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第二章:領主二年目第一部
行啓(六)
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「これより、アルマン王国王太子レオナルト・エルンスト・シュタインベルクの名において、ノルト男爵エルマー・アーレント、そしてアルマン王国第二王女ナターリエ・パトリツィア・シュタインベルクの結婚式を執り行う」
ここは教会。殿下が司婚者となり式が行われることになった。式とは言っても、お互いに相手を受け入れるという宣言をするだけだ。
「双方、誓いの言葉を」
「私エルマー・アーレントは、ナターリエ・パトリツィア・シュタインベルクをこれより妻とすることを誓う」
「私ナターリエ・パトリツィア・シュタインベルクは、エルマー・アーレントをこれより夫とすることを誓います」
「双方の宣言により両者は夫婦と見なされた。双方お互いに相手を尊重し、力を合わせ、共に人生を歩むように」
ふう、それほど長い式ではないが、やはり肩が凝るな。
「これからはあなた様の妻としてここで暮らすことにいたします」
「俺はこのような話し方だが、大切にすることは約束する」
「はい、あなた」
こちらに来た時とは違いスッキリした表情だ。
「かなり表情が変わったな。思い出させるようで悪いが、やはり来るまでは思うところがあったのか?」
「はい。正直に申し上げれば、嫁ぐことそれ自体には不満はございませんでしたが、場所のことや序列のことなどで少し」
「序列に関しては俺もレオナルト殿下に少しわがままを言わせてもらった」
「いえ、私が勝手に王女なら正妻のはずだと思い込んでいただけです。ですがこちらに腹違いの姉がいることが分かり、カレンさんのことも知り、これまで拘っていたことは一体何だったのだろうかと、そのようなことを昨日一晩考えました」
カレンと序列のことで話をした時は「私は何番目でもいいわよ」と言っていた。竜同士の結婚では、戦って序列を決めるという話もあったから気にするのかと思ったが、そのような気配は微塵もなかった。あの話は一体何だったのか。拘る者は拘るというだけなのか?
「ところで、カレンさんは竜の娘、アルマ姉様は父の落胤、私は第二王女となりますと、エルザさんもどこか尊い血筋の生まれなのでしょうか?」
「いや、そういう話は聞いたことがないな。俺が知っているのは、彼女は孤児で、おそらく俺と同い年。そして育ったのはこの国の南の方にある町の孤児院だということだ」
「もしかして余計なことを聞いてしまいましたか?」
「いや、エルザ自身が普通に話しているから、町の多くの者は知っている。気にするようなら隠すだろう」
エルザとアルマをドラゴネットに連れて来た時も、当然だが紹介のために宴会をした。そこで女性の間では「私は孤児なんです」「あらあら大変だったわねえ」というような、横で聞いてもあまり大変そうに思えないやりとりがあった。
この町では出自なんて誰も気にしない。周りと仲良くしようと思えば誰だって受け入れてもらえる、そのような雰囲気がハイデにもあったし、ドラゴネットにもある。
「ですが、エルザさんが実はゴール王国やシエスカ王国、あるいはポウラスカ王国の王家の血を引いている可能性はございませんか?」
「アルマの件があるから絶対にないとは言えないが、そんなにあちこちに落胤がいたら大変……いや、落胤はどの国にでもそれなりにいるだろうな。だが調べる術もないし調べてどうなるものでもないから、それはもう気にするな」
「はい」
「それはそうと、これを付けさせてくれ」
「それは?」
「琥珀でできた装身具だ。俺も妻たちも身に付けている」
これはモーリッツに依頼したものだ。王女らしくティアラを象ったブローチになっている。
「あら、この形は」
「この町ではティアラを付けるのは無理だが、せめてこれくらいはな」
「あ、ありがとうございます」
「さ、これでナターリエも仲間入りね」
「カレンさん、これからよろしくお願いいたします」
「そんなに硬くならなくてもいいわよ。アルマの妹でしょ?」
「はい。エルザさん、アルマ姉様、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「あのっ、私のことも普通に「さん」でいいですよ」
「よろしいのですか? ではアルマさんと呼ばせていただきます」
「以前お城で王女様だと思って見ていた人からそう言われるとくすぐったいですねっ」
四人が思った以上に和気あいあいとしているのを眺める。このような時は下手に口を挟まない方がいい。
妻の中ではエルザが一番年上で俺と同い年。今年で一九になる。その三つ下がカレンとアルマで、そのさらに一つ下がナターリエになる。
愛人の方はカサンドラがエルフなので六〇〇歳を超えているそうだが、見た目はアンゲリカと変わらないくらいだ。そのアンゲリカは二七だったか。ヘルガが二二でアメリアが二〇だったはず。
「エルマー様、私だけ一人年が離れているとか考えていませんか?」
「ん? そんなことはないぞ。仲が良さそうだと思って見ていただけだ。年のことは気にしないぞ」
「私が一番下ですのね」
「そこでどうして蒸し返すのですか?」
本気で怒っている訳ではないがエルザが頬を膨らませる。どうやらナターリエが来てもエルザの立ち位置は変わらないようだ。
ここは教会。殿下が司婚者となり式が行われることになった。式とは言っても、お互いに相手を受け入れるという宣言をするだけだ。
「双方、誓いの言葉を」
「私エルマー・アーレントは、ナターリエ・パトリツィア・シュタインベルクをこれより妻とすることを誓う」
「私ナターリエ・パトリツィア・シュタインベルクは、エルマー・アーレントをこれより夫とすることを誓います」
「双方の宣言により両者は夫婦と見なされた。双方お互いに相手を尊重し、力を合わせ、共に人生を歩むように」
ふう、それほど長い式ではないが、やはり肩が凝るな。
「これからはあなた様の妻としてここで暮らすことにいたします」
「俺はこのような話し方だが、大切にすることは約束する」
「はい、あなた」
こちらに来た時とは違いスッキリした表情だ。
「かなり表情が変わったな。思い出させるようで悪いが、やはり来るまでは思うところがあったのか?」
「はい。正直に申し上げれば、嫁ぐことそれ自体には不満はございませんでしたが、場所のことや序列のことなどで少し」
「序列に関しては俺もレオナルト殿下に少しわがままを言わせてもらった」
「いえ、私が勝手に王女なら正妻のはずだと思い込んでいただけです。ですがこちらに腹違いの姉がいることが分かり、カレンさんのことも知り、これまで拘っていたことは一体何だったのだろうかと、そのようなことを昨日一晩考えました」
カレンと序列のことで話をした時は「私は何番目でもいいわよ」と言っていた。竜同士の結婚では、戦って序列を決めるという話もあったから気にするのかと思ったが、そのような気配は微塵もなかった。あの話は一体何だったのか。拘る者は拘るというだけなのか?
「ところで、カレンさんは竜の娘、アルマ姉様は父の落胤、私は第二王女となりますと、エルザさんもどこか尊い血筋の生まれなのでしょうか?」
「いや、そういう話は聞いたことがないな。俺が知っているのは、彼女は孤児で、おそらく俺と同い年。そして育ったのはこの国の南の方にある町の孤児院だということだ」
「もしかして余計なことを聞いてしまいましたか?」
「いや、エルザ自身が普通に話しているから、町の多くの者は知っている。気にするようなら隠すだろう」
エルザとアルマをドラゴネットに連れて来た時も、当然だが紹介のために宴会をした。そこで女性の間では「私は孤児なんです」「あらあら大変だったわねえ」というような、横で聞いてもあまり大変そうに思えないやりとりがあった。
この町では出自なんて誰も気にしない。周りと仲良くしようと思えば誰だって受け入れてもらえる、そのような雰囲気がハイデにもあったし、ドラゴネットにもある。
「ですが、エルザさんが実はゴール王国やシエスカ王国、あるいはポウラスカ王国の王家の血を引いている可能性はございませんか?」
「アルマの件があるから絶対にないとは言えないが、そんなにあちこちに落胤がいたら大変……いや、落胤はどの国にでもそれなりにいるだろうな。だが調べる術もないし調べてどうなるものでもないから、それはもう気にするな」
「はい」
「それはそうと、これを付けさせてくれ」
「それは?」
「琥珀でできた装身具だ。俺も妻たちも身に付けている」
これはモーリッツに依頼したものだ。王女らしくティアラを象ったブローチになっている。
「あら、この形は」
「この町ではティアラを付けるのは無理だが、せめてこれくらいはな」
「あ、ありがとうございます」
「さ、これでナターリエも仲間入りね」
「カレンさん、これからよろしくお願いいたします」
「そんなに硬くならなくてもいいわよ。アルマの妹でしょ?」
「はい。エルザさん、アルマ姉様、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「あのっ、私のことも普通に「さん」でいいですよ」
「よろしいのですか? ではアルマさんと呼ばせていただきます」
「以前お城で王女様だと思って見ていた人からそう言われるとくすぐったいですねっ」
四人が思った以上に和気あいあいとしているのを眺める。このような時は下手に口を挟まない方がいい。
妻の中ではエルザが一番年上で俺と同い年。今年で一九になる。その三つ下がカレンとアルマで、そのさらに一つ下がナターリエになる。
愛人の方はカサンドラがエルフなので六〇〇歳を超えているそうだが、見た目はアンゲリカと変わらないくらいだ。そのアンゲリカは二七だったか。ヘルガが二二でアメリアが二〇だったはず。
「エルマー様、私だけ一人年が離れているとか考えていませんか?」
「ん? そんなことはないぞ。仲が良さそうだと思って見ていただけだ。年のことは気にしないぞ」
「私が一番下ですのね」
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