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第六章:領主三年目、さらに遠くへ
トンネル再び
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「ここに船着き場を作って、そこからトンネルを掘るのでいいのか?」
「そうだね。そこの白い岩があるところの上から掘れば傾斜的にほぼ平らだから」
「それならトンネルを掘り始めて、途中で船着き場を作って、最後に向こうへ繋ぐのでいいな?」
「船着き場はこちらで作業をするから、トンネルに集中してくれていいよ」
「分かった」
デニス殿が提案したドラゴネットからエクセンまでの運河計画、それを実行することになっている。山の中を通る運河を掘り、こちら側の出口には船着き場を用意する。
運河に流す水は山中を流れる川の一つを使うが、足りないようなら別の場所からさらに運んでくればいい。山なら水はいくらでもある。
今回は前のトンネルとは違って水を流すから、水を流す前に鱗を使った魔力の伝達路を通し、そこに照明の魔道具を取り付ける。馬糞の臭いを気にしなくていいので、そこが前のトンネルとは違うところだ。
他には万が一にも船が壊れた時に溺れないように、端の部分に人が摑まることのできる場所を用意するくらいだろうか。
「トンネル内の水が減りすぎると困ることにならないか?」
トンネルの向こう側は川に繋げる。水がどんどん川に流れていけばトンネル内部の水がなくなる可能性がある。
「向こうで川と繋がる部分にも工夫はするから大丈夫」
「分かった」
それなら俺は何も気にせずに穴を掘るのみ。細かなことはブルーノに任せておけばいい。
馬車が通るトンネルと違うのは、底の部分を平らにする必要がないということだ。とにかく掘ればいい。その代わりに舟は馬車と違って動きに融通が利かないので、接触がないようにそこそこ広めに作っておく。
掘っては固め、出た土砂を固める。ただそれを繰り返す。以前よりは明らかに魔力量が増えているから、かかる日数も短いはずだ。
前の時には朝からカレンに送ってもらって掘り始め、昼になったら魔力がなくなるので迎えに来てもらっていた。その途中でカレンが俺に[魔力譲渡]で魔力を分け与えようとして、間違って[魔力引き上げ]というのを使ってしまい、危うく頭が吹き飛びかけた。あれもいい思い出だ。
今回は最初から魔力量が多い。ずっと短期間で完成するだろう。
◆ ◆ ◆
「もう完成したの?」
「ああ、カレンのおかげだ」
「私のおかげ?」
カレンは首を傾げるが、魔力が尽きないというのは大きい。さすがに[転移]を続けて使うとあっという間に魔力切れになるが、そうでなければ普段から魔力不足を感じることはない。
それに今回、全然魔力が切れないからいつまでも掘り続けてしまった。おかげで前回は一か月弱かかったのに、今回は一週間程度だ。
「魔力量が増えたこと、[転移]が使えるようになったこと。それがなければこんなに早くは終わらない」
「あの時はごめんなさい」
「結果が良ければ問題ない。あのおかげで助かっている」
俺としてまずやるべきことはやった。船着き場や閘門に関してはブルーノに任せている。
次はトンネルの天井に設置する魔力の伝達路の設置、それから照明の魔道具の設置だ。これはダニエルがすでに用意してくれているので、前と同じように石の棒の先に伝達路を取り付けて土魔法で石を伸ばす。
石の棒を土魔法で伸ばして天井に付けると、その部分をJの字に変化させて切り離す。これをトンネルの端までずっと繰り返す。そこに竜の鱗で作った伝達路を引っ掛けるためだ。
初めてトンネルを掘った時は、わざわざ脚立に乗って天井に取り付け、また脚立から降りて歩き、という非常に無駄なことをしていた。まさかもう一度同じことをすることになるとは思わなかったが、あの時に試行錯誤した経験が活きている。
エクセン側の出口まで行くと、帰りは伝達路をJの部分に通しながらドラゴネットまで戻る。とりあえす今日はここで終わりだ。
◆ ◆ ◆
今日はダニエルに魔力を集めるための魔道具を両端に設置してもらう。土で覆って固めたりするのは俺の仕事だ。
トンネルのこちら側とあちら側にダニエルを送って作業をしてもらう。どちらの出口の外も船着場の設置を急いでいる。
クラースが手を貸せばあっという間に終わるだろうが、不必要に手出しはしないのが彼らのスタンスだ。
そもそもクラースはカレンの父親だから俺に協力してくれるのであって、別にこの国に特に思い入れがあるわけでもない。だから俺は無茶は頼まないし、クラースもむやみやたらと手を貸さない。
「まさかもう一度同じことをするとは思いませんでした」
「俺もだ。だが一度やったことがあると二度目は早いな」
「普通は何度もするような規模の作業ではないはずですからね」
ダニエルは苦笑いする。俺もそう思う。だが役に立つのは間違いない。これだけ長いトンネルに灯りがないと思うとゾッとする。
ダニエルを町に送り届けると、エクセンまで歩きながら伝達路に照明の魔道具を引っ掛ける。エクセンまで到着すれば、今度はドラゴネットまで、伝達路に悪さをされないように、照明だけ出るような形にして天井を埋める。
初めてやった時は手探り状態だったが、二度目となると前と同じやり方を辿るだけ。悩みようもないから終わるのも早い。
ただトンネルの長さは一〇キロほどあるから、往復するだけで四時間近くかかる。散歩には長いが、一日の仕事としては短い。
「これで俺の作業は全て終わりだが……」
やるべきことをやってトンネルから出ると、そこでは船着場の工事が続いていた。
「人手はあった方がいいよな?」
「そっちが終わったのなら、山から水を引く水路のほうを頼める?」
「了解」
もうしばらくこのあたりで作業をすることになりそうだ。もっとも俺は書類仕事よりも体を動かす方が好きだから問題はないが。
「そうだね。そこの白い岩があるところの上から掘れば傾斜的にほぼ平らだから」
「それならトンネルを掘り始めて、途中で船着き場を作って、最後に向こうへ繋ぐのでいいな?」
「船着き場はこちらで作業をするから、トンネルに集中してくれていいよ」
「分かった」
デニス殿が提案したドラゴネットからエクセンまでの運河計画、それを実行することになっている。山の中を通る運河を掘り、こちら側の出口には船着き場を用意する。
運河に流す水は山中を流れる川の一つを使うが、足りないようなら別の場所からさらに運んでくればいい。山なら水はいくらでもある。
今回は前のトンネルとは違って水を流すから、水を流す前に鱗を使った魔力の伝達路を通し、そこに照明の魔道具を取り付ける。馬糞の臭いを気にしなくていいので、そこが前のトンネルとは違うところだ。
他には万が一にも船が壊れた時に溺れないように、端の部分に人が摑まることのできる場所を用意するくらいだろうか。
「トンネル内の水が減りすぎると困ることにならないか?」
トンネルの向こう側は川に繋げる。水がどんどん川に流れていけばトンネル内部の水がなくなる可能性がある。
「向こうで川と繋がる部分にも工夫はするから大丈夫」
「分かった」
それなら俺は何も気にせずに穴を掘るのみ。細かなことはブルーノに任せておけばいい。
馬車が通るトンネルと違うのは、底の部分を平らにする必要がないということだ。とにかく掘ればいい。その代わりに舟は馬車と違って動きに融通が利かないので、接触がないようにそこそこ広めに作っておく。
掘っては固め、出た土砂を固める。ただそれを繰り返す。以前よりは明らかに魔力量が増えているから、かかる日数も短いはずだ。
前の時には朝からカレンに送ってもらって掘り始め、昼になったら魔力がなくなるので迎えに来てもらっていた。その途中でカレンが俺に[魔力譲渡]で魔力を分け与えようとして、間違って[魔力引き上げ]というのを使ってしまい、危うく頭が吹き飛びかけた。あれもいい思い出だ。
今回は最初から魔力量が多い。ずっと短期間で完成するだろう。
◆ ◆ ◆
「もう完成したの?」
「ああ、カレンのおかげだ」
「私のおかげ?」
カレンは首を傾げるが、魔力が尽きないというのは大きい。さすがに[転移]を続けて使うとあっという間に魔力切れになるが、そうでなければ普段から魔力不足を感じることはない。
それに今回、全然魔力が切れないからいつまでも掘り続けてしまった。おかげで前回は一か月弱かかったのに、今回は一週間程度だ。
「魔力量が増えたこと、[転移]が使えるようになったこと。それがなければこんなに早くは終わらない」
「あの時はごめんなさい」
「結果が良ければ問題ない。あのおかげで助かっている」
俺としてまずやるべきことはやった。船着き場や閘門に関してはブルーノに任せている。
次はトンネルの天井に設置する魔力の伝達路の設置、それから照明の魔道具の設置だ。これはダニエルがすでに用意してくれているので、前と同じように石の棒の先に伝達路を取り付けて土魔法で石を伸ばす。
石の棒を土魔法で伸ばして天井に付けると、その部分をJの字に変化させて切り離す。これをトンネルの端までずっと繰り返す。そこに竜の鱗で作った伝達路を引っ掛けるためだ。
初めてトンネルを掘った時は、わざわざ脚立に乗って天井に取り付け、また脚立から降りて歩き、という非常に無駄なことをしていた。まさかもう一度同じことをすることになるとは思わなかったが、あの時に試行錯誤した経験が活きている。
エクセン側の出口まで行くと、帰りは伝達路をJの部分に通しながらドラゴネットまで戻る。とりあえす今日はここで終わりだ。
◆ ◆ ◆
今日はダニエルに魔力を集めるための魔道具を両端に設置してもらう。土で覆って固めたりするのは俺の仕事だ。
トンネルのこちら側とあちら側にダニエルを送って作業をしてもらう。どちらの出口の外も船着場の設置を急いでいる。
クラースが手を貸せばあっという間に終わるだろうが、不必要に手出しはしないのが彼らのスタンスだ。
そもそもクラースはカレンの父親だから俺に協力してくれるのであって、別にこの国に特に思い入れがあるわけでもない。だから俺は無茶は頼まないし、クラースもむやみやたらと手を貸さない。
「まさかもう一度同じことをするとは思いませんでした」
「俺もだ。だが一度やったことがあると二度目は早いな」
「普通は何度もするような規模の作業ではないはずですからね」
ダニエルは苦笑いする。俺もそう思う。だが役に立つのは間違いない。これだけ長いトンネルに灯りがないと思うとゾッとする。
ダニエルを町に送り届けると、エクセンまで歩きながら伝達路に照明の魔道具を引っ掛ける。エクセンまで到着すれば、今度はドラゴネットまで、伝達路に悪さをされないように、照明だけ出るような形にして天井を埋める。
初めてやった時は手探り状態だったが、二度目となると前と同じやり方を辿るだけ。悩みようもないから終わるのも早い。
ただトンネルの長さは一〇キロほどあるから、往復するだけで四時間近くかかる。散歩には長いが、一日の仕事としては短い。
「これで俺の作業は全て終わりだが……」
やるべきことをやってトンネルから出ると、そこでは船着場の工事が続いていた。
「人手はあった方がいいよな?」
「そっちが終わったのなら、山から水を引く水路のほうを頼める?」
「了解」
もうしばらくこのあたりで作業をすることになりそうだ。もっとも俺は書類仕事よりも体を動かす方が好きだから問題はないが。
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