ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

新店舗(二)

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「旦那様~、大好きで~す』
「抱いてくださ~い」
「今日は捻りはなしか?」

 ここしばらく大人しくしていたと思ったら下ネタも捻りもなしに来たから、ついつい素で返してしまった。いかんな。二人に毒されている気がする。

 二人が抱きついてくるのは珍しいことではなかった。だがデニス殿の家族が遊びにきた頃だったか、どうして俺に絡んでくるのかと聞いたら、急にカリンナが動かなくなった。

 それからしばらく、城では見かけるのに全然絡んでこないと思ったら、再びいきなり抱きつかれた。

「ここしばらく大人しかったが、何かあったのか?」
「それがですね~、旦那様に絡む理由をようやく思い出しまして~」
「カリンナはたまに思い込んだまま一直線に進むんですよ。ずっと勘違いをしたままだったんですね」
「勘違い?」
「はい。そのあたりのことを説明してもよろしいですか?」
「コリンナ、普通に話せるじゃないか」
「それも理由の一つでして」



◆ ◆ ◆



 コリンナの説明は比較的分かりやすかった。カリンナが何度も補足をしたが、その補足が入る方が分かりにくかった。双子でもここまで違ったと初めて知った。

 二人は生まれた後に孤児院の前に捨てられていたらしい。それを拾って育てたのが孤児院の院長もしていた教会の司祭だったと。その司祭だが、小児性愛の性癖を持っていたそうだ。

 二人はそんなことを知らずに育ったが、ある時その司祭が孤児院の子供に手を出して大事おおごとになりかけたそうだ。それを機会に少女が一人孤児院からいなくなったと。その司祭は領主——おそらく代官のことだろう——と親しかったので問題にはならなかったそうだが、それからは大人しくなったそうだ。

 どうして二人がそんなことを知っているのかと思えば、町中である女性から教えてもらったらしい。そして変態司祭に手を出されないようにとその女性から下ネタを教わったそうだ。

 二人はお姉さんと呼んでいたが、その女性が誰なのかは分からないそうだ。おそらく司祭の被害者だったのではないかと俺は思った。どこかに密告したのかもしれない。だが代官と繋がりがあったとすれば、あまり意味はなかったのかもしれない。

 その女性と知り合ってから、二人は手を出されないように危険そうな男性の前では下ネタを口にして、おかしな双子だと思われるように行動していたらしい。正直なところ極端すぎると思うが、当時一〇歳くらいならそれが限度だったんだろう。

 それからヒキガエルフロッシュゲロー伯爵の屋敷で仕事をするようになったが、ヒキガエルフロッシュゲロー伯爵も同じ性癖を持っていたので、その屋敷でも同じようなことをしていたらしい。

 二人が育ったのはヒキガエルフロッシュゲロー伯爵の領地ではなく、もっと南にあるバーレン辺境伯領にあるルーコーという町だそうだが、ヒキガエルフロッシュゲロー伯爵と何らかの繋がりがあったんだろう。そうでないのなら、どうしてわざわざその教会からヒキガエルフロッシュゲロー伯爵のところに二人が紹介されたのかという話だ。厄介払いという可能性もなくはないが。

 それで勤めて数年するとヒキガエルフロッシュゲロー伯爵が死んで伯爵家も取り潰しになり、最終的に俺のところに来た。来たのはいいが、俺も同じではないかと疑って触ったり抱きついたりしたそうだが、反応がないので違うと思ったそうだ。

 だが俺は二人には反応しないのにアンゲリカには手を出した。つまり女性には興味があるはずなのに二人には手を出さなかったのがカリンナにとっては悔しかったそうだ。そうすると今度は俺の興味を引くために絡むようになった。

 そのあたりは理論が飛躍しすぎて全然分からないが、カリンナの頭の中では筋が通っているらしい。コリンナはそのカリンナの行動に乗っかったそうだ。乗っかる前に止めろと言いたい。

「止めたら役得がありませんから」
「……そうか」

 結局は暴走気味のカリンナの後ろからコリンナは様子を窺いつつ、隙があれば抱きつこうとしていた。だがカリンナが止められてそれで終わりということも多かった。

 言われてみれば、カリンナを止めたらコリンナは寄ってこなかった。コリンナが先に来ることはなかったな。

「それなら、理由を思い出したとして、これからどうするんだ?」
「旦那様のお手つきになれるように~、精一杯努力しま~す。文字通り精を一杯に~」
「掛け値なしにいつでもどうぞ~。かけてもいいですよ~」
「口調はそのままか?」
「急に変えたら不思議がられますので」
「三人だけの時はこの話し方でもいいかもしれませんけど」
「確かに違和感がある」

 これまでやたらと言葉を伸ばしていた二人が真面目な口調になると違和感がひどい。どう言ったらいいのか分からないが、年齢のわりには幼い話し方だと思っていたが、真面目な話し方になると急に大人びた雰囲気になる。

「正直なところ~、こっちの方が慣れたので楽ですね~」
「ザーラさんに言わせると~、差別化キャラ付けと呼ぶそうですね~」
「俺としては使用人は普通でいいんだがな」
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