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第五章:領主二年目第四部
オデット
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オデットです。ゴール王国の南東部に小さな領地を持つオルクール男爵家の四女です。私もそろそろお年頃。一二で社交界のデビューはしました。それから舞踏会にも参加していますが、なかなか殿方から声がかかりません。一度もです。ずっと壁の花になっています。
自分で口にするのもおかしな話かもしれませんが、見た目は悪くないでしょう。背は少し低めですが、母親譲りの胸の大きさには自信があります。ですが領地の場所が場所だからでしょうか、結婚相手としては好ましくないのかもしれません。
オルクール男爵領は王都に近いわけではなく、大きな陸路の交易路が通っているわけでもなく、海沿いにあって交易で儲かっているわけでもなく、位置的には中途半端だそうです。そのせいかもしれませんが、私を妻にしても旨みがないらしく、たまに話があるとすると八五歳の侯爵の後妻とか、七〇歳の伯爵の第一四夫人とかだそうです。孫よりも若いのではないでしょうか。
本来であれば、侯爵家や伯爵家と縁を作るためには私を嫁がせるのが正しいのでしょうが、両親ともに私のことを考えてくれているようで、無理強いはされません。そのような話は両親が断ってくれています。
そんなある日、父が王城へ出かけました。帰ってきた父から聞いたところでは、これまで戦争状態にあったアルマン王国と和解することになり、その大使を迎えての晩餐会が行われることになるということでした。私もいずれは結婚して、夫と一緒にそのような場所に呼ばれたいものです。
それから数日してその晩餐会がありましたが、少しトラブルがあったそうです。父ではなく母の方に。そのトラブルはこのようなものでした。
アルマン王国の大使はノルト男爵という方で、大使としては爵位が低いと思いましたが、アルマン王国では政務官をされているそうです。政務官とは、この王国では大臣と地位的にはほぼ同じでしょう。国王陛下の下で様々な仕事を受け持つ役人のことです。政務官は何人もいるはずですが、次期宰相候補はその中から選ばれるはずです。おそらくゴール王国でもアルマン王国でもそれほどは違わないでしょう。しかも連れ去られて行方不明だった第三王女の夫だったということで、簡単に言えばこの国の王族とも繋がりができた方なわけです。
晩餐会では賓客ということで同伴者が二人いたそうで、一人は男爵の義理の姉であるローサのいう方、そしてもう一人は秘書をしている随員のヘルガという女性だったそうです。その晩餐会では何も起きなかったそうですが、その後の女性のみの談話会で一部のご婦人がやらかしたそうです。
ヘルガという方は随員という立場でしたが、どうやら平民出身で、男爵の愛人だったそうです。ご婦人たちはそのヘルガさんを馬鹿にし、自分の娘たちを男爵の妻に無理やり押し込もうとしたそうです。するとローサという方が火を吐いて怒ったそうです。はい、大切なことなので二回言いますが、火を吐いたそうです。
聞いた時には何を言っているのか分かりませんでしたが、ノルト男爵の正妻は竜だそうです。はい、物語にも出てくる竜です。アルマン王国のさらに北には天まで届くような高い山があり、そこには竜が住んでいると言われています。物語に出てくることはありますが、誰も見たことはありません。でもいるようです。先日の戦争では竜によって戦線が崩壊したと聞きました。本当だったのですね。
母は談話会が始まった時、もし可能なら私をそのノルト男爵の側室か愛人にでもと思ったそうですが、他のご婦人たちの勢いが強すぎて何も言えなかったのが幸いしたそうです。ヘルガさんを脅したご婦人たちは、火を吐かれて睨まれると水音を立てて気絶されたそうです。他の女性や女中たちには何もなかったそうなので、竜の持つ力なのかもしれません。
それからローサさんは母たちに向かって「あの子は礼節を持って接すれば、きちんと対応してくれるいい領主よ」と言ったそうです。そして「壁が焦げたわね。ごめんね。これで直しておいて」と護衛の騎士たちに人よりも大きい竜の鱗を渡してヘルガさんと二人で帰ったそうです。
それから両親ともにバタバタしていました。そして母からノルト男爵領に行ってみないかと言われたのは、それからしばらく経ってからでした。リシャール殿下がエルザス辺境伯領やその周辺で移民を募り、そのノルト男爵領へ向かわせることにしたそうです。私にその移民団の引率をしてみてはどうかと。もしノルト男爵に見初められればそれに越したことはないと。
ですがノルト男爵はそのようなことを嫌がるとローサさんが言っていませんでしたか? はあ、無理して押し込まなければいい。なるほど。
最終的に私を含めて三五人がエルザス辺境伯に向かい、そこで移民団を率いて北に向かうことになりました。三五人の中でなぜか私が代表を務めることになりました。なぜ私かというと、私が一番物怖じしない性格だからだそうです。私ってそう思われていたのですか? 自分ではそれなりにお淑やかで控えめだと……。え? 全然違う?
ショックです。私が最年少なのに一番堂々としていると言われました。頼り甲斐があると。
私はこれまで一度も舞踏会で声をかけられなかったので、貴族の令嬢としては頼りないのではないかと思っていたのですが……。
え? あれでは誘いづらい? 腕を組んじゃダメ? 武闘会と勘違いしていないかって? いえ、そんなことはありません。腕を組んでその上にこの立派な胸を乗せて、このように母性をアピールしていたつもりですが。
いえ、威嚇していたのではありません。
なるほど、小さいのに堂々としすぎて声をかけづらかったと。あの時に言ってくれればよかったのですが。はい、ライバルは少ない方がいい。それはそうですね。
自分で口にするのもおかしな話かもしれませんが、見た目は悪くないでしょう。背は少し低めですが、母親譲りの胸の大きさには自信があります。ですが領地の場所が場所だからでしょうか、結婚相手としては好ましくないのかもしれません。
オルクール男爵領は王都に近いわけではなく、大きな陸路の交易路が通っているわけでもなく、海沿いにあって交易で儲かっているわけでもなく、位置的には中途半端だそうです。そのせいかもしれませんが、私を妻にしても旨みがないらしく、たまに話があるとすると八五歳の侯爵の後妻とか、七〇歳の伯爵の第一四夫人とかだそうです。孫よりも若いのではないでしょうか。
本来であれば、侯爵家や伯爵家と縁を作るためには私を嫁がせるのが正しいのでしょうが、両親ともに私のことを考えてくれているようで、無理強いはされません。そのような話は両親が断ってくれています。
そんなある日、父が王城へ出かけました。帰ってきた父から聞いたところでは、これまで戦争状態にあったアルマン王国と和解することになり、その大使を迎えての晩餐会が行われることになるということでした。私もいずれは結婚して、夫と一緒にそのような場所に呼ばれたいものです。
それから数日してその晩餐会がありましたが、少しトラブルがあったそうです。父ではなく母の方に。そのトラブルはこのようなものでした。
アルマン王国の大使はノルト男爵という方で、大使としては爵位が低いと思いましたが、アルマン王国では政務官をされているそうです。政務官とは、この王国では大臣と地位的にはほぼ同じでしょう。国王陛下の下で様々な仕事を受け持つ役人のことです。政務官は何人もいるはずですが、次期宰相候補はその中から選ばれるはずです。おそらくゴール王国でもアルマン王国でもそれほどは違わないでしょう。しかも連れ去られて行方不明だった第三王女の夫だったということで、簡単に言えばこの国の王族とも繋がりができた方なわけです。
晩餐会では賓客ということで同伴者が二人いたそうで、一人は男爵の義理の姉であるローサのいう方、そしてもう一人は秘書をしている随員のヘルガという女性だったそうです。その晩餐会では何も起きなかったそうですが、その後の女性のみの談話会で一部のご婦人がやらかしたそうです。
ヘルガという方は随員という立場でしたが、どうやら平民出身で、男爵の愛人だったそうです。ご婦人たちはそのヘルガさんを馬鹿にし、自分の娘たちを男爵の妻に無理やり押し込もうとしたそうです。するとローサという方が火を吐いて怒ったそうです。はい、大切なことなので二回言いますが、火を吐いたそうです。
聞いた時には何を言っているのか分かりませんでしたが、ノルト男爵の正妻は竜だそうです。はい、物語にも出てくる竜です。アルマン王国のさらに北には天まで届くような高い山があり、そこには竜が住んでいると言われています。物語に出てくることはありますが、誰も見たことはありません。でもいるようです。先日の戦争では竜によって戦線が崩壊したと聞きました。本当だったのですね。
母は談話会が始まった時、もし可能なら私をそのノルト男爵の側室か愛人にでもと思ったそうですが、他のご婦人たちの勢いが強すぎて何も言えなかったのが幸いしたそうです。ヘルガさんを脅したご婦人たちは、火を吐かれて睨まれると水音を立てて気絶されたそうです。他の女性や女中たちには何もなかったそうなので、竜の持つ力なのかもしれません。
それからローサさんは母たちに向かって「あの子は礼節を持って接すれば、きちんと対応してくれるいい領主よ」と言ったそうです。そして「壁が焦げたわね。ごめんね。これで直しておいて」と護衛の騎士たちに人よりも大きい竜の鱗を渡してヘルガさんと二人で帰ったそうです。
それから両親ともにバタバタしていました。そして母からノルト男爵領に行ってみないかと言われたのは、それからしばらく経ってからでした。リシャール殿下がエルザス辺境伯領やその周辺で移民を募り、そのノルト男爵領へ向かわせることにしたそうです。私にその移民団の引率をしてみてはどうかと。もしノルト男爵に見初められればそれに越したことはないと。
ですがノルト男爵はそのようなことを嫌がるとローサさんが言っていませんでしたか? はあ、無理して押し込まなければいい。なるほど。
最終的に私を含めて三五人がエルザス辺境伯に向かい、そこで移民団を率いて北に向かうことになりました。三五人の中でなぜか私が代表を務めることになりました。なぜ私かというと、私が一番物怖じしない性格だからだそうです。私ってそう思われていたのですか? 自分ではそれなりにお淑やかで控えめだと……。え? 全然違う?
ショックです。私が最年少なのに一番堂々としていると言われました。頼り甲斐があると。
私はこれまで一度も舞踏会で声をかけられなかったので、貴族の令嬢としては頼りないのではないかと思っていたのですが……。
え? あれでは誘いづらい? 腕を組んじゃダメ? 武闘会と勘違いしていないかって? いえ、そんなことはありません。腕を組んでその上にこの立派な胸を乗せて、このように母性をアピールしていたつもりですが。
いえ、威嚇していたのではありません。
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