかり増えても正直困る。最初の頃なら三〇〇人程度しかいなかったから相手を探すのも難しかったが、今ではアレタたちも入れると七〇〇〇人ほどだ。頑張って相手を見つけてもらおう。それにこの領地にいる男連中にはもっと頑張れと気合いを入れてやりたい。

 妻は一人と決まっているわけではない。生活に余裕があれば二人以上迎えても問題ない。ダニエルがそうだ。この領地の魔道具関係のトップで、結局魔道具職人ギルドの顧問のような立場になっている。その他にも妻が二人以上いる男は多い。

 貴族であれ平民であれ、複数妻を迎える場合はできる限り公平に扱わなければならない。妻が不満を持つようなことはないようにというのが基本になる。そうは言っても家柄で扱いが変わるというのはよくある話だ。

 俺のように元々貴族として一番下の下なら感覚的には平民に毛が生えたようなものだった。若様とか言われていたけど、敬われるというよりは魔法を頼りにされていたというくらいだろう。そんな俺だから妻としてカレンとエルザとアルマという、全く貴族とは縁のない三人を迎えた。そのはずだった。結果としてエルザはゴール王国の王女、アルマはカミル陛下のご落胤だと分かって、何だかんだでこの城には王女が多い。

 俺に妻が多いからといって領民たちに複数持てというのもおかしいし、今でも男女比を考えれば女性は男性を選ぶことができる。女性の方が少ないからだ。

 マーメイドたちは川人魚族か海人魚族かに関係なく人間の姿になれる。ヒレのようなものが残るので完全に人間そのものとは言えないが、その姿なら他種族とも子供が作れる。マーマンは立派な体格をした男たちだが、やはり人間になると陸上での活動は得意ではない。

 マーメイドとマーマンは血が濃くなりすぎたようで、子供が生まれにくくなったそうだ。種族としては一〇〇人少々しかいなかったらしい。

 リザードマンは卵生で、血の濃さなどは関係ないらしいが、住んでいる場所が少しずつ狭くなってきて、さらにそこも魔物に襲われたりしたため、安心して卵を孵らせて育てることのできる場所が欲しかった。

 セイレーン、ラミア、デルピュネなどもやはり水の近くで暮らす必要があり、安全な場所に隠れて暮らすというのも難しかった。スキュラとハーピー、それにカークスには水はそこまで必要ないが、やはり魔物たちに生活の場を追われがちだった。マンドレイクとアルラウネは水が美味くなったからこっちに来たと言っていた。

 もちろん故郷に残った者もいるそうだが、それでも全体の四分の三以上はこっちに来たそうだ。おそらく北の山の周辺の魔物は減っているだろうから、放っておいてもいずれは故郷の方で安心して暮らせるようになると思う。ただ確実に安心して暮らせる場所があるならそこに行こうと、アレタに連れられてやって来た。

「見合いの場を作ってもいいかもしれないな」
「見合い? にらみ合って喧嘩でもするの?」

 カレンが物騒なことを言った。言葉を知らなかったか。

「いや、自分の結婚相手を見定める場所だ。貴族なら王都で舞踏会などに参加して相手を探すことになるが、庶民にはそれがないからな」

 庶民は自分が生まれ育った町からあまり出ない。出るとしても同じ領地の隣町や隣村くらいで、一旗揚げようとか仕事を探そうとか、そうでなければなかなか遠くまで出ないものだ。

「彼らは遠くからここへやって来た。元々いた場所での知り合い同士で集まっているらしいが、以前ほど知り合いが多くないのは分かるだろ?」
「うん」

 もちろん結婚して子供ができた夫婦も多い。だがまだ新しい土地に慣れるのに精一杯で、人間関係が出来上がっているとは言い難い。人と人の繋がりがなければ結婚相手は見つからないし、他人に紹介もできない。

 世の中には未婚の男女を結婚させることに生き甲斐を感じている者もいる。大体が年配の女性だな。そういう女性でもどこに誰がいるかが把握できなければ紹介はできない。そういうことだ。

 そしてそういう人脈を作るには時間がかかる。それにアルマン王国とゴール王国の国民が混じっているとなれば。しかも全体的にはゴール王国出身者が多い。それもまた厄介なことになるんだが。

 両国は二〇年ほど戦争を続けてきた。だからここにいる移民の中にも戦争で家族を失った者もいる。その戦争の相手国の国民と一緒に暮らすわけだ。何もない方がおかしい。

 ゴール王国の国王が謝罪して戦争が終わったことは領民たちも知っている。それでも家族を失った悲しみは消えるものではない。

 またゴール王国からの移民たちは、エルザス辺境伯がかなり強引に戦争のための金を集めたりしたので、その影響で仕事や家を失った者もいる。彼らとしては自分たちも被害者ということになる。


 一応住む町は最初に分けた。いずれは少しずつ混ざるだろうけど、「それでは今日から仲良くしましょう」と言って酒を酌み交わすことができるほどにはなっていない。

「やっぱりお酒?」
「そうなるな。料理と酒を振る舞い、そこでお互いに話をして、そうやって打ち解けてくれればそれが一番だ」

 新しくやって来た種族たちも紹介しつつ、アルマン王国かゴール王国かに関係なく同じ場所で飲み食いしてもらう。

 こういうのは誰しもあると思うが、なかなか口に出せないことを酒の勢いで出してしまえばスッキリすることもある。それで喧嘩が起きるかもしれないけど、喧嘩くらいなら町のどこででも起きている。今さらだ。それよりもずっと燻ったままでいる方が、より大きな問題になる可能性もある。

「大騒動になりそうなら、その時はマリエッテたちに物理的に止めてもらおう」
「私は?」
「俺と一緒に話をして回るのに参加してもらう。飲まなくてもいいからな」
「もうお酒は……」

 カレンは外で酒を口にすることはなくなった。酔って俺たちの夜の生活をペラペラと喋ってしまったからだ。夜が激しい奥さんと言われて恥ずかしくなった過去がある。

 あれから領民たちに混ざって生活する中で、人として暮らすのがどういうことかはかなり理解したはずだ。だから俺も以前ほどヒヤヒヤしなくなった。それでもまだ頭に入っていない知識も多いだろう。まだ山から出てきて数年だ。

「そういうことだ。自国と敵国、そういう考え方は簡単には抜けないだろうけど、揉め事を減らすためにも多少は小細工を入れていこう」
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