ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

奉納と衣服

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「お納めください」
「あらたまりすぎだ」
「それは失礼いたしました」

 職人たちが作ったものをうやうやしく差し出したモーリッツが調子に乗ってそのようなことを言う。

 ここしばらく職人たちの調査団が積極的に活動している。俺とカレンはトンネルと運河の作業で忙しいので参加していないが、今のところは問題ないそうだ。護衛たちも徐々に慣れてきて、今では安心して見ていられると狩人代表のダミアンは言っていた。

 職人も前の四人に加えて、染め職人のドーリス、樽職人のバルタザール、木工職人のアレク、家具職人のホラーツ、陶芸のウッツとマルコ、ガラス職人のエトガーとシュテファンたちも加わるようになった。バルタザール、アレク、ホラーツの三人は珍しい木がないかの調査、ウッツとマルコは焼き物に使う土の調査、そしてエトガーとシュテファンはガラスの材料である珪砂を探している。

 参加人数が一気に増えたが、さすがに一度に全員が出かけることはなく、彼らの中で交代にしているそうだ。そして完成したものが目の前にある。

「最初の作品はありがたくいただく。次からはきちんと購入させてもらう。販路も準備しないとな」
「我々といたしましても、普段の生活は領主様のお世話になりっぱなしです」
「それはそれだ」

 職人たちが何を作っても、今のところは買う客がほとんどいない。食料と金も渡しているし、仕事で使う道具なども俺が購入したものが多い。素材だって調査団と一緒に出かけて集めたものだ。

 だが当面の生活は保証すると言って彼らを呼んだのは俺の方だ。彼らが来てくれなければ、すべて王都で買うしかなかった。それをここで手に入れられるということは大きい。あくまで先行投資の段階で、利益を上げるのは来年からでいい。

「まだ準備すらできていないが、来年には王都に商会を作りたい。そこでこの領内で作られたものを並べられたらいいと思っている。麦はいくらでもできるが、商品がそれだけではやはり物足りない。ぜひそこで販売できるようなものも考えてもらいたい」
「分かりました。みんなに伝えておきましょう」

 職人を代表してモーリッツがみんなの作ったものを運んで来た。もちろんすべての職人のものが並んでいるわけではない。

 例えばフランツとオットマーは家や店などを建ててくれるし、シュタイナー、フォルカー、アーダムたちは土魔法を使って運河の作業を進めてくれている。

 それにアンゲリカの店では、ホラーツのテーブルや椅子が並べられ、料理はテオとユルゲンが打った包丁や調理器具で作られ、食事にはアレクが木で作ったフォークやスプーン、ウッツとマルコが焼いた陶器の食器が使われる。エトガーとシュテファンが作ったガラスのジョッキには、ライムントとカスパーが仕込んでバルタザールが選んだ木の樽に詰められたエールが注がれる。それらも立派な作品だ。これらの一部は購入もできるようになっている。

 モーリッツが帰った後、俺の手元に残されたのは、アメリアが織った布をドーリスが染め、それをデリアとフリーデが仕立てた上着。その胸には銀の土台にモーリッツが掘り出した琥珀を使って、ノルト男爵の紋章を象った徽章バッジが付けられていた。



◆ ◆ ◆



「かっこいいわよ」
「ええ、凜々しいですね」
「今まで以上にキリッとした感じですっ」
「それなら普段からこれを着ることにしようか」

 俺は服にはあまり興味がない。興味がないと言うよりも、どんどん背が伸びたので、新しくしてもすぐに着られなくなる恐れがあった。だがさすがにこの年になればこれ以上背は伸びないだろう。

「そろそろ寒くなる時期だからな。外套も必要だろう。みんなの分の外套を作ってもらうか」
「いいんですか?」
「毛皮が山ほどあってな。とりあえず外套を持っていない領民には配るということになっている。すでに持っている場合はいずれ買い直しをしてもらうことになるな」
「何の毛皮ですかっ?」
「魔獣の熊、猪、鹿、狼、獅子、虎あたりだな。俺は丈夫な熊の毛皮で作ってもらおうと思っている」

 暖かさもあるが、何よりも丈夫なのが大きい。

「私は寒さは問題ないんだけど」
「領主夫人として一つくらい見た目のいい物を持っておいた方がいいぞ」
「うーん、それなら……あなたと一緒で」
「私は柔らかい鹿にしますね」
「私は猪でっ」

 アルマも鹿を選ぶと思ったが猪か。悪くはないが鹿ほど柔らなくないからな。

「どうして猪なんだ? 言っておいて何だが、鹿の方が柔らかいぞ。それに暖かさもさほど変わらないからな」
「琥珀の時に分かりましたけど、濃いめの方が髪の色が映えますので」
「たしかにな。そう考えれば、エルザはあえて髪の色に近付けるんだな」
「はい。鹿の中でも少し濃い色の毛皮を選んでいいただければ、まったく同じにはならないと思います」
「そうだな。みんなで毛皮が溜めてあるところを見に行こうか」



◆ ◆ ◆



「多いわね」
「多いですね」
「山盛りですっ」

 みんなで毛皮が収納された倉庫を見た感想だ。これまで何度も狩りに出かけている上に、以前俺とカレンで調査も兼ねてあちこちで狩りをした時のものもここに入っている。

「肉は生活には欠かせないが、毛皮は必ずしも必要なものではないからな」
「食べられないからね」
「王都にいたときこれを見たらものすごく贅沢に思えたかもしれませんが、ここに来るとそれほど価値のないものに思えてしまうのが不思議ですね」
「必要か必要でないかで言えば必要ないですねっ」
「生きていく上では必要とは限らない。でもあれば助かることもある。そういうものだな」

 その中から、俺とカレンは真っ黒な熊の毛皮、エルザは焦茶色に近い鹿の毛皮、アルマは濃い茶色の猪の毛皮を選び、それで外套を作ってもらうことになった。
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