ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
191 / 345
第二章:領主二年目第一部

新しい屋敷の準備(四):問題解決は遠く

しおりを挟む
「それほど面白くもないと思うが」
「旦那様が何かをされると何かが起きるかもしれませんので」

 増えた土地を調べようと思ったらアントンも一緒に来ることになった。

「それは期待しすぎだろう。俺としては何もない方がずっと楽でいい」

 アントンもずいぶんと気安くなったものだ。最初の頃はガチガチになっていたからな。王都の地下を調べるのに付き合わせたのが良かったのかもしれない。

 とりあえず建物はこの前と同じように解体し、地下室があればそれも埋める。上に屋敷を建ててから地下が崩れたら怖いからだ。

「地下室は……あるな」
「大きさはどれくらいですか?」
「それほど大きくはないな。やや大きめで、幅が四メートル、奥行きが六メートルくらいだな」

 地下室というのは必ずしも掘って作るものではない。極端な話、全く掘らなくても地下室は作れる。これは嘘でも冗談ではない。一階部分を埋めればいいだけだ。

 一階部分を作ってから土地全体を盛り土覆って土地全体を嵩上げし、玄関まで階段を付ければいい。そうすれば本来の一階部分が地下になり、二階が一階になる。

 さすがに一階を丸々埋めることはないだろうが、そのようにして地下の部屋をいくつも用意することはある。

 王都の土地は高いので、狭い土地でも広い家にしようと思えば、上に伸ばすか下に伸ばすかのどちらかになる。それなら最初に少し土地を上げてしまえばいい。だから王都には地下室のある家が多い訳だ。

「あれは箱か?」
チェストでしょうか」

 これまでと同じように建物を解体して地下室を日の光に晒してみれば、そこには一つの箱があった。衣装入れとしても使われるくらいの大きさの物だ。

 あれがチェストなら地下室に置くのはおかしくはない。貴重品を入れるために使われることが多いからだ。だが、それならここに残っているのはおかしいだろう。今回受け取った両側の土地も、先日から更地にしていた土地と同じく、支払いが滞って差し押さえられた物件だからだ。すでに家財道具は持ち出されている。

 ライマーに聞いたところ、去年の春にあった戦争の後で支払いが途絶えた物件がほとんどだそうだ。もちろん住人がいなくなったから支払いがされなかった訳だ。

 巻き添えを食らわないように逃げたのか、それともゴール王国と繋がっていたので当然のように逃げたのか、それともまだどこかに潜伏しているのか、それとも単に捕まっただけなのか。

「この土地はすでに俺が受け取った訳だよな?」
「間違いありませんね」
「それなら中身を確認しよう。危険な物が出てきたら届け出ればいい」

 屋敷の地下室に置かれている物なので、罠などはかかっていないはずだ。あっても鍵がかかっているくらいだろうと思ったが、それもない。

「旦那様、これは……」
「銀貨だが、よくこれだけ集めたなあ」

 中には銀貨がぎっしりと詰まっていた。一〇〇〇枚どころではないだろう。数えるのは大変だが、必要があれば数えなければならないだろうな。

「そこのところに埋まっているのは箱か?」
「小物入れのようですね。丁寧な装飾が施されていますね」
「中身は……金貨か」

 小箱の中は金貨が一〇枚だった。箱そのものには細かな装飾が施されている。

 よく見れば銀貨には他の国の物も混じっていた。金貨は全てアルマン王国の物だ。

 アルマン王国が国境を接しているのは南西のゴール王国と南のシエスカ王国の二つ。南東のポウラスカ王国も隣国と言えるが、間には山があるので、普通はシエスカ王国を経由する。西から北、そして南東までこの国を取り囲んでいる山の一番端がそこまで続いている。

 少なくともこの四国の貨幣は重さと大きさが共通なので、国の違いに関係なく使用できる。滅多に見かけないが、価値が違う国の貨幣なら交換してからでないと使えない。

「それにしてもよく集めたものだな。だがどうしてここにあるのか……」
「隣の土地と関係があるのでしょうか?」
「地下通路を出てすぐ隣の土地だからな。一時的な保管場所として使われていた可能性はある。だが、中は調べられているはずだ。こんな普通の地下室が見つからない訳がない」

 うちの土地から出た物ならうちのものだが、少々気味が悪い。とりあえず仕舞っておいて、後日確認するか。



 もう一つ、反対側の土地も建物を解体すると地下室があった。そこには……

「同じですね」
「何が起きているんだ?」

 やはりチェストが置かれていた。しかも全部で四つ。

「これも鍵はかかっていません」
「順番に開けてみてくれ」
「分かりました」

 アントンがチェストの一つの蓋を開けると、色鮮やかな布地が見えた。

「女性用のドレスですね」
「全て新しいな」

 中には様々なドレスがきちんと畳まれて収められていた。最後のチェストには装身具などが入っている。全て傷などなく、おそらく新品だろう。

「贈り物のつもりでしょうか?」
「これだけ新品を揃えるとなると、かなりの出費になるはずだ」

 平民の服は亜麻や麻が多い。貴族の平服なら木綿や羊毛が多いが、上等な服なら絹になる。それが大量にある。ここにあるのはほとんどが絹だ。

「痛みがありませんね」
「ここに置かれてそれほど経っていないのだろう」

 地下室はどうしても湿度が高い。俺はほとんど縁がなかったが、繊細な素材ほど傷みやすいだろう。

 ん? これは手紙か? ああ、仕込んだのか。

「何かありましたか?」
「これを見てみろ」
「『K/Aのために。Kより』。これは暗号でしょうか?」
「心当たりがあり過ぎるから確認しておく。ここに置いておくこともできないから、これも仕舞っておこう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

中七七三
ファンタジー
 デブでニートで32歳。  理不尽ないじめを契機に、引きこもりを続ける生粋のニート。ネット監視と自宅警備の無償労働を行う清い心の持ち主だ。  ニート・オブ・ニートの俺は、家族に妹の下着を盗んだと疑われる。  なんの証拠もなしに、なぜ疑うのか!?  怒りを胸に、そして失意に沈んだ俺は、深夜のコンビニで自爆テロを敢行する。妹のパンツ履いて露出狂となり、お巡りさんに捕まるのだ。それで、家族の幸せもぶち壊すのが目的だ。  しかし、俺はコンビニ強盗に遭遇。なぜか、店員をかばって撃たれて死ぬ。  俺が目を覚ましたのは異世界だった。  ラッキー!!  そして、俺の異世界ライフが始まるのであった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...