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第三章:領主二年目第二部
寧日
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そろそろ夏の暑さを感じるようになった。王都に比べればまだ過ごしやすいが、それでも日差しの中にいるとジリジリと肌が焼けてくる。
ここ半年ほどは領地と王都を行ったり来たりしてそれなりに忙しかった。以前はすることがなさすぎたと思えばそうなんだろう。
父が亡くなってから爵位を貰う間はほぼ旧領地にいた。王都に行くのは年に二回くらいだった。当時は好んで行く場所でもなく、必要があれば行くという状態だった。
王都にはエルザを残していたのは彼女が王都の屋敷と教会から離れたがらなかったからだが、彼女と会うためだけに往復で二か月も三か月もかけるわけにはいかない。特に知り合いがいた訳でもないので、しばらく王都に滞在するとまた離れるという生活だった。
そもそもハイデから王都に行くにはイタチの領地やヒキガエルの手下の領地を通る必要があった。直接何かをされたことはないが、盗賊はたまにいたな。関係あったかどうかは分からないが、とりあえず落とし穴に落としておいた。
それにうちに何か重要な連絡が届くことは少なかった。ヒキガエルが「あいつらを呼ぶな」と言えば、例え陛下の記念式典だろうが何だろうがうちに案内は届かない。そのお陰で気を使う行事に顔を出す必要はなかった。
そのような状況も去年の終わりからはかなり変わり、王都の屋敷も新しくなり、先日は博物館も完成し、ノルト男爵領を宣伝することになった。
まあ中に作ったレストランは貴重な食器で食事ができることを売りにしているが、それにどれだけの貴族が興味を示してくれるかはまだ分からない。
俺のように[転移]で移動しない限り、貴族が一人でもドラゴネットまで来てくれるなら、同行者は少なくとも一〇人や二〇人はいる。彼らが金を落としてくれれば言うことはない。
それほど急激な変化はないが、ドラゴネットの方も少しずつ変わってきた。まだ人数はそれほど多くはないが、移住を希望する者が来るようになったからだ。やはり王都の商会の影響は大きく、商売をやりたい者を中心に移住の申請がある。移住そのものに申請は必要ないが、店を持つなら税の関係で手続きが必要だから、それで分かるようになっている。
他にしっかりとした宿屋ではなく、長屋のような木賃宿を建てて部屋を貸す者も現れた。家を持つほどの金はないがとりあえずここまで来た者が泊まる場所だ。この木賃宿は仕事を見つけるまでの仮の住居として機能している。赤髪亭は食事も出してくれるし、部屋の掃除もしてくれるが、その分だけ高いからな。
逆に一時的な寝泊まりの場所として使われていた集会所はほとんど使わなくなったので、何に使おうかと検討中だ。一番最初に建てたうちの一つだからなくすのは惜しい。使い道をいくつか考えている。そのうちの一つが芝居小屋だ。そのままでは使えないが大きな建物なので、それなりの客が入りそうだ。
国内の各地を回っている旅芸人の一座がやって来た。どうも面白い領地だと聞いたようだ。歌や踊り、芝居などをする一座だったが、うちには芝居をする場所がなかった。
とりあえず城の大広間に客を入れてやってもらったが、毎回大広間を使うのも考えものなので、そらならどこかに用意してもいいのではないかという
最後にできたのが娼館だ。ここしばらくで一番大きな変化と言えるかもしれない。南の方からやって来た娼婦たちが商売を始めたいと役場に届け出があった。問題はなさそうなので許可は出した。
娼館の建物は南北の通り沿い、赤髪亭から少し南になる。最近店などが増えたあたりだ。建物はいつものようにすぐに建ったが、どうも男連中が気合いを入れて建てたようだ。
ある程度の規模の町になると娼館はなくてはならない施設になる。町中で女性を襲う馬鹿が出てくるからだ。そうならないようにするためには適度に発散させる場所が必要になる。移住者を集めて作った町だから、どうしても男女の偏りはあるし、独身者も多い。頑張って相手を見つけて結婚するか、それとも娼館のお世話になるか。
娼館ができればできるで問題も起きる。望まない妊娠や性病だ。カランドラが避妊薬や性病の治療薬や予防薬を大量に作っていた。そのための材料は、少しずつ行動を広げている調査隊が持ち帰っている。
いつくらいからだったか忘れたが、ダニエルたち魔道具職人が何やら忙しそうにしていた。それが調査隊に頼まれた魔道具作りだったようだ。馬の疲労を減らすための魔道具と、魔獣が近づかないように結界を張る魔道具らしい。
どうもクラースに師事して作っていたようだ。クラースは「その程度なら私が作っておこう」などと言ったそうだが、何でもかんでもクラース頼みではこの町のためにならないと考え、教えてもらうだけにしたそうだ。
その甲斐あって馬での行動範囲が広がり、さらには野営もできるようになったので、泊まりがけでの調査が可能になったそうだ。それで避妊薬や性病の薬の材料も含め、これまで見つかっていなかった植物や鉱物も手に入るようになった。
その娼館を建てる許可を出した後だが、少々予想外のことが起きた。
ここ半年ほどは領地と王都を行ったり来たりしてそれなりに忙しかった。以前はすることがなさすぎたと思えばそうなんだろう。
父が亡くなってから爵位を貰う間はほぼ旧領地にいた。王都に行くのは年に二回くらいだった。当時は好んで行く場所でもなく、必要があれば行くという状態だった。
王都にはエルザを残していたのは彼女が王都の屋敷と教会から離れたがらなかったからだが、彼女と会うためだけに往復で二か月も三か月もかけるわけにはいかない。特に知り合いがいた訳でもないので、しばらく王都に滞在するとまた離れるという生活だった。
そもそもハイデから王都に行くにはイタチの領地やヒキガエルの手下の領地を通る必要があった。直接何かをされたことはないが、盗賊はたまにいたな。関係あったかどうかは分からないが、とりあえず落とし穴に落としておいた。
それにうちに何か重要な連絡が届くことは少なかった。ヒキガエルが「あいつらを呼ぶな」と言えば、例え陛下の記念式典だろうが何だろうがうちに案内は届かない。そのお陰で気を使う行事に顔を出す必要はなかった。
そのような状況も去年の終わりからはかなり変わり、王都の屋敷も新しくなり、先日は博物館も完成し、ノルト男爵領を宣伝することになった。
まあ中に作ったレストランは貴重な食器で食事ができることを売りにしているが、それにどれだけの貴族が興味を示してくれるかはまだ分からない。
俺のように[転移]で移動しない限り、貴族が一人でもドラゴネットまで来てくれるなら、同行者は少なくとも一〇人や二〇人はいる。彼らが金を落としてくれれば言うことはない。
それほど急激な変化はないが、ドラゴネットの方も少しずつ変わってきた。まだ人数はそれほど多くはないが、移住を希望する者が来るようになったからだ。やはり王都の商会の影響は大きく、商売をやりたい者を中心に移住の申請がある。移住そのものに申請は必要ないが、店を持つなら税の関係で手続きが必要だから、それで分かるようになっている。
他にしっかりとした宿屋ではなく、長屋のような木賃宿を建てて部屋を貸す者も現れた。家を持つほどの金はないがとりあえずここまで来た者が泊まる場所だ。この木賃宿は仕事を見つけるまでの仮の住居として機能している。赤髪亭は食事も出してくれるし、部屋の掃除もしてくれるが、その分だけ高いからな。
逆に一時的な寝泊まりの場所として使われていた集会所はほとんど使わなくなったので、何に使おうかと検討中だ。一番最初に建てたうちの一つだからなくすのは惜しい。使い道をいくつか考えている。そのうちの一つが芝居小屋だ。そのままでは使えないが大きな建物なので、それなりの客が入りそうだ。
国内の各地を回っている旅芸人の一座がやって来た。どうも面白い領地だと聞いたようだ。歌や踊り、芝居などをする一座だったが、うちには芝居をする場所がなかった。
とりあえず城の大広間に客を入れてやってもらったが、毎回大広間を使うのも考えものなので、そらならどこかに用意してもいいのではないかという
最後にできたのが娼館だ。ここしばらくで一番大きな変化と言えるかもしれない。南の方からやって来た娼婦たちが商売を始めたいと役場に届け出があった。問題はなさそうなので許可は出した。
娼館の建物は南北の通り沿い、赤髪亭から少し南になる。最近店などが増えたあたりだ。建物はいつものようにすぐに建ったが、どうも男連中が気合いを入れて建てたようだ。
ある程度の規模の町になると娼館はなくてはならない施設になる。町中で女性を襲う馬鹿が出てくるからだ。そうならないようにするためには適度に発散させる場所が必要になる。移住者を集めて作った町だから、どうしても男女の偏りはあるし、独身者も多い。頑張って相手を見つけて結婚するか、それとも娼館のお世話になるか。
娼館ができればできるで問題も起きる。望まない妊娠や性病だ。カランドラが避妊薬や性病の治療薬や予防薬を大量に作っていた。そのための材料は、少しずつ行動を広げている調査隊が持ち帰っている。
いつくらいからだったか忘れたが、ダニエルたち魔道具職人が何やら忙しそうにしていた。それが調査隊に頼まれた魔道具作りだったようだ。馬の疲労を減らすための魔道具と、魔獣が近づかないように結界を張る魔道具らしい。
どうもクラースに師事して作っていたようだ。クラースは「その程度なら私が作っておこう」などと言ったそうだが、何でもかんでもクラース頼みではこの町のためにならないと考え、教えてもらうだけにしたそうだ。
その甲斐あって馬での行動範囲が広がり、さらには野営もできるようになったので、泊まりがけでの調査が可能になったそうだ。それで避妊薬や性病の薬の材料も含め、これまで見つかっていなかった植物や鉱物も手に入るようになった。
その娼館を建てる許可を出した後だが、少々予想外のことが起きた。
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