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第二章:領主二年目第一部
行啓(八)
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「これまではお兄様がいましたので旅行気分でしたが、ここがこれから私の暮らす場所になるのですね」
「ああ、そうだ。だが王都に戻る用事があればいつでも連れて帰るぞ。用がなくてもいいが」
「そうなのですか?」
普通に移動すれば三週間、往復で一か月半、移動だけでも大仕事になる。それが普通なのだが。
「俺は向こうでも仕事があるし、週の半分は向こうだ。魔法で行ったり来たりできるから、そのような無茶ができる」
「便利ですが、ややこしくありませんか?」
「ややこしいな。向こうの執事のヴェルナーに言ったのか、こちらの執事のヨアヒムに言ったのか、きちんと記録しないと混乱する」
以前と違って会う人も増えた。うっかり勘違いすると問題になりそうだから、アントンではないが、細かく記録するようになった。
「それとは話は別だが、今度アルマを王城に連れて行くことになった。それに同行してもいいぞ」
「来てすぐに向こうに顔を出しては出戻りのように思われますわ。もう私あなた様の妻ですので」
「それもそうだな」
ナターリエにもそれなりの覚悟があっただろう。俺には王族が降嫁する気持ちは分からないが、彼女につらい思いをさせる気は全くない。
「それで、少しお待たせしてしまったかもしれませんが、妻になったわけですので、その……」
「待たせた?」
「よ、夜の話です」
「ああ、すまない。そうか」
急ぐことでもないと思って、殿下がいる間は何もしなかった。逆に気を使わせてしまったかもしれない。
「だが無理して急ぐ必要はないぞ」
「そうなのですか? エルマー様は大変な性豪だとお兄様も言っていましたので、大変お待たせしてしまったのではないかと心配していました」
「……どこからそんな話が?」
「妻も愛人も何人もいて、他にも候補がたくさんいると。カレンさんたちからは、自分たちが妊娠したので、その間の夜の相手として愛人を増やすことにしたと伺いました」
「……」
それぞれを取り上げれば間違っているわけではない。だが話を全て組み合わせるとそうなるのか。やることはやっているが、しなければしないで構わないと思っているんだが。
「私も頑張って元気な赤ちゃんを産みます」
「そこまでして急ぐ必要はないぞ」
嫁いできたわけだからいずれはそうなるが、この町に慣れるまでは無理しなくてもいいと俺は思う。
「それはそうかもしれませんが、こちらに来て数日経ち、妙に体が軽くなっていまして」
「体が軽い? 体調が悪かったのか?」
「そういうわけではありません。王都にいた時はそのようなことを感じたことはなかったのですが、何と言ったらいいのでしょうか、肩に乗っていた重しが取れたような気がします」
「そうだな。詳しいことは分からないが、この町は病気になる住民が少ないそうだ。食べ物に魔力が多いというのが関係しているのかもしれない」
酔っ払って屋外で寝て風邪を引くのは自己責任だが、それこそ風邪くらいしか聞かない。
「とりあえず今夜、よろしくお願いします」
「分かった」
◆ ◆ ◆
「あなた、おはようございます」
「ああ、おはよう」
目を覚ましたナターリエに挨拶をする。
「あまりじっと見られると、さすがに恥ずかしいですわ」
ナターリエは赤い顔をして布団をたぐり寄せて体を隠した。綺麗な体だから隠す必要はないと思うが、さすがにそれを口にするともっと恥ずかしがるだろう。
「そればっかりは仕方がない。そのうちに慣れる」
昨日がいわゆる初夜だった。無理はしなくていいと言ったが、別に無理ではないと。一刻も早くカレンたちとの話に混ざりたいと言っていた。
「ところで、赤ちゃんはできたのでしょうか?」
「一回でできるかどうかは運次第だろうな」
「カレンさんたちの時はどうだったのですか?」
「ああ、あの頃か……」
俺はナターリエに自分の体のことを話した。
俺は自分の体におかしなところがあるとは気づいていなかったが、よくよく考えれてみれば子供ができる気配がなかった。それは俺が今のナターリエよりも若い時からずっとだった。
たまたまそれを気にしたエルザが少し感情をあらわにし、それで子供の件について考えるきっかけになった。その時にクラースが作った薬を口にして痛みでのたうち回り、初めて体に悪い部分があったと気がついた。もしその薬がなかったとしたら、俺には子供ができなかったかもしれない。
そしてそれからしばらくするとカレンが竜の姿に戻れなくなり、それで彼女が妊娠したと分かった。そしてエルザとアルマが妊娠したことも、月のものがなくなったことで発覚した。
「そんなことまであったのですね」
「なかなか思い通りにはならないということだな」
世の中それほど簡単に割り切れるものではないが、思い通りになることなんて何一つない。ここ数年は本当に色々なことがあった。よく「我々は生かされている」という言い方があるが、自分は何かをするために生まれてきたのではないかと思うことさえある。これだけ色々起きれば。
「ああ、そうだ。だが王都に戻る用事があればいつでも連れて帰るぞ。用がなくてもいいが」
「そうなのですか?」
普通に移動すれば三週間、往復で一か月半、移動だけでも大仕事になる。それが普通なのだが。
「俺は向こうでも仕事があるし、週の半分は向こうだ。魔法で行ったり来たりできるから、そのような無茶ができる」
「便利ですが、ややこしくありませんか?」
「ややこしいな。向こうの執事のヴェルナーに言ったのか、こちらの執事のヨアヒムに言ったのか、きちんと記録しないと混乱する」
以前と違って会う人も増えた。うっかり勘違いすると問題になりそうだから、アントンではないが、細かく記録するようになった。
「それとは話は別だが、今度アルマを王城に連れて行くことになった。それに同行してもいいぞ」
「来てすぐに向こうに顔を出しては出戻りのように思われますわ。もう私あなた様の妻ですので」
「それもそうだな」
ナターリエにもそれなりの覚悟があっただろう。俺には王族が降嫁する気持ちは分からないが、彼女につらい思いをさせる気は全くない。
「それで、少しお待たせしてしまったかもしれませんが、妻になったわけですので、その……」
「待たせた?」
「よ、夜の話です」
「ああ、すまない。そうか」
急ぐことでもないと思って、殿下がいる間は何もしなかった。逆に気を使わせてしまったかもしれない。
「だが無理して急ぐ必要はないぞ」
「そうなのですか? エルマー様は大変な性豪だとお兄様も言っていましたので、大変お待たせしてしまったのではないかと心配していました」
「……どこからそんな話が?」
「妻も愛人も何人もいて、他にも候補がたくさんいると。カレンさんたちからは、自分たちが妊娠したので、その間の夜の相手として愛人を増やすことにしたと伺いました」
「……」
それぞれを取り上げれば間違っているわけではない。だが話を全て組み合わせるとそうなるのか。やることはやっているが、しなければしないで構わないと思っているんだが。
「私も頑張って元気な赤ちゃんを産みます」
「そこまでして急ぐ必要はないぞ」
嫁いできたわけだからいずれはそうなるが、この町に慣れるまでは無理しなくてもいいと俺は思う。
「それはそうかもしれませんが、こちらに来て数日経ち、妙に体が軽くなっていまして」
「体が軽い? 体調が悪かったのか?」
「そういうわけではありません。王都にいた時はそのようなことを感じたことはなかったのですが、何と言ったらいいのでしょうか、肩に乗っていた重しが取れたような気がします」
「そうだな。詳しいことは分からないが、この町は病気になる住民が少ないそうだ。食べ物に魔力が多いというのが関係しているのかもしれない」
酔っ払って屋外で寝て風邪を引くのは自己責任だが、それこそ風邪くらいしか聞かない。
「とりあえず今夜、よろしくお願いします」
「分かった」
◆ ◆ ◆
「あなた、おはようございます」
「ああ、おはよう」
目を覚ましたナターリエに挨拶をする。
「あまりじっと見られると、さすがに恥ずかしいですわ」
ナターリエは赤い顔をして布団をたぐり寄せて体を隠した。綺麗な体だから隠す必要はないと思うが、さすがにそれを口にするともっと恥ずかしがるだろう。
「そればっかりは仕方がない。そのうちに慣れる」
昨日がいわゆる初夜だった。無理はしなくていいと言ったが、別に無理ではないと。一刻も早くカレンたちとの話に混ざりたいと言っていた。
「ところで、赤ちゃんはできたのでしょうか?」
「一回でできるかどうかは運次第だろうな」
「カレンさんたちの時はどうだったのですか?」
「ああ、あの頃か……」
俺はナターリエに自分の体のことを話した。
俺は自分の体におかしなところがあるとは気づいていなかったが、よくよく考えれてみれば子供ができる気配がなかった。それは俺が今のナターリエよりも若い時からずっとだった。
たまたまそれを気にしたエルザが少し感情をあらわにし、それで子供の件について考えるきっかけになった。その時にクラースが作った薬を口にして痛みでのたうち回り、初めて体に悪い部分があったと気がついた。もしその薬がなかったとしたら、俺には子供ができなかったかもしれない。
そしてそれからしばらくするとカレンが竜の姿に戻れなくなり、それで彼女が妊娠したと分かった。そしてエルザとアルマが妊娠したことも、月のものがなくなったことで発覚した。
「そんなことまであったのですね」
「なかなか思い通りにはならないということだな」
世の中それほど簡単に割り切れるものではないが、思い通りになることなんて何一つない。ここ数年は本当に色々なことがあった。よく「我々は生かされている」という言い方があるが、自分は何かをするために生まれてきたのではないかと思うことさえある。これだけ色々起きれば。
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