ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
74 / 345
第一章:領主一年目

使用人たちの受け入れ準備

しおりを挟む
 エクムント殿から、うちの領地で使用人を四〇人を雇ってほしいと頼まれた。正直に言えば四〇人も必要ない。そもそも五五〇人くらいしかいない領地だ。四〇人も必要なのは公爵とか辺境伯とかの大貴族くらいだろう。

 現在うちで働いている使用人はいない。ハンスとアガーテには休暇を与えていて、年明けに復帰してもらうことになっている。

 うちにやって来るのは、処分された貴族たちの屋敷で働いていた使用人たちの一部で、男が一八、女が二二。内訳は従僕が二、庭師が二、小姓が一、御者が一、馬丁が二、門番が一〇、侍女が二、料理人が二、台所女中が三、一般女中が一〇、洗濯女中が二、皿洗い女中が三。

 男性使用人は家令であるハンスの管轄になる。従僕はハンスの直接下についてもらう。年齢差があるなら一人は執事になってもらってもいいか。門番は町の警備隊か職人たちの護衛になってもらうのが一番だな。今の城に門番は必要ないだろう。小姓や庭師はそのままで大丈夫か。小姓は雑用係だ。庭師の仕事は庭の手入れだけでなく、屋敷の中に花を飾ったり、訪問客を庭から屋敷の中まで案内するなど、それなりに重要な仕事だ。御者と馬丁はそのままだな。

 女性使用人は家政婦長であるアガーテの管轄だ。侍女は……必要か? 身分の高い女性の身の回りの世話をするのが仕事だが、うちの妻たちは着替えから料理から掃除まで何でもするからな。仕事を変える必要はありそうだ。料理人はそのままだな。台所女中は料理人の部下になる。使用人の食事作りだけでも大変だろう。一般女中は屋敷の内外の一通りの仕事をする。洗濯女中と皿洗い女中の仕事はそのままだな。

 彼らのような人材を探している貴族は探せばいなくはないと思うが、結局のところ伝手がないのが一番の理由だ。

 それなりの年数を重ねた執事や従者、従僕、庭師などは、屋敷に訪問客としてやって来た貴族と顔を合わせることが多い。だから顔を覚えられていることも多く、紹介状がなくても、元の職場が問題を起こした貴族であっても、次の仕事が見つかった者が多い。だが人前に出ない仕事をする者にはそのような機会は少ない。

 一般女中のように仕事の場合もよく似たものだ。たしかに家事なら一通りできるというのは強みだが、新しく雇うことは簡単だ。わざわざ処分された貴族のところにいた女中を雇う必要はない。皿洗い女中は女中の見習いのようなものだから、一般女中以上に仕事が見つけにくい。

 受け入れると言ったからには受け入れるが、まず部屋が足りない。クラースは途中で城のサイズを大きくしたそうだから、普通に入れたら二〇人、詰め込んで三〇人くらいだろう。詰め込めるだけ詰め込めば入るかもしれないが、それもなあ。

 仕事内容によって地位が違うから、一つの部屋に何人も詰め込むこともあれば、一人に一室を与えることもある。二階や三階なら部屋に空きあるんだが、使用人が使う部屋としては問題がある。少々立派すぎるからだ。各所に相談が必要だな。土地はあるんだから隣に建ててもらうか。

「いいんじゃない?」
「お城にたくさんの使用人ですか。これはもう王様のようですね」
「エルマー王ですねっ」

 王様と言われると色々と問題になりそうだが、使用人を雇うことは問題なかった。それにしても、四人での生活もあっという間に終わりになってしまうな。これはこれで特別感があって面白かった。

「使用人の部屋が足りないから増築してもらおうと思う。棟梁たちが言っていたように、廊下の先から繋げるので問題ないか?」
「それで大丈夫だと思いますよ。棟梁のヨハンさんに聞いたところ、使用人のための別棟と愛人のための別棟を建てるための図面はあるそうです」
「……どこでそんな話を?」
「教会での仕事中です。立派なお城だからいずれは使用人が増えるだろうと。そうすればその中からエルマー様の愛人になる女性も出てくるだろうと。そのようなことを話しました」
「ありもしないことを確定事項のように話すのはやめてくれ」
「でも結果として使用人がいっぱい来るじゃない。愛人だっていっぱい来るわよ」
「愛人があんまり来るとお前たちの相手ができなくなるぞ」
「私たち三人の分はちゃんと確保して、他は上手くやりくりしてね」
「私たちの分があることは大前提ですね」
「減ったら泣きますねっ」
「……」

 どうも三人の中では、自分たちの分はすでに確保されているようだ。すでにいっぱいいっぱいなんだが、これ以上どうしろと?



「話は分かりました。すぐに用意します」
「来週には来ることになっているから、それに間に合わせてくれればありがたい」
「問題ありません。ヨハンさんたち経由で人手を借ります」
「ああ、頼む」

 大工のフランツには使用人が増えるので使用人の部屋の増築を頼んだ。彼らとしては腕の見せどころなので、張り切って建ててくれるだろう。棟梁の代表のヨハンと組んで作業を進めるそうだ。

 ヨハンはハイデに来る前は家具を作っていた男だ。家は石で壁を作り、そこに組み込むように木を組んで屋根を作る。それができるのが彼だけだったので、いつの間にか大工のようになっていた。とにかく器用な男だ。この町の家の建て方にまだ慣れていないフランツにこの町のやり方を教えては技術的なことを教えられ、上手くやってくれているらしい。



◆ ◆ ◆



 相談をした翌日から離れが建てられ始めた。廊下の先の部分から繋げるようだ。あっという間に基礎が組まれてその上に壁が立てられるが……

「オットマー、二棟作るのか?」
「フランツから聞きましたが、エルザ様からは使用人棟だけではなくて愛人棟も一緒にと言われたそうで。まあ一棟も二棟も同じです」
「今のところ愛人用じゃなくて来客用と考えている。来客棟と呼んでくれ」

 どれだけ女好きだと思われているんだろうか。やはりカレンが酔って喋ったせいか?

 まあ呼び方はともかく、今の城を中央にして、東を来客用、西を使用人用にするらしい。何が違うのかと言えば、部屋の広さだそうだ。使用人は仕事内容によって身分の上下がある。離れや一人部屋が与えられるような職種もあれば、二人部屋や四人部屋もある。地下室や屋根裏部屋のこともあり、環境が良いとは言えないこともある。

 うちの場合は新しく使用人棟を建てるので、住みやすさという点では問題ないだろう。今のところ使用人棟にまとめて入れることになるが、町の方がいいというならいずれは出てもらってもかまわない。まず四〇人を収容する場所が必要だっただけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなわたしたちが1000倍サイズの超巨大エルフ少女たちから世界を取り返すまでのお話

穂鈴 えい
ファンタジー
この世界に住んでいる大多数の一般人たちは、身長1400メートルを超える山のように巨大な、少数のエルフたちのために働かされている。吐息だけでわたしたち一般市民をまとめて倒せてしまえるエルフたちに抵抗する術もなく、ただひたすらに彼女たちのために労働を続ける生活を強いられているのだ。 一般市民であるわたしは日中は重たい穀物を運び、エルフたちの食料を調達しなければならない。そして、日が暮れてからはわたしたちのことを管理している身長30メートルを越える巨大メイドの身の回りの世話をしなければならない。 そんな過酷な日々を続ける中で、マイペースな銀髪美少女のパメラに出会う。彼女は花園の手入れを担当していたのだが、そこの管理者のエフィという巨大な少女が怖くて命懸けでわたしのいる区域に逃げてきたらしい。毎日のように30倍サイズの巨大少女のエフィから踏みつけられたり、舐められたりしてすっかり弱り切っていたのだった。 再びエフィに連れ去られたパメラを助けるために成り行きでエルフたちを倒すため旅に出ることになった。当然1000倍サイズのエルフを倒すどころか、30倍サイズの管理者メイドのことすらまともに倒せず、今の労働場所から逃げ出すのも困難だった。挙句、抜け出そうとしたことがバレて、管理者メイドにあっさり吊るされてしまったのだった。 しかし、そんなわたしを助けてくれたのが、この世界で2番目に優秀な魔女のクラリッサだった。クラリッサは、この世界で一番優秀な魔女で、わたしの姉であるステラを探していて、ついでにわたしのことを助けてくれたのだった。一緒に旅をしていく仲間としてとんでもなく心強い仲間を得られたと思ったのだけれど、そんな彼女でも1000倍サイズのエルフと相対すると、圧倒的な力を感じさせられてしまうことに。 それでもわたしたちは、勝ち目のない戦いをするためにエルフたちの住む屋敷へと向かわなければならないのだった。そうして旅をしていく中で、エルフ達がこの世界を統治するようになった理由や、わたしやパメラの本当の力が明らかになっていき……。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...