ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

新しい土地と問題(八):作業完了

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 しばらく王都を中心に仕事をすることにしたので、謎の地下通路の埋め戻しは八日ほどで問題なく終わった。それからは岩山を削る作業を続けた。

 アルマン王国はほぼ三方を高い山に囲まれている。それ以外にも北部には山が多い。あのあたりは山は低い丘陵地がほとんどなので、ヴァイスドルフ男爵領のように牧畜が盛んな場所もある。

 そのような役に立つ山であれば問題ないが、このあたりにあるのは岩山だ。その端の方がぐぐっと西に向かって張り出している。さらに少し離れた場所にも小さな岩山があるので、ロッゲンブルク方面から王都に向かおうとすると、北西に向かっていたのに一度西に向かい、しばらく進んで北に向かい、そこでようやく岩山を抜けて北東に向かう、というように蛇行している。

 ここは王都から南東のロッゲンブルクに向かって二日ほど進んだ場所で、周囲に町はないが少し離れたところに街道が通っている。少しと言っても、さすがに矢を射っても届かない距離だが、俺とカレンが何かをしているのは見える。

 先日までは高さ数十メートルの小さな岩山がいくつもある上に、そこから落ちたような巨石がゴロゴロと転がっていたのでかなり見通しが悪かったが、とりあえず新しい街道を通す予定地の西側の岩山はなくなった。今は街道の東側になる場所を削っている。

 二人で無駄話をしながら作業をしていると、たまに何をしているのかと近寄ってくる暇な旅人もいた。



「大がかりな工事のようですが、それは何をしているのですか?」
「ああ、これは街道を真っ直ぐ通すために岩山を削っているところだ」
「そう言えば、行きに通ったそちらの山が綺麗さっぱりなくなっていますね」
「そっちは片付いたから今はこちらだな。ところで無警戒に近づいてきたが、もし俺たちが盗賊だったらどうするんだ?」
「魔法が使えるくらいなら盗賊にはならないでしょう。いくらでも勤め先はあるはずです」
「それもそうだ」



 他には盗賊が出没するから気をつけろと言ってくれる商人もいた。



「かなり魔法に堪能なようですが、このあたりは盗賊が集団で襲ってきますぞ」
「気を遣ってくれて感謝する。だが三〇人くらいの集団なら先日片付けた。それからは寄ってこないな」
「何と! 以前このあたりで襲われかけましてな。なんとか逃げ切ることができましたが、それからはこうやって安全のために商隊を組むようになりました」

 馬車が全部で一〇台ほど。護衛もいるのでそれなりの人数になっている。

「盗賊を警戒しているようだが、こうやって俺たちに近づくのはどうなんだ?」
「そこは好奇心が勝りましてな」
「強すぎる好奇心は身を滅ぼす原因だと言われるだろう」
「好奇心がなさすぎれば商人はできません。何ごともほどほどが肝心ですな」
「それはそうかもな」



 さすがに根城の場所まで調べる暇はないので、それは兵士たちに任せることにした。どうやら根城らしき場所があったがもぬけの殻だったそうだ。カレンの炎で文字通り全滅したのか、それとも何人か残っていたが逃げ去ったのか、それは分からない。

「みんな喜んでくれるわね」

 つい先ほども冒険者のパーティーが声をかけてくれた。

「どんなことでも命あってのことだからな。それに一度盗賊を排除しても、またやって来るやつらはいるだろう。徹底的に削って見晴らしを良くすれば、そう簡単に根城も作れないだろう」
「あのあたりまで削ったらいいのね?」
「ああ、そこまで広げれば、盗賊がいても逃げ切れるだろう」

 一応目安になる場所には杭を立てていて、そこまでは削ることになっている。だが真っ直ぐ削って切り立った崖にすると崩れた時に危険なので、緩やかな傾斜になるように相当削ることになる。

 削るのはいい。だが別の問題が出てきた。もうすでに地下通路の埋め戻しは終わっているのでこの先この土砂をどうするかということだ。この一体全体に薄く伸ばして、緩やかな丘にしてしまおうと思っている。それくらいなら街道を通しても問題ないだろう。

 依頼書によれば、このあたりの岩山を削って街道を通すというのが仕事内容だが、どれくらい削るか、どのように街道を通すかは書かれていない。トンネルを通すというのもありと言えばありだったが、それでは盗賊がいなくならないと思って岩山をなくすことにした。

「そう言えば、このあたりには町はないのね」
「王都から二日ほどだから一つ二つはあってもおかしくないが、岩山のせいで盗賊が多かったそうだ」
「領主は対策しなかったの?」
「この近辺の領主というのはプレボルン大公という陛下の弟でな、去年の戦争の大元だ」
「悪い人だったのよね」
「ああ。早い話がゴール王国と繋がっていた。だから南から西にかけては街道を整備していたが、こっちは放っておかれたわけだ。むしろいくつかの町の代官たちは盗賊たちと結託していた可能性が高い」

 王都から二日ほどだ。本気になれば盗賊など一掃できるはずだ。だがそうするつもりはなかったからだろう。

 盗賊のせいで物流が途絶えがちになり物の値段が上がる。値段が十分上がってから売りに出かければかなりの利益が上げられる。盗賊に襲われないようにするための目印を付けておけば間違えられることはない。そうして領主、代官、盗賊、商人が手を組んで地方の貴族を締め上げていた。

 大公が何をせせこましいことを、と思うかもしれないが、塩がなければ生活が困難になる。冬に備えて肉や野菜は塩漬けにしなければ食料がなくなる土地は多い。

 砂糖は贅沢品に近いのでなくても何とかなるかもしれないが、塩は無理だ。だから俺は王都でまとめて塩を買ってハイデに運んでいた。ハイデまでは塩が届かなかったからだ。

「それで、今はどうなってるの?」
「大公領をそのまま継ぎたいという貴族はいなかったそうだから、いくつかに分割されている。このあたりが誰の領地になったかまでは覚えていないが、街道が真っ直ぐになればいずれは町ができるだろう」
「それじゃ、これも町作りね」
「その取っかかりだな。町自体はその貴族が作るだろうから、俺たちが作るのは安全な街道だ」
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