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第一章:領主一年目
運河の開通と船頭(一)
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ドドドドド…………!
地響きのような振動が足に伝わってくる。運河が完成し、堀から水を流しているところだ。
「おおーっ、すげー」
「なかなか見られるもんじゃねえな」
すでに家や農地がある場所を避け、シュタイナーの計画通りに運河が掘り進められた。どうしても道を横切る必要がある場所は、道を橋にしてしまい、その下に運河が流れるようになった。
穴を掘ったのは大半がカレンで、失敗したときなどは土魔法が使えるシュタイナーとフォルカー、そしてアーダムがその部分を直し、簡単に直りきらないようなら俺が来て直していた。この期間、農民たちの多くは工夫になり、ひたすら土を運び石を積んでいた。
「すごいわね」
「すごいな」
堀と運河の間には水門が作られている。すべての水門が開けられ、四方から音が響いてくる。カレンはまだ呆然と運河を見つめている。
「……やってよかった」
「そうだな。これだけの規模の工事はなかなかない。この期間で完成したのは、カレン、お前がいてくれたからだ」
カレンが運河の作業をやりたいと言ったとき、俺は正直なところ止めようとした。彼女はそこまで土の扱いが上手じゃないからだ。水の扱いはさすがだが、土に関してはほぼ素人。しかもなまじ魔力が多いだけに、失敗したときには被害が大きい。
だがカレンの懇願に負けるような形で許可を出したが、結果としてそれが彼女のためになったと今では思える。自分以外と協力して何かを成し遂げるということは、どうやっても自分一人では経験できないからだ。たまには周辺を吹き飛ばすようなちょっとした失敗もあったが、それでも怪我人は出なかったし、カレン自身にも怪我はなかった。
そして今日、トンネルの完成よりも一足早く、運河が完成することになった。すでに運河で使用する船も用意していて、今日からはさっそく操船技術を学ぶことになる。
「ザシャ、それじゃこれから頼む」
「分かりやした。船に乗ってたのが、まさかここでお役に立つとは思いやせんでした」
ザシャは王都の貧民街からやって来たが、元々は王都の近辺で船に乗っていた。船とは言っても川船だ。王都内には運河はなかったが川はあり、国内各地から川を使って物が運ばれていた。
小さな頃から船で仕事をしていたそうだが仕事中に足首を潰してしまい、それが原因で仕事を失ったそうだが、歩けないわけではない。だが船に乗ることができなくなり、重い荷物を運ぶこともできなくなり、いつの間にか貧民街にいるしかなくなった。その彼が再び船に乗るということは、足が治ったということになる。つまりあの復元薬だ。
◆ ◆ ◆
「ザシャは船に乗っていたそうだな」
「へい。小型の川船で荷運びをしてたんで」
「運河が完成すれば船に乗る船頭がいる。できるか?」
「やれるもんならやりたいんすが、足を壊して踏ん張りが利かねえんでさ」
踏ん張りか……。荷物を運ぶなら分かるが、どこで踏ん張る?
「俺は船に関しては完全に素人だが、そこまで踏ん張りが必要なのか?」
「へい。エルマー様は船に乗られたことは?」
「ないな。馬でしか移動していない」
「船も場所によっては違うでしょうが、流れが穏やかな川や湖なら、棹を突き立てて速さや向きを変えるんでさ」
「ああ、それで踏ん張る必要があるのか」
「へい。座ったままじゃ力が入らねえんで」
俺は船に乗ったことはない。乗ったことがあるのは馬くらいだ。だが馬に乗るのでもしっかり姿勢を保たなければ疲れるし、たしかに座っていればいいだけではない。
しかし足を壊したか……。怪我なら……あれがいけるか?
「一つ聞くが、もし足が治ればまた船に乗りたいか?」
「そりゃもちろんでさ」
「それなら、ここに薬がある。体の壊れたところを治してくれる薬だ」
かつて俺が飲んだ薬がある。薬というのは一回分だけ作るというのは難しく、ほとんどは一〇回から二〇回分、場合によっては五〇回分くらいはできる。あの時は三人とも飲んだが、それでもまだ一〇回分以上残っている。
「それがですかい?」
「ああ、どんなものでも治る。俺も飲んだ」
「エルマー様が?」
「ああ、俺も体に悪いところがあってな、それで一発で治った。だからお前の足も治るはずだ。だが一つ困ったことがある」
「何です?」
「この上もなく痛い」
あの痛みを思い出しただけで脂汗が出てきた。あれは痛かった。時間としては一〇分から一五分くらいだったそうだが、これまでで一番長い一五分だっただろう。
「痛い……」
「俺は一五分くらい苦しんだ。実際にはもっと長く感じたが。悪い部分が痛くなるようだから、おそらく足が痛むと思う。脅すようになってしまったが、どうする?」
「いきやす!」
「そうか」
ザシャはまっすぐ俺を見てはっきりと言った。俺は水薬の入った小瓶を渡す。彼は手の中の小瓶をじっと見つめる。
「飲むのはいつでもいいぞ——ってもうか?」
今すぐ飲む必要はないと言おうとしたが遅かった。まあ一人でのたうち回るのも嫌かもしれないが。
「特に痛みはねえようで……あ、ああ、いてててててて!」
ザシャは右足を抱え込んで床を転がるが俺には何もできない。俺もあんな感じだったんだろう。
それから二、三分くらいか、足を押さえていたザシャが顔中汗だらけにして起き上がった。
「あー、いってー」
「いきなり動くと危ないぞ。とりあえず水でも飲んで落ち着け」
「あ、すいやせん」
俺が水を渡すとザシャはそれを一気に呷り、タオルで顔を拭いて一息ついた。
「あー、足が潰れたときと同じくらい痛かったでさ。でもあっという間に痛みが治まりやした」
「ああ、俺の時も痛みが引いたらどこが痛かったのか分からなかったくらいだ。それよりも足はどうだ?」
「お、お? おー、動きやす! 飛び跳ねることもできやすぜ」
「しばらく動かしていなかったんだ。無理はするなよ」
「へい」
それから俺はザシャに船の乗れそうな者を数名集めてもらうことにした。運河が完成して船を浮かべ次第、彼らには運河で船を使って物を運ぶ訓練をしてもらう。そのためには、まず船だな。
地響きのような振動が足に伝わってくる。運河が完成し、堀から水を流しているところだ。
「おおーっ、すげー」
「なかなか見られるもんじゃねえな」
すでに家や農地がある場所を避け、シュタイナーの計画通りに運河が掘り進められた。どうしても道を横切る必要がある場所は、道を橋にしてしまい、その下に運河が流れるようになった。
穴を掘ったのは大半がカレンで、失敗したときなどは土魔法が使えるシュタイナーとフォルカー、そしてアーダムがその部分を直し、簡単に直りきらないようなら俺が来て直していた。この期間、農民たちの多くは工夫になり、ひたすら土を運び石を積んでいた。
「すごいわね」
「すごいな」
堀と運河の間には水門が作られている。すべての水門が開けられ、四方から音が響いてくる。カレンはまだ呆然と運河を見つめている。
「……やってよかった」
「そうだな。これだけの規模の工事はなかなかない。この期間で完成したのは、カレン、お前がいてくれたからだ」
カレンが運河の作業をやりたいと言ったとき、俺は正直なところ止めようとした。彼女はそこまで土の扱いが上手じゃないからだ。水の扱いはさすがだが、土に関してはほぼ素人。しかもなまじ魔力が多いだけに、失敗したときには被害が大きい。
だがカレンの懇願に負けるような形で許可を出したが、結果としてそれが彼女のためになったと今では思える。自分以外と協力して何かを成し遂げるということは、どうやっても自分一人では経験できないからだ。たまには周辺を吹き飛ばすようなちょっとした失敗もあったが、それでも怪我人は出なかったし、カレン自身にも怪我はなかった。
そして今日、トンネルの完成よりも一足早く、運河が完成することになった。すでに運河で使用する船も用意していて、今日からはさっそく操船技術を学ぶことになる。
「ザシャ、それじゃこれから頼む」
「分かりやした。船に乗ってたのが、まさかここでお役に立つとは思いやせんでした」
ザシャは王都の貧民街からやって来たが、元々は王都の近辺で船に乗っていた。船とは言っても川船だ。王都内には運河はなかったが川はあり、国内各地から川を使って物が運ばれていた。
小さな頃から船で仕事をしていたそうだが仕事中に足首を潰してしまい、それが原因で仕事を失ったそうだが、歩けないわけではない。だが船に乗ることができなくなり、重い荷物を運ぶこともできなくなり、いつの間にか貧民街にいるしかなくなった。その彼が再び船に乗るということは、足が治ったということになる。つまりあの復元薬だ。
◆ ◆ ◆
「ザシャは船に乗っていたそうだな」
「へい。小型の川船で荷運びをしてたんで」
「運河が完成すれば船に乗る船頭がいる。できるか?」
「やれるもんならやりたいんすが、足を壊して踏ん張りが利かねえんでさ」
踏ん張りか……。荷物を運ぶなら分かるが、どこで踏ん張る?
「俺は船に関しては完全に素人だが、そこまで踏ん張りが必要なのか?」
「へい。エルマー様は船に乗られたことは?」
「ないな。馬でしか移動していない」
「船も場所によっては違うでしょうが、流れが穏やかな川や湖なら、棹を突き立てて速さや向きを変えるんでさ」
「ああ、それで踏ん張る必要があるのか」
「へい。座ったままじゃ力が入らねえんで」
俺は船に乗ったことはない。乗ったことがあるのは馬くらいだ。だが馬に乗るのでもしっかり姿勢を保たなければ疲れるし、たしかに座っていればいいだけではない。
しかし足を壊したか……。怪我なら……あれがいけるか?
「一つ聞くが、もし足が治ればまた船に乗りたいか?」
「そりゃもちろんでさ」
「それなら、ここに薬がある。体の壊れたところを治してくれる薬だ」
かつて俺が飲んだ薬がある。薬というのは一回分だけ作るというのは難しく、ほとんどは一〇回から二〇回分、場合によっては五〇回分くらいはできる。あの時は三人とも飲んだが、それでもまだ一〇回分以上残っている。
「それがですかい?」
「ああ、どんなものでも治る。俺も飲んだ」
「エルマー様が?」
「ああ、俺も体に悪いところがあってな、それで一発で治った。だからお前の足も治るはずだ。だが一つ困ったことがある」
「何です?」
「この上もなく痛い」
あの痛みを思い出しただけで脂汗が出てきた。あれは痛かった。時間としては一〇分から一五分くらいだったそうだが、これまでで一番長い一五分だっただろう。
「痛い……」
「俺は一五分くらい苦しんだ。実際にはもっと長く感じたが。悪い部分が痛くなるようだから、おそらく足が痛むと思う。脅すようになってしまったが、どうする?」
「いきやす!」
「そうか」
ザシャはまっすぐ俺を見てはっきりと言った。俺は水薬の入った小瓶を渡す。彼は手の中の小瓶をじっと見つめる。
「飲むのはいつでもいいぞ——ってもうか?」
今すぐ飲む必要はないと言おうとしたが遅かった。まあ一人でのたうち回るのも嫌かもしれないが。
「特に痛みはねえようで……あ、ああ、いてててててて!」
ザシャは右足を抱え込んで床を転がるが俺には何もできない。俺もあんな感じだったんだろう。
それから二、三分くらいか、足を押さえていたザシャが顔中汗だらけにして起き上がった。
「あー、いってー」
「いきなり動くと危ないぞ。とりあえず水でも飲んで落ち着け」
「あ、すいやせん」
俺が水を渡すとザシャはそれを一気に呷り、タオルで顔を拭いて一息ついた。
「あー、足が潰れたときと同じくらい痛かったでさ。でもあっという間に痛みが治まりやした」
「ああ、俺の時も痛みが引いたらどこが痛かったのか分からなかったくらいだ。それよりも足はどうだ?」
「お、お? おー、動きやす! 飛び跳ねることもできやすぜ」
「しばらく動かしていなかったんだ。無理はするなよ」
「へい」
それから俺はザシャに船の乗れそうな者を数名集めてもらうことにした。運河が完成して船を浮かべ次第、彼らには運河で船を使って物を運ぶ訓練をしてもらう。そのためには、まず船だな。
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