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第一章:領主一年目
使用人たちの受け入れ準備
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エクムント殿から、うちの領地で使用人を四〇人を雇ってほしいと頼まれた。正直に言えば四〇人も必要ない。そもそも五五〇人くらいしかいない領地だ。四〇人も必要なのは公爵とか辺境伯とかの大貴族くらいだろう。
現在うちで働いている使用人はいない。ハンスとアガーテには休暇を与えていて、年明けに復帰してもらうことになっている。
うちにやって来るのは、処分された貴族たちの屋敷で働いていた使用人たちの一部で、男が一八、女が二二。内訳は従僕が二、庭師が二、小姓が一、御者が一、馬丁が二、門番が一〇、侍女が二、料理人が二、台所女中が三、一般女中が一〇、洗濯女中が二、皿洗い女中が三。
男性使用人は家令であるハンスの管轄になる。従僕はハンスの直接下についてもらう。年齢差があるなら一人は執事になってもらってもいいか。門番は町の警備隊か職人たちの護衛になってもらうのが一番だな。今の城に門番は必要ないだろう。小姓や庭師はそのままで大丈夫か。小姓は雑用係だ。庭師の仕事は庭の手入れだけでなく、屋敷の中に花を飾ったり、訪問客を庭から屋敷の中まで案内するなど、それなりに重要な仕事だ。御者と馬丁はそのままだな。
女性使用人は家政婦長であるアガーテの管轄だ。侍女は……必要か? 身分の高い女性の身の回りの世話をするのが仕事だが、うちの妻たちは着替えから料理から掃除まで何でもするからな。仕事を変える必要はありそうだ。料理人はそのままだな。台所女中は料理人の部下になる。使用人の食事作りだけでも大変だろう。一般女中は屋敷の内外の一通りの仕事をする。洗濯女中と皿洗い女中の仕事はそのままだな。
彼らのような人材を探している貴族は探せばいなくはないと思うが、結局のところ伝手がないのが一番の理由だ。
それなりの年数を重ねた執事や従者、従僕、庭師などは、屋敷に訪問客としてやって来た貴族と顔を合わせることが多い。だから顔を覚えられていることも多く、紹介状がなくても、元の職場が問題を起こした貴族であっても、次の仕事が見つかった者が多い。だが人前に出ない仕事をする者にはそのような機会は少ない。
一般女中のように替えが利く仕事の場合もよく似たものだ。たしかに家事なら一通りできるというのは強みだが、新しく雇うことは簡単だ。わざわざ処分された貴族のところにいた女中を雇う必要はない。皿洗い女中は女中の見習いのようなものだから、一般女中以上に仕事が見つけにくい。
受け入れると言ったからには受け入れるが、まず部屋が足りない。クラースは途中で城のサイズを大きくしたそうだから、普通に入れたら二〇人、詰め込んで三〇人くらいだろう。詰め込めるだけ詰め込めば入るかもしれないが、それもなあ。
仕事内容によって地位が違うから、一つの部屋に何人も詰め込むこともあれば、一人に一室を与えることもある。二階や三階なら部屋に空きあるんだが、使用人が使う部屋としては問題がある。少々立派すぎるからだ。各所に相談が必要だな。土地はあるんだから隣に建ててもらうか。
「いいんじゃない?」
「お城にたくさんの使用人ですか。これはもう王様のようですね」
「エルマー王ですねっ」
王様と言われると色々と問題になりそうだが、使用人を雇うことは問題なかった。それにしても、四人での生活もあっという間に終わりになってしまうな。これはこれで特別感があって面白かった。
「使用人の部屋が足りないから増築してもらおうと思う。棟梁たちが言っていたように、廊下の先から繋げるので問題ないか?」
「それで大丈夫だと思いますよ。棟梁のヨハンさんに聞いたところ、使用人のための別棟と愛人のための別棟を建てるための図面はあるそうです」
「……どこでそんな話を?」
「教会での仕事中です。立派なお城だからいずれは使用人が増えるだろうと。そうすればその中からエルマー様の愛人になる女性も出てくるだろうと。そのようなことを話しました」
「ありもしないことを確定事項のように話すのはやめてくれ」
「でも結果として使用人がいっぱい来るじゃない。愛人だっていっぱい来るわよ」
「愛人があんまり来るとお前たちの相手ができなくなるぞ」
「私たち三人の分はちゃんと確保して、他は上手くやりくりしてね」
「私たちの分があることは大前提ですね」
「減ったら泣きますねっ」
「……」
どうも三人の中では、自分たちの分はすでに確保されているようだ。すでにいっぱいいっぱいなんだが、これ以上どうしろと?
「話は分かりました。すぐに用意します」
「来週には来ることになっているから、それに間に合わせてくれればありがたい」
「問題ありません。ヨハンさんたち経由で人手を借ります」
「ああ、頼む」
大工のフランツには使用人が増えるので使用人の部屋の増築を頼んだ。彼らとしては腕の見せどころなので、張り切って建ててくれるだろう。棟梁の代表のヨハンと組んで作業を進めるそうだ。
ヨハンはハイデに来る前は家具を作っていた男だ。家は石で壁を作り、そこに組み込むように木を組んで屋根を作る。それができるのが彼だけだったので、いつの間にか大工のようになっていた。とにかく器用な男だ。この町の家の建て方にまだ慣れていないフランツにこの町のやり方を教えては技術的なことを教えられ、上手くやってくれているらしい。
◆ ◆ ◆
相談をした翌日から離れが建てられ始めた。廊下の先の部分から繋げるようだ。あっという間に基礎が組まれてその上に壁が立てられるが……
「オットマー、二棟作るのか?」
「フランツから聞きましたが、エルザ様からは使用人棟だけではなくて愛人棟も一緒にと言われたそうで。まあ一棟も二棟も同じです」
「今のところ愛人用じゃなくて来客用と考えている。来客棟と呼んでくれ」
どれだけ女好きだと思われているんだろうか。やはりカレンが酔って喋ったせいか?
まあ呼び方はともかく、今の城を中央にして、東を来客用、西を使用人用にするらしい。何が違うのかと言えば、部屋の広さだそうだ。使用人は仕事内容によって身分の上下がある。離れや一人部屋が与えられるような職種もあれば、二人部屋や四人部屋もある。地下室や屋根裏部屋のこともあり、環境が良いとは言えないこともある。
うちの場合は新しく使用人棟を建てるので、住みやすさという点では問題ないだろう。今のところ使用人棟にまとめて入れることになるが、町の方がいいというならいずれは出てもらってもかまわない。まず四〇人を収容する場所が必要だっただけだ。
現在うちで働いている使用人はいない。ハンスとアガーテには休暇を与えていて、年明けに復帰してもらうことになっている。
うちにやって来るのは、処分された貴族たちの屋敷で働いていた使用人たちの一部で、男が一八、女が二二。内訳は従僕が二、庭師が二、小姓が一、御者が一、馬丁が二、門番が一〇、侍女が二、料理人が二、台所女中が三、一般女中が一〇、洗濯女中が二、皿洗い女中が三。
男性使用人は家令であるハンスの管轄になる。従僕はハンスの直接下についてもらう。年齢差があるなら一人は執事になってもらってもいいか。門番は町の警備隊か職人たちの護衛になってもらうのが一番だな。今の城に門番は必要ないだろう。小姓や庭師はそのままで大丈夫か。小姓は雑用係だ。庭師の仕事は庭の手入れだけでなく、屋敷の中に花を飾ったり、訪問客を庭から屋敷の中まで案内するなど、それなりに重要な仕事だ。御者と馬丁はそのままだな。
女性使用人は家政婦長であるアガーテの管轄だ。侍女は……必要か? 身分の高い女性の身の回りの世話をするのが仕事だが、うちの妻たちは着替えから料理から掃除まで何でもするからな。仕事を変える必要はありそうだ。料理人はそのままだな。台所女中は料理人の部下になる。使用人の食事作りだけでも大変だろう。一般女中は屋敷の内外の一通りの仕事をする。洗濯女中と皿洗い女中の仕事はそのままだな。
彼らのような人材を探している貴族は探せばいなくはないと思うが、結局のところ伝手がないのが一番の理由だ。
それなりの年数を重ねた執事や従者、従僕、庭師などは、屋敷に訪問客としてやって来た貴族と顔を合わせることが多い。だから顔を覚えられていることも多く、紹介状がなくても、元の職場が問題を起こした貴族であっても、次の仕事が見つかった者が多い。だが人前に出ない仕事をする者にはそのような機会は少ない。
一般女中のように替えが利く仕事の場合もよく似たものだ。たしかに家事なら一通りできるというのは強みだが、新しく雇うことは簡単だ。わざわざ処分された貴族のところにいた女中を雇う必要はない。皿洗い女中は女中の見習いのようなものだから、一般女中以上に仕事が見つけにくい。
受け入れると言ったからには受け入れるが、まず部屋が足りない。クラースは途中で城のサイズを大きくしたそうだから、普通に入れたら二〇人、詰め込んで三〇人くらいだろう。詰め込めるだけ詰め込めば入るかもしれないが、それもなあ。
仕事内容によって地位が違うから、一つの部屋に何人も詰め込むこともあれば、一人に一室を与えることもある。二階や三階なら部屋に空きあるんだが、使用人が使う部屋としては問題がある。少々立派すぎるからだ。各所に相談が必要だな。土地はあるんだから隣に建ててもらうか。
「いいんじゃない?」
「お城にたくさんの使用人ですか。これはもう王様のようですね」
「エルマー王ですねっ」
王様と言われると色々と問題になりそうだが、使用人を雇うことは問題なかった。それにしても、四人での生活もあっという間に終わりになってしまうな。これはこれで特別感があって面白かった。
「使用人の部屋が足りないから増築してもらおうと思う。棟梁たちが言っていたように、廊下の先から繋げるので問題ないか?」
「それで大丈夫だと思いますよ。棟梁のヨハンさんに聞いたところ、使用人のための別棟と愛人のための別棟を建てるための図面はあるそうです」
「……どこでそんな話を?」
「教会での仕事中です。立派なお城だからいずれは使用人が増えるだろうと。そうすればその中からエルマー様の愛人になる女性も出てくるだろうと。そのようなことを話しました」
「ありもしないことを確定事項のように話すのはやめてくれ」
「でも結果として使用人がいっぱい来るじゃない。愛人だっていっぱい来るわよ」
「愛人があんまり来るとお前たちの相手ができなくなるぞ」
「私たち三人の分はちゃんと確保して、他は上手くやりくりしてね」
「私たちの分があることは大前提ですね」
「減ったら泣きますねっ」
「……」
どうも三人の中では、自分たちの分はすでに確保されているようだ。すでにいっぱいいっぱいなんだが、これ以上どうしろと?
「話は分かりました。すぐに用意します」
「来週には来ることになっているから、それに間に合わせてくれればありがたい」
「問題ありません。ヨハンさんたち経由で人手を借ります」
「ああ、頼む」
大工のフランツには使用人が増えるので使用人の部屋の増築を頼んだ。彼らとしては腕の見せどころなので、張り切って建ててくれるだろう。棟梁の代表のヨハンと組んで作業を進めるそうだ。
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◆ ◆ ◆
相談をした翌日から離れが建てられ始めた。廊下の先の部分から繋げるようだ。あっという間に基礎が組まれてその上に壁が立てられるが……
「オットマー、二棟作るのか?」
「フランツから聞きましたが、エルザ様からは使用人棟だけではなくて愛人棟も一緒にと言われたそうで。まあ一棟も二棟も同じです」
「今のところ愛人用じゃなくて来客用と考えている。来客棟と呼んでくれ」
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まあ呼び方はともかく、今の城を中央にして、東を来客用、西を使用人用にするらしい。何が違うのかと言えば、部屋の広さだそうだ。使用人は仕事内容によって身分の上下がある。離れや一人部屋が与えられるような職種もあれば、二人部屋や四人部屋もある。地下室や屋根裏部屋のこともあり、環境が良いとは言えないこともある。
うちの場合は新しく使用人棟を建てるので、住みやすさという点では問題ないだろう。今のところ使用人棟にまとめて入れることになるが、町の方がいいというならいずれは出てもらってもかまわない。まず四〇人を収容する場所が必要だっただけだ。
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