ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

新しい屋敷の準備(五):疑問

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 新しく貰った土地にも若干の問題があった。問題と言うほどでもないかもしれないが、普通の状態でないことを問題と考えれば十分に問題だ。もし俺が気付かなかったらどうなっていたのか。

 金貨や銀貨は問題なかっただろうが、ドレスはすぐに傷んだだろう。調べてよかった。怪しいとこは全て調べるべしというおかしな癖が付いた気がする。

 そして『K/Aのために。Kより』と書かれた一枚の紙。あのチェストがもし仕込まれた物だとしたら、そして俺が見つけるのを前提としているとすれば、俺の知る限りでは『カリーナ/アルマのために。カミルより』となるだろう。

 そうなると陛下が誰かを使ってあの四つのチェストを運ばせて、その上であの土地が俺の物になるように手配したことになる。そして土地を動かすとなると、絶対に関わらなければならない人物がいるだろう。

 これは以前からずっと、ちょうど伸びてきた前髪のように、常に俺の視界に入って気になっていたことだった。けっしてそれ自体は大事おおごとではないし、害がある訳ではなかったので何か対処する必要はなかったが、一度気になり始めるとどうしようもない、そのような人物が頭に浮かんだ。



◆ ◆ ◆



 陛下に土地を受け取ったことの礼、そしてそこを更地にしたので近いうちに屋敷を建てることを報告を伝えるというでやって来た。もちろん確認のためだ。

「無事にお主の手に渡ってよかった」
「あれはアルマのためでよろしいのですね?」
「そうだ。余からは何もしてやれなかった。今さらではあるが、お主から渡してくれればありがたい。貴族の妻として出かけるのにおかしくないように仕立ててもらえたはずだ」
「それは間違いなく渡しましょう。ドレスのこともありましたが、あの金貨と銀貨は持参金ですか?」
「金貨? 余は知らんぞ」

 なるほど。

「金貨と銀貨の入ったチェストがありました。あれは陛下が指示されたのではなかったのですか?」
「余はドレスや宝飾品だけだ。レオナルトの結婚に紛れるように集めさせた。一応これは内密だから他言無用にしてもらいたいが」
「はい、もちろん誰にも言いませんが」

 あれを置いたのは陛下ではない。そうなると別で置かれたということになる。

「私に何か害があることではないのですが、銀貨が詰まったチェストが一つありました。その中に金貨が一〇枚入っていました。何かそれについてご存じではありませんか?」
「いや、余は知らんな。余はレオナルトに手配を頼んだから、それ以上のことは分からん」
「分かりました。おかしなことを聞いて申し訳ありません」
「いや、余が関われることは少ないが、何か分かればお主に伝えよう」
「ありがとうございます」

 陛下も知らない。だがあのドレスは殿下に頼んで手配したと。それなら殿下がドレスの手配をした時に手配を頼んだ誰かからその人物は情報を得た可能性がある。

 けっして俺の邪魔にならないように、だが確実に俺の役に立つように、常に先回りをして動いてくれていた彼から、俺はそろそろ正直な言葉を聞きたいと思うようになった。



◆ ◆ ◆



「エクムント殿、そろそろ俺に肩入れしてくれる理由を教えてもらえると嬉しいのですが」
「私には直感が働くと、前に言いませんでしたか?」

 いつもの表情でそう答えるエクムント殿だが、さすがに分が悪いのが分かっているのか、少々歯切れが悪い。

 先日から、王都にある貧民街スラムの一つが整理に入った。うちの屋敷から一番近くにある場所だ。貧民街スラムをなくすわけではなく、きちんとした住居を用意するために、住人を少しずつ教会裏の孤児院があった場所に収容しつつ、空いた場所に長屋のような建物を建て、完成したらそこに住むという流れになっている。

 うちの屋敷は貧民街スラムに近い。だからそれほど住みたい者はいなかったが土地は安い。とりあえずそこに住んでいずれ金ができれば別の場所に、と考える者が多かったが、去年の一連のゴタゴタで、消えた貴族に引っ張られるような形でいなくなった者も多い。貴族一人では何もできない。関係者も多かったわけだ。

 それでちょうどうちの裏の土地が空いたので、そこを買ってはどうかとエクムント殿に勧められた。裏ではあるが、向こう側の道に面しているので、奥まっているわけではない。

 話の出どころはきちんとした場所だ。だから問題ないだろうと思って購入した。その際に脆い地下室などがあって崩れたら危ないと思って調べたらとんでもない物が出てきた。

「それだけではないでしょう。そうでなければ前もって動くことはできなかったはずです。特に書類や金貨、銀貨などは」
「……」
「あなたにはこれまで何度も世話になっている。恩賞の件もしかり、軍馬の件もしかり、使用人の件もしかり。俺としてはこれだけ良くしてもらっていて、その理由が分からないというのがもどかしい」

 エクムント殿を責めているのではない。非常に世話になった。彼が色々と手を回してくれなければ、今の一〇倍、いや二〇倍は苦労しただろう。

 彼はしばらく自分の手元を見つめていたが、いつもの笑みを消し、俺の目をじっと見た。

「まず、私は何かしらの不正には関わったことは一切ない、ということはご理解いただきたい」
「分かりました」
「私は色々と裏で手を回しましたが、あくまで通常知り得る範囲で情報を相手に伝えただけです。極秘情報を使ったことはありません」
「それも信じることにしましょう」
「では、私がノルト男爵に手を貸した理由をお話しします」
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