ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
181 / 345
第二章:領主二年目第一部

新しい土地と問題(五):とばっちり

しおりを挟む
 地下通路から階段を上がると地下室らしき場所に出た。するとそこには跪いて頭を床に付けている一人の男、その前でオロオロしている殿下、そしてその横で困っている護衛たちが目に入った。あれは話に聞いたことのある土下座というやつか?

 俺は近くにいる護衛の騎士に声をかけた。

「これはどのような図なんだ?」
「殿下が地下室の調査を指示すると、今しがた男爵たちが出てきた階段が見つかりました」
「当然だが最初は隠してあったのか」
「その簡単な蓋ですが、乗せれば床にしか見えません」

 この騎士が指したのは石の板だった。見た目は床材の石に似せてある。確かにこれを穴の上に乗せれば単なる床にしか見えない。思い切り踏みつければ抜けるかもしれないが、歩くくらいなら大丈夫だろう。

「それでその階段を見たツェーデン子爵は自分には王家に逆らうような意図はないと言ってあのような姿勢になり、殿下はツェーデン子爵の王家に対する忠誠を疑っていないと言っています。ですがツェーデン子爵はただ頭を下げるだけで、膠着状態というところです」
「真面目と真面目がお互いに譲り合っている感じか」
「言い得て妙ですが、その通りです」

 どれだけこのやりとりをしているのかは分からないが、あまり長くするものでもないだろう。

「殿下、私から少しよろしいですか?」
「ああ、すまんが頼む」

 殿下は俺と同じで、たまに言葉が足りないことがある。それで相手に誤解を与えたのならそれをを一つ一つ解かなければならない。ツェーデン子爵の側で膝を付けて話しかける。

「ツェーデン子爵、少しよろしいか?」
「ああ、ノルト男爵ですな。このアルノー・キュンストラー、この度は大変なことをしてしまったようで。私が屋敷をきちんと調べなかったがために、まさかこのようなことに」
「いや、ツェーデン子爵、まず私の話を聞いてもらいたい。事の起こりは私が土地を買ったことにあります」

 ツェーデン子爵にとってはいきなり王城から手紙が届き、さらに殿下がやって来て地下を調べるという話に思えたのかもしれない。

「ツェーデン子爵はノイフィーア伯爵のことはご存じですか?」
「はい、処罰されたようですね」
「ええ。彼はこの下に地下通路を掘り、王城の宝物庫の隣、さらにはずっとその先にある屋敷まで繋げていました。悪事を企んでいたことは明白です」

 まだ厳密な調査を行ったわけではないので明言はできないが、地下通路の一つは王城の真下を通ってさらに向こう側、うちの屋敷の裏まで伸びている。そしてもう一つはまったく反対側に作りかけて止まっている。この反対側への通路は明らかにここで行き止まりになっているわけではなく、掘っている途中で中断したような形だ。

 このまま掘り進んだとすれば、王都の西南西に掘り進むことになり、もし王都から外までこの地下通路が繋がったとすれば、そちらには何があるか。

「何のために、誰のためにそのようなことをしていたのかはお分かりですね?」
「ひょっとしなくてもゴール王国ですな」

 俺は無言で頷く。現在残っている貴族ならそう考えるだろう。

「まだこの地下通路は完成していませんが、もし王都の外から援軍を呼ぼうとすれば、どこか王都の外にある建物にでも兵士を集め、そこから地下道に入り、そして宝物庫から王城に侵入します。ノイフィーア伯爵は大公派でしたので、そのあたりの警備をあえて薄くして、の兵を呼び込むこともできたでしょう。そうなれば、その後はお分かりだと思いますが」
「は、はい」

 さすがにその先は口に出せないが、おそらく国王陛下と王妃殿下、そして王太子殿下はで亡くなることになるだろう。そしておそらく王女殿下たちはゴール王国の王家やどこかの貴族に嫁いだだろう。

「もしこの地下通路が露見せず、つまり危険な状態に置かれていたとしたら、このことを知っている何者かがこの地下通路を利用して悪事を働くことがあり得たわけです。つまり子爵、あなたがこの場所を殿下に対して明け渡したことで、王城に対する危険がなくなったとも言えます。言い換えれば、あなたが最大の功労者とも言えるのです」
「そ、そうなのですか?」

 詭弁とも言えよう。『困ったら混乱させよ』という言葉もある。とりあえずこの場を収めることが何より重要だ。

「殿下はあなたを高く評価しています。だからこそ殿下御自らここに足を運ばれたのです。そうでなければ有無を言わせずに兵士たちに踏み込ませたでしょう。そのことをご理解いただきたい」
「はい」

 年齢も爵位も下の俺が言えるのはこれくらいだ。この後は殿下にお任せするしかない。

「ツェーデン子爵。私の言葉が足りなかったようで誤解を与えたかもしれないが、卿の王家に対する忠誠心は私も高く評価している。とりあえず今回の件に関しては、この地下通路を調査し、それが終われば埋めなければならない。この場所に関して、しばらく王家預かりにしてもらいたい」
「はっ、かしこまりました」

 横で見ながらほっとする。これで大丈夫だろう。俺にできることは地下通路の穴埋めだな。

「ノルト男爵にはこの地下通路の調査の継続、そして必要に応じて地下通路の埋め戻しを命ずる」
「はっ」
「ツェーデン子爵にはその作業が終わるまではその作業に協力するように」
「仰せのままに」

 さて、この場が収まれば俺がするのはあの先の調査だ。先があるのかないのか。

「殿下、この地下通路の先ですが、確認のために少し掘ってみます。それで何もなさそうなら順に端から土を入れて固めます。そのような形でよろしいでしょうか?」
「それでいい。父からは現場に任せると言われている。一番は王城の地下から何者も入らないようにすることだ」
「分かりました」

 とりあえずまた地下に入る。通路の先は掘りかけたままの形だが、さて。

 土魔法は土や石に魔力を流し、それによって形を変えたり切り離したり繋げたりすることができる。単に魔力を流して空洞がないかなどの調査をするのにも使える。

 流す範囲が広ければそれだけ魔力がたくさん必要だ。逆に言えば、狭くすれば遠くまで調べることができる。魔力は以前に比べてかなり増えたが、それでもいくらでも使えるほどではない。できる限り範囲を狭くして、遠くまで届くように探る必要がある。

 行き止まりに手を当て、そこに魔力を流す。もちろん多少の空洞はあるかもしれないので、その周囲も少し周囲も探るために伸ばした魔力を動かしながら伸ばしていく。

 反応は……ない。

 もう少し……ない。

 何もなければそれで済む話だが……あ、あるな。

 突き当たりから一キロほど先に進むと、そこで土がなくなった。その周囲にはある。つまり空洞らしきものがある。

 空洞はやはり通路のようになっている。その通路はどうやらまっすぐ王都の外にまで繋がっている可能性があるが、さすがにこれ以上は魔力が続きそうにない。流すだけでもそれなりに疲れる。今日はここまでにして王都の外は殿下に任せよう。一度上がって報告するか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...