ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

新しい方針

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「やっぱり建物がないとね」
「それもそうだが、使いもしないのにいくつも用意してもな」
「でもあれば必要になった時にスッと入れるよ」

 商業地区にあらかじめ建物を用意することになった。これまでは人が増えるたびに建物を用意していたが、先に用意すべしとブルーノに言われた。

 いくら数日で家や店が用意できるとは言え、ある程度の建物を用意しておく方が、商売を始めたい者が来やすいだろうと。

 俺としては使う予定もないのに建てても意味がないと思ったが、説明を聞いたらそれも確かにそうだと思えた。

「それなら試しにこことここの道沿いに建ててみるか」
「それぞれ両側に一〇軒ずつくらい一度に建てたらいいよ。いずれは絶対に必要になるから。まとめて建てる方が手間が省けるからね」

 中央広場の南東角には赤髪亭と風呂屋がある。そこから南側と東側の道沿いに合計四〇軒ほど建てることになった。

「どれだけ安くても建物を用意しなければ店が始められないのと、家賃は必要だけど最初から店があるのとでは、商売の始めやすさが全然違うと思う」
「なるほどなあ。最初からそうしておくべきだったか?」
「うーん、そういう訳じゃないけどね。そもそも去年作り始めたばかりの町なんだから、ここまでできている方が不思議だから。町として過渡期だからだと思うけど、それなりの規模になりつつあるのに建物がないからバランスが悪くなってるのは間違いない。それは自信を持って言える」

 城と教会以外は目立つ物がないのがこの町だ。そう考えれば、ちょうどいい時にブルーノが来てくれたんだろう。一度信じたなら任せる。それが方針だ。ブルーノの発言には少し心配もあるが。

「そうか。それなら今後はもう少し用意していこう。フランツたちに伝えてくれ。それからハンスに連絡を頼む」
「了解。それに合わせて家の方も建てるよ。西側を中心にするけど、いずれは別の場所にも作ることになると思う」
「分かった、任せた」

 農民たちの家は北東部にあるが、そうでない者がこの町に引っ越してきた場合の家も建てることにした。場所は中央広場から南に進んだ道の西側。道の横には店などが並ぶ予定なので、そこからもう少し中に入ったあたりに作ることになった。役場の建物の南あたりになる。

 やはり俺とブルーノでは考え方が違った。俺は家や店は必要があれば増やせばいいと思っていたが、ブルーノは最初からある程度用意しておくべきだと。

 確かにブルーノのやり方の方が人が増えた時には楽だろう。どうしても俺はハイデからここに来た時の感覚がそのままだった。どちらも常に人がやって来ては出て行くような場所ではない。移住者が何度か集団でやって来ただけだ。それ以外となるとかなり少ない。

「ではそちらの方は賃料を取る形でいいでしょうか?」
「そうだな。どれくらいごとに集めるかだな」
「そうですね。毎月では集めるのが手間になりますので、四半期でいくらの形でいいでしょう。店によって食料品ギルドか製品ギルドを選んで入ってもらって、そこで支払いということで」

 ライナーには税のことは全て任せている。国へ報告するために最終的に取り纏めるのはハンスになるが、その前段階をライナーにやってもらう。

 今のところ農民たちには家と土地を与え、麦を納めることで税を取っている。職人たちは金か物だ。新しくできる商業地区は建物を貸し出し、その賃料と売上からの税を取ることを考えている。

「長期で契約すれば安くなるとかにはしないのか?」
「王都と違ってそこまで高くないでしょうけど……一年契約ならいくらかを引くとかでしょうか。又貸しして差額で儲けないように契約書に条件を付ける必要がありますね」
「そこまでする必要もないと思うが、何かあってからでは遅いか」
「はい。条件についてはきっちりと決めておきましょう。むやみに厳しくしても意味がありませんが、ああとでもこうとでも解釈できてしまうと問題ですからね」



◆ ◆ ◆



「下水のことを考えれば、どうしても一度に建てたほうが楽だからね。でも結局は下水の水は運河に捨てるんだよな」
「その手前で森の掃除屋たちが頑張ってきれいにしてくれるから汚くはないぞ。さすがにそのまま口にするのは気にするかもしれないが」

 今でも森の掃除屋たちがせっせと下水の掃除をしているはずだ。彼らにとっては食事の一環になる。お互いに近くにいれば意思伝達ができるので、数が増えれば増えるほど遠くまで伝えることができる。

「草むらに何かがいると思ったらあれが出てきましたからね。さすがに驚きました。挨拶をされた時はどうしたものかと思いましたが」

 俺を含めて三人とも、座学で魔獣や魔物のことも勉強していたが、森の掃除屋という生き物は知能が低く、生き物の死体や糞に群がる生き物だと教わった。

 だが北の山にいた森の掃除屋たちは非常に頭が良く、言葉を理解するかと思えば字を書き、さらには体の形を変えて文字にするということまでやってのけた。だから一匹では大きさの都合で限度があるが、長めの文章でも文字で伝えることができる。

 しかも彼らは近くにいる個体と言葉などを使わずに意思疎通ができる。もし何かがあれば俺かザーラに知らせてくれる貴重な存在だ。

「ありがたいけど、見られている可能性もあるんだよね」
「見られて困ることをしなければいいだけだろう」
「そりゃそうだけど」
「そのような心配をするあたりがブルーノですよね」
「だろうな」
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