ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

区画整理(三):整理開始

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 ガコッ、ガコッ、ガラッ……

 孤児院の方へ移った者たちが前日まで住んでいた場所が壊されている。この作業のための人員の多くもこの貧民街スラムから集めた。一部は俺とカレンが転移を使ってドラゴネットから運んでいる。

 全体の指揮を執るのはブルーノ。建築の指揮はフランツで、シュタイナーとフォルカー、アーダムの三人が石壁を崩したり固めている。彼らが崩した建物は回収し、石などの再利用ができる物は再利用する。無理な物は処分する。

 ドラゴネットの方はその間はオットマーに面倒を見てもらう。そちらで土魔法が必要ならモーリッツが担当してくれることになっている。大きな穴を掘るならカレンだ。

「すぐ目の前で家を壊したり建てたりするのを見たことってあまりないけど、この速さってどうなの?」
「うちよりも遅いな。まだ連携が上手くいっていない」
「これでねえ」

 ある程度の場所が確保できたら、壊す作業をしつつ建てる作業も並行して行う。俺がやれば早く終わるだろうが、ここで暮らす者たちには、自分たちで建てた建物に住むという実感を持ってもらいたい。その方が絶対に愛着が出るから。だから俺は基礎をしっかりと固めるくらいしかしない。

 他人が作ったものを与えられれば雑に扱うこともあるが、自分で作ったものなら大切に扱うだろう。物は同じだとしても、それができる過程というのは意外に馬鹿にできない。



◆ ◆ ◆



 建物の解体を始めたのは今日からだが、少し前に俺とゲルトさんで住人たちに説明を行った。

「ここにみんなが安く住めるような家を建て、近くに安く食事ができる場所を用意する。そのために、一部ずつだが教会の裏にある孤児院のところに移ってもらい、完成したところから入居してもらうことになる」

 とりあえず建物が完成次第ここに戻れることは伝えた。

「エルマー様、本当に大丈夫ですか?」
「戻れないなんてことはないっすよね?」
「大丈夫だ。俺が責任を持つ。お前たちだってあの焼け焦げた建物が残っている場所で生活するのも嫌だろう」

 反発はなかったが、さすがに不安を持つ者は多かった。こういう時に一方的にこっちの考えを押しつけては彼らには不安が残るはずだ。決まっている範囲で説明をする。

「安い食事ってどれくらいですか?」
「ああ、それはパンとズッペスープともう一品で銅貨一枚だ。少なくとも今年を入れて三年はそれよりも高くはしない」
「外で食べるよりもかなり安いですね」
「再来年まではその値段だが、その先は保証できないぞ。とりあえずみんなに金ができるまでだ。それでもできる限り上げないつもりだ」

 話を始めると当然のように疑問が飛び出した。それに対して一つずつ説明した。

「食事を安くする代わりに、住むためには少し金がかかる。家賃は必要だ。一応ここは国の土地だと理解してほしい」

 これまで勝手に住み着いていたわけだが、ここをきちんとした区画として整理する。そしてそこに低所得者向けの住居を用意し、これまでここで暮らしていた者たちを優先的に住まわせる。

「それはどれくらいになりますか?」
「金額は未定だが、大半の者は仕事を得ているだろう。しっかりと働くためにはしっかりとした食事を取る必要がある。それにきちんと寝て次の日に備える必要もあるだろう。一か月あたりに必要な金は、外で何を食べるかによって違うだろうが、今よりも格段に安くなるのは間違いない。ここで暮らす者たちから搾り取ろうという話ではない。きちんと金を払って暮らすということを思い出してもらいたい」

 このようなやり取りがあり、最終的に了解を得た。

 彼らにしてみると、生活にかかる金が変わらないのなら隙間風のない家に住みたいと思うのは当然だ。しかも安くなるというのなら拒否する理由はない。

 食事はいつまで銅貨一枚かは分からないが、俺が関わっている以上、今年を含めて三年間、税が免除されている間はその値段に据え置こうと考えている。

 いずれ上げたとしても銅貨二枚か三枚か、せいぜいそれくらいだろう。その頃にはこの場所は王都にある多くの街区の一つになっていればいい。



◆ ◆ ◆



 作業をしていると見物人が増えていた。顔を見たことがある気がするのは、この貧民街スラムの近くに住んでいる者たちだからだろう。

「我々にも仕事をさせてもらえませんか?」
「いいぞ。人が増えればそれだけ早く終わるからな。ヨハン、人手の追加だ」
「分かりました。おーい、仕事がしたい者はこっちへ。簡単な手続きをする」

 これだけ人がいれば大丈夫だろう。俺は俺で孤児院の方に移動して別のことをする。

「とりあえず仮設だからこれくらいでいいか」
「あっという間にできるのですね」

 孤児院の庭の部分を囲って簡単な小屋のようにする。石造りの愛想のない建物だが、ずっとここに置くつもりもない。その小屋には暖房を入れる。暖房と言っても、クラースが作ってくれた暖かくなる柱、あれを真ん中に立てるだけ。床と天井に固定すれば問題ない。建物はこれでいい。

 次はベッドだ。さすがに中は寒くないとは言っても床で寝れば体を壊す。だからアレクとホラーツが作ってくれた軽い板を使って簡易なベッドを作る。切れ目を入れたら格子状に組んで土台部分を作り、その上に一枚乗せる。もちろん飛び乗ったら危ないが、普通に寝る分には問題ないだろう。

「ベッドはこのように板を組み合わせればすぐに完成する。後は任せていいか?」
「はい、お任せください」

 孤児院の方は商会から派遣で来ている者たちに任せることにした。あのベッドは普通の木の板で作れば相当重くなるが、あの軽量板なら何分の一かで済む。数を用意したい時にはありがたい。俺は異空間に入れて運べるが、そうでなければ運ぶのも大変だ。
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