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第三章:領主二年目第二部
娼館の代表者(一)
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「エルマー様、娼館の代表者であるアデリナという女性が一度お会いしたいと」
「そうだな。一度は顔を見ておこうか。呼んでくれ」
「分かりました」
ハンスが出ていくと、もう一度娼館の申請書に目を通した。役場から回ってきた書類に不備はない。あそこにはライナーがいて、その下でアルマの養父だったカールも働いている。
「開いた口に鳥の丸焼きですね~。お口を大っきく開けますね~」
「入れ食いですよ~。入れちゃえ~」
「来客なんだが」
この二人、カリンナとコリンナの嗅覚は本物だ。何かが起きると思うと現れる。
「ここで大人しくしていますので~」
「何かあると感じましたから~」
「膝に乗るな。股間に触るな。そっちの椅子に座っておけ」
俺の右足と左足にそれぞれ座ったので摘み上げて近くの椅子に座らせる。
しばらくするとハンスの案内で女性が一人部屋に入ってきた。三〇くらいだろうか。
「失礼いたし——」
「「お姉さん!」」
「えっ?」
挨拶も終わらないうちにカリンナとコリンナが叫んだ。大人しくすると言ったのは誰だ?
「お久しぶりで~す」
「お元気でしたか~?」
「ええっと……」
「二人とも、アデリナが困っているから少し大人しくしろ。簡単に話をしたら時間は作ってやるから」
「「はい」」
アデリナは部屋に入って俺に挨拶をしかけたところで声をかけられ、どうしていいか分からなくなったようだ。
「話は聞いている。設立の許可は出すから、準備をしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
「それで今の流れだと、この双子がルーコーで世話になった『お姉さん』というのがアデリナで間違いないのか?」
「世話と言いますか、余計なお世話だったかもしれませんが、天真爛漫な子供たちでしたので、おかしなことに巻き込まれないようにと」
「まあ詳しいことはまた後で聞こうか。双子がそろそろ我慢できなさそうだ。二人とも、喋ってもいいぞ」
俺がそう言うと二人はアデリナに向かって突進した。
「「お姉さ~ん」」
「あらあら」
双子の勢いに押されつつもしっかりと受け止めている。
「無事にやっていたみたいね」
「「はいっ!」」
それからしばらく、双子とアデリナの噛み合っているようで噛み合っていない会話が続いた。
◆ ◆ ◆
しばらく話すだけ話すと双子は仕事に行き、部屋にはアデリナだけが残った。
「もしかしたら言いたくないかもしれないが、どうしてあの二人の面倒を見てくれたんだ?」
「ええと、もしかして私の心配をしてくだいましたか? まず私は被害者とかそのようなことはありません」
「そうか。あまりにも都合が良すぎた気がしたから、被害者が戻ってきて助けようとしてくれたのかと思っていた」
「……ああ、そう取ることもできますね」
二人がいた孤児院の院長が少女に手を出して、その少女が戻ってきて訴えたという可能性を考えていた。
「私はバーレン辺境伯領の領都ローターヴァルトで娼婦をしていました。それで今から一〇年ほど前に領主様に雇われることになりました」
「専属ということか?」
「いえ、そちらの仕事ではなく密偵としての仕事です」
「ああ、そっちの話か。本当にあるんだな」
まさか噂で聞いていた話が本当だとは、世の中は思った以上に複雑なんだろう。
俺は娼館の世話になったことはないので他人から聞いただけだが、大都市の娼館は情報収集の場所でもあるそうだ。それ以外にも高級娼婦になると貴族の屋敷に呼ばれて接待をするらしい。酒を飲んで気分良く女を抱けば口が軽くなるらしい。それでついうっかり喋ると、ということだそうだ。もちろん高級娼婦が全て密偵とは限らないし、娼館が密偵の巣窟とは限らない。
「自分の素性を話してもいいのか?」
「もうその仕事は辞めましたので問題はありません」
「そうか」
「男爵様のお陰で辞めることができたということでもあります」
「ん? ああ、なるほど」
この国の南から西にかけては大公派の貴族の領地が多かった。だがマルクブルク辺境伯とバーレン辺境伯は国境の守りがあるため、旗色は明らかにしていなかった。いなかったが、まあそういうことなんだろう。
「大公派がいなくなったからお役御免か」
「はい。もしバレれば命はない仕事でしたので、長く続けたいとは思っていませんでした。ちょうど頃合いだったのでしょう。大変な仕事ではありましたが、これまで十分に稼がせていただきましたので、辺境伯様には感謝の言葉しかありません」
二つの辺境伯領の北には小さな領地がいくつもあり、その北にはシュタンデハール伯爵領やノイフィーア伯爵領、フロッシュゲロー伯爵領、さらに北にはプレボルン大公領などがあった。
アデリナはバーレン辺境伯から与えられた資金を元に、仲間たちと一緒に王都とバーレン辺境伯領の間でいくつもの娼館を経営して活動していたらしい。
「私たちが頼りにされていたというよりも、使えそうなものは何でも使いたかったのかもしれません」
「それなら、あの双子と出会った場所がおかしくないか? ルーコーは一番南だろう」
「それはですね、どうやら若い少女を金で集めたり攫ったりしている組織があるという話があり、それを探ってほしいと頼まれました」
「ああ、それでか」
「はい。あの町の孤児院がその一つで、そこに代官が繋がっていました。孤児院に預けられた子供の中で、特に可愛らしい女の子は代官を通じてフロッシュゲロー伯爵の元に送られていたそうです」
普通に雇うだけではなく攫ってもいたのか。
「ロクなのがいなかったんだな」
「本当です。ですがあのあたりでは双子が生まれると片方を捨てることがよくあります。男女の双子ならほぼ間違いなく女の子が捨てられます。女の子を集めるには好都合だったのでしょう。あの二人は二人揃ってでしたので、理由が別だったのかもしれません」
確かになあ。双子の一人を捨てることはよくあるそうだ。男女ならほぼ女子が。教会ではなく、子供のいない家にこっそり置いてくることもあるそうだ。子供が欲しくてもできないのなら大事に育てるだろうな。
「そこは俺にも分からないが、何にせよあの二人はアデリナのお陰で何もされなかったそうだ」
「彼女たちの役に立てたのなら嬉しいことですね」
「そのお陰で俺はしょっちゅう二人に触られるんだが。もう少しやり方はなかったのか?」
「子供でも覚えやすい方法となれば、どうしても限られますので」
「それはそうだが」
「そうだな。一度は顔を見ておこうか。呼んでくれ」
「分かりました」
ハンスが出ていくと、もう一度娼館の申請書に目を通した。役場から回ってきた書類に不備はない。あそこにはライナーがいて、その下でアルマの養父だったカールも働いている。
「開いた口に鳥の丸焼きですね~。お口を大っきく開けますね~」
「入れ食いですよ~。入れちゃえ~」
「来客なんだが」
この二人、カリンナとコリンナの嗅覚は本物だ。何かが起きると思うと現れる。
「ここで大人しくしていますので~」
「何かあると感じましたから~」
「膝に乗るな。股間に触るな。そっちの椅子に座っておけ」
俺の右足と左足にそれぞれ座ったので摘み上げて近くの椅子に座らせる。
しばらくするとハンスの案内で女性が一人部屋に入ってきた。三〇くらいだろうか。
「失礼いたし——」
「「お姉さん!」」
「えっ?」
挨拶も終わらないうちにカリンナとコリンナが叫んだ。大人しくすると言ったのは誰だ?
「お久しぶりで~す」
「お元気でしたか~?」
「ええっと……」
「二人とも、アデリナが困っているから少し大人しくしろ。簡単に話をしたら時間は作ってやるから」
「「はい」」
アデリナは部屋に入って俺に挨拶をしかけたところで声をかけられ、どうしていいか分からなくなったようだ。
「話は聞いている。設立の許可は出すから、準備をしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
「それで今の流れだと、この双子がルーコーで世話になった『お姉さん』というのがアデリナで間違いないのか?」
「世話と言いますか、余計なお世話だったかもしれませんが、天真爛漫な子供たちでしたので、おかしなことに巻き込まれないようにと」
「まあ詳しいことはまた後で聞こうか。双子がそろそろ我慢できなさそうだ。二人とも、喋ってもいいぞ」
俺がそう言うと二人はアデリナに向かって突進した。
「「お姉さ~ん」」
「あらあら」
双子の勢いに押されつつもしっかりと受け止めている。
「無事にやっていたみたいね」
「「はいっ!」」
それからしばらく、双子とアデリナの噛み合っているようで噛み合っていない会話が続いた。
◆ ◆ ◆
しばらく話すだけ話すと双子は仕事に行き、部屋にはアデリナだけが残った。
「もしかしたら言いたくないかもしれないが、どうしてあの二人の面倒を見てくれたんだ?」
「ええと、もしかして私の心配をしてくだいましたか? まず私は被害者とかそのようなことはありません」
「そうか。あまりにも都合が良すぎた気がしたから、被害者が戻ってきて助けようとしてくれたのかと思っていた」
「……ああ、そう取ることもできますね」
二人がいた孤児院の院長が少女に手を出して、その少女が戻ってきて訴えたという可能性を考えていた。
「私はバーレン辺境伯領の領都ローターヴァルトで娼婦をしていました。それで今から一〇年ほど前に領主様に雇われることになりました」
「専属ということか?」
「いえ、そちらの仕事ではなく密偵としての仕事です」
「ああ、そっちの話か。本当にあるんだな」
まさか噂で聞いていた話が本当だとは、世の中は思った以上に複雑なんだろう。
俺は娼館の世話になったことはないので他人から聞いただけだが、大都市の娼館は情報収集の場所でもあるそうだ。それ以外にも高級娼婦になると貴族の屋敷に呼ばれて接待をするらしい。酒を飲んで気分良く女を抱けば口が軽くなるらしい。それでついうっかり喋ると、ということだそうだ。もちろん高級娼婦が全て密偵とは限らないし、娼館が密偵の巣窟とは限らない。
「自分の素性を話してもいいのか?」
「もうその仕事は辞めましたので問題はありません」
「そうか」
「男爵様のお陰で辞めることができたということでもあります」
「ん? ああ、なるほど」
この国の南から西にかけては大公派の貴族の領地が多かった。だがマルクブルク辺境伯とバーレン辺境伯は国境の守りがあるため、旗色は明らかにしていなかった。いなかったが、まあそういうことなんだろう。
「大公派がいなくなったからお役御免か」
「はい。もしバレれば命はない仕事でしたので、長く続けたいとは思っていませんでした。ちょうど頃合いだったのでしょう。大変な仕事ではありましたが、これまで十分に稼がせていただきましたので、辺境伯様には感謝の言葉しかありません」
二つの辺境伯領の北には小さな領地がいくつもあり、その北にはシュタンデハール伯爵領やノイフィーア伯爵領、フロッシュゲロー伯爵領、さらに北にはプレボルン大公領などがあった。
アデリナはバーレン辺境伯から与えられた資金を元に、仲間たちと一緒に王都とバーレン辺境伯領の間でいくつもの娼館を経営して活動していたらしい。
「私たちが頼りにされていたというよりも、使えそうなものは何でも使いたかったのかもしれません」
「それなら、あの双子と出会った場所がおかしくないか? ルーコーは一番南だろう」
「それはですね、どうやら若い少女を金で集めたり攫ったりしている組織があるという話があり、それを探ってほしいと頼まれました」
「ああ、それでか」
「はい。あの町の孤児院がその一つで、そこに代官が繋がっていました。孤児院に預けられた子供の中で、特に可愛らしい女の子は代官を通じてフロッシュゲロー伯爵の元に送られていたそうです」
普通に雇うだけではなく攫ってもいたのか。
「ロクなのがいなかったんだな」
「本当です。ですがあのあたりでは双子が生まれると片方を捨てることがよくあります。男女の双子ならほぼ間違いなく女の子が捨てられます。女の子を集めるには好都合だったのでしょう。あの二人は二人揃ってでしたので、理由が別だったのかもしれません」
確かになあ。双子の一人を捨てることはよくあるそうだ。男女ならほぼ女子が。教会ではなく、子供のいない家にこっそり置いてくることもあるそうだ。子供が欲しくてもできないのなら大事に育てるだろうな。
「そこは俺にも分からないが、何にせよあの二人はアデリナのお陰で何もされなかったそうだ」
「彼女たちの役に立てたのなら嬉しいことですね」
「そのお陰で俺はしょっちゅう二人に触られるんだが。もう少しやり方はなかったのか?」
「子供でも覚えやすい方法となれば、どうしても限られますので」
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