ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
161 / 345
第二章:領主二年目第一部

提携(三):契約の締結

しおりを挟む
「はい、もちろんかまいません。ぜひ使ってください」
「余り物で作るということでしたので秘密も何も。真っ直ぐに押さえるのに若干コツが必要な以外は特に何も重要なことはないと思います」

 ベルントがアレクとホラーツを連れて戻ったのは、そろそろ休憩を終わりにして次の話をしようかと考えていた頃だった。もし二人が忙しいようなら、許可を出していいかどうかだけでも聞いてくればいいと言ったが、二人ともここまで来た。正直俺にはありがたかった。

 いやもう、デニス殿の押しが強いこと強いこと。何がと言えば当然シビラのことだ。そのシビラはデニス殿の隣で顔を赤くしている。

 確かに隣の領地なら娘を嫁がせるのには悪い場所ではない。しかもそれなりに発展しそうな雰囲気がある。親としては安心だろう。だがシビラはまだ一〇歳にもなっていない。残念ながら俺は小児性愛には興味がない。

 貴族の成人は一二歳が一般的だが、結婚するのは早ければ一〇歳くらいだ。だから今年で九歳になるはずのシビラが結婚しても極端に早い訳ではない。結婚事情だけを考えれば。俺と一〇歳差だが、貴族にとっては年齢の差はあってないようなものだ。



 城に来たアレクとホラーツからは了解を得た。もちろん俺が好き勝手にやっても問題ないが、彼らの努力は考慮すべきだろう。

 この二人は馬車を作ってくれたが、馬車が専門ではない。馬車は馬車、船は船、家は家、それぞれ専門の大工がいる。俺はついつい彼らに任せてしまうが、麦を育てるのと芋を育てるのが全く違うように、本来は完全に違う仕事だ。

 だが二人とも向上心が強く、船を見せたらそれを分解して分析し、新しい船を何隻も作っていた。馬車もやはり専門の職人と協力させれば、より高度な技術を身に付けるのではないかと思っている。本人たちも乗り気のようだから問題ないだろう。

「それなら、あの大型馬車に使ったあの色の濃い硬い木だが、あれを少し増やすことにしようか。木こりたちに伝えておいてくれ」

 ハイデ時代は男連中が山に入って切り倒していた。こちらに来てからはそれほど大規模に伐採はしていなかったが、木材をある程度は用意しておきたいので、木こりを専門にする者を募集した。以前から木を切り倒すのが得意だったゲーアハルトとヨッヘムの二人が責任者となって切り出しを行っている。

「分かりました。次の伐採から多めにします。運河が伸びたので運搬が楽になりましたから」
「あっという間にできたな、あの運河」

 ブルーノに農地を広げる話をして図面ができたのはつい先日だ。そしてそれに合わせて町の外に運河を延ばすことになった。俺が王都で商会のことやら何やらをしている間に、カレンが堀と運河を完成させてしまった。

 掘っている最中の失敗は二回くらいだったそうだ。それも自分で直したそうだ。「だいぶ慣れたわね」と言っていたが、慣れすぎじゃないだろうか。

「町の外のあれは運河だったのですか?」
「ええ、元々は町の中だけでしたが、山の方から魔獣と木材を運ぶのに使用しています」
「それなりに距離があるようですね」
「ええ。森の端から町の入口までで一〇キロほどあります。私がいれば異空間に入れて運ぶことはできますが、いつもそれができるとは限りませんので。重い物を運ぶのにどうしようかと考えた上であのような形になりました」

 元からある町と東に新しく作った農地の境目からまっすぐ南に向かって運河を延ばし、山裾の森に入る手前で東にLのように折れた運河ができた。そして折れ曲がった部分と一番東の部分には積み下ろしのための場所が設けられている。

「しかし熊の魔獣はかなり重くありませんか? あれを積み下ろしできますか?」
「そこもこの二人を始めとした職人たちの努力の結果です」

 二人が作ったのは、運河の一部を仕切って水を入れることで船を上げ下げする装置だった。これはシュタイナーが水の都で見たと言ったものを再現したものだ。それにダニエル、ヨーゼフたちも協力したようだ。

 運河の一部を仕切り、その部分に水を入れる。これを閘門こうもんと呼ぶそうだ。そうすると水面が地面にかなり近いところまで上昇する。そこに魔獣を乗せた船を入れ、仕切りを少し開いて中の水を抜くと船は下がる。水が抜けたら運河の他の部分と高さが同じになるのでそのまま荷揚げの場所まで運ぶ。

 荷揚げの場所も同じように仕切りがある。中に船を入れたら仕切りを閉じて水を入れる。そうすると船が持ち上がるので、地面と同じ高さくらいまで上がれば巻き揚げ機で引っ張って移動させる。水そのものは運河にいくらでもあるので、魔道具で組み上げて移せばいい。

 これは本来は荷物を運ぶためではなく、高さが違う場所を船が通過するために使う装置らしいが、うちでは積み下ろしのために活用することにした。どうしても山に近くなるほど運河が深くなってしまうために考えられた方法だった。

「たしかにそのような方法は聞いたことがあります。帰りの際にでも見せてもらうことはできますか?」
「もちろんです。もしよろしければ乗ってみますか? 馬車ごと船に乗せ、向こうで馬車を船から降ろすのもできますよ」
「「乗りたいです!」」

 そう言ったのはシビラとリーヌスだった。これまでじっと話を聞いていたが、乗り物の話になったら耐えられなくなったらしい。

「危なくはないのですか?」

 そう聞いたのはニコラ殿だった。

「何度も試験航行をしているので安全面は大丈夫です。それよりも馬車に比べて乗り心地がいいのが特徴です。曲がる時も静かですし、振動が伝わりません」

 馬車の車輪の多くは鉄を巻いている。その車輪で石畳の上を走っていて曲がる時はギャリギャリとかなりの音がする。その点では船の方がよほど静かだ。今は活用されているとは言い難いが、とりあえず運搬には有効利用されている。

「シビラ、もし船が揺れて怪我でもしたらエルマー殿に責任を取ってもらいなさい」
「はい、お父様」

 どうして俺は余計な提案をしたんだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

処理中です...