ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

仮開通

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「ではエルマー様、こちらの端をお願いします」
「分かった。これを向こうまでだな?」
「はい、そうそう破損するものではありませんし、破損しても繋げられますが、なるべく無茶はしないようにお願いします」
「分かった。こちらこそよろしく頼む」

 ダニエルさんに頼んであった伝達路が完成した。竜の鱗を細く伸ばして繋ぎ合わせたもので、伸ばすと九キロ以上あるものを螺旋状に巻いている。硬い鱗も細くすればある程度はしなるが、それでも麻紐のように巻くことはできず、直径二〇メートルくらいある。

 今日は伝達路を設置する作業を進める。ドラゴネット側から始め、エクセンに辿り着けば、向こう側を固定する。そしてダニエルさん殿が一番端に魔力を集める魔道具を接続する。

 そうしたらまたドラゴネット側へ戻り、伝達路を軽く引っ張ってピンと伸ばして固定し、端に魔力を集める魔道具を接続する。

 照明の魔道具はダニエルさんが空いた時間で作ってくれていた。空いた時間とは王都に戻っていたときのことだ。たまに来客はあるが頻繁ではないので、基本的に照明作りをずっと続けてくれていた。

 全長九キロのトンネルにどれだけ必要かは供給される魔力量にもよる。魔力収集装置を設置したのはそのためだ。しかも予定よりも伝達路が太くなり、魔力の流れも多い。結果として、予定よりかなり小さい照明を予定よりかなり多く設置することになったそうだ。そうしないと照明の近くが眩しすぎるんだとか。

 真っ暗な部分と明るすぎる部分が交互になるよりは、全体的にそこそこ明るい方がいいだろう。それも考えて作業を続けてくれていた。これは報酬を弾まないとな。

 天井に取りつけられたフックに引っかけるのに、最初は脚立を使うことを考えていたが、フックを取り付けた方法応用することにした。棒の先に伝達路の先をくく付けて、それを持って歩きながらフックにかけていけば簡単だ。歩くだけなら二時間から三時間もあれば十分だ。

 ダニエルさんにはこれに同行してもらい、このトンネルをどう活用すればいいか、どうすればより安全になるかの意見を歩きながら言ってもらった。

「それほど頻繁ではないでしょうが、トンネルの中で馬車が壊れることがあるかもしれません。道を塞がないように、退避する場所があればいいですね」
「なるほど、何か所か横にそのような場所を掘るか」
「はい。何かの都合で休憩することもあるかもしれません。それと、側溝を作る予定でしたよね?」
「ああ、掃除のために水を流そうと思うからな。ドラゴネット側を低くしてそちらへ流し、一度溜めてから浄化しようと思う」
「それなら、一定間隔で[消臭]の魔道具も設置しましょう。汚れは落ちても臭いはなかなか消えません」
「そうだな。ダニエルさんは作れるのか?」
「はい、できます。お任せください」

 ダニエルさんから、土魔法で側溝を作るなら見える場所には掘らない方がいいと言われた。端の方に側溝を作れば、馬車を端に寄せたときに車輪が落ちる可能性があると。その考えを採用し、壁面と地面の接する部分から壁側に、つまり横に少し掘ってから下に掘ることになった。そうすれば側溝があるように見えないし、馬車の車輪が落ちることもないだろう。そこまでする必要があるのかどうかは分からないが、事故が起こってから対処するよりもいいだろう。



 ダニエルさんと意見を交わしながら歩いているとエクセンが見えてきた。伝達路の端をトンネルから少し出すと、ダニエルさんはそれを持って曲げ、トンネルの出入り口の上へと上がり、そこに魔力収集装置を取り付け、外からは見えないように偽装した。俺ではほんの少しも曲げることができないが、技術があればあんなに簡単に曲がるのか。

「エルマー様、この一帯を簡単でかまいませんので固めておいてください。人が乗るとは思えませんが、野獣が乗る可能性がありますので」

 魔力収集装置は、魔力を遮断するような場所に置かれない限りは、例え水の中だろうが土の中だろうが問題ないらしい。とは言っても空気に近い方がいいらしく、トンネルの出入り口のすぐ上に設置された。

 言われた通りに固めると、ダニエルさんと一緒にドラゴネット側の出入り口へ向かった。伝達路の端を持ってピンと張ると、またダニエルさんは端に魔力収集装置を取り付けて山肌に偽装した。ここも同じように固める。

「とりあえず私に今できるのは以上ですね。照明はお渡ししたもので大丈夫なはずです。それと、これから[消臭]の魔道具を作ります」
「それはぜひお願いする。必要な資材があれば言ってほしい」
「いえ、お預かりしている鱗だけでも十分すぎます」
「分かった。では一度ドラゴネットに戻ろうか」

 ダニエルさんの存在は本当にありがたい。もちろん竜の鱗という貴重な素材が山のようにあるからだが、こちらかが必要としているものをきちんと考えて提案してくれる。固定客がいるのは当然だろう。



 俺は俺で準備をする。天井の照明と蓋の部分だ。トンネルは半円状になっている。その天井付近に魔力の伝達路を通している。そこに照明の魔道具をぶら下げる。ぶら下げたら照明部分だけが飛び出すようにして蓋をし、伝達路は天井裏に隠す感じにする。

 照明の魔道具は棒の先にでも取り付けて一つずつ引っかけるしかないな。ありがたいことに先がフックになっているので難しくはない。引っかけつつ向こう側まで歩き、天井に蓋をしつつ帰ってくるか。

 どうやって蓋をすれば一番手間がかからないか……。やはり石の棒を使うか。天井に触れさせて変形させればいいだろう。トンネルそのものを変化させるには相当な魔力が必要になる。変化させるなら棒の方だな。そうとなればとりあえず歩くか。このまま夕方まで続ければ、なんとか終わるか?
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