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第一章:領主一年目
調査隊
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職人たちを中心とした調査隊がようやく活動することになった。現在町を出る準備をしている。
調査隊に参加する者はその都度変わるだろうが、宝石職人のモーリッツ、樽職人のバルタザール、染織のアメリア、薬師のカサンドラが基本になるだろう。そこに染めのドーリスも入るかもしれない。そこにうちの若い狩人たちが一〇人ほど、そして王都で門番をしていた護衛一〇人が参加する。狩人と護衛は一度に全員が参加するのか、それとも交代で参加するのか、そのあたりも疲労や怪我の状態を考えながら決めないといけない。
町の南方、普段から食料を得るために狩りに行くあたりだが、そのあたりならそこまで危険な魔獣はいない。魔獣は熊と猪、たまに鹿と狼。猪の突進にさえ気を付ければいい。
そこからもう少し東や西のあたりまでは行っているが、多少は魔獣の数は増えるものの、極端に強いやつが出ることはない。せいぜい獅子や虎くらいで、猪や狼が狩れるならそこまで恐れるものでもない。猪は体重を活かした突進力がすべてだ。狼は力はないが素早い。獅子や虎はその中間くらいだろうか。獅子は森の外にいることが多いが、虎は森の中にいることが多い。どちらも魔獣だから恐ろしく思えるが、大きな猫と思えば大したことはない。
そして調査隊を作る前にカレンと一緒にもう少し東や西の方も調査してみたが、盆地の南側四分の一くらいまでなら今のところそれ以上の魔獣は出なかった。さすがに真ん中あたりには俺も踏み込んでいない。上は何度も通ったが。
「それでは移動する。今日中には戻るから安心してくれ」
さすがに魔獣と戦った経験が少ない者たちを連れて野営をすることはない。実際にするなら、もっと慣れてからでなければならない。しばらくの間は朝に町を出て、遅くとも夕方には戻る。馬に乗れる者は馬に、そうでない者は馬車に乗り込んで町を出る。まずは町から南の山裾を目指す。護衛たちもそのあたりなら訓練で来ているので大丈夫なはずだ。
万が一に備えて俺とカレンも参加する。そうは言ってもカレンを戦闘に参加させることはない。羽は出せるから上から魔獣の動きを見てもらう。もし強い魔獣が寄ってきたら俺ができる限りなんとかするし、場合によってはカレンに上から岩でも落としてもらう。一つ二つ岩を持って投げつけるくらいなら問題ないだろう。
この盆地には森が点在している。中心に近いあたりの大きな森は、おそらく川の流れで削られてそうなったのだろうが、山も麓あたりはどこにでもあるような普通の森だ。小さな動物もいれば魔獣もいる。魔物はほとんどいない。
「まずはこのあたりから調査する。決して一人では行動せず、常に複数人で行動するように」
馬と馬車は異空間に入れ、武器を手に持って森へ入る。先頭は狩人、側面を狩人と護衛、最後尾を俺が守りながら森へ入る。カレンは上空で待機している。
今回は南の山の少し東寄り、その浅いところを調査するつもりだ。植生を調べるのが中心になるので、染織のアメリア、薬師のカサンドラ、樽職人のバルタザールが中心になる。宝石職人のモーリッツは調査活動に慣れてもらうためと思って同行させることにしたが、少し反応が違った。
「すみません、領主様。ここから少し掘ってみてもいいでしょうか?」
「ここから斜めにか?」
「はい、この盛り上がっている場所の下にありそうです」
「なら俺がある程度は掘ろう」
崩れないように周囲を軽く固めつつ奥へ向かって斜め下に掘る。元々が斜面になっているので、そこまで下に向かって掘らなくてもいい。
しばらく掘り進むとモーリッツが壁を調べ始めた。
「このあたりの地層ですね。少し横に掘ってみます」
モーリッツは土魔法とシャベルを使って器用に壁を掘り始めた。しばらくすると砂や石に混じって茶色の塊が出るようになった。
「やはり、琥珀がありましたか」
「どこで分かったんだ?」
「匂いですね。琥珀はルビーンやザフィーアなどの宝石とは違い、元々は木の樹液だと言われています。ですので樹液のよく出る木が多い場所で見つかりやすいそうです。マーロー男爵領は琥珀が有名ですから、山のこちら側にもありそうだと。ほぼ直感ですが」
「そのあたりは経験の成せる技だな」
だがそれを見て職人魂に火がついたのか、他の三人も護衛を引き連れて森の中を探し回り始めた。それぞれ五、六人くらい護衛がいるからまず大丈夫だろう。俺はカレンに後ろから抱えてもらって森の上まで運んでもらい、上から見張ることにした。
このあたりはそれほど木が密になっていないから、大まかに誰がどこで何をしているかが分かる。モーリッツは先ほどの穴に戻ってまた掘っているのだろう。バルタザールは木を一本一本触りながら調べているようだ。アメリアは染めで使う植物を探すと言っていたが……あれを染めで使うのか? 頭痛薬だと思っていたが。カサンドラは薬になりそうな植物を見て回っているのだろう。
問題になりそうな魔獣はいないな。ここしばらく護衛たちの訓練に使ったようだから、一時的に魔獣が減っているのかもしれない。たまには現れているが……よし、問題なさそうだ。
「重くないか?」
「あなた一人くらい大丈夫よ」
「このあたりには問題になりそうな魔獣はいないようだな。あまり寄ってこないようだしな」
「一番強くて猪くらいじゃない? さすがに頻繁に狩ると減るみたいね」
「それなら少なくとも今日は大丈夫か」
カレンとは夜の生活は控えることにしたが、こうやって二人でゆっくりと空の散歩をするのも悪くない。下では職人たちが森の中を調べ、たまに寄ってくる魔獣はきちんと狩られている。このくらい人数がいれば問題なさそうだ。
途中で昼食を挟み、今は夕方と呼ぶにはまだ早い時間だ。まだ陽が暮れるには時間があるが、そろそろ町に戻ることにした。盆地は日が暮れ始めると早いからだ。山に太陽がかかると急に暗くなる。いい馬が揃っているので飛ばせばそれほど時間がかからないが、町の外にいて日が落ちると、どことなく気分も沈んでくる。
魔獣は散発的には襲ってきたが、集団で襲ってくることはなかった。ダミアンに確認したところ、やはりこれだけ護衛がいれば問題なさそうだった。だが半数になれば少々心許ないと。だからもうしばらくは訓練も兼ねてまとめて行動させ、慣れてきたら一部ずつ休ませ、最終的には二交代くらいにできれば、調査活動も捗るだろう。そのような結論になった。
調査隊に参加する者はその都度変わるだろうが、宝石職人のモーリッツ、樽職人のバルタザール、染織のアメリア、薬師のカサンドラが基本になるだろう。そこに染めのドーリスも入るかもしれない。そこにうちの若い狩人たちが一〇人ほど、そして王都で門番をしていた護衛一〇人が参加する。狩人と護衛は一度に全員が参加するのか、それとも交代で参加するのか、そのあたりも疲労や怪我の状態を考えながら決めないといけない。
町の南方、普段から食料を得るために狩りに行くあたりだが、そのあたりならそこまで危険な魔獣はいない。魔獣は熊と猪、たまに鹿と狼。猪の突進にさえ気を付ければいい。
そこからもう少し東や西のあたりまでは行っているが、多少は魔獣の数は増えるものの、極端に強いやつが出ることはない。せいぜい獅子や虎くらいで、猪や狼が狩れるならそこまで恐れるものでもない。猪は体重を活かした突進力がすべてだ。狼は力はないが素早い。獅子や虎はその中間くらいだろうか。獅子は森の外にいることが多いが、虎は森の中にいることが多い。どちらも魔獣だから恐ろしく思えるが、大きな猫と思えば大したことはない。
そして調査隊を作る前にカレンと一緒にもう少し東や西の方も調査してみたが、盆地の南側四分の一くらいまでなら今のところそれ以上の魔獣は出なかった。さすがに真ん中あたりには俺も踏み込んでいない。上は何度も通ったが。
「それでは移動する。今日中には戻るから安心してくれ」
さすがに魔獣と戦った経験が少ない者たちを連れて野営をすることはない。実際にするなら、もっと慣れてからでなければならない。しばらくの間は朝に町を出て、遅くとも夕方には戻る。馬に乗れる者は馬に、そうでない者は馬車に乗り込んで町を出る。まずは町から南の山裾を目指す。護衛たちもそのあたりなら訓練で来ているので大丈夫なはずだ。
万が一に備えて俺とカレンも参加する。そうは言ってもカレンを戦闘に参加させることはない。羽は出せるから上から魔獣の動きを見てもらう。もし強い魔獣が寄ってきたら俺ができる限りなんとかするし、場合によってはカレンに上から岩でも落としてもらう。一つ二つ岩を持って投げつけるくらいなら問題ないだろう。
この盆地には森が点在している。中心に近いあたりの大きな森は、おそらく川の流れで削られてそうなったのだろうが、山も麓あたりはどこにでもあるような普通の森だ。小さな動物もいれば魔獣もいる。魔物はほとんどいない。
「まずはこのあたりから調査する。決して一人では行動せず、常に複数人で行動するように」
馬と馬車は異空間に入れ、武器を手に持って森へ入る。先頭は狩人、側面を狩人と護衛、最後尾を俺が守りながら森へ入る。カレンは上空で待機している。
今回は南の山の少し東寄り、その浅いところを調査するつもりだ。植生を調べるのが中心になるので、染織のアメリア、薬師のカサンドラ、樽職人のバルタザールが中心になる。宝石職人のモーリッツは調査活動に慣れてもらうためと思って同行させることにしたが、少し反応が違った。
「すみません、領主様。ここから少し掘ってみてもいいでしょうか?」
「ここから斜めにか?」
「はい、この盛り上がっている場所の下にありそうです」
「なら俺がある程度は掘ろう」
崩れないように周囲を軽く固めつつ奥へ向かって斜め下に掘る。元々が斜面になっているので、そこまで下に向かって掘らなくてもいい。
しばらく掘り進むとモーリッツが壁を調べ始めた。
「このあたりの地層ですね。少し横に掘ってみます」
モーリッツは土魔法とシャベルを使って器用に壁を掘り始めた。しばらくすると砂や石に混じって茶色の塊が出るようになった。
「やはり、琥珀がありましたか」
「どこで分かったんだ?」
「匂いですね。琥珀はルビーンやザフィーアなどの宝石とは違い、元々は木の樹液だと言われています。ですので樹液のよく出る木が多い場所で見つかりやすいそうです。マーロー男爵領は琥珀が有名ですから、山のこちら側にもありそうだと。ほぼ直感ですが」
「そのあたりは経験の成せる技だな」
だがそれを見て職人魂に火がついたのか、他の三人も護衛を引き連れて森の中を探し回り始めた。それぞれ五、六人くらい護衛がいるからまず大丈夫だろう。俺はカレンに後ろから抱えてもらって森の上まで運んでもらい、上から見張ることにした。
このあたりはそれほど木が密になっていないから、大まかに誰がどこで何をしているかが分かる。モーリッツは先ほどの穴に戻ってまた掘っているのだろう。バルタザールは木を一本一本触りながら調べているようだ。アメリアは染めで使う植物を探すと言っていたが……あれを染めで使うのか? 頭痛薬だと思っていたが。カサンドラは薬になりそうな植物を見て回っているのだろう。
問題になりそうな魔獣はいないな。ここしばらく護衛たちの訓練に使ったようだから、一時的に魔獣が減っているのかもしれない。たまには現れているが……よし、問題なさそうだ。
「重くないか?」
「あなた一人くらい大丈夫よ」
「このあたりには問題になりそうな魔獣はいないようだな。あまり寄ってこないようだしな」
「一番強くて猪くらいじゃない? さすがに頻繁に狩ると減るみたいね」
「それなら少なくとも今日は大丈夫か」
カレンとは夜の生活は控えることにしたが、こうやって二人でゆっくりと空の散歩をするのも悪くない。下では職人たちが森の中を調べ、たまに寄ってくる魔獣はきちんと狩られている。このくらい人数がいれば問題なさそうだ。
途中で昼食を挟み、今は夕方と呼ぶにはまだ早い時間だ。まだ陽が暮れるには時間があるが、そろそろ町に戻ることにした。盆地は日が暮れ始めると早いからだ。山に太陽がかかると急に暗くなる。いい馬が揃っているので飛ばせばそれほど時間がかからないが、町の外にいて日が落ちると、どことなく気分も沈んでくる。
魔獣は散発的には襲ってきたが、集団で襲ってくることはなかった。ダミアンに確認したところ、やはりこれだけ護衛がいれば問題なさそうだった。だが半数になれば少々心許ないと。だからもうしばらくは訓練も兼ねてまとめて行動させ、慣れてきたら一部ずつ休ませ、最終的には二交代くらいにできれば、調査活動も捗るだろう。そのような結論になった。
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