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第一章:領主一年目
それほど大変でもなかった王城暮らし
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アルマと言います。元々は別の名前でしたが、ある出来事がきっかけで名前を変えることになりました。前の名前で呼ばれると誰のことかと一瞬考えてしまいそうです。
◆ ◆ ◆
私はお城にある使用人たちが暮らす建物の中で生まれました。結婚している使用人はたくさんいますので、私以外にも使用人の子供はたくさんいました。実の母は私を産んで数か月で亡くなってしまったそうで、私は母の同僚の女性に育てられました。そのことを知ったのは物心がついてからですが、そのこと自体を特に大変だとか、自分が恵まれていないとか、そのように感じたことはまったくありませんでした。同じような使用人の子供たちもたくさんいて、私の面倒を見てくれたリンダさんの双子の娘カーヤとラーラとは実の姉妹のように暮らしていました。
本当に小さな頃は何も感じませんでしたが、あるとき自分は二人と何かが違うということに気付きました。気付いたからどうということはありませんでしたが、気になることは気になるのでリンダさんに聞いたところ、私はリンダさんの娘ではないということを教えられました。
私の実の母はロッテという名前で、リンダさんは私の母の友人だったそうです。母が亡くなったときに私を引き取ってくれました。リンダさんは育ての母、その夫のカールさんは育ての父です。
それからしばらくして、私も多少の物の道理が分かるようになるとその頃から礼儀作法や読み書き計算を学び、下働きの仕事をしていました。そうは言っても大切な仕事ができるわけではなく、実際にしていたのは下働きの下働き、つまり使用人の手伝いです。要するに、将来に向けて使用人の仕事を近くで見て覚えなさいということでした。私もいずれはこのお城で働いたり、あるいは別のところで働くことになるんだろうなと思っていました。そんなある日、私はエルマー様を見かけました。
私がエルマー様を初めて見たのは、王太子殿下の誕生パーティーの会場でした。そのときはエルマー様の名前は知りませんでしたし、最初はそれほど興味があったわけでもありませんでした。でも赤い髪と少し険しい表情のせいで、かなり強く印象に残りました。
パーティーと言いましたが、私にはパーティーに参加できる資格なんてありませんでした。怒られない程度にこっそりと会場を覗いていただけですから、エルマー様も殿下も私に気が付いたはずはありません。実際に孤児院で会ったときも、私を見たことがあるような顔はしていませんでした。実際には違いましたが。そんな私が孤児院に入ったのには当然理由があります。
私の母はお城で働いていましたが、どうやら父親は国王陛下だったようです。それを知ったのはお城を出る直前で、そのことを教えてくれたのは王太子殿下でした。
ある日、ちょうど私の周りには誰もいないときに、護衛を連れた王太子殿下に声をかけられました。すると殿下は私を近くの小さな部屋へ入るように言い、私は殿下と二人っきりになりました。これで私も殿下のお手つきに……なりませんでした。
殿下が私に声をかけた理由ですが、実は殿下と私は父が同じだそうです。最初は何を言われているのか全く理解できませんでしたが、殿下はゆっくりと説明してくれました。
偶然殿下の父、つまり国王陛下がそのことをポロッと口にしてしまったようです。殿下の誕生日を祝うパーティーが行われ、それが終わった後は陛下は気分良く酔っていたそうです。それでつい口が軽くなってしまったと。殿下がそのことについて問い詰めると、何があったかを白状したそうです。
私の母は単なる使用人でした。陛下が使用人でしかない母に興味を持ったというよりも、たまたま精神的につらい時期に母が目の前にいてしまったというのが正しいようです。それで母は私を身ごもったそうです。そしてこれも偶然ですが、母は産後の肥立ちが悪く、私が生まれて数か月も経たないうちに亡くなったそうです。
それで私が王女になる……はずがないのが世の中の厳しさというものです。私は正式に認められた子供ではありません。ちなみに私が陛下の子供だと知っているのは、陛下と王太子殿下だけだそうです。王妃様にすら言っていないのだとか。それならどうして殿下が私に声をかけたのかということですが、私が妹だということを伝えたかっただけではなく、実は私が狙われているということを伝えようとしてくれたのです。
一か月前からだったのか、それとも二か月前からだったのかは忘れましたが、たまに嫌な視線を感じることがありました。それがその正体だったようです。とある貴族が私を狙っているのでお城から離れた方がいいと。そして殿下は、私を知り合いに匿ってくれるように頼んだそうです。
ちなみにその貴族ですが、名前を聞けば顔が一瞬で浮かびましたが、ヒキガエルを踏み潰したような伯爵です。いえ、顔で人を判断するのはダメだとは分かっていますが、あの表情は生理的に受け付けません。あれが向けられていたのかと思うとゾッとしました。
それから私は急いで荷物をまとめるとお城を出ました。もちろん私がお城を出たことがバレないように、殿下が上手く荷物に紛れ込ませてくれました。生まれは口外しないように、そして偽名を使うようにと言われました。とりあえずその家に入り、そこが無理になればある孤児院に行くようにと言われました。そこなら安心だと。その孤児院の場所はエルマー様のお屋敷の隣だと後になって分かりました。殿下の口ぶりだと、あの頃からかなりエルマー様を信頼されているようでした。
このようにして私はお城を出ることになりました。
◆ ◆ ◆
私はお城にある使用人たちが暮らす建物の中で生まれました。結婚している使用人はたくさんいますので、私以外にも使用人の子供はたくさんいました。実の母は私を産んで数か月で亡くなってしまったそうで、私は母の同僚の女性に育てられました。そのことを知ったのは物心がついてからですが、そのこと自体を特に大変だとか、自分が恵まれていないとか、そのように感じたことはまったくありませんでした。同じような使用人の子供たちもたくさんいて、私の面倒を見てくれたリンダさんの双子の娘カーヤとラーラとは実の姉妹のように暮らしていました。
本当に小さな頃は何も感じませんでしたが、あるとき自分は二人と何かが違うということに気付きました。気付いたからどうということはありませんでしたが、気になることは気になるのでリンダさんに聞いたところ、私はリンダさんの娘ではないということを教えられました。
私の実の母はロッテという名前で、リンダさんは私の母の友人だったそうです。母が亡くなったときに私を引き取ってくれました。リンダさんは育ての母、その夫のカールさんは育ての父です。
それからしばらくして、私も多少の物の道理が分かるようになるとその頃から礼儀作法や読み書き計算を学び、下働きの仕事をしていました。そうは言っても大切な仕事ができるわけではなく、実際にしていたのは下働きの下働き、つまり使用人の手伝いです。要するに、将来に向けて使用人の仕事を近くで見て覚えなさいということでした。私もいずれはこのお城で働いたり、あるいは別のところで働くことになるんだろうなと思っていました。そんなある日、私はエルマー様を見かけました。
私がエルマー様を初めて見たのは、王太子殿下の誕生パーティーの会場でした。そのときはエルマー様の名前は知りませんでしたし、最初はそれほど興味があったわけでもありませんでした。でも赤い髪と少し険しい表情のせいで、かなり強く印象に残りました。
パーティーと言いましたが、私にはパーティーに参加できる資格なんてありませんでした。怒られない程度にこっそりと会場を覗いていただけですから、エルマー様も殿下も私に気が付いたはずはありません。実際に孤児院で会ったときも、私を見たことがあるような顔はしていませんでした。実際には違いましたが。そんな私が孤児院に入ったのには当然理由があります。
私の母はお城で働いていましたが、どうやら父親は国王陛下だったようです。それを知ったのはお城を出る直前で、そのことを教えてくれたのは王太子殿下でした。
ある日、ちょうど私の周りには誰もいないときに、護衛を連れた王太子殿下に声をかけられました。すると殿下は私を近くの小さな部屋へ入るように言い、私は殿下と二人っきりになりました。これで私も殿下のお手つきに……なりませんでした。
殿下が私に声をかけた理由ですが、実は殿下と私は父が同じだそうです。最初は何を言われているのか全く理解できませんでしたが、殿下はゆっくりと説明してくれました。
偶然殿下の父、つまり国王陛下がそのことをポロッと口にしてしまったようです。殿下の誕生日を祝うパーティーが行われ、それが終わった後は陛下は気分良く酔っていたそうです。それでつい口が軽くなってしまったと。殿下がそのことについて問い詰めると、何があったかを白状したそうです。
私の母は単なる使用人でした。陛下が使用人でしかない母に興味を持ったというよりも、たまたま精神的につらい時期に母が目の前にいてしまったというのが正しいようです。それで母は私を身ごもったそうです。そしてこれも偶然ですが、母は産後の肥立ちが悪く、私が生まれて数か月も経たないうちに亡くなったそうです。
それで私が王女になる……はずがないのが世の中の厳しさというものです。私は正式に認められた子供ではありません。ちなみに私が陛下の子供だと知っているのは、陛下と王太子殿下だけだそうです。王妃様にすら言っていないのだとか。それならどうして殿下が私に声をかけたのかということですが、私が妹だということを伝えたかっただけではなく、実は私が狙われているということを伝えようとしてくれたのです。
一か月前からだったのか、それとも二か月前からだったのかは忘れましたが、たまに嫌な視線を感じることがありました。それがその正体だったようです。とある貴族が私を狙っているのでお城から離れた方がいいと。そして殿下は、私を知り合いに匿ってくれるように頼んだそうです。
ちなみにその貴族ですが、名前を聞けば顔が一瞬で浮かびましたが、ヒキガエルを踏み潰したような伯爵です。いえ、顔で人を判断するのはダメだとは分かっていますが、あの表情は生理的に受け付けません。あれが向けられていたのかと思うとゾッとしました。
それから私は急いで荷物をまとめるとお城を出ました。もちろん私がお城を出たことがバレないように、殿下が上手く荷物に紛れ込ませてくれました。生まれは口外しないように、そして偽名を使うようにと言われました。とりあえずその家に入り、そこが無理になればある孤児院に行くようにと言われました。そこなら安心だと。その孤児院の場所はエルマー様のお屋敷の隣だと後になって分かりました。殿下の口ぶりだと、あの頃からかなりエルマー様を信頼されているようでした。
このようにして私はお城を出ることになりました。
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