ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
201 / 345
第二章:領主二年目第一部

行啓(二)

しおりを挟む
 何も悪いことをしていないのに、俺とレオナルト殿下は女性二人に問い詰められた。悪いのは国王陛下だろう。もちろん陛下に面と向かって文句を言うことはできないが、いい迷惑だ。だが多少は説明も必要か。

「話してもいいそうなので言ってしまうと、アルマは陛下が使用人の一人に産ませた子供で、使用人の娘として育てられた。年齢はナターリエ殿下の一つ上になる」

 事情を知らないカレンとエルザ、そしてナターリエ王女に簡単に説明する。

「軍学校時代に初めて王城でアルマを見た時は、まさか陛下の血を引いているとは知らなかった。それからすぐに孤児院に預けられたから、おそらく何かあったんだろうと思っていたら、という話だ」
「なんだ、以前に会っていたのか」
「いえ、かつて誕生パーティーに招待されたことがありましたが、あのときに会場を覗いていたのを見ただけです。顔まではっきりとは分かりませんでしたが、髪の色が特徴的でしたので覚えていました」
「そう言えば、そんなことを言っていたな」

 誕生パーティーは立食だったので、俺は邪魔にならない端の方にいた。つまり一番手前で入り口に近かったので、覗いていたアルマが一瞬見えた訳だ。入口に近いとは言えそれなりに距離があったので、さすがに顔までは覚えられなかったが、銀色の髪は印象に残っていた。

「はいっ。私もエルマー様の髪の色を覚えていて、それですぐに分かりました」
「私はアルマのことを良家のご令嬢だと思っていました。ではあの寄付をしてくださった年配のご夫婦はアルマの家の使用人ではないと?」

 エルザが疑問を口にした。アルマが孤児院に来た時は俺はいなかったから、そのあたりの経緯は知らない。たしか演習で遠出していた時だっただろうか。

「それはブラント夫妻だな。夫のアルバンは私が幼い頃に教育係をしていて、妻のエーディトは家庭教師だった。王城の外で最も頼りにしている二人だ。先ほどのエルマーの説明に続けると、カリーナは使用人の娘として王城で育てられていたが、フロッシュゲロー伯爵に目を付けられてしまった。それで城から逃すためにブラント夫妻に一度預け、そこからあの孤児院に行ってもらうことになった。私もカリーナが妹だと分かったのは、先ほどエルマーが言った誕生パーティーの直後だ」
「あの頃、殿下は少しお疲れでしたね」
「ああ、その件でこっそりとブラント夫妻に連絡を取ったりしたからな」
「みなさん色々とあったのですね」

 ナターリエ王女がボソッと呟いた。

「まあな。私が偉そうに言えることではないが、結局のところ、エルマーがいてくれたのが大きい。お陰で叔父から逃れることができた」
「それを言うなら、私は殿下と親しくできたお陰で出征して戦功を立てることができました。そうでなければ今頃は領地を失っていたでしょう」
「みんな少しずつ他の人のお陰で今があるんじゃない?」

 カレンがそう言ったが、おそらくそれがこの場では正しく思える。誰のお陰だとか言い始めたら終わりそうにないからな。俺だってエルザやカレンがいなかったら今ごろ何をしているか分かったものではない。

「ああ、思い出した。この城を建てたのはそちらにいるカレンの父親だと先ほど言っていたな。よほどの技術を持っている魔法職人だろうが、彼女もそうなのか?」

 殿下の言う魔法職人とは、魔法を使って物を作る職人のことだ。建物だけではなく、武具や家具、食器なども含まれる。魔道具職人も魔法職人の一部だと言える。

「いえ、見てもらった方が早いでしょう。カレン、角を出してくれるか?」
「はーい」

 カレンは一言返事をするといつものように角を出した。

「そ、その角は……」
「殿下はこの国の北には竜がいるという話を聞いたことがありますか?」
「ああ、『死の大地』の北には恐ろしく高い山があり、そのあたりは竜の住処だと……そういうことなのか?」
「はい、彼女の両親がそうです」

 この国の一番北には魔獣が多く住む土地があり、そこには竜もいると思われている。カレンが産まれる前からクラースとパウラはいたわけだから、おそらくその二人のことだろう。

 カレンが俺と結婚したので、その二人は子育てが終わったとして旅に出かけた。旧エクディン準男爵領から領民たちを移動させてくれたのも、この城や町にある多くの家を建ててくれたのもその二人とカレンのおかげだ。

「どう表現したらいいのか困るが、おとぎ話を聞いているようだな。それで竜と山を祀っているのか」
わたくしもどこか別の世界にでも紛れ込んだような気がしますわ」

 こればかりは慣れてもらうしかない。特にナターリエ殿下には。そう考えるとハイデにいた者たちの順応力の高さは異様だったな。何を聞いても「ああそうなんだ」で済ませてしまう者が多い。単に物を知らないでは済ますことのできない大らかさだろう。

 とりあえずアルマの件については、城の外にいる者には話さないようにと言っておいた。言いふらすべき内容でもなく、誰が得をするとか損をするとか、そのような話でもないからだ。

 強いて言えば陛下の恥になるか? いや、王族なら落胤の一人や二人いてもおかしくないか。あの王妃様が厳格なだけで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...