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第二章:領主二年目第一部
新しい土地と問題(五):とばっちり
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地下通路から階段を上がると地下室らしき場所に出た。するとそこには跪いて頭を床に付けている一人の男、その前でオロオロしている殿下、そしてその横で困っている護衛たちが目に入った。あれは話に聞いたことのある土下座というやつか?
俺は近くにいる護衛の騎士に声をかけた。
「これはどのような図なんだ?」
「殿下が地下室の調査を指示すると、今しがた男爵たちが出てきた階段が見つかりました」
「当然だが最初は隠してあったのか」
「その簡単な蓋ですが、乗せれば床にしか見えません」
この騎士が指したのは石の板だった。見た目は床材の石に似せてある。確かにこれを穴の上に乗せれば単なる床にしか見えない。思い切り踏みつければ抜けるかもしれないが、歩くくらいなら大丈夫だろう。
「それでその階段を見たツェーデン子爵は自分には王家に逆らうような意図はないと言ってあのような姿勢になり、殿下はツェーデン子爵の王家に対する忠誠を疑っていないと言っています。ですがツェーデン子爵はただ頭を下げるだけで、膠着状態というところです」
「真面目と真面目がお互いに譲り合っている感じか」
「言い得て妙ですが、その通りです」
どれだけこのやりとりをしているのかは分からないが、あまり長くするものでもないだろう。
「殿下、私から少しよろしいですか?」
「ああ、すまんが頼む」
殿下は俺と同じで、たまに言葉が足りないことがある。それで相手に誤解を与えたのならそれをを一つ一つ解かなければならない。ツェーデン子爵の側で膝を付けて話しかける。
「ツェーデン子爵、少しよろしいか?」
「ああ、ノルト男爵ですな。このアルノー・キュンストラー、この度は大変なことをしてしまったようで。私が屋敷をきちんと調べなかったがために、まさかこのようなことに」
「いや、ツェーデン子爵、まず私の話を聞いてもらいたい。事の起こりは私が土地を買ったことにあります」
ツェーデン子爵にとってはいきなり王城から手紙が届き、さらに殿下がやって来て地下を調べるという話に思えたのかもしれない。
「ツェーデン子爵はノイフィーア伯爵のことはご存じですか?」
「はい、処罰されたようですね」
「ええ。彼はこの下に地下通路を掘り、王城の宝物庫の隣、さらにはずっとその先にある屋敷まで繋げていました。彼が悪事を企んでいたことは明白です」
まだ厳密な調査を行ったわけではないので明言はできないが、地下通路の一つは王城の真下を通ってさらに向こう側、うちの屋敷の裏まで伸びている。そしてもう一つはまったく反対側に作りかけて止まっている。この反対側への通路は明らかにここで行き止まりになっているわけではなく、掘っている途中で中断したような形だ。
このまま掘り進んだとすれば、王都の西南西に掘り進むことになり、もし王都から外までこの地下通路が繋がったとすれば、そちらには何があるか。
「何のために、誰のためにそのようなことをしていたのかはお分かりですね?」
「ひょっとしなくてもゴール王国ですな」
俺は無言で頷く。現在残っている貴族ならそう考えるだろう。
「まだこの地下通路は完成していませんが、もし王都の外から援軍を呼ぼうとすれば、どこか王都の外にある建物にでも兵士を集め、そこから地下道に入り、そして宝物庫から王城に侵入します。ノイフィーア伯爵は大公派でしたので、そのあたりの警備をあえて薄くして、味方の兵を呼び込むこともできたでしょう。そうなれば、その後はお分かりだと思いますが」
「は、はい」
さすがにその先は口に出せないが、おそらく国王陛下と王妃殿下、そして王太子殿下はご病気で亡くなることになるだろう。そしておそらく王女殿下たちは両国の架け橋となるようにゴール王国の王家やどこかの貴族に嫁いだだろう。
「もしこの地下通路が露見せず、つまり危険な状態に置かれていたとしたら、このことを知っている何者かがこの地下通路を利用して悪事を働くことがあり得たわけです。つまり子爵、あなたがこの場所を殿下に対して明け渡したことで、王城に対する危険がなくなったとも言えます。言い換えれば、あなたが最大の功労者とも言えるのです」
「そ、そうなのですか?」
詭弁とも言えよう。『困ったら混乱させよ』という言葉もある。とりあえずこの場を収めることが何より重要だ。
「殿下はあなたを高く評価しています。だからこそ殿下御自らここに足を運ばれたのです。そうでなければ有無を言わせずに兵士たちに踏み込ませたでしょう。そのことをご理解いただきたい」
「はい」
年齢も爵位も下の俺が言えるのはこれくらいだ。この後は殿下にお任せするしかない。
「ツェーデン子爵。私の言葉が足りなかったようで誤解を与えたかもしれないが、卿の王家に対する忠誠心は私も高く評価している。とりあえず今回の件に関しては、この地下通路を調査し、それが終われば埋めなければならない。この場所に関して、しばらく王家預かりにしてもらいたい」
「はっ、かしこまりました」
横で見ながらほっとする。これで大丈夫だろう。俺にできることは地下通路の穴埋めだな。
「ノルト男爵にはこの地下通路の調査の継続、そして必要に応じて地下通路の埋め戻しを命ずる」
「はっ」
「ツェーデン子爵にはその作業が終わるまではその作業に協力するように」
「仰せのままに」
さて、この場が収まれば俺がするのはあの先の調査だ。先があるのかないのか。
「殿下、この地下通路の先ですが、確認のために少し掘ってみます。それで何もなさそうなら順に端から土を入れて固めます。そのような形でよろしいでしょうか?」
「それでいい。父からは現場に任せると言われている。一番は王城の地下から何者も入らないようにすることだ」
「分かりました」
とりあえずまた地下に入る。通路の先は掘りかけたままの形だが、さて。
土魔法は土や石に魔力を流し、それによって形を変えたり切り離したり繋げたりすることができる。単に魔力を流して空洞がないかなどの調査をするのにも使える。
流す範囲が広ければそれだけ魔力がたくさん必要だ。逆に言えば、狭くすれば遠くまで調べることができる。魔力は以前に比べてかなり増えたが、それでもいくらでも使えるほどではない。できる限り範囲を狭くして、遠くまで届くように探る必要がある。
行き止まりに手を当て、そこに魔力を流す。もちろん多少の空洞はあるかもしれないので、その周囲も少し周囲も探るために伸ばした魔力を動かしながら伸ばしていく。
反応は……ない。
もう少し……ない。
何もなければそれで済む話だが……あ、あるな。
突き当たりから一キロほど先に進むと、そこで土がなくなった。その周囲にはある。つまり空洞らしきものがある。
空洞はやはり通路のようになっている。その通路はどうやらまっすぐ王都の外にまで繋がっている可能性があるが、さすがにこれ以上は魔力が続きそうにない。流すだけでもそれなりに疲れる。今日はここまでにして王都の外は殿下に任せよう。一度上がって報告するか。
俺は近くにいる護衛の騎士に声をかけた。
「これはどのような図なんだ?」
「殿下が地下室の調査を指示すると、今しがた男爵たちが出てきた階段が見つかりました」
「当然だが最初は隠してあったのか」
「その簡単な蓋ですが、乗せれば床にしか見えません」
この騎士が指したのは石の板だった。見た目は床材の石に似せてある。確かにこれを穴の上に乗せれば単なる床にしか見えない。思い切り踏みつければ抜けるかもしれないが、歩くくらいなら大丈夫だろう。
「それでその階段を見たツェーデン子爵は自分には王家に逆らうような意図はないと言ってあのような姿勢になり、殿下はツェーデン子爵の王家に対する忠誠を疑っていないと言っています。ですがツェーデン子爵はただ頭を下げるだけで、膠着状態というところです」
「真面目と真面目がお互いに譲り合っている感じか」
「言い得て妙ですが、その通りです」
どれだけこのやりとりをしているのかは分からないが、あまり長くするものでもないだろう。
「殿下、私から少しよろしいですか?」
「ああ、すまんが頼む」
殿下は俺と同じで、たまに言葉が足りないことがある。それで相手に誤解を与えたのならそれをを一つ一つ解かなければならない。ツェーデン子爵の側で膝を付けて話しかける。
「ツェーデン子爵、少しよろしいか?」
「ああ、ノルト男爵ですな。このアルノー・キュンストラー、この度は大変なことをしてしまったようで。私が屋敷をきちんと調べなかったがために、まさかこのようなことに」
「いや、ツェーデン子爵、まず私の話を聞いてもらいたい。事の起こりは私が土地を買ったことにあります」
ツェーデン子爵にとってはいきなり王城から手紙が届き、さらに殿下がやって来て地下を調べるという話に思えたのかもしれない。
「ツェーデン子爵はノイフィーア伯爵のことはご存じですか?」
「はい、処罰されたようですね」
「ええ。彼はこの下に地下通路を掘り、王城の宝物庫の隣、さらにはずっとその先にある屋敷まで繋げていました。彼が悪事を企んでいたことは明白です」
まだ厳密な調査を行ったわけではないので明言はできないが、地下通路の一つは王城の真下を通ってさらに向こう側、うちの屋敷の裏まで伸びている。そしてもう一つはまったく反対側に作りかけて止まっている。この反対側への通路は明らかにここで行き止まりになっているわけではなく、掘っている途中で中断したような形だ。
このまま掘り進んだとすれば、王都の西南西に掘り進むことになり、もし王都から外までこの地下通路が繋がったとすれば、そちらには何があるか。
「何のために、誰のためにそのようなことをしていたのかはお分かりですね?」
「ひょっとしなくてもゴール王国ですな」
俺は無言で頷く。現在残っている貴族ならそう考えるだろう。
「まだこの地下通路は完成していませんが、もし王都の外から援軍を呼ぼうとすれば、どこか王都の外にある建物にでも兵士を集め、そこから地下道に入り、そして宝物庫から王城に侵入します。ノイフィーア伯爵は大公派でしたので、そのあたりの警備をあえて薄くして、味方の兵を呼び込むこともできたでしょう。そうなれば、その後はお分かりだと思いますが」
「は、はい」
さすがにその先は口に出せないが、おそらく国王陛下と王妃殿下、そして王太子殿下はご病気で亡くなることになるだろう。そしておそらく王女殿下たちは両国の架け橋となるようにゴール王国の王家やどこかの貴族に嫁いだだろう。
「もしこの地下通路が露見せず、つまり危険な状態に置かれていたとしたら、このことを知っている何者かがこの地下通路を利用して悪事を働くことがあり得たわけです。つまり子爵、あなたがこの場所を殿下に対して明け渡したことで、王城に対する危険がなくなったとも言えます。言い換えれば、あなたが最大の功労者とも言えるのです」
「そ、そうなのですか?」
詭弁とも言えよう。『困ったら混乱させよ』という言葉もある。とりあえずこの場を収めることが何より重要だ。
「殿下はあなたを高く評価しています。だからこそ殿下御自らここに足を運ばれたのです。そうでなければ有無を言わせずに兵士たちに踏み込ませたでしょう。そのことをご理解いただきたい」
「はい」
年齢も爵位も下の俺が言えるのはこれくらいだ。この後は殿下にお任せするしかない。
「ツェーデン子爵。私の言葉が足りなかったようで誤解を与えたかもしれないが、卿の王家に対する忠誠心は私も高く評価している。とりあえず今回の件に関しては、この地下通路を調査し、それが終われば埋めなければならない。この場所に関して、しばらく王家預かりにしてもらいたい」
「はっ、かしこまりました」
横で見ながらほっとする。これで大丈夫だろう。俺にできることは地下通路の穴埋めだな。
「ノルト男爵にはこの地下通路の調査の継続、そして必要に応じて地下通路の埋め戻しを命ずる」
「はっ」
「ツェーデン子爵にはその作業が終わるまではその作業に協力するように」
「仰せのままに」
さて、この場が収まれば俺がするのはあの先の調査だ。先があるのかないのか。
「殿下、この地下通路の先ですが、確認のために少し掘ってみます。それで何もなさそうなら順に端から土を入れて固めます。そのような形でよろしいでしょうか?」
「それでいい。父からは現場に任せると言われている。一番は王城の地下から何者も入らないようにすることだ」
「分かりました」
とりあえずまた地下に入る。通路の先は掘りかけたままの形だが、さて。
土魔法は土や石に魔力を流し、それによって形を変えたり切り離したり繋げたりすることができる。単に魔力を流して空洞がないかなどの調査をするのにも使える。
流す範囲が広ければそれだけ魔力がたくさん必要だ。逆に言えば、狭くすれば遠くまで調べることができる。魔力は以前に比べてかなり増えたが、それでもいくらでも使えるほどではない。できる限り範囲を狭くして、遠くまで届くように探る必要がある。
行き止まりに手を当て、そこに魔力を流す。もちろん多少の空洞はあるかもしれないので、その周囲も少し周囲も探るために伸ばした魔力を動かしながら伸ばしていく。
反応は……ない。
もう少し……ない。
何もなければそれで済む話だが……あ、あるな。
突き当たりから一キロほど先に進むと、そこで土がなくなった。その周囲にはある。つまり空洞らしきものがある。
空洞はやはり通路のようになっている。その通路はどうやらまっすぐ王都の外にまで繋がっている可能性があるが、さすがにこれ以上は魔力が続きそうにない。流すだけでもそれなりに疲れる。今日はここまでにして王都の外は殿下に任せよう。一度上がって報告するか。
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