ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第三章:領主二年目第二部

捕虜の扱い(四)

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 王城へ鳩が届き、我が国がゴール王国との戦いに勝ったとの報告を受けた。国旗を持った竜が敵の本陣をほぼ一撃で潰したと。その竜にはノルト男爵が乗っていた。彼はゴール王国軍を追い払うと言って、そのまま逃げるゴール王国軍を追い立てるかのように国境の方へまで追って行ったそうだ。第一報はそのような内容になっていた。

 双方ともそこまで大きな被害は出なかったそうだが、それでもマルクブルク辺境伯は昨年も大きな被害が出ている。まず受け止めるのが、かの者の領地だからだ。

「しかし、これでゴール王国も懲りてくれればいいが」
「父上、敵も被害が少ないのであればまた侵攻してくる可能性があります」
「そうだな。何か決定的な策でもあればいいが、そんなものがあれば戦争なんて起こらないか」
「そもそも、どうしてここまで戦争を仕掛けてくるのでしょうか?」
「そこまではさすがに分からん。向こうに聞いてみなければな」

 国と国との関係とは、どれだけ仲良くしているように見えても、右手で握手をしつつ左手にはナイフを隠しているようなものだ。それでも表面上はそれなりに上手くやるために外交に力を入れる、それが王としての仕事だ。

 だが……ゴール王国が毎年とは言わないが、国境を越えるようになったのは……レオナルトが生まれたあたりだろうか。最初は小競り合い程度だったが徐々に侵攻してくる軍の規模が大きくなった。去年は時期を僅かにずらして二度侵入され、フロッシュゲロー伯爵に最高指揮官を任せざるを得ない羽目になった。弟の推薦でな。他に任せられる者がいなくなったからだ。

 余は国外で何かをやらかしたことはない……はずだな? 若い頃はゴール王国にもシエスカ王国にも行ったが何もなかったはずだ。ロッテアルマの母親の時は弟につけ込まれないためにも隠すしかなかったが。



◆ ◆ ◆



 二日ほど治療をして回ると、なんとかこの場所を離れられるくらいにはなったようだ。そろそろ俺たちもマルクブルク辺境伯領の領都エルシャースレーベンに向けて移動することにする。

 負傷した兵士たちの怪我は治した。だが欠損はどうにもならない。腕や脚をなくした兵士たちには同情するが、それは俺にはどうしようもない。俺にできるのは、彼らを送り届けることだ。そこから先は辺境伯に何とかしてもらうしかない。

 戦場を離れて五日、エルシャースレーベンに到着した。さすがに辺境伯領の領都だけあって立派な町だ。ドラゴネットなんて吹けば飛ぶような規模だな。

「この町はなかなか勇壮だな」

 俺もそう思う。だがクラースがそれを言うか?

「クラースはこのあたりは来たことはないのか?」
「あったはずだがあまり覚えていないな。冒険者としてはここよりももっと東の国で活動していた」
「シエスカ王国やポウラスカ王国か?」
「そのような名前だったはずだ。ゴール王国とやらにも行ったことがあるはずだが、あまり覚えていないな。忘れると[転移]では行けなくなる」
「一度行けばいいわけでもないのか」
「はっきりとした記憶があるかどうかだそうだ。興味がなくなると抜けるらしいとも聞いた」

 ここで一泊すると王都へ向けて移動を始めようということになった。いや、辺境伯はどれだけいてくれてもいいと言ってくれたが、部屋に長居すると娘を押しつけられそうだったからだ。辺境伯の娘のコジマは確かに気が強そうだった。相手はあれを押さえ込めるか、あるいは完全に尻に敷かれるかのどちらかでないと務まらないだろう。

 結局ここから王都へ向かうのは俺とクラースと捕虜のジョゼフィーヌ、そして軍の一部だ。全部で八〇人ほど。

「それで、王都へ向かうのはこのあたりか?」
「はい。ここにいるのは我々軍監を始めとして軍に同行していた者たちです」

 軍監とは文字通り軍の監督をする者で、早い話が目付役のことだ。作戦そのものに口を出すことはなく、非人道的な行動をしていないか、味方を裏切って寝返らないか、報告書が間違っていないか、物資や戦利品を懐に入れていないか、そのあたりを見るのが仕事になる。

 軍監の他にも戦争の記録を取る役人たちもいる。彼らは剣を持って軍の一部となっているが、戦えない者が多い。そのため味方が勝てば無事に帰ることができるが、大敗するようなことがあれば命を失う可能性が高い。

 俺はクラースと二人で戦場に向かったが、形としては陛下が送った増援という扱いになるので、彼らと一緒に帰ることになる。だがここから普通に移動すれば二週間弱はかかる。 

「馬で移動するのは面倒だと感じてしまうな。良くないことだ」
「エルマー、また鍋で運べばいいのではないか?」
「あれでもいいが、今回は全く準備をしていないから少し時間がかかるぞ」
「鍋ですか?」

 軍監の一人が「鍋」という言葉に反応した。

「説明が難しいが、巨大な鍋のような物に人を入れて、それをクラースに持って運んでもらう。エクディン準男爵領から領民を運ぶのにもそれを使った」
「なるほど?」

 首をかしげている。聞いても分からないだろうな。地面に簡単に絵を描いて説明する。

「これに入るのですか?」

 すっかりし大人しくなったジョゼフィーヌが興味深げに除いた。

「そうだ。ここをクラースに持ってもらい、それで飛んでもらう。王都までなら二、三時間もあれば着くはずだ」
「に、にさんじかん⁉」
「二、三時間‼」

 ジョゼフィーヌが驚き、軍監たちからも歓声が上がる。早く帰ることができるほど嬉しいことはないだろう。軍監たちにも協力してもらい作り始める。

 すでに何度も作ったのでコツは分かっている。木で軽く骨組みをして、それを土で覆って石にして固める。木を使うのは、万が一にも底が抜けそうになった場合、骨組みが入っていれば一気に底が抜けることがないからだ。クラースが[硬化]をかけてくれるから問題はないと思うが、万が一の事態に備えてだ。

 最後に採光のためにガラスで窓を作って何か所かに埋め込む。真っ暗では不安になるからな。明かりの魔道具も取り付ける。

 昼を回ったところで完成した。昼食を取り、これから向かえば夕方には着くだろう。

「よし、では中に入ってくれ。明かりはあるから大丈夫なはずだ。全員が入ったら入り口は閉じる。向こうに着いたら開けるから安心してくれ」

 再びクラースに国旗を持ってもらおうと思ったが、鍋があるので持つのが難しい。なんとか持てるように取っ手の部分を工夫したら、鍋が冷めないように布で包んで運んでいるように見えてしまった。
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