ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

職人たちとの面談(三)

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「家具を作っているホラーツです」
「ここは木が多い。木工関係は何人いてもありがたい。特に得意な家具はあるのか?」
「木だけで作るものではありませんが、椅子については昔から理想を求めて作り続けていますのでこだわりがあります」

 椅子は簡単な作りに見えて難しい。食卓用の木でできた椅子もあれば仕事用の革張りの椅子もある。一人一人体格が違う上に好みもある。机とはまた違った難しさがあるだろう。

「座りごごちは大事だな。どれだけ座っても疲れないかどうか」
「はい、それに感触も大切です」
「感触? 座りごごちとは違うのか?」
「はい、異国の話ですが、こっそりと椅子の中に入り、上に座った人のお尻の感触を太ももで感じるという楽しみ方をする人もいるようです。文献でしか見たことがありませんのでなかなか上手くいきません」
「高度な楽しみ方だな」



「大工のフランツです」
「同じくオットマーです。フランツとは同じ工房で働いていました」
「二人とも、さっそく働き始めてくれるそうだな」
「はい、先ほどまでこの町の家の建て方を拝見させていただきましたが、あれは何ですか?」
「無茶苦茶とは言いませんが、よく分からない建て方でした」
「何ですかとか無茶苦茶とか言われても、あれがうちのやり方だ。全員で一気に建てるとああなる」

 元々家を建てる専門家がいなかったから、とりあえずみんなで石を持って集まって積んで固めて上に屋根を乗せて、とやっていたら今の形になったようだ。クラースとパウラがいたのが大きいが、一週間で一〇〇軒弱の家が建ったからな。

「うちは元々大工がいなかった。ヨハンは棟梁の代表扱いだが、元々家具職人だ。それが屋根が組めるというだけで大工をやっていた。他のやつらもみんなそうだ。ほとんどが自己流だからおかしな部分もあるだろう。今後は棟梁たちへ細かな技術指導をしてくれないか?」
「分かりました。ではさっそくですが、これから二人で現場の方へ行ってみます」
「先に働かせるようで申し訳ないが、よろしく頼む」
「いえ、やるべきことがあるということこそ嬉しく思います」

 そう言うとフランツとオットマーは職人街を作っている場所へ向かうと言って集会所を出た。



「ウッツです。焼き物をしていました」
「マルコです。ウッツと同じところで働いていました」
、ということは仕事がなかったわけではないんだな?」
「はい。二人ともなんとか食えるくらいには貰っていましたが、食えるだけでした」
「それでこちらで一旗揚げてみんなを見返してやろうと」
「見返すとは穏やかじゃないな」

 二人の経緯について偉そうに言えるようなこれまでではなかったが、と思ったことはなかったな。俺の場合はという感じだっただろうか。手を出されたらやり返していたが。

「揉めていたわけではありませんが、彼らは我々の芸術を理解しませんでしたので」
「芸術?」
「はい。等身大の裸婦像をいかに美しく焼くか、それこそが天からの至上命令!」
「毛穴の一つ一つ、しわの一本一本まで再現することこそ我々の求める極地!」
「お前たち、ちゃんと仕事はしていたのか?」



「エトガーです。ガラス工房で働いていました」
「私はシュテファンです。エトガーと同僚でした」
「鍛冶をしていたテオです。友人のユルゲンと一緒に来ました」
「ユルゲンです。テオと工房は違いましたがすぐ近くでしたので一緒に来ました」
「ガラスは今後家を増やす際には必要になる。鉄も鍋だの何だのと必要になる」

 ガラスは今のところクラースが置いていってくれた分があるのでそれを使うことになるが、なくなれば自分たちで何とかしなければならない。それに蒸留器を作るためにも必要だ。鉄も同じだな。包丁や鍋などが作れないと困る。

「窓のガラスや鍋も必要だが、先ほど酒職人たちが蒸留器を作りたそうにしていたから、彼らと協力してほしい」
「はい。彼らとはここに来る前にも少し話はしたのですが、樽職人もいるようですので蒸留酒を仕込む樽の材質を変えれば面白いことになるかもしれないと話していました」
「みんなは前から知り合いだったのか?」
「半分ほどは顔見知りでしょうか。ガラスでも鉄でも焼き物でも、周囲が暑くなる上に音も出ます。どうしても迷惑でない場所となると、結局は端の方に集まることになります」

 たしかに家の裏でガンガン鉄を打っていれば文句の一つも言いたくなるかもしれないな。

「そうだったか。とりあえずここなら音の問題は少ないだろう。窯と炉は建物ができればすぐに用意をする。材料なども月末にはゲルトの親父さんに用意してもらうことになっているので、準備ができるまではみんなで話を進めておいてくれ。俺には誰と誰が親しいのか分からないから、組める者同士協力して働いてくれ」
「分かりました」



「あらためまして、お世話になります」
「こちらこそよろしくな。薬師がいるのといないのとでは大違いだ」

 薬師を職人と呼んでいいのかどうかは分からないが、彼女も王都からこちらに来てくれた。あれだ、エルザに媚薬を売った薬師だ。カサンドラという名前で、元はこの国の出身ではないらしい。エルフの血を引いているらしく、少し耳が尖っている。

「一つ聞きたいんだが、薬師をするなら王都の方が薬草は集めやすくないか?」
「単に種類や量だけならそうかもしれませんが、鮮度の点では王都は明らかに落ちますので」
「薬草は乾燥させて使うものではないのか?」
「新鮮なものを使う場合もあります。それに乾燥させて使う場合でも、きちんと乾燥させたものか単に萎れてそうなったのかで効果が違ってきます」

 俺には違いが分からないかもしれないが、見るものが見れば全然違うのだろう。

「大貴族のお屋敷の近くに店があるのであれば、マジックバッグを持った冒険者や商人がたくさん出入りするのでしょうが、さすがにあの立地では……」
「まあ場所はどうしようもないな。貧民街スラムの近くは安いからな。」
「はい。それで今回、山の向こうならもっと面白そうな薬草や野草があるかと思いまして」
「そのあたりにどんな植物があるかはまだ調べてないんだが、おそらく王都では見かけないものもあると思う。もう少しして落ち着いたら調査隊を作る。もうしばらく待ってくれ」

 なかなか人手が足りないのが現状だ。南の山までなら比較的安全だが、東や西はまだ調査すらしていない。そこを飛ばしてカレンが住んでいた北の山の麓まで森の掃除屋を捕まえに行ったが、あのあたりはかなり魔獣が多かった。薬草などは俺にはよく分からないから、専門家に任せるしかない。

「よろしくお願いします。媚薬の在庫も少なくなりましたので、そろそろ補充をしないと思っていたところです」
「ちょっと待て。あれはいらないぞ」
「香辛料としても使えますのに」
「それなら香辛料として使ってくれ」
「お役に立ちませんでした?」
「うっ……いやまあ、役には立ったのは間違いないが……」
「ふふっ。そう言えば、エルザちゃんはお元気ですか?」
「あ、ああ。元気も元気だ。一応こちらでも教会の管理を始めているから、昼間ならそちらにいるぞ」
「では近いうちに会いに行ってみますね」
「ああ、会ってやってくれ。喜ぶと思う」

 そうは言ったが、二人が顔を合わせればエルザからカサンドラの方にあの水薬ポーションの話が伝わるだろう。カサンドラが飛んでくることはあり得る。もしカサンドラがカレンから鱗や爪や牙を貰って自分で作り始めたら危ない。製法は秘密だと言うしかないな。
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