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第一章:領主一年目
カレンの見た目の話
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カレンはいつも違う服を着ている。だが洗濯物の中に彼女の服はない。
「魔力でできているらしいわよ」
「便利だな」
「魔力が尽きたら裸になるかもしれないけど」
「そんなに魔力が減ることはあるのか?」
「ないと思うわ。そもそも魔法って燃費が悪いからそんなに使わないしね。それに、竜の姿に戻った方が魔力の点では効率がいいわよ」
魔力によって服を作り出しているそうだ。意識しなくても自然とそうなるらしい。だが意識すれば服は消すことができるし、普通の服を身につけることもできる。ほとんどあり得ない話だが、魔力がなくなれば服も消えてしまうんじゃないかという話だ。
竜は魔力が多い。だがクラースやパウラも言っていたが、竜は本来は魔法は使わない。竜が持っているのはそもそも人の魔法とは違った力。カレンが木を乾燥させたりするのも、水竜が持つ水を操る力。あれは魔法ではないそうだ。魔法は人が作り出したもので、それを竜が人の姿になって真似をしているだけだとか。つまり元の力と魔法の両方が使える。訓練次第では。
クラースやパウラも人の姿で長く生活してきたから慣れただけで、最初はカレンのように、非常に効率が悪いのにあり余る魔力で無理やり魔法という現象を起こしていたそうだ。そうしてしばらく使っているうちに魔法を使うことに慣れ、徐々に効率が良くなるそうだ。慣れてくると人よりも遥かに上手に使えるらしい。別にこれは魔法に限らないらしく、どんなことでも時間が解決してくれると。
竜は寿命という概念がほとんどない。殺されない限りは一万年でも一〇万年でも生きるらしい。もちろんクラースもそこまで長く生きてきたわけではなく、せいぜい三〇〇〇年ほどらしい。パウラで一〇〇〇年少々だとか。それならあの見た目はどうなのかと言えば、あれは気分によるところが大きいらしい。
クラースもパウラもカレンが生まれると今の姿に変わったそうだ。要するに自分たちが親になったという気分になり、それによって親らしい外見になったらしい。前に見せてもらったように、いつでも若い見た目に戻すことはできる。人生で何らかの節目に姿が変わるようだとクラースは言っていた。
クラースは火属性、つまり火竜だから、髪はやや赤味がかった黒。一方でパウラとカレンは水属性、つまり水竜だから、髪は青味がかった黒だ。そこは変わらない。そして三人の竜としての体格を考えると、カレンはかなり小柄だ。だから人としての姿も小柄になっている。そこも基本的には変わらない。
人は成長すれば背が伸びるし筋肉も付く。場合によっては脂肪も付く。カレンだってこれから成長すれば人としての背も伸びるかもしれないし、出るところも出るかもしれない。ただ先取りはできないので、今の段階ではどうやっても背は伸びないし、ボンキュッボンにもなれない。
どうしてそんなことを考えているかというと、カレンが服を消して体を動かしているからだ。
「胸を大きくする運動をしてもなあ……」
「可能性はゼロじゃないわ」
「そりゃそうだが、胸だってそこまで小さいわけじゃないだろ」
「でもその両目でじっとエルザの胸を見てたでしょ。あのサイズとまではいかなくても、もう少し……せめてアルマくらいにはならないと」
アルマと競うのもどうかと思う——いや、二人ともちょうど成人したくらいか。同い年と考えてもいいのか?
どうやらハイデでしばらく過ごしているうちに、他人に見られることが気になったらしい。エクセンから王都、王都からハイデ、この移動中は人とすれ違うことはあったが、買い物や宿泊を除いてはのんびり会話をすることはなかった。だが話し合いなど参加することで、領主夫人として注目されていることに気付いた。当然だが、いずれはエルザも向こうに行く。そうなれば二人が並んだときにどうなるか、だそうだ。
「まあ頑張ってくれ」
「あ、ちょっとちょっと。揉むと大きくなるって書いてあるから試してみたいんだけど」
「それなら毎晩やっているだろう。大きくなったか?」
「あ、そうね。たしかにあまり変わらないわね」
「まあ少しくらい変わったかもしれないが、残念ながら目に見えて分かるほど変わっていないと思うぞ」
「やっぱり変わらないのかなあ……」
「クラースにもらった薬の一覧を調べてくる。胸が大きくなる薬があれば作ればいいか?」
「お願いね」
まあ誰にだって見た目の劣等感はあるだろう。俺だって『背が高い』『目つきがキツい』『髪が赤い』と、この年代の平均からはかなり離れていると思う。だからと言って平均的な外見になりたいかと言えば決してそんなことはない。良くも悪くも今の姿は他人の記憶に残るからだ。
カレンは俺からするとかなり小柄で、出るべきところは出ているとは言いがたいが、間違いなく美少女だと言える。青味がかった黒い髪と目、透き通るような白い肌。綺麗なドレスを着せれば、間違いなく舞踏会の花形になるだろう。ふむ、むしろそちらの方向で攻めるべきじゃないか? あ、いや、その前に薬か。
カレンが俺のところに来ることになったとき、クラースから渡された手紙は二通あり、一通は普通の挨拶、そしてもう一通は様々な薬の材料と作り方を書いた書き付けだった。書き付けと呼ぶには長く、かなりの分量がある。
これまで一番重宝したのは、実はそれしか使っていないんだが、体力回復と言うか精力回復の水薬だ。カレンの相手は大変だからほぼ毎晩使っていた感じだ。ただ最近はカレンが抑え気味になったからか、それとも俺が慣れたからなのかは分からないが、毎日飲まなくても何とかなっている。できればあれに頼らないようにしたい。カレンが酔った勢いで「あの人は夜は水薬を飲まないとダメなのよね」とか言ったら、その直後からどういう目でみんなに見られるか分かったものじゃない。
これだけ効き目がある薬を知っているなら、カレンの胸を大きくする薬もあるんじゃないかと思ったわけだ。
…………
隅から隅まで読んだわけじゃないが、さすがに書かれていなさそうだ。胸が大きくないのは病気でも不調でも疲労でもないから仕方がない。しかし、普段から俺よりも食べていて全く太らないんだから、そもそも体型は変わらないんじゃないか? あくまで仮の姿のようだし。
あ、これは近い……いや、ダメだ。胸は大きくなるが副作用が大きすぎる。
「あった?」
「近いものはあったが、お前向きじゃないと思う。これなんだが、飲むと胸が大きくなるらしい」
「作れそう?」
「まあな。だが同じ分だけ尻が縮むそうだ」
「なんでそんな薬があるのよ!」
「どちらかと言えば、尻が大きすぎることを気にする女性が飲むらしい」
「あー、そっちの使い方かあ。それで縮んだ分が胸に行くのかしら」
「逆に胸から尻の方に行く薬もあるんだが、どうしてこんなに微妙な薬ばかりが載ってるんだ?」
「お父さんの趣味じゃない? 聞いてみたら?」
聞いてみたい気もするし聞きたくない気もするな。
「魔力でできているらしいわよ」
「便利だな」
「魔力が尽きたら裸になるかもしれないけど」
「そんなに魔力が減ることはあるのか?」
「ないと思うわ。そもそも魔法って燃費が悪いからそんなに使わないしね。それに、竜の姿に戻った方が魔力の点では効率がいいわよ」
魔力によって服を作り出しているそうだ。意識しなくても自然とそうなるらしい。だが意識すれば服は消すことができるし、普通の服を身につけることもできる。ほとんどあり得ない話だが、魔力がなくなれば服も消えてしまうんじゃないかという話だ。
竜は魔力が多い。だがクラースやパウラも言っていたが、竜は本来は魔法は使わない。竜が持っているのはそもそも人の魔法とは違った力。カレンが木を乾燥させたりするのも、水竜が持つ水を操る力。あれは魔法ではないそうだ。魔法は人が作り出したもので、それを竜が人の姿になって真似をしているだけだとか。つまり元の力と魔法の両方が使える。訓練次第では。
クラースやパウラも人の姿で長く生活してきたから慣れただけで、最初はカレンのように、非常に効率が悪いのにあり余る魔力で無理やり魔法という現象を起こしていたそうだ。そうしてしばらく使っているうちに魔法を使うことに慣れ、徐々に効率が良くなるそうだ。慣れてくると人よりも遥かに上手に使えるらしい。別にこれは魔法に限らないらしく、どんなことでも時間が解決してくれると。
竜は寿命という概念がほとんどない。殺されない限りは一万年でも一〇万年でも生きるらしい。もちろんクラースもそこまで長く生きてきたわけではなく、せいぜい三〇〇〇年ほどらしい。パウラで一〇〇〇年少々だとか。それならあの見た目はどうなのかと言えば、あれは気分によるところが大きいらしい。
クラースもパウラもカレンが生まれると今の姿に変わったそうだ。要するに自分たちが親になったという気分になり、それによって親らしい外見になったらしい。前に見せてもらったように、いつでも若い見た目に戻すことはできる。人生で何らかの節目に姿が変わるようだとクラースは言っていた。
クラースは火属性、つまり火竜だから、髪はやや赤味がかった黒。一方でパウラとカレンは水属性、つまり水竜だから、髪は青味がかった黒だ。そこは変わらない。そして三人の竜としての体格を考えると、カレンはかなり小柄だ。だから人としての姿も小柄になっている。そこも基本的には変わらない。
人は成長すれば背が伸びるし筋肉も付く。場合によっては脂肪も付く。カレンだってこれから成長すれば人としての背も伸びるかもしれないし、出るところも出るかもしれない。ただ先取りはできないので、今の段階ではどうやっても背は伸びないし、ボンキュッボンにもなれない。
どうしてそんなことを考えているかというと、カレンが服を消して体を動かしているからだ。
「胸を大きくする運動をしてもなあ……」
「可能性はゼロじゃないわ」
「そりゃそうだが、胸だってそこまで小さいわけじゃないだろ」
「でもその両目でじっとエルザの胸を見てたでしょ。あのサイズとまではいかなくても、もう少し……せめてアルマくらいにはならないと」
アルマと競うのもどうかと思う——いや、二人ともちょうど成人したくらいか。同い年と考えてもいいのか?
どうやらハイデでしばらく過ごしているうちに、他人に見られることが気になったらしい。エクセンから王都、王都からハイデ、この移動中は人とすれ違うことはあったが、買い物や宿泊を除いてはのんびり会話をすることはなかった。だが話し合いなど参加することで、領主夫人として注目されていることに気付いた。当然だが、いずれはエルザも向こうに行く。そうなれば二人が並んだときにどうなるか、だそうだ。
「まあ頑張ってくれ」
「あ、ちょっとちょっと。揉むと大きくなるって書いてあるから試してみたいんだけど」
「それなら毎晩やっているだろう。大きくなったか?」
「あ、そうね。たしかにあまり変わらないわね」
「まあ少しくらい変わったかもしれないが、残念ながら目に見えて分かるほど変わっていないと思うぞ」
「やっぱり変わらないのかなあ……」
「クラースにもらった薬の一覧を調べてくる。胸が大きくなる薬があれば作ればいいか?」
「お願いね」
まあ誰にだって見た目の劣等感はあるだろう。俺だって『背が高い』『目つきがキツい』『髪が赤い』と、この年代の平均からはかなり離れていると思う。だからと言って平均的な外見になりたいかと言えば決してそんなことはない。良くも悪くも今の姿は他人の記憶に残るからだ。
カレンは俺からするとかなり小柄で、出るべきところは出ているとは言いがたいが、間違いなく美少女だと言える。青味がかった黒い髪と目、透き通るような白い肌。綺麗なドレスを着せれば、間違いなく舞踏会の花形になるだろう。ふむ、むしろそちらの方向で攻めるべきじゃないか? あ、いや、その前に薬か。
カレンが俺のところに来ることになったとき、クラースから渡された手紙は二通あり、一通は普通の挨拶、そしてもう一通は様々な薬の材料と作り方を書いた書き付けだった。書き付けと呼ぶには長く、かなりの分量がある。
これまで一番重宝したのは、実はそれしか使っていないんだが、体力回復と言うか精力回復の水薬だ。カレンの相手は大変だからほぼ毎晩使っていた感じだ。ただ最近はカレンが抑え気味になったからか、それとも俺が慣れたからなのかは分からないが、毎日飲まなくても何とかなっている。できればあれに頼らないようにしたい。カレンが酔った勢いで「あの人は夜は水薬を飲まないとダメなのよね」とか言ったら、その直後からどういう目でみんなに見られるか分かったものじゃない。
これだけ効き目がある薬を知っているなら、カレンの胸を大きくする薬もあるんじゃないかと思ったわけだ。
…………
隅から隅まで読んだわけじゃないが、さすがに書かれていなさそうだ。胸が大きくないのは病気でも不調でも疲労でもないから仕方がない。しかし、普段から俺よりも食べていて全く太らないんだから、そもそも体型は変わらないんじゃないか? あくまで仮の姿のようだし。
あ、これは近い……いや、ダメだ。胸は大きくなるが副作用が大きすぎる。
「あった?」
「近いものはあったが、お前向きじゃないと思う。これなんだが、飲むと胸が大きくなるらしい」
「作れそう?」
「まあな。だが同じ分だけ尻が縮むそうだ」
「なんでそんな薬があるのよ!」
「どちらかと言えば、尻が大きすぎることを気にする女性が飲むらしい」
「あー、そっちの使い方かあ。それで縮んだ分が胸に行くのかしら」
「逆に胸から尻の方に行く薬もあるんだが、どうしてこんなに微妙な薬ばかりが載ってるんだ?」
「お父さんの趣味じゃない? 聞いてみたら?」
聞いてみたい気もするし聞きたくない気もするな。
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