ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
140 / 345
第二章:領主二年目第一部

共存共栄

しおりを挟む
「おはようございます」

 白鳥亭に入るとザーラが荷物を持って待っていた。

「ああ、おはよう。数日だったが、実家はどうだった?」
「はい。私が厨房に入って、少しは家族孝行をできたかと思います」
「ここは年末年始だろうが客が来るからな」

 店内にはパッと見ただけでも数人、地元民ではなさそうな客がいる。

 俺がザーラたちに休みを与えたのは、エクセンとは違ってさすがに年末年始にドラゴネットまで商人は来ないからだ。トンネルができたとは言っても、まだ話はそれほど広がっていない。たまにトンネルを通って来てくれる商人もいるようだが、まだその程度だ。

「では行くか」
「はい、あなた」
「それは違う」
「母にはグイグイ行くように言われました」

 年が変わってもそこは変わっていなかった。マルクさんたちに挨拶すると、店の外から赤髪亭まで移動した。

「それじゃあな。きちんと利益は出ているんだから無茶はするな」
「はい。ありがとうございます」

 おかしな押し方をする場合があるが、根は真面目で元気な少女だ。小さいのに頑張っていると一部で人気があるようだ。今年も赤髪亭を盛り立ててくれるだろう。



 ザーラと別れて城に戻ったが、アンゲリカとヘルガの話し合いは、俺が戻るまでには終わらなかったようだ。さすがにいつまでも待っているわけにはいかないので仕事に戻ったが、結局夜になっても二人に会うことはなかった。



◆ ◆ ◆



 昼前、カサンドラが俺の執務室に来ているところに二人が戻ってきた。カサンドラを見た瞬間に二人は「えっ⁉」という顔をして、カサンドラの方は「あら」と言っただけだが、二人の表情が険しくなった。

 元々カサンドラは俺との距離が近かったが、あの瞬間から雰囲気が変わったからな。気怠けだるそうなのは変わらないが。

「旦那様、カサンドラさんと何かあったようですが、その件は後で話を聞くといたしましょう。あれから先ほどまで話し合った結果ですが、私とヘルガさんは共存共栄を目指すことになりました」
「共存共栄?」
「あたしとアンゲリカさんで旦那様のお相手をしつつ、旦那様に迷惑がかかりそうな相手はできる限り排除するという方針になりました。おそらくこの方もこちら側に入るのでしょうが」

 二人とも目の下に隈ができている。文字通り寝ていないのだろう。

「二人とも目の下に隈ができているぞ。今日のところは無茶はするな。それにしても排除とは穏やかじゃないな」
「ですが、カリンナとコリンナが裸で寝室に飛び込もうとしたらどうしますか?」
「そうだな。二人ともよろしく頼む。あの二人を止めてくれ」
「あたしとアンゲリカさんは交互でもかまいませんし一緒でもかまいません。よろしくお願いします」
「分かった。それなら……そうだな、アンゲリカの部屋も城の二階に用意しよう。いつでもいいから好きな部屋を選んでくれ」

 ふう。まあ喧嘩をせずに済んだか。

「そうそう、アンゲリカさんと……あなたはヘルガさんでしたか、お二人にはまだ話していませんでしたが、私と、そしておそらくもう一人アメリアさんも加わります。四人で協力するとしましょう」

 待て、カサンドラ。ようやく火が消えかけたのに薪をべるな。

「いつの間に増えたのですか?」
「誰?」
「アメリアさんは機織りをしている女性です。私のこの服の生地を織ってくれたのも彼女ですね」
「では、アルマさんが言っていた、胸元がガバッと開くという服もその人ですか?」
「胸元がガバッ……ああ、アルマさんが言ったならおそらくそうですね。アメリアさんは機織りと染めの両方、ドーリスさんは染め、デリアさんとフリーデさんは仕立てです。この町で作られている衣服の多くはその四人が作った物ですね」
「では今からさっそく作ってもら……」

 そこまで言いかけてヘルガが倒れ込んでしまった。ろくに休んでいなかったのに、ここに来ていきなり夜に俺の相手をして、そして夕方から午前中までアンゲリカと話し合っていたようだし、そろそろ体力も限界だろう。無理はするなと言った先からこれだ。

「とりあえずこれは部屋に放り込んでおく。アンゲリカも寝てないだろう。店を開けるつもりなら無茶はするな。それとカサンドラは……」
「今からお相手をしましょうか?」
「昼前から何の話だ。いや、そろそろアメリアと話ができるようにならないか?」
「それがなかなか頑固なようで。もう一度伝えておきすけど」

 いつものようにふらっと来てふらっと帰って行く。カサンドラは気の長いエルフらしくがっついてはいないので、待つと言ってくれている。あまり待たせるのも失礼だろうとは思うが、今は色々と余裕がない。

「それで旦那様、アメリアさんが嫌と言うつもりもありませんが、そうなのですか?」
「ああ、どうも俺のことが気になっているらしいが、俺の顔を見ると逃げてしまうから話もできない。カサンドラに間に立ってもらっているが、どうなるか全然分からないな」
「旦那様が口説き落としたわけではなかったのですね」
「余計なことを言うのはどの口だ?」
「この口です」

 そう言って唇を突き出す。

「余計なことを言わないように、旦那様の口でしっかりと塞いでください」
「仕方がないな」

 両手が塞がっているので身を乗り出すようにしてアンゲリカに顔を近付ける。

「あのー、あたしの顔の前でいちゃつかないでくれますか?」

 下を見るとヘルガが俺の顔を見上げていた。

「起きていたのか?」
「さすがに起きました。すみません、旦那様」
「とりあえず部屋まで連れて行く。アンゲリカも少し寝ておけ」
「腕枕をしていただけるなら」
「あ、あたしにもお願いします。右はアンゲリカさん、左はあたしで」
「俺は仕事があるんだが」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

死にたがりの神様へ。

ヤヤ
ファンタジー
ヒトと神との間に産まれた禁忌の子、リレイヌ。 まだ幼い彼女に降りかかる悪夢のような出来事たちは、容赦なく牙を剥いてくる。 それでも挫けず笑って過ごす、そんな彼女。 けれど、確実に、少女の心は蝕まれていた。 これは、死にたい彼女が、幸せになるためのモノガタリである──。 ※残酷な描写あり ※閲覧は自己責任でお願い致します。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...