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第二章:領主二年目第一部
エルマーの配慮
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いくら男性経験がないからって、いきなり旦那様でって……。
「でもいくらエルマー様に謝りたいからって、家を飛び出して王都まで探しに来て、そこで会えてここまで付いてきたわけですよねっ? その気がないならここまで来ていないと思います」
そりゃまあ、あのとき見た背の高い赤毛の男の子が、あのとき以上に立派になっていたら、そりゃあ……ねえ。実家を飛び出して王都で再会するまで、正直なところ本当に会えるとは思っていなかったから、もしかしたらご縁もあるのかなって、ちょっとくらいは、ねえ……。貴族様だし、その……お妾になれれば……って、どうしてあたしはその気になってるのよ。
「それにっ、カレンさんと話していたときですけど、エルマー様の服の裾を摘まんでいましたよね。照れた乙女みたいで可愛かったですよ」
「かっ、かわっ……」
「それにこれは確定事項ですっ。エルマー様はかなりヘルガさんのことを気に入っていますよ」
「え? そうなの? どこが?」
いや、本気で。これまでの会話を思い返して……どこをどう切り取っても気に入られているとは思えないんだけど。罰するのはとりあえず保留にするから忘れるなって感じじゃなかった?
「エルマー様は話し方が硬いですし、愛想もそれほどいいわけではありませんが、とっっっても優しい方なんですっ。順に説明しますので、ちょっと考えてみてください」
アルマさんはそんな前置きをして話し始めた。
「最初このお城で暮らしていたのはエルマー様とカレンさんとエルザさんと私だけでした。それから使用人の人たちが来て、今は使用人棟で寝泊まりしています」
「そこに私が来て、そしていきなりこのお城に」
「はいっ。ヘルガさんは使用人として来たことになっていますが、もし使用人棟に入ることになった場合、どこに入るかが問題になります。ここでは新人ですが、経緯はともかくエルマー様のお知り合い方です。読み書き計算も礼儀作法も一通り問題がありませんので、単なる下働きには絶っ対っにっ、できませんっ」
ものすごく熱い語りね。アルマさんは拳を握りしめながら力説してくれた。
「でもっ、もし一人部屋に入るとすると、特別扱いされるような仕事内容だと思われると思いますが、ヘルガさんの仕事は、まだ具体的に決まっていません。でも四人部屋などは経験が浅くて若い使用人ばかりですので、浮いてしまうかもしれません。それならどういう扱いをしたら丸く収まるか……」
仕事も決まってない、やって来たばっかりの新人に一人部屋は与えられない。でも四人部屋の女中は一〇歳から一三歳くらいが多い……って私よりも一〇以上も若いの?
使用人棟に入るのが問題なら来客棟の方?
「ちなみに来客棟の方ですけどっ、あちらは一度だけ使用されましたが、普段は誰も使っていない建物です。さすがにそこでずっと一人で寝泊まりするのはどうですか?」
「それは……ちょっと怖いかな」
建物の大きさとしては使用人棟と同じらしい。そこに一人……。使用人棟の方も四〇人が暮らしているのに、まだまだ空き部屋があるらしい。そんなところに一人……。暗いところが怖いとは言わないけど、ちょっと不安になりそう。
「そうなると入る場所は限られてきます。ちなみにお城の二階は家族の生活の場です」
ということは、そこは奥様たちだけ。家族じゃないあたしは……家族寄りの……愛人?
「あたしが旦那様とそういう関係の女だと思われるように?」
「はいっ。回りくどい言い方をしましたけどっ、それなら近くに置いても親しく話しかけても、他の使用人からすれば『ああ、知り合いを愛人として呼び寄せたのか』と思われるだけですっ。このお城には性格の悪い人は誰もいませんが、使用人棟にいれば少しくらいはやっかみを受ける可能性もあります。でも二階に住むならそんなことはありません。ヘルガさんを単なる使用人と考えているなら、そこまでの配慮はしないと思います」
なるほど。でもあのやり取りだけでそこまで考えられるのね。ものすごい頭の回転じゃない?
「それにっ、使用人棟の四人部屋に一人て入るというのもできたと思いますが、エルマー様はそうしなかったわけです。だから他の人たちとは別枠と考えていいと思いますよっ」
えーっと、でもそういうことなら……あれ? もしかしてあたしはお城の中では使用人だとは思われないってことになるのかな?
「それなら使用人として働くのは問題ありそう? どうしよう、あたしは普通に働くつもりで来たんだけど。そしたらまさかのお城だったし」
「大丈夫ですよっ。少し違う服装にしてみたらいいと思います。一見使用人っぽい服で、でも愛人っぽくも見えるような服を作ってもらいましょう。近いうちにデリアさんやフリーデさんたちに相談してみます」
「誰?」
名前をポンポン言われても全然分からないし。
「王都からやってきた仕立ての職人さんたちです。私のこの服もそうですよっ」
そう言われてアルマさんの服を見てみると、たしかに女中っぽく見えるけど、けっして仕事に向いているような服じゃなくて、女中服っぽいポケットのあるドレスね。でもどうしてわざわざそんな服を?
「ヘルガさんは背が高くて胸もありますのでっ、もう少しこう胸元がガバーーーッと開いた服が似合うと思いますよっ」
「胸元がガバーーーッ……」
「でもエルマー様以外に見せるのは嫌ですよねっ?」
「そりゃまあ」
別に他人に見られて喜ぶ趣味はないし、見せるならそりゃ……気になる人に……。
「普段はギリギリ見えそうで見えないくらいにしましょう。でもエルマー様の横に立ったときにだけ見えるようにしてっ、それでちょっと体をひねったら大事な部分がチラッと見えるようにしてっ、それで悩殺ですねっ」
「大事な部分がチラッ……」
「チャンスがあればエルマー様のお顔を胸の間にガバッといってみましょう」
「お顔を胸の間にガバッと……」
「そうですっ。それでそのまま……って、ヘルガさんっ‼ 大丈夫ですかっ⁉」
あー無理。アルマさん、ごめんなさい。ちょっと倒れるわ。あたしにはちょっと刺激が……
「でもいくらエルマー様に謝りたいからって、家を飛び出して王都まで探しに来て、そこで会えてここまで付いてきたわけですよねっ? その気がないならここまで来ていないと思います」
そりゃまあ、あのとき見た背の高い赤毛の男の子が、あのとき以上に立派になっていたら、そりゃあ……ねえ。実家を飛び出して王都で再会するまで、正直なところ本当に会えるとは思っていなかったから、もしかしたらご縁もあるのかなって、ちょっとくらいは、ねえ……。貴族様だし、その……お妾になれれば……って、どうしてあたしはその気になってるのよ。
「それにっ、カレンさんと話していたときですけど、エルマー様の服の裾を摘まんでいましたよね。照れた乙女みたいで可愛かったですよ」
「かっ、かわっ……」
「それにこれは確定事項ですっ。エルマー様はかなりヘルガさんのことを気に入っていますよ」
「え? そうなの? どこが?」
いや、本気で。これまでの会話を思い返して……どこをどう切り取っても気に入られているとは思えないんだけど。罰するのはとりあえず保留にするから忘れるなって感じじゃなかった?
「エルマー様は話し方が硬いですし、愛想もそれほどいいわけではありませんが、とっっっても優しい方なんですっ。順に説明しますので、ちょっと考えてみてください」
アルマさんはそんな前置きをして話し始めた。
「最初このお城で暮らしていたのはエルマー様とカレンさんとエルザさんと私だけでした。それから使用人の人たちが来て、今は使用人棟で寝泊まりしています」
「そこに私が来て、そしていきなりこのお城に」
「はいっ。ヘルガさんは使用人として来たことになっていますが、もし使用人棟に入ることになった場合、どこに入るかが問題になります。ここでは新人ですが、経緯はともかくエルマー様のお知り合い方です。読み書き計算も礼儀作法も一通り問題がありませんので、単なる下働きには絶っ対っにっ、できませんっ」
ものすごく熱い語りね。アルマさんは拳を握りしめながら力説してくれた。
「でもっ、もし一人部屋に入るとすると、特別扱いされるような仕事内容だと思われると思いますが、ヘルガさんの仕事は、まだ具体的に決まっていません。でも四人部屋などは経験が浅くて若い使用人ばかりですので、浮いてしまうかもしれません。それならどういう扱いをしたら丸く収まるか……」
仕事も決まってない、やって来たばっかりの新人に一人部屋は与えられない。でも四人部屋の女中は一〇歳から一三歳くらいが多い……って私よりも一〇以上も若いの?
使用人棟に入るのが問題なら来客棟の方?
「ちなみに来客棟の方ですけどっ、あちらは一度だけ使用されましたが、普段は誰も使っていない建物です。さすがにそこでずっと一人で寝泊まりするのはどうですか?」
「それは……ちょっと怖いかな」
建物の大きさとしては使用人棟と同じらしい。そこに一人……。使用人棟の方も四〇人が暮らしているのに、まだまだ空き部屋があるらしい。そんなところに一人……。暗いところが怖いとは言わないけど、ちょっと不安になりそう。
「そうなると入る場所は限られてきます。ちなみにお城の二階は家族の生活の場です」
ということは、そこは奥様たちだけ。家族じゃないあたしは……家族寄りの……愛人?
「あたしが旦那様とそういう関係の女だと思われるように?」
「はいっ。回りくどい言い方をしましたけどっ、それなら近くに置いても親しく話しかけても、他の使用人からすれば『ああ、知り合いを愛人として呼び寄せたのか』と思われるだけですっ。このお城には性格の悪い人は誰もいませんが、使用人棟にいれば少しくらいはやっかみを受ける可能性もあります。でも二階に住むならそんなことはありません。ヘルガさんを単なる使用人と考えているなら、そこまでの配慮はしないと思います」
なるほど。でもあのやり取りだけでそこまで考えられるのね。ものすごい頭の回転じゃない?
「それにっ、使用人棟の四人部屋に一人て入るというのもできたと思いますが、エルマー様はそうしなかったわけです。だから他の人たちとは別枠と考えていいと思いますよっ」
えーっと、でもそういうことなら……あれ? もしかしてあたしはお城の中では使用人だとは思われないってことになるのかな?
「それなら使用人として働くのは問題ありそう? どうしよう、あたしは普通に働くつもりで来たんだけど。そしたらまさかのお城だったし」
「大丈夫ですよっ。少し違う服装にしてみたらいいと思います。一見使用人っぽい服で、でも愛人っぽくも見えるような服を作ってもらいましょう。近いうちにデリアさんやフリーデさんたちに相談してみます」
「誰?」
名前をポンポン言われても全然分からないし。
「王都からやってきた仕立ての職人さんたちです。私のこの服もそうですよっ」
そう言われてアルマさんの服を見てみると、たしかに女中っぽく見えるけど、けっして仕事に向いているような服じゃなくて、女中服っぽいポケットのあるドレスね。でもどうしてわざわざそんな服を?
「ヘルガさんは背が高くて胸もありますのでっ、もう少しこう胸元がガバーーーッと開いた服が似合うと思いますよっ」
「胸元がガバーーーッ……」
「でもエルマー様以外に見せるのは嫌ですよねっ?」
「そりゃまあ」
別に他人に見られて喜ぶ趣味はないし、見せるならそりゃ……気になる人に……。
「普段はギリギリ見えそうで見えないくらいにしましょう。でもエルマー様の横に立ったときにだけ見えるようにしてっ、それでちょっと体をひねったら大事な部分がチラッと見えるようにしてっ、それで悩殺ですねっ」
「大事な部分がチラッ……」
「チャンスがあればエルマー様のお顔を胸の間にガバッといってみましょう」
「お顔を胸の間にガバッと……」
「そうですっ。それでそのまま……って、ヘルガさんっ‼ 大丈夫ですかっ⁉」
あー無理。アルマさん、ごめんなさい。ちょっと倒れるわ。あたしにはちょっと刺激が……
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