ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
141 / 345
第二章:領主二年目第一部

職人の追加(一)

しおりを挟む
 年が明けて最初の土の日、ヨーゼフとブリギッタの夫婦をドラゴネットに迎え入れるために王都まで来ている。

「エルマー様、おはようございます。わざわざ申し訳ありません」
「いや、二人が来てくれて助かるのはうちの方だ」
「先にお伝えしますと、この店を売ることはやめましたので、もしお使いになるならお譲りします」
「その必要が出たら世話になろう」

 この工房は何かに使えるかもしれないと思って、とりあえず売りには出さなかったそうだ。それならうちからもそこまで遠くないので、エルザを連れてきたついでに俺が見て回ればいい。もう持って行く荷物は奥にまとめてあるようだ。それを収納したらさっそく移動することにする。

「それでは移動するか。俺の手に掴まってくれ」



◆ ◆ ◆



「ほほう、ここが」
「広いですね」
「端から端まで五キロほどあるから、小さな町一つと考えるとかなり広い。だが町を外に広げることはいくらでもできるから、広さはあまり意味がないな」

 移動先は中央広場にした。ここからなら北の農地に東の職人街もよく見える。ついでに城も。

「二人の家もすでに準備してある。職人街の中ではあまり大きな音が出ないあたりだ。ダニエルの家もそれほど離れていない」
「ありがとうございます。何人か知り合いがいるようですので安心できますね」

 職人をしているとそれなりに顔が広くなるようで、ダニエルだけではなく他にも何人か顔見知りがいるようだ。

「うちはあまり大きな音は立てませんが、魔道具と一口に言っても金属を使うか木を使うかで全然違いますからね。うちは木を使う方が多く、それも昼間だけにしています」
「そういう周りと上手くやれそうな職人ばかりだと領主としてはありがたいな」
「何か揉め事でも?」
「いやいや、今のところみんな上手くやっている」

 揉め事が起きる起きないの話ではなく、起こさないように最初から配慮ができるかどうかだ。配慮した上で起きてしまうのは仕方がない。良くも悪くも職人には個性的な者が多いからだ。だがこの町にいる職人たちは意見を出しつつも上手くやれている。

「例えばそこに運河があるが、それも彼らが案を出してくれたおかげでできたものだ。単に言われたことをするだけじゃなく、自分たちで意見や提案を出してくれるとこちらとしても次に何をしたらいいか目安になって助かる」
「提言は行っていいということですね?」
「もちろんだ。提言でも嘆願でもいい。俺では気が付かないことも多い。『四つの目は二つの目よりもよく見える』と言うだろう」

 何でも便利にすればいい訳でもないだろうが、不便な部分は改善したい。町中に街灯を立てたのも、子供がため池で遊んで危ないから何とかできないかという農民たちからの嘆願が最初だった。

「ようやく町に見えるようになったが、次にどこから手を付けていいか、できることもやりたいことも多すぎてな」
「一から町を作るというのはそのような苦労もあるのですね。楽しみでもあるのでしょうが」
「その通りだ」

 職人街までやって来ると、何人かが水場に集まって作業をしていた。ダニエルもいることだし、みんなに紹介しておこうか。

「今度こちらにやって来た魔道具職人のヨーゼフとブリギッタの夫妻だ。ダニエル、悪いがこの町のことなどを教えてやってくれ」
「カレン様のことですか?」
「それはそのうち知るだろう。水場の使い方とか、職人街のみんなで決めたことを共有しておいてくれ」

 ヨーゼフとブリギッタは何のことか分からないという顔をしていたが、カレンが竜だの何だのという話は今じゃなくてもいい。

 俺はヨーゼフとブリギッタの家に荷物を入れると、彼らには宴会用の酒樽やツマミになりそうな物を渡し、城に戻って仕事をすることにした。



◆ ◆ ◆



 ヨーゼフとブリギッタが来てくれたお陰で、領内で作れる魔道具の種類が増える。ダニエルの負担も減るだろう。

 ヨーゼフは火や水に関する魔道具が得意で、ブリギッタはそれに加えて時空間魔法が得意だそうだ。だが魔道具作りに欠かすことのできない魔石や竜の鱗の加工は二人にはできない。それができるのがダニエルだった。

 ダニエルは器用なので幅広い種類の魔道具が作れるが、特に[浄化]などの光属性を使った魔道具が得意だ。

「エルマー様、小麦を入れる倉庫などの改装をお願いするのはいかがでしょうか」
「ああ、それもそうだな。量が多すぎるからな」

 城に帰って二人を連れて来たことを話すと、ハンスがそう助言をしてくれた。一から作るのではなく改装ができるならそれが楽でいい。明日にでも正式に依頼をしに行くか。三人に無理に作れと言う訳ではない。作れそうなら作ってもらう、それが方針だ。その前に何か必要そうな物があるかどうかみんなに聞いておくか。

「個人的に欲しい物でもいいし、領地が便利になるような物でもいい。何かあれば言ってほしい」
「私は思い付かないわね。エルザは?」
「そうですね……。内容が少しズレるかもしれませんけど、お腹が大きくなれば階段の昇り降りが危なくなるかもしれません。そのあたりで何かあれば」

 居室は二階にあるから、どうしても昇り降りがある。足元が見えにくくても移動しやすいようにか……。

「難しいですよね」
「いや、高い塔などで上下の移動に使われる、乗って使う魔道具があるんだが、この城に付けられるかどうかが分からない」
「付けるのが難しいのですか?」
「ああ。この城はクラースが建てたが、ガッチガチに魔法で強化されている。俺はシュタイナーが装飾を施したいと言った時に削るのはダメだが盛るのはいいと言ったが、そもそも削れるような代物ではなかった。とりあえず部屋を一階に移すことを考えてくれ」
「それが普通ですね」

 クラースが残してくれた温度調節の柱だが、あれを鶏小屋の外に置いた時、毎日鶏が乗ったり突いたり大丈夫かと思って試しに力を入れてみたが何も起こらなかった。かなり魔力を注いで、表面が少し削れたくらいだ。

 ただ城は増築を前提に作られていたので、来客棟と使用人棟との間に渡り廊下を通す部分など、何か所かは壊せるようになっている。だがそれ以外は俺でも無理だ。

「アルマはどうだ?」
「ええっとですね、魔道具でとなると……すみませんっ、思い付きません」
「いや、ないならないで問題ない。とりあえず移動についてだな」

 階段で足を踏み外して転げ落ちるようなことになれば取り返しが付かない。階段を柔らかくすることはできないだろうが、もう少し腹が目立つ前に何かできることを考えておくか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

処理中です...