ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

倍増(二+二=四)

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「エルマー様、カレンさん、向こうはいかがでしたか?」
「お帰りなさいっ」
「ただいま、エルザ、アルマ。とりあえず一通りは完成したぞ」
「みんなで住める大きなお城も建ててもらったわよ」

 移住が完了し、住める場所もでき、食料もとりあえず問題がない。そうなれば足りないのは人だ。暮らせる環境が整ったから、王都の屋敷までエルザを迎えに来た。

「カレンが希望したようで、屋敷も男爵邸とは思えないくらい立派になった。むしろ城だ」
「あ、カレンさんがそんな希望をしたのですか?」 
「どうせ住むならみんな一緒でいいでしょ? エルマーと私、エルザ、アルマ。もっと増えても大丈夫よ」
「それは横に置いておいて、結局アルマはまだいたんだな」
「……いたらダメですか?」

 眉をひそめられてしまった。これは俺が悪い。

「悪い、言い方が悪かった」
「前にも言いましたが、私は好きですので、エルマー様が」
「……ん? あれは孤児院や教会のことじゃなくて、俺のことだったのか?」
「はいっ、もちろんです」

 前にアルマに「お前はここを出ようと思わなかったのか?」と聞いたら、「私は……好きですので」と返事が返ってきたはずだ。おれはここ孤児院が好きなんだと思っていたんだが、どうやら読み違えていたようだ。特に好かれるようなことをした記憶は……ないよな?

 アルマがここに来たのは俺が軍学校にいたほぼ最後の頃。他の孤児たちと同じような扱いをしていたはずだ。孤児の中でも一番しっかりしていて、エルザを呼びに屋敷まで来ることはあったが、それ以外は特に何もなかった。

 王城で見かけたのはアルマだったはずだ。それからあまり時間を置かずに孤児院に預けられたから何か理由があるはずだが、それを聞くのも気が引けた。だが、一緒に暮らすならきちんと聞いておくべきだろうな。

「はいはい、エルマー、その件は後でいいじゃない。とりあえず二人とも連れて行きましょ。どうせ向こうに行ったら人手は必要よ。アルマがいたら助かるでしょ?」
「……まあいいか。それなら二人を異空間に入れて運ぶか」
「異空間ですか?」
「ああ、カレンが俺の使っている異空間に入ったんだ。それならエルザとアルマも大丈夫だろう」
「エルマー様に入れていただけるならどこにでも」
「そっちじゃない。それにまだ昼間だ。じゃあ入れるぞ……って入らないな」

 俺はエルザの頭に触れて異空間に入れようとしたが入らなかった。アルマもだ。

「あのときは大丈夫だったのにね。ちなみの私は?」
「同じようにやるぞ」

 今度はカレンの頭に触って異空間に収納してみると……カレンは入った。

「カレンさんが消えましたね」
「不思議ですっ」

 異空間からカレンを出す。

「私は入れたわね。なんで?」
「俺にも分からないが、とりあえず異空間で運ぶのはやめだ。カレン、先に二人を向こうに連れて行ってくれ。俺は後でいいから」
「分かったわ。それじゃ二人とも、私の手を握ってね」

 その言葉が聞こえると、もう三人の姿はなかった。



「お待たせ」
「ああ、何度も悪いな」
「大丈夫よ。最近は慣れてきたみたいだから疲れにくいみたい」
「そうか? それじゃ頼む」
「はーい」

 そう言うと正面から抱きついてきた。

「手を繋ぐだけでもいいんじゃないのか?」
「これはあなた専用」
「そうか」

 もう慣れたものだが、カレンに抱きつかれたままドラゴネットまで移動した。



◆ ◆ ◆



「これは……お城ですね」
「どう見てもお城ですっ」

 四人で城の前にいる。誰が見てもそう思えるよなあ。

「まあな。俺の屋敷は最後でいいと思って先に領民たちの家を建てさせたんだ。一番大切なのは領民だという意味で『人は城』と言ったら、なぜか屋敷が城になった」
「すごいですっ。でもお掃除が大変そうですね」
「いずれは人を雇うことを考えないといけないが、それまではみんなでやれることをやっていこうと思う。それでいいか?」

 歩きながら説明しているが、まだ玄関から小広間に入ったところだ。たしかにこの城は広い。しかも棟梁たちに言わせると、増築が可能になっている。クラースがそのように設計したらしく、廊下の先は増築を前提として作られているそうだ。増築の必要がある場合を考えて棟梁たちに伝えていったらしい。

 これまで俺とカレンしかいなかったので使用人はいない。もう少し領内が落ち着き、他の貴族との交流があるようなら、貴族として体裁を整える必要があるだろう。だが今のところは必要ないだろうと思っている。問題は掃除だけだ。何もしなくても埃が溜まる。建ってからそれほど建っていないから本格的な掃除はしていない。するなら人手が必要だろう。これまでは俺とカレンの二人だけだったが、二人増えて一気に倍だ。それでも焼け石に水だが。

「エルマー様。名前だけは聞いているのですが、ハンスさんとアガーテさんという方はどうされたのですか?」

 ハンスとアガーテはずっとハイデにいたからエルザは顔を知らなかったな。名前だけは言ったことがあるし、父からも聞いたことがあったかもしれない。

「この城の敷地の端には離れがあって、今は休暇を与えているからそこに住んでいる。しばらく家令も家政婦長も必要なさそうだからな。明日になったら庭あたり会うだろう」
「分かりました。それではしばらくはここがこの四人の愛の巣ということでいいですね?」
「愛の巣ね。うーん、いい響きね」
「愛を育むわけですねっ」

 エルザがそんな微妙な言葉を口にしたらカレンが反応した。アルマはこっちをじっと見ている。

「四人で……まあそう言っても……いいのか。アルマは本当にそれでいいのか?」
「はいっ、もちろんですっ! よろしくお願いします」

 長い銀色の髪を振り回すかのように頭を下げた。

 エルザが何を考えていたのかは分からないが、最初からアルマと俺をくっつけようとしていたわけではない。思い返せば最初の頃、アルマが屋敷にエルザを呼びに来たときには「あまりこちらに来てはいけませんよ」などと言っていたはずだ。アルマが俺のそばに来ても何も言わなくなったのは……そうだな、最近になってからだな。何か心変わりでもあったんだろう。
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