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第四章:領主二年目第三部
冒険者ギルドの設立準備
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ドラゴネットに冒険者ギルドを作る。作れることは作れるだろう。だが運用するとなるとなかなか難しい。
冒険者ギルドというのは国の組織で、冒険者のための仕事を斡旋する場所だ。そして冒険者には、言ってしまえばならず者が多い。そりゃそうだろう。定住せずにふらふらしているやつらばかりだからだ。
依頼を受けてそれが終わると前もって決められた依頼料を受け取る。そうすればその金を持って酒場へ繰り出し、金がなくなるとまた依頼を受ける。一般的にはそのような者たちのことだ。多くの者は社会的な信用はない。あるのはごく一部の高く評価された者だけだ。クラースのように。
「私はそれなりに評価されていたな」
「魔法が使えるとなると違うんだろうな」
「それに知識もあった。だから王城で仕事をしたこともある」
ギルドは国の組織ではあるが領地ごとで管理されているので、基本的にはその領地内での仕事ということになる。ドラゴネットにいながらエクセンのギルドで出された依頼を受けることはできない。依頼票を運ぶのにも手間がかかるからだ。そしてその間に依頼が完了することもある。だからほとんどの場合、一つの依頼につき依頼票は一枚しか存在しない。
ごく希に非常に厄介な案件があり、複数の町で依頼票が貼り出されることがあるが、それは王都のような大都市だけだ。いくつもの田舎町に貼り出しても意味がない。
そして依頼料を始めとして様々なことを決めるのもそれぞれのギルドだ。例えば薬草の採取は初歩の依頼だそうだが、王都とドラゴネットでは冒険者の数が違えば集めやすさも違う。
王都の周辺で薬草を探そうとしてもそう簡単に見つからないが、ドラゴネットなら少し探せば生えていることもある。王都は生活するために金がかかるが、ドラゴネットは食べていくだけなら安く済む。依頼料が同じにはならない。
だからドラゴネットで薬草をたくさん採取して、王都に帰ってそこで依頼を受けるという方法もある。そうすればたくさん集められる上に王都のギルドは依頼料が高いので収入は多くなる。だが移動に時間がかかるという問題がある。要するに、上手くやろうとしてもそう簡単には稼げないようになっていた。これまでは。
それが変わり始めたのは、ドラゴネットでは魔獣が狩れることが知られるようになったからだ。狩人たちが魔獣を狩り、肉の多くは領内で消費されるが、素材は王都で販売されるようになった。そうするとノルト男爵領に行けば稼げるという噂が広まる。冒険者の一部がそれに飛びつき、自分たちで狩ろうとして……歯が立たずに泣いて帰ってきた。そして今では狩人たちに狩り方を教わっている。
魔獣の狩り方は実はそこまで難しくはない。避けながら攻撃する。ただそれだけだ。必要なのは度胸だ。だがタイミングを間違えれば巨大な爪で切り刻まれたり、鋭い牙で串刺しにされたり、刃物のような枝角で切り刻まれたり、巨大な足で踏み潰されたりする。そうなれば遺体は原形を留めない。
「領主様、あまり恐ろしいことを言わないでください。独り言が漏れていますよ」
「ああ、悪い。だがクヌート、それを覚悟してやって来たんじゃないのか?」
「あの時は恐れていませんでしたが、見ると聞くとは大違いで……」
このクヌートという男は王都からやって来た冒険者たちのリーダーで、ルードルフ、ベン、ラウを入れた四人組として活動している。役場で暴れてリリーに叩きのめされたのがクヌートだ。
「王都では魔物が少しいるくらいでした」
「そうですね、盗賊の方が多かったですね」
「護衛が基本でした」
「それでこちらに来たわけですが……」
「とりあえず冒険者ギルドは作るが、どんな仕事があるか分からないぞ?」
この四人を呼んだのは冒険者としての希望を聞くためだった。全て聞けるわけではないが、ある程度は方向性が決まるだろう。冒険者ギルドも町ごとに特徴が違うので、冒険者たちを順に呼んで話を聞いていた。
「常に一定の仕事があれば助かります」
「常時依頼ってやつか? それなら植物の採取とか、地味なのが多いな」
「それでもあれば助かります。今は魔獣の狩り方を教わっていますが、毎日は無理ですので」
「そのあたりから始めて広げていくか。とりあえずギルド長が必要だからすぐは無理だ。年内には何とかしたい」
植物採取は、カサンドラたちが使う薬の材料になるものや、染めに使う染料の元になる植物などだ。町の近くにもあることはあるが、山に近い方には町の近くにはないものもある。自分で採りにいくのはやはり大変なので、誰かが採ってきてくれれば助かる。
ただし、素人が採りにいってもどれがどれか分からないこともある。花が必要なのか葉が必要なのか茎が必要なのか根が必要なのか、植物によっても違うので、間違わないようにするためにはある程度の知識は必要だ。冒険者は駆け出しの頃は採取の仕事をよくするらしい。そこで何度も失敗をして覚えるそうだ。
人は増えてきた。だが仕事をしたいのに仕事がないという状態は避けたい。あまり選り好みをされても困るが、貧民街だけはできないように気をつけたい。
「どうしても困れば麦畑の方で働けばいいと言われています」
「そうだな。あれがあるから食いっぱぐれることはないと思うが、まあギルドの方は間違いなく作る」
「よろしくお願いします」
冒険者ギルドというのは国の組織で、冒険者のための仕事を斡旋する場所だ。そして冒険者には、言ってしまえばならず者が多い。そりゃそうだろう。定住せずにふらふらしているやつらばかりだからだ。
依頼を受けてそれが終わると前もって決められた依頼料を受け取る。そうすればその金を持って酒場へ繰り出し、金がなくなるとまた依頼を受ける。一般的にはそのような者たちのことだ。多くの者は社会的な信用はない。あるのはごく一部の高く評価された者だけだ。クラースのように。
「私はそれなりに評価されていたな」
「魔法が使えるとなると違うんだろうな」
「それに知識もあった。だから王城で仕事をしたこともある」
ギルドは国の組織ではあるが領地ごとで管理されているので、基本的にはその領地内での仕事ということになる。ドラゴネットにいながらエクセンのギルドで出された依頼を受けることはできない。依頼票を運ぶのにも手間がかかるからだ。そしてその間に依頼が完了することもある。だからほとんどの場合、一つの依頼につき依頼票は一枚しか存在しない。
ごく希に非常に厄介な案件があり、複数の町で依頼票が貼り出されることがあるが、それは王都のような大都市だけだ。いくつもの田舎町に貼り出しても意味がない。
そして依頼料を始めとして様々なことを決めるのもそれぞれのギルドだ。例えば薬草の採取は初歩の依頼だそうだが、王都とドラゴネットでは冒険者の数が違えば集めやすさも違う。
王都の周辺で薬草を探そうとしてもそう簡単に見つからないが、ドラゴネットなら少し探せば生えていることもある。王都は生活するために金がかかるが、ドラゴネットは食べていくだけなら安く済む。依頼料が同じにはならない。
だからドラゴネットで薬草をたくさん採取して、王都に帰ってそこで依頼を受けるという方法もある。そうすればたくさん集められる上に王都のギルドは依頼料が高いので収入は多くなる。だが移動に時間がかかるという問題がある。要するに、上手くやろうとしてもそう簡単には稼げないようになっていた。これまでは。
それが変わり始めたのは、ドラゴネットでは魔獣が狩れることが知られるようになったからだ。狩人たちが魔獣を狩り、肉の多くは領内で消費されるが、素材は王都で販売されるようになった。そうするとノルト男爵領に行けば稼げるという噂が広まる。冒険者の一部がそれに飛びつき、自分たちで狩ろうとして……歯が立たずに泣いて帰ってきた。そして今では狩人たちに狩り方を教わっている。
魔獣の狩り方は実はそこまで難しくはない。避けながら攻撃する。ただそれだけだ。必要なのは度胸だ。だがタイミングを間違えれば巨大な爪で切り刻まれたり、鋭い牙で串刺しにされたり、刃物のような枝角で切り刻まれたり、巨大な足で踏み潰されたりする。そうなれば遺体は原形を留めない。
「領主様、あまり恐ろしいことを言わないでください。独り言が漏れていますよ」
「ああ、悪い。だがクヌート、それを覚悟してやって来たんじゃないのか?」
「あの時は恐れていませんでしたが、見ると聞くとは大違いで……」
このクヌートという男は王都からやって来た冒険者たちのリーダーで、ルードルフ、ベン、ラウを入れた四人組として活動している。役場で暴れてリリーに叩きのめされたのがクヌートだ。
「王都では魔物が少しいるくらいでした」
「そうですね、盗賊の方が多かったですね」
「護衛が基本でした」
「それでこちらに来たわけですが……」
「とりあえず冒険者ギルドは作るが、どんな仕事があるか分からないぞ?」
この四人を呼んだのは冒険者としての希望を聞くためだった。全て聞けるわけではないが、ある程度は方向性が決まるだろう。冒険者ギルドも町ごとに特徴が違うので、冒険者たちを順に呼んで話を聞いていた。
「常に一定の仕事があれば助かります」
「常時依頼ってやつか? それなら植物の採取とか、地味なのが多いな」
「それでもあれば助かります。今は魔獣の狩り方を教わっていますが、毎日は無理ですので」
「そのあたりから始めて広げていくか。とりあえずギルド長が必要だからすぐは無理だ。年内には何とかしたい」
植物採取は、カサンドラたちが使う薬の材料になるものや、染めに使う染料の元になる植物などだ。町の近くにもあることはあるが、山に近い方には町の近くにはないものもある。自分で採りにいくのはやはり大変なので、誰かが採ってきてくれれば助かる。
ただし、素人が採りにいってもどれがどれか分からないこともある。花が必要なのか葉が必要なのか茎が必要なのか根が必要なのか、植物によっても違うので、間違わないようにするためにはある程度の知識は必要だ。冒険者は駆け出しの頃は採取の仕事をよくするらしい。そこで何度も失敗をして覚えるそうだ。
人は増えてきた。だが仕事をしたいのに仕事がないという状態は避けたい。あまり選り好みをされても困るが、貧民街だけはできないように気をつけたい。
「どうしても困れば麦畑の方で働けばいいと言われています」
「そうだな。あれがあるから食いっぱぐれることはないと思うが、まあギルドの方は間違いなく作る」
「よろしくお願いします」
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