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第四章:領主二年目第三部
双子の発熱(一)
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「二人揃って寝込んでいる?」
「はい、同室のカミラとケーテからの連絡で、熱があって体が怠いということです」
家政婦長補佐のユリアから、カリンナとコリンナの二人が寝込んでいると連絡を受けた。春の行啓の時期はバタバタしたが、それ以降は城の中は落ち着いている。それに二人抜けても問題ないくらいに女中の人数は増えた。
この双子は昼過ぎまでは城で女中として働き、午後から夜まではカフェで働いている。いつも必要以上に元気だが、それでも限界があったのだろう。疲れが出たのかもしれない。
使用人たち全員に当てはまるが、城の使用人以外にやりたい仕事があればそれをしてもいいと言っている。アントンのように商会の会長になった者もいるが、大半はそのまま使用人をしている。中には相手が見つかったのもいるようだから、そのうち辞めるのも出てくるだろう。
「無理をさせても仕方がない。薬は飲ませたのか?」
「はい。とりあえず熱冷ましは与えました」
「使用人も増えたから問題ないだろう。落ち着くまでは無理はさせないように。他の者たちも改めて無理はしないように言っておいてくれ」
「はい、伝えておきます」
◆ ◆ ◆
最初に連絡があったのが五日ほど前だ。俺も一度様子を見に行って[治癒]をかけたが、二人の熱は下がらなかった。熱を測ろうと思って額に手を置こうとしたら頭を動かして手を舐めようとするくらい元気だった。そしてカサンドラにも様子を見てもらったが、彼女が見ても何も問題はないそうだ。
だがカサンドラでも知らない病気かもしれないので、俺も使った復元薬を与えてみたが、それでも何も変わらなかった。ただ熱があって怠いだけだと。
熱は下がらないが食欲はあるそうだ。重い病気でもなさそうだし、あの年で知恵熱もないだろう。よく分からないが、しばらく休ませて様子を見ることになった。
カサンドラによると、この町では病気で体調を崩す者は少ないそうだ。王都時代は貧民街やその近くに住む者たちがよく来ていたそうだが、ここに来てからはほとんどいないと。
食べ過ぎ飲み過ぎで腹を壊したり、泳ぎ回って筋肉痛になったりすることはあるそうだが、それくらいらしい。今はきれいな水が手に入り、食べ物も十分にあるからだろう、そう彼女は言っていた。
だからカリンナとコリンナが熱を出して寝込んだというのは、この町ではかなり珍しい方になる。原因が分からないのが気になるが、数日もすればまた元気になるだろう。
今年の初め頃まではそれなりに絡んできたが、あれからはやや落ち着いた。今でも唐突に現れることはあるが、
◆ ◆ ◆
それからさらに三日ほど、寝込んだと聞いてから八日ほど経った。
……トトトト
……タタタタタタ
……ダダダダダダダダ
バンッ‼‼
「「旦那様~」」
「部屋を出るなら服を着ろ‼」
全裸で執務室に来たかと思えば、二人揃ってこちらに尻を向ける。元気になった途端に主人に向かって裸で尻を突き出すのはどうなんだ?
「見てくださ~い」
「立派でしょ~?」
「部屋の外では裸になるなと何度も……ん? なんだ、それは?」
尻の上の骨のあたりから何かが出ている。黒い光沢のある紐のような……尻尾か? 先の部分が返しのある鏃のようになっている。
「角もでました~」
「羽も~」
二人のこめかみの上あたりには少し捻れた二本の角、そして肩甲骨あたりから一対の大きな羽が生えていた。カレンの羽とは違って鱗はなく、蝙蝠の羽のようなツヤツヤした羽だ。こう見るとカレンとは違うが、角と羽と尻尾があるのか。もしかして人ではない?
「人間じゃなかったのか」
「そうだったみたいですね~」
「何なのかは分かりませんけど~」
「そうか、孤児院育ちだったな」
二人が捨て子だったのは直接二人から聞いた。エクムント殿から手渡された書類にはそのようなことは書かれていなかった。そこまで必要ないと思ったのかもしれない。前の勤め先が分かればそれでいいからな。
「そもそも角が生えたならそれを見せればいいだけだろう。どうして尻を見せた?」
「アピールですよ~」
「いつでもどうぞ~」
「昨日まで寝込んでたんだろう。もうしばらく無理をせずに大人しくしておけ。そして服を着ろ。体を冷やすぞ」
胸はこの年齢からすると大きい。やや背が低いが出るべきところは出ている。顔はやや幼く感じるが可愛いだろう。だが全裸でも驚くほど何も感じない。
「まあ働くのに種族は関係ないが、あまり言い触らさない方がいいこともある。カレンやアメリアのことを考えれば差別はないだろうが、気を付けるように。しばらくそれは隠しておけ」
「「は~い」」
二人は「「栄養補給で~す」」と言って一度俺に抱きつくと部屋を出て行った。
◆ ◆ ◆
……角と羽と尻尾なあ。二人にも言ったが、世の中には迫害という言葉がある。人は自分がよく分からない物は恐れて拒否するものだが、それが何なのかが分かってしまえば怖くはない。竜のことだって同じだ。クラースたちが帰ってきた時はみんなが手を振って歓迎したそうだが、普通なら逃げ惑うだろう。
カリンナとコリンナの二人が恐ろしい存在とは思えないが、いきなり角と羽と尻尾が生えれば誰だって驚くだろう。アメリアが耳と尻尾を隠していたのとはまた話が違う。
さて、そうなると調べ物をする必要があるが、本だの何だのが多いのはやはり王城か。以前なら進んで近づこうなどとは思わなかったが、最近では知り合いも増えた。
まずは二人が何の種族なのかを調べなければならない。いや、何者であろうとも使用人であることに変わりはないが、第三者に聞かれた時のために知っておく必要はあるだろう。
わざわざ遠くまで行かなければならないなら躊躇するが、どうせ仕事で王城に行くわけだ。行ったついでに資料室で調べればいい。
この「人」という言葉の定義は国や地域によって違うそうだが、この国では人間、そしてエルフ、ドワーフ、フェアリーなどの妖精種と呼ばれる存在、さらには様々な獣人が含まれる。
それ以外の種族で人に近くて人にはない特徴がある多くの種族は亜人と呼ばれる。
例えばミノタウロスはクラース並みに背が高くてがっしりとした人間という見た目だが、頭に大きな角がある。ケンタウロスは腰から下が馬になっている。ハーピーは手と足は鳥のもので、ラミアは腰から下が蛇、リザードマンは二足歩行の蜥蜴だ。
そう考えると、どうして猫人は人でミノタウロスは亜人なのかという話になるが、これには諸説ある。その中で最も広く信じられている由来はこのような感じだ。
ある国では王族の妻は人でなければならないとされていた。その国では人は人間と妖精種のみだった。どうしても獣人の娘を妻にしたかったある王子が父親である国王を説得し、それから獣人も人に加えられた、というものだ。あり得ると言えばあり得るが、実際はどうだったんだろうか。
場所によっては人間以外は亜人と扱われる国もあるそうだが、話を聞くだけで居心地が悪そうだ。そこまで人間優位でなくてもいいだろう。そもそも魔法が得意な妖精種よりも人間が優れている点は、数が多いことくらいか?
カリンナとコリンナに角と羽と尻尾があるなら人ではなく亜人だろうが、俺が知っている種族ではない。だが実際に町で暮らせば、人だろうが亜人だろうが、意思疎通ができれば何も問題がないことがほとんどだ。
「はい、同室のカミラとケーテからの連絡で、熱があって体が怠いということです」
家政婦長補佐のユリアから、カリンナとコリンナの二人が寝込んでいると連絡を受けた。春の行啓の時期はバタバタしたが、それ以降は城の中は落ち着いている。それに二人抜けても問題ないくらいに女中の人数は増えた。
この双子は昼過ぎまでは城で女中として働き、午後から夜まではカフェで働いている。いつも必要以上に元気だが、それでも限界があったのだろう。疲れが出たのかもしれない。
使用人たち全員に当てはまるが、城の使用人以外にやりたい仕事があればそれをしてもいいと言っている。アントンのように商会の会長になった者もいるが、大半はそのまま使用人をしている。中には相手が見つかったのもいるようだから、そのうち辞めるのも出てくるだろう。
「無理をさせても仕方がない。薬は飲ませたのか?」
「はい。とりあえず熱冷ましは与えました」
「使用人も増えたから問題ないだろう。落ち着くまでは無理はさせないように。他の者たちも改めて無理はしないように言っておいてくれ」
「はい、伝えておきます」
◆ ◆ ◆
最初に連絡があったのが五日ほど前だ。俺も一度様子を見に行って[治癒]をかけたが、二人の熱は下がらなかった。熱を測ろうと思って額に手を置こうとしたら頭を動かして手を舐めようとするくらい元気だった。そしてカサンドラにも様子を見てもらったが、彼女が見ても何も問題はないそうだ。
だがカサンドラでも知らない病気かもしれないので、俺も使った復元薬を与えてみたが、それでも何も変わらなかった。ただ熱があって怠いだけだと。
熱は下がらないが食欲はあるそうだ。重い病気でもなさそうだし、あの年で知恵熱もないだろう。よく分からないが、しばらく休ませて様子を見ることになった。
カサンドラによると、この町では病気で体調を崩す者は少ないそうだ。王都時代は貧民街やその近くに住む者たちがよく来ていたそうだが、ここに来てからはほとんどいないと。
食べ過ぎ飲み過ぎで腹を壊したり、泳ぎ回って筋肉痛になったりすることはあるそうだが、それくらいらしい。今はきれいな水が手に入り、食べ物も十分にあるからだろう、そう彼女は言っていた。
だからカリンナとコリンナが熱を出して寝込んだというのは、この町ではかなり珍しい方になる。原因が分からないのが気になるが、数日もすればまた元気になるだろう。
今年の初め頃まではそれなりに絡んできたが、あれからはやや落ち着いた。今でも唐突に現れることはあるが、
◆ ◆ ◆
それからさらに三日ほど、寝込んだと聞いてから八日ほど経った。
……トトトト
……タタタタタタ
……ダダダダダダダダ
バンッ‼‼
「「旦那様~」」
「部屋を出るなら服を着ろ‼」
全裸で執務室に来たかと思えば、二人揃ってこちらに尻を向ける。元気になった途端に主人に向かって裸で尻を突き出すのはどうなんだ?
「見てくださ~い」
「立派でしょ~?」
「部屋の外では裸になるなと何度も……ん? なんだ、それは?」
尻の上の骨のあたりから何かが出ている。黒い光沢のある紐のような……尻尾か? 先の部分が返しのある鏃のようになっている。
「角もでました~」
「羽も~」
二人のこめかみの上あたりには少し捻れた二本の角、そして肩甲骨あたりから一対の大きな羽が生えていた。カレンの羽とは違って鱗はなく、蝙蝠の羽のようなツヤツヤした羽だ。こう見るとカレンとは違うが、角と羽と尻尾があるのか。もしかして人ではない?
「人間じゃなかったのか」
「そうだったみたいですね~」
「何なのかは分かりませんけど~」
「そうか、孤児院育ちだったな」
二人が捨て子だったのは直接二人から聞いた。エクムント殿から手渡された書類にはそのようなことは書かれていなかった。そこまで必要ないと思ったのかもしれない。前の勤め先が分かればそれでいいからな。
「そもそも角が生えたならそれを見せればいいだけだろう。どうして尻を見せた?」
「アピールですよ~」
「いつでもどうぞ~」
「昨日まで寝込んでたんだろう。もうしばらく無理をせずに大人しくしておけ。そして服を着ろ。体を冷やすぞ」
胸はこの年齢からすると大きい。やや背が低いが出るべきところは出ている。顔はやや幼く感じるが可愛いだろう。だが全裸でも驚くほど何も感じない。
「まあ働くのに種族は関係ないが、あまり言い触らさない方がいいこともある。カレンやアメリアのことを考えれば差別はないだろうが、気を付けるように。しばらくそれは隠しておけ」
「「は~い」」
二人は「「栄養補給で~す」」と言って一度俺に抱きつくと部屋を出て行った。
◆ ◆ ◆
……角と羽と尻尾なあ。二人にも言ったが、世の中には迫害という言葉がある。人は自分がよく分からない物は恐れて拒否するものだが、それが何なのかが分かってしまえば怖くはない。竜のことだって同じだ。クラースたちが帰ってきた時はみんなが手を振って歓迎したそうだが、普通なら逃げ惑うだろう。
カリンナとコリンナの二人が恐ろしい存在とは思えないが、いきなり角と羽と尻尾が生えれば誰だって驚くだろう。アメリアが耳と尻尾を隠していたのとはまた話が違う。
さて、そうなると調べ物をする必要があるが、本だの何だのが多いのはやはり王城か。以前なら進んで近づこうなどとは思わなかったが、最近では知り合いも増えた。
まずは二人が何の種族なのかを調べなければならない。いや、何者であろうとも使用人であることに変わりはないが、第三者に聞かれた時のために知っておく必要はあるだろう。
わざわざ遠くまで行かなければならないなら躊躇するが、どうせ仕事で王城に行くわけだ。行ったついでに資料室で調べればいい。
この「人」という言葉の定義は国や地域によって違うそうだが、この国では人間、そしてエルフ、ドワーフ、フェアリーなどの妖精種と呼ばれる存在、さらには様々な獣人が含まれる。
それ以外の種族で人に近くて人にはない特徴がある多くの種族は亜人と呼ばれる。
例えばミノタウロスはクラース並みに背が高くてがっしりとした人間という見た目だが、頭に大きな角がある。ケンタウロスは腰から下が馬になっている。ハーピーは手と足は鳥のもので、ラミアは腰から下が蛇、リザードマンは二足歩行の蜥蜴だ。
そう考えると、どうして猫人は人でミノタウロスは亜人なのかという話になるが、これには諸説ある。その中で最も広く信じられている由来はこのような感じだ。
ある国では王族の妻は人でなければならないとされていた。その国では人は人間と妖精種のみだった。どうしても獣人の娘を妻にしたかったある王子が父親である国王を説得し、それから獣人も人に加えられた、というものだ。あり得ると言えばあり得るが、実際はどうだったんだろうか。
場所によっては人間以外は亜人と扱われる国もあるそうだが、話を聞くだけで居心地が悪そうだ。そこまで人間優位でなくてもいいだろう。そもそも魔法が得意な妖精種よりも人間が優れている点は、数が多いことくらいか?
カリンナとコリンナに角と羽と尻尾があるなら人ではなく亜人だろうが、俺が知っている種族ではない。だが実際に町で暮らせば、人だろうが亜人だろうが、意思疎通ができれば何も問題がないことがほとんどだ。
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