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第二章:領主二年目第一部
新しい土地と問題(三):屋敷の地下
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うちの屋敷のすぐ裏にある、先ほど買い取ったばかりの土地をアントンと見にきている。
「これはなかなかひどい建物ですね」
「上物は必要ないだろうから処分しよう。捨てるのも手間がかかるだろうから、固めて適当な大きさの石材にすればいいか」
屋敷の前に立って見上げるが、なかなかひどい。正面はまだマシだが、一部屋根が落ちて雨が入り込んで、内部は相当傷んでいるようだ。
ここはどこかの商会が持っていたらしいが、例の一件でいなくなった。よくもまあ、うちの裏の土地なんて持とうと思ったものだ。まさか地下道でも掘ってうちに嫌がらせでもしようとしたんじゃないだろうな。さすがにそれはない……いや、一度調べておくべきか。
地下に空洞でもあって崩れたら問題だ。土魔法を使う要領で地面に魔力を流してみる。
……ん?
「何かあるな」
「庭にですか?」
「ああ、少し深いが」
敷地正面の柵はツタに覆われているから、閉めてあれば庭で何かをしても見えないだろう。少し掘るか。
庭の真ん中を掘ると、五メートルほど下に土ではなく平らな石があった。いや、これは魔法で固めているのか。
「何だこれは? こんなところに下水は通っていることはないよな?」
「位置的にはおかしいでしょう。道の下ならともかく」
周囲の土を退けると、屋敷の下から前の道に向かって少し下がりながら伸びていた。冗談で口にしたように、うちに対して嫌がらせで地下道でも掘るなら後ろ側、裏庭を挟んでいるが、背中合わせに建っているうちの屋敷の方に向かって掘るだろう。これでは逆だ。
「旦那様、裏も確認した方がいいのではありませんか?」
「そうだな、見てみよう」
今度は裏に回って地面に魔力を流すと、何もない。
「裏にはない。少なくとも同じ深さまでは」
「とすると前のみですか」
「今のところは、だが。次は屋敷の中を調べてみるか」
「分かりました」
裏口の鍵を開けようと思ったが、錆びていて開かない。仕方がないので壊して中に入る。自分の土地になったが、空き家を漁っている気分になる。
「何もありませんね」
「捕まった時に漁られただろうからな」
元々がかなり古い建物だったのが、ここ一年近く何も手入れされていないから痛みが激しい。雨が入り込んで壁が剥がれかけている場所もある。
「床には何もないな」
床板を蹴ってみるが普通の床だ。
「庭のあの石の位置からすると、もう一つ隣の部屋か」
玄関から見ると広間から右だな。廊下を通ってあの石の延長上にあるはずの部屋に入る。他にも部屋があるからこの部屋とは限らないが、あの延長上にある。
「何もありませんね。床にもおかしなところはありません」
壁際には何もない。床にも足跡くらいしかない。
「いや何もなさすぎておかしい」
こんな立派な部屋なのに使った形跡がない。何のための部屋だ?
「何もないのがおかしいのですか?」
「ああ。床が木でできているなら、机を置けば跡が残る。椅子を引けば筋が残る」
「絨毯が敷いてあったのではありませんか?」
「だがこれだけ靴跡が残っている。普通は建てたらまず絨毯を敷くだろう」
途中から敷くのもなくはないだろうが、普通は最初に敷くはずだ。こんなに足跡が残る前に。
「それに棚を長く同じ場所に置けば、埃が固まったりして壁に跡が残る。何も痕跡がないというのはあり得ない。家捜しされて中の物が持って行かれたとしても、掃除まですることはないだろう」
「そう言われれば、靴跡しかありませんね」
「ああ、靴跡しかない。つまり絨毯がないこの部屋に人は立ち入っていた。だが最初から椅子も机もなかった。これはどういうことだ?」
何もしないのに人が入る部屋。つまりこの部屋そのものには意味がない。ここは単なる通り道……
「壁か!」
「壁ですか?」
待機部屋と同じかもしれない。壁に触れて魔力を通す。先ほどもやったが、土魔法で石や土に働きかけると状態が分かる。硬いか柔らかいか。それから固めたり砕いたりするわけだ。魔力を通すだけなら何も起こらないが状態の把握ができる。
「壁の中に空洞が……あるな。この裏だ」
一面ずつ触ると、たしかに入り口から右の壁の中に空洞があるようだった。おそらく何かを触ったりすると開くんだろうが……
「穴を開ければいいか」
「いずれ壊すなら同じですね」
壁に穴を開けると、やはりあの待機部屋と同じように地下へ進む階段があった。そこを下りるとまっすぐ伸びた通路が見える。照明の魔道具があってよかった。
「まっすぐですね」
「あえて曲げる必要はないだろうな。だが川や下水に引っかからないように少しずつ下がっているようだな」
「入っておいて今さらですが、壁や天井が崩れることはないのですか?」
「周囲は魔法で簡単にだが固められている。俺がトンネル工事で使った手法と基本は同じだ。だがそこまで分厚く固めていないから、石の板のようになったんだろう」
しばらく進むがなかなか先が見えない。これは相当長い、そして深そうだと思った。それほど急ではないが下り坂が見えたからだ。
「さすがにこれ以上進むのもな」
「とりあえずその坂まで調べませんか?」
「そうだな、そこまで見てみよう」
坂を下りて先を照らすと、また通路が伸びていた。キリがなさそうだ。これ以上進むのはやめ、一度屋敷に戻ることにした。
「これは……帰って殿下に相談だな」
「王太子殿下にですか? エクムント殿にではなく?」
エクムント殿に話をしても結局は殿下に話さないわけにはいかない。急ぐ必要はないかもしれないが、これは厄介物の可能性が高い。
「ああ、この地下通路だが、この屋敷の下から前庭を通ってまっすぐ進むとなると、どこへ繋がっていると思う?」
「今の商会があそこで、お屋敷があってその裏の土地がここで、進むと王都の中心……まさか」
「ああ、おそらく王城だ」
「緊急時の脱出路でしょうか?」
「それなら出口のある建物を売るなんてあり得ないだろう。しかもその前は大公派の貴族のお抱え商人が持っていた物件だ」
「むしろ逆ですね」
「だろうな。大公が手を回して売り払ったとなれば話は別だが」
王族の緊急時の脱出路とは考えにくい。そんな建物の土地が売られることはあり得ないだろう。書類が改竄された可能性もあるので否定はできないが。むしろ侵入用と考えた方が可能性が高い気がする。途中まで作っておいて、突入の直前に王城へ繋げる。
しかし、これほどの地下通路を掘れるとは、なかなかの魔力だな。俺が言うのもおかしいが。
「旦那様、王城までかなりの距離がありませんか?」
「ああ、あるな。あのトンネルほどやっかいではないが」
「それだけの魔法使いがよく見つけられましたね」
「俺も今さっきそう考えたが、掘ったのが一人とは限らないな。何十人も使って交代で掘らせれば意外と早くできたかもしれない。土魔法が使える者ならある程度はいるだろう」
アントンを商会に戻し、俺は王城へ向かうことにした。
「これはなかなかひどい建物ですね」
「上物は必要ないだろうから処分しよう。捨てるのも手間がかかるだろうから、固めて適当な大きさの石材にすればいいか」
屋敷の前に立って見上げるが、なかなかひどい。正面はまだマシだが、一部屋根が落ちて雨が入り込んで、内部は相当傷んでいるようだ。
ここはどこかの商会が持っていたらしいが、例の一件でいなくなった。よくもまあ、うちの裏の土地なんて持とうと思ったものだ。まさか地下道でも掘ってうちに嫌がらせでもしようとしたんじゃないだろうな。さすがにそれはない……いや、一度調べておくべきか。
地下に空洞でもあって崩れたら問題だ。土魔法を使う要領で地面に魔力を流してみる。
……ん?
「何かあるな」
「庭にですか?」
「ああ、少し深いが」
敷地正面の柵はツタに覆われているから、閉めてあれば庭で何かをしても見えないだろう。少し掘るか。
庭の真ん中を掘ると、五メートルほど下に土ではなく平らな石があった。いや、これは魔法で固めているのか。
「何だこれは? こんなところに下水は通っていることはないよな?」
「位置的にはおかしいでしょう。道の下ならともかく」
周囲の土を退けると、屋敷の下から前の道に向かって少し下がりながら伸びていた。冗談で口にしたように、うちに対して嫌がらせで地下道でも掘るなら後ろ側、裏庭を挟んでいるが、背中合わせに建っているうちの屋敷の方に向かって掘るだろう。これでは逆だ。
「旦那様、裏も確認した方がいいのではありませんか?」
「そうだな、見てみよう」
今度は裏に回って地面に魔力を流すと、何もない。
「裏にはない。少なくとも同じ深さまでは」
「とすると前のみですか」
「今のところは、だが。次は屋敷の中を調べてみるか」
「分かりました」
裏口の鍵を開けようと思ったが、錆びていて開かない。仕方がないので壊して中に入る。自分の土地になったが、空き家を漁っている気分になる。
「何もありませんね」
「捕まった時に漁られただろうからな」
元々がかなり古い建物だったのが、ここ一年近く何も手入れされていないから痛みが激しい。雨が入り込んで壁が剥がれかけている場所もある。
「床には何もないな」
床板を蹴ってみるが普通の床だ。
「庭のあの石の位置からすると、もう一つ隣の部屋か」
玄関から見ると広間から右だな。廊下を通ってあの石の延長上にあるはずの部屋に入る。他にも部屋があるからこの部屋とは限らないが、あの延長上にある。
「何もありませんね。床にもおかしなところはありません」
壁際には何もない。床にも足跡くらいしかない。
「いや何もなさすぎておかしい」
こんな立派な部屋なのに使った形跡がない。何のための部屋だ?
「何もないのがおかしいのですか?」
「ああ。床が木でできているなら、机を置けば跡が残る。椅子を引けば筋が残る」
「絨毯が敷いてあったのではありませんか?」
「だがこれだけ靴跡が残っている。普通は建てたらまず絨毯を敷くだろう」
途中から敷くのもなくはないだろうが、普通は最初に敷くはずだ。こんなに足跡が残る前に。
「それに棚を長く同じ場所に置けば、埃が固まったりして壁に跡が残る。何も痕跡がないというのはあり得ない。家捜しされて中の物が持って行かれたとしても、掃除まですることはないだろう」
「そう言われれば、靴跡しかありませんね」
「ああ、靴跡しかない。つまり絨毯がないこの部屋に人は立ち入っていた。だが最初から椅子も机もなかった。これはどういうことだ?」
何もしないのに人が入る部屋。つまりこの部屋そのものには意味がない。ここは単なる通り道……
「壁か!」
「壁ですか?」
待機部屋と同じかもしれない。壁に触れて魔力を通す。先ほどもやったが、土魔法で石や土に働きかけると状態が分かる。硬いか柔らかいか。それから固めたり砕いたりするわけだ。魔力を通すだけなら何も起こらないが状態の把握ができる。
「壁の中に空洞が……あるな。この裏だ」
一面ずつ触ると、たしかに入り口から右の壁の中に空洞があるようだった。おそらく何かを触ったりすると開くんだろうが……
「穴を開ければいいか」
「いずれ壊すなら同じですね」
壁に穴を開けると、やはりあの待機部屋と同じように地下へ進む階段があった。そこを下りるとまっすぐ伸びた通路が見える。照明の魔道具があってよかった。
「まっすぐですね」
「あえて曲げる必要はないだろうな。だが川や下水に引っかからないように少しずつ下がっているようだな」
「入っておいて今さらですが、壁や天井が崩れることはないのですか?」
「周囲は魔法で簡単にだが固められている。俺がトンネル工事で使った手法と基本は同じだ。だがそこまで分厚く固めていないから、石の板のようになったんだろう」
しばらく進むがなかなか先が見えない。これは相当長い、そして深そうだと思った。それほど急ではないが下り坂が見えたからだ。
「さすがにこれ以上進むのもな」
「とりあえずその坂まで調べませんか?」
「そうだな、そこまで見てみよう」
坂を下りて先を照らすと、また通路が伸びていた。キリがなさそうだ。これ以上進むのはやめ、一度屋敷に戻ることにした。
「これは……帰って殿下に相談だな」
「王太子殿下にですか? エクムント殿にではなく?」
エクムント殿に話をしても結局は殿下に話さないわけにはいかない。急ぐ必要はないかもしれないが、これは厄介物の可能性が高い。
「ああ、この地下通路だが、この屋敷の下から前庭を通ってまっすぐ進むとなると、どこへ繋がっていると思う?」
「今の商会があそこで、お屋敷があってその裏の土地がここで、進むと王都の中心……まさか」
「ああ、おそらく王城だ」
「緊急時の脱出路でしょうか?」
「それなら出口のある建物を売るなんてあり得ないだろう。しかもその前は大公派の貴族のお抱え商人が持っていた物件だ」
「むしろ逆ですね」
「だろうな。大公が手を回して売り払ったとなれば話は別だが」
王族の緊急時の脱出路とは考えにくい。そんな建物の土地が売られることはあり得ないだろう。書類が改竄された可能性もあるので否定はできないが。むしろ侵入用と考えた方が可能性が高い気がする。途中まで作っておいて、突入の直前に王城へ繋げる。
しかし、これほどの地下通路を掘れるとは、なかなかの魔力だな。俺が言うのもおかしいが。
「旦那様、王城までかなりの距離がありませんか?」
「ああ、あるな。あのトンネルほどやっかいではないが」
「それだけの魔法使いがよく見つけられましたね」
「俺も今さっきそう考えたが、掘ったのが一人とは限らないな。何十人も使って交代で掘らせれば意外と早くできたかもしれない。土魔法が使える者ならある程度はいるだろう」
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