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第五章:領主二年目第四部
手合わせ
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「はあっ……はあっ……。さすがは竜騎士と呼ばれるお方。感服いたしました」
「なかなかいい腕だな……って、そんな言い方は初めて聞いたぞ」
コジマが俺と手合わせをしたいと言ったので、三〇分ほど木剣を使って剣を打ち合わせた。彼女は俺の話を父から聞いて俺に興味を持ったが実際に俺が戦ったのを見たことはなかったので、一度見てみたいということだった。
とりあえず太刀筋を見た限りでは、一通りの技術は身に付けているようだ。姿勢がいいのでバランスを崩すことは少なく、足運びも問題ない。体力もそこそこある。
それにしても竜騎士か。俺が戦場にクラースの頭に乗って駆けつけた、あの時の状況だろうな。ちなみにその元となっているのは竜騎兵だろう。
竜騎兵というのは、火属性の魔法を付与した剣や槍や杖など、貴重な魔道具を装備した部隊のことだ。竜騎兵という名前だが、騎兵のこともあれば歩兵のこともある。武器から火炎が噴き出す様子を竜に例えて竜騎兵と呼ぶようだ。そこから竜に乗る騎士のことを竜騎士だと勘違いするんだろう。だが今はそこに触れるのは辞めるか。
「太刀筋は悪くはないが、素直すぎるな」
コジマの剣は重い。当たれば敵を一撃で打ち倒せるだろう。当たればな。
「邪は捨てて正道を旨とすべしと教わったのですが」
「それはクリストフ殿の教えだな?」
「はい。私の師は父になります」
マルクブルク辺境伯クリストフ・ヘルツフェルト。一言で言えば老練で剛毅。ただしここまで真っ直ぐじゃない。正道だけではゴール王国軍を防ぎきることはできなかっただろう。
「俺にはクリストフ殿がどう教えていたのかは分からないが、それはおそらく基礎の話だろう。お前の剣はもう基礎の段階じゃない。そろそろ実践的な段階に進んでもいいだろう」
「そうなのですか?」
「ああ。今のままでは騎士とは打ち合えるだろうが、傭兵や冒険者が相手では足元をすくわれる可能性もある。正道は重要だが、それにこだわりすぎては意味がない。死んだらそれで終わりだ」
「はい。肝に銘じます。指導の続きはベッドの中でお願いします」
「それはこの場で言わなくてもいいんじゃないか?」
ここには他の兵士たちもいる。俺と二人きりってわけじゃない。
先日コジマを受け入れることに決めて抱いた。そしてマルクブルク辺境伯に宛てて手紙を送った。返事はまだ来ていないが、おそらく文面は予想できる。
俺も男なので、それなりに欲求はある。話に聞く限り、普通の男よりもかなり精力が強いようだ。だが際限なく妻を迎え入れられるかといえばそんなことはない。精力が強いのと懐が大きいのとは関係がないだろう。だから困っている。
コジマが率いてきたゴール王国の貴族の娘たちだ。七人はヘルガに向かって暴言を吐いた婦人の娘たち。残りは希望者らしい。最初はなぜここまで来ようと思ったのかは分からなかったが、希望者が二八人もいた。合計三五人。
これが妻や愛人が増えて手放しで喜べるような性格ならいいが、残念ながら俺はそこまで厚顔じゃない。だから基本的には役人のように働いてもらうことになったが、オデットのように俺個人に興味があってやって来た娘も多い。それをどうするかだ。
一応一人一人話は聞いた。その結果、四つの組があることが分かった。
まず一つ目は身内の罪を償う娘たちだ。ここに来なければならなかった七人のことだから分かりやすい。来なければ実家や親戚の家が潰される。だから来るしかなかった。だが来てみたら意外に過ごしやすいというのが彼女たちの感想だ。
ゴール王国はアルマン王国に比べて伝統がある。伝統があるということは全てが格式張っているということで、何をするにも礼儀を煩く言われる。身分の上下にも厳しい。当然ながら権力闘争もあり、自分たちは所詮は手駒の一つだと子供の頃から考えていた。
彼女たちは母親や叔母や従姉妹の失態を償うためにここにやって来たわけだが、ここには面倒な上下関係はほとんどない。貴族の娘としては扱ってもらえなくなるが、それでも扱いは役人と同じになる。数日も経てばかなり顔色は良くなった。
まあ少々気が緩みすぎかもしれないが、たまに俺に色目を使いつつも真面目に自分たちのなすべきことをしている。
二つ目は強制はされなかったものの、ここへ来るようにと言われた娘たちだ。実家の役に立てと言われたわけだ。
彼女の親たちはドラゴネットに来れば鱗などの素材が手に入り安くなるのではないかと考えたわけだ。それは間違いじゃないだろう。鱗はまだ高価だが、買おうと思えば買える。さすがにゴール王国まで売りに行くことはないから、金を貯めて買ってもいいだろう。
彼女たちは強制されたわけではないが、親の指示に逆らうのは難しいだろう。そういう娘も役人として扱うことにした。
その中に一人、アナイスという令嬢がいる。どうもオデットと仲がいいようで、今でも二人揃って声を出しながら、向こうの方を走っている。体を動かすのが好きなようだな。
三つ目は親には強制されなかったものの、ここに来て俺と実家との繋ぎ役になることが実家のためになると応募した娘たちだ。気持ちとしては二番目の娘たちとほぼ同じ。自主的かそうでないかの違いだけで、最終的な目的は同じだ。
残った四つ目は俺に興味があってやって来た娘たちで、これが少々厄介だ。側室であれ愛人であれ、俺と関係を持つことを目的としているので、俺に積極的にアピールしてくる。そのアピールの仕方もゴール王国風なのかやや遠回しだから、俺としても一瞬どう受け止めるべきか困ることがある。その点ではオデットは分かりやすくていい。
「私の体は我が君のために存在します。いかようにもお使いください。いかに激しくされようがそれに耐えられるように自らを鍛えております。アナイスさんも同じはずです」
そう言ってボタンに手をかけるから始末が悪い。文字通り真っ直ぐだ。ちなみに横にいたアナイスは「仝仝⁉」とおかしな声を上げた。
オデットに「これ以上相手は必要ない」と言いかけたら地獄の底を覗いたかのような顔をしかけたので、あまり拒否するわけにもいかない。「今は不要だがその時になれば頼む」と誤魔化しつつ過ごしているが、どうなるか。
年齢のわりには小柄で、カレンよりも頭半分くらい低いだろう。俺としては子供を抱くように思えてしまう。これでヒキガエルのような小児性愛の傾向があるなら喜んで抱いたんだろうけど、俺にはその趣味はない。
コジマだけじゃなくゴール王国から来た娘たちの対処が難しい。人を使うのは難しいと思ってはいたが、これほど厄介な状況になるとは思ってもみなかった。
「なかなかいい腕だな……って、そんな言い方は初めて聞いたぞ」
コジマが俺と手合わせをしたいと言ったので、三〇分ほど木剣を使って剣を打ち合わせた。彼女は俺の話を父から聞いて俺に興味を持ったが実際に俺が戦ったのを見たことはなかったので、一度見てみたいということだった。
とりあえず太刀筋を見た限りでは、一通りの技術は身に付けているようだ。姿勢がいいのでバランスを崩すことは少なく、足運びも問題ない。体力もそこそこある。
それにしても竜騎士か。俺が戦場にクラースの頭に乗って駆けつけた、あの時の状況だろうな。ちなみにその元となっているのは竜騎兵だろう。
竜騎兵というのは、火属性の魔法を付与した剣や槍や杖など、貴重な魔道具を装備した部隊のことだ。竜騎兵という名前だが、騎兵のこともあれば歩兵のこともある。武器から火炎が噴き出す様子を竜に例えて竜騎兵と呼ぶようだ。そこから竜に乗る騎士のことを竜騎士だと勘違いするんだろう。だが今はそこに触れるのは辞めるか。
「太刀筋は悪くはないが、素直すぎるな」
コジマの剣は重い。当たれば敵を一撃で打ち倒せるだろう。当たればな。
「邪は捨てて正道を旨とすべしと教わったのですが」
「それはクリストフ殿の教えだな?」
「はい。私の師は父になります」
マルクブルク辺境伯クリストフ・ヘルツフェルト。一言で言えば老練で剛毅。ただしここまで真っ直ぐじゃない。正道だけではゴール王国軍を防ぎきることはできなかっただろう。
「俺にはクリストフ殿がどう教えていたのかは分からないが、それはおそらく基礎の話だろう。お前の剣はもう基礎の段階じゃない。そろそろ実践的な段階に進んでもいいだろう」
「そうなのですか?」
「ああ。今のままでは騎士とは打ち合えるだろうが、傭兵や冒険者が相手では足元をすくわれる可能性もある。正道は重要だが、それにこだわりすぎては意味がない。死んだらそれで終わりだ」
「はい。肝に銘じます。指導の続きはベッドの中でお願いします」
「それはこの場で言わなくてもいいんじゃないか?」
ここには他の兵士たちもいる。俺と二人きりってわけじゃない。
先日コジマを受け入れることに決めて抱いた。そしてマルクブルク辺境伯に宛てて手紙を送った。返事はまだ来ていないが、おそらく文面は予想できる。
俺も男なので、それなりに欲求はある。話に聞く限り、普通の男よりもかなり精力が強いようだ。だが際限なく妻を迎え入れられるかといえばそんなことはない。精力が強いのと懐が大きいのとは関係がないだろう。だから困っている。
コジマが率いてきたゴール王国の貴族の娘たちだ。七人はヘルガに向かって暴言を吐いた婦人の娘たち。残りは希望者らしい。最初はなぜここまで来ようと思ったのかは分からなかったが、希望者が二八人もいた。合計三五人。
これが妻や愛人が増えて手放しで喜べるような性格ならいいが、残念ながら俺はそこまで厚顔じゃない。だから基本的には役人のように働いてもらうことになったが、オデットのように俺個人に興味があってやって来た娘も多い。それをどうするかだ。
一応一人一人話は聞いた。その結果、四つの組があることが分かった。
まず一つ目は身内の罪を償う娘たちだ。ここに来なければならなかった七人のことだから分かりやすい。来なければ実家や親戚の家が潰される。だから来るしかなかった。だが来てみたら意外に過ごしやすいというのが彼女たちの感想だ。
ゴール王国はアルマン王国に比べて伝統がある。伝統があるということは全てが格式張っているということで、何をするにも礼儀を煩く言われる。身分の上下にも厳しい。当然ながら権力闘争もあり、自分たちは所詮は手駒の一つだと子供の頃から考えていた。
彼女たちは母親や叔母や従姉妹の失態を償うためにここにやって来たわけだが、ここには面倒な上下関係はほとんどない。貴族の娘としては扱ってもらえなくなるが、それでも扱いは役人と同じになる。数日も経てばかなり顔色は良くなった。
まあ少々気が緩みすぎかもしれないが、たまに俺に色目を使いつつも真面目に自分たちのなすべきことをしている。
二つ目は強制はされなかったものの、ここへ来るようにと言われた娘たちだ。実家の役に立てと言われたわけだ。
彼女の親たちはドラゴネットに来れば鱗などの素材が手に入り安くなるのではないかと考えたわけだ。それは間違いじゃないだろう。鱗はまだ高価だが、買おうと思えば買える。さすがにゴール王国まで売りに行くことはないから、金を貯めて買ってもいいだろう。
彼女たちは強制されたわけではないが、親の指示に逆らうのは難しいだろう。そういう娘も役人として扱うことにした。
その中に一人、アナイスという令嬢がいる。どうもオデットと仲がいいようで、今でも二人揃って声を出しながら、向こうの方を走っている。体を動かすのが好きなようだな。
三つ目は親には強制されなかったものの、ここに来て俺と実家との繋ぎ役になることが実家のためになると応募した娘たちだ。気持ちとしては二番目の娘たちとほぼ同じ。自主的かそうでないかの違いだけで、最終的な目的は同じだ。
残った四つ目は俺に興味があってやって来た娘たちで、これが少々厄介だ。側室であれ愛人であれ、俺と関係を持つことを目的としているので、俺に積極的にアピールしてくる。そのアピールの仕方もゴール王国風なのかやや遠回しだから、俺としても一瞬どう受け止めるべきか困ることがある。その点ではオデットは分かりやすくていい。
「私の体は我が君のために存在します。いかようにもお使いください。いかに激しくされようがそれに耐えられるように自らを鍛えております。アナイスさんも同じはずです」
そう言ってボタンに手をかけるから始末が悪い。文字通り真っ直ぐだ。ちなみに横にいたアナイスは「仝仝⁉」とおかしな声を上げた。
オデットに「これ以上相手は必要ない」と言いかけたら地獄の底を覗いたかのような顔をしかけたので、あまり拒否するわけにもいかない。「今は不要だがその時になれば頼む」と誤魔化しつつ過ごしているが、どうなるか。
年齢のわりには小柄で、カレンよりも頭半分くらい低いだろう。俺としては子供を抱くように思えてしまう。これでヒキガエルのような小児性愛の傾向があるなら喜んで抱いたんだろうけど、俺にはその趣味はない。
コジマだけじゃなくゴール王国から来た娘たちの対処が難しい。人を使うのは難しいと思ってはいたが、これほど厄介な状況になるとは思ってもみなかった。
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