116 / 345
第一章:領主一年目
伝達路
しおりを挟む
魔道具職人のダニエルさんに頼んでいる魔力の伝達路は順調に伸びているようだ。伸びているとは言っても巻いてあるので、一見するだけではどれくらいの長さかは分からない。しかも工房に入りきらないので、工房の裏手に飛び出している形だ。
「これほど大量の竜の鱗を触った魔道具職人は私が初めてじゃないでしょうか。ここのところ竜が夢に出てきます」
「大変な思いをさせてすまないが、このトンネルが完成するまでは頼む」
「すみません、言い方が悪かったようです。大変名誉なことですから、エルマー様が頭を下げることではありません」
今日は追加の鱗を運んできたところだ。前回持ってきた分と同じくらいあるので、おそらく伝達路だけならこれで足りるだろう。
ダニエルさんは特殊な魔法を使って鱗を細く伸ばし、太めの麻紐くらいにしたものを大きく巻いている。細く伸ばした鱗はある程度はしなるものの、麻紐のように小さく巻くことはできないせいで、ある程度の大きさになってしまうのは仕方がない。
俺の考えはダニエルさんに伝えてあるが、天井の一番上から土魔法で作ったフックが下がっている形にして、そこに伝達路を引っかけていく形になる。そのフックに照明の魔道具をさらに引っかけ、照明部分を除いて天井に蓋をすれば悪戯をされたり盗まれたりすることはないだろう。
構造的にはトンネルはやや縦に長い半円形になっているので、上の部分を少し塞いで平らにしても圧迫感を感じることは全くない。高さも幅も十分に取ってある。
「私の方ですが、まずは伝達路を作るのにもうしばらくかかります。その間にエルマー様には伝達路を吊り下げるフック部分の設置をお願いします」
「そうだな。ちなみに、どれくらいの間隔がいいと思う? 照明以外にも利用する可能性も考えたいのだが」
「うーん、そうですね。このしなり具合ですと、二メートルならおかしな曲がり方はしません。照明はフックの部分に引っかけるとして、フックとフックの間に三つなら十分でしょう」
「必要なら後から補強もできそうだな。では二メートル間隔で設置することにする。ダニエルさんも大変だろうがよろしく頼む」
「いえ、こちらは毎日が貴重な体験ですので問題ありません。正直なところ、こちらに引っ越したいと思うくらいなのですが、工房のことや他のお客様のことなどを考えると、踏ん切りが付かず……」
「ははは。こちらはいつでも大歓迎だ。別に急ぐことでもないから、その気になったら言ってほしい。もちろんそのときにはきちんとした住居や工房は用意する」
「そのときはよろしくお願いします」
さて、トンネルの前まで来た。[転移]を使えば一瞬だ。[転移]を覚えた際に魔力量もかなり増えたようで、かなりありがたい。
カレンから[魔力譲渡]で大量の魔力を譲渡された瞬間は、本気で頭と体が内側から弾けそうなほどの痛みがあったが、あれで魔力が増えたのは間違いないだろう。魔力がどこに溜まってどのように減っているのかは俺には分からないが。
よくある説としては、どこかに魔力を入れる袋のようなものがあり、それが大きければそれだけたくさんの魔力を持っていることになるというものだ。胃袋があるんだから、魔力を溜める袋のようなものがあってもおかしくはないと。どこにあるのかは誰にも分からないそうだが。
他には、血と一緒に魔力が流れているという説もある。血が抜けすぎると死んでしまうのと同じように、魔力がなくなると意識を失ってしまうからだ。たしかによく似ている。
どれくらい増えたのかは分からない。以前なら昼過ぎには魔力切れになっていたんだが、夕方までトンネルを掘っても魔力切れにならなくなった。少なくとも一・五倍から二倍くらいにはなっているはずだ。その魔力を使ってトンネル内の加工を行う。
『J』と『U』の間くらいの形に加工した石のフックをたくさん用意する。いずれそこに伝達路を通すことになるだろう。ダニエルさんが言うには、照明の魔道具が伝達路に触れる部分は鱗で作るから、触れているだけでいいらしい。それならフックに伝達路を引っかけ、さらにそこに照明をかければいい。わざわざしっかりと固定する必要はないらしい。
二メートルごとにフックを取り付ける。最終的に全長が九キロ弱だったので、およそ四五〇〇か所に取り付けることになる。さすがに以前の魔力量なら根を上げていただろう。
ただ黙々と歩きながら設置する。普通に歩けば三時間もかからないが、脚立に上って取り付けて下りるという手順が必要だ。それほどサクサクとはいかない。途中で時間がかかりすぎると思ったので、もっと簡単な方法はないかと考えた。脚立に上がるのが面倒なら、歩きながらできるようにすればいい。
石で作った棒の先に石でできたフックの曲がっている部分を一時的に繋ぎ、棒を土魔法で伸ばす。石の天井にフックを当て、天井に固定できたら棒とフックを分離させる。土魔法がなければ使えないやり方だな。川や堀の浚渫をしていたときの方法を逆にしただけだが、思った以上に便利だ。繋げたり分離させたりと手間も魔力も必要だが、脚立の上り下りを繰り返すよりはよっぽど早い。
その作業をしばらく続けていたが、そもそも最初から石の棒を伸ばして天井に当てて接合し、当たった部分をフックの形にしてから切り離せば、わざわざ最初から四五〇〇個もフックを用意しなくてもよかったことに気付いた。フックを作って取り付けるということばかり考えていたから思いつかなかったのだろう。
一度楽な方法が分かれば、それからは早かった。石を伸ばす、天井に触れさせる、触れた部分をフックに変えて天井に固定する、不要な部分を切り離す。これなら歩きながらでもできる。慣れてくるとほとんど無意識でできるようになる。ただ、単純作業というものは気を抜いた瞬間に失敗することもあり得るので、とりあえず向こう側に出るまでは気を抜かないようにしよう。
「これほど大量の竜の鱗を触った魔道具職人は私が初めてじゃないでしょうか。ここのところ竜が夢に出てきます」
「大変な思いをさせてすまないが、このトンネルが完成するまでは頼む」
「すみません、言い方が悪かったようです。大変名誉なことですから、エルマー様が頭を下げることではありません」
今日は追加の鱗を運んできたところだ。前回持ってきた分と同じくらいあるので、おそらく伝達路だけならこれで足りるだろう。
ダニエルさんは特殊な魔法を使って鱗を細く伸ばし、太めの麻紐くらいにしたものを大きく巻いている。細く伸ばした鱗はある程度はしなるものの、麻紐のように小さく巻くことはできないせいで、ある程度の大きさになってしまうのは仕方がない。
俺の考えはダニエルさんに伝えてあるが、天井の一番上から土魔法で作ったフックが下がっている形にして、そこに伝達路を引っかけていく形になる。そのフックに照明の魔道具をさらに引っかけ、照明部分を除いて天井に蓋をすれば悪戯をされたり盗まれたりすることはないだろう。
構造的にはトンネルはやや縦に長い半円形になっているので、上の部分を少し塞いで平らにしても圧迫感を感じることは全くない。高さも幅も十分に取ってある。
「私の方ですが、まずは伝達路を作るのにもうしばらくかかります。その間にエルマー様には伝達路を吊り下げるフック部分の設置をお願いします」
「そうだな。ちなみに、どれくらいの間隔がいいと思う? 照明以外にも利用する可能性も考えたいのだが」
「うーん、そうですね。このしなり具合ですと、二メートルならおかしな曲がり方はしません。照明はフックの部分に引っかけるとして、フックとフックの間に三つなら十分でしょう」
「必要なら後から補強もできそうだな。では二メートル間隔で設置することにする。ダニエルさんも大変だろうがよろしく頼む」
「いえ、こちらは毎日が貴重な体験ですので問題ありません。正直なところ、こちらに引っ越したいと思うくらいなのですが、工房のことや他のお客様のことなどを考えると、踏ん切りが付かず……」
「ははは。こちらはいつでも大歓迎だ。別に急ぐことでもないから、その気になったら言ってほしい。もちろんそのときにはきちんとした住居や工房は用意する」
「そのときはよろしくお願いします」
さて、トンネルの前まで来た。[転移]を使えば一瞬だ。[転移]を覚えた際に魔力量もかなり増えたようで、かなりありがたい。
カレンから[魔力譲渡]で大量の魔力を譲渡された瞬間は、本気で頭と体が内側から弾けそうなほどの痛みがあったが、あれで魔力が増えたのは間違いないだろう。魔力がどこに溜まってどのように減っているのかは俺には分からないが。
よくある説としては、どこかに魔力を入れる袋のようなものがあり、それが大きければそれだけたくさんの魔力を持っていることになるというものだ。胃袋があるんだから、魔力を溜める袋のようなものがあってもおかしくはないと。どこにあるのかは誰にも分からないそうだが。
他には、血と一緒に魔力が流れているという説もある。血が抜けすぎると死んでしまうのと同じように、魔力がなくなると意識を失ってしまうからだ。たしかによく似ている。
どれくらい増えたのかは分からない。以前なら昼過ぎには魔力切れになっていたんだが、夕方までトンネルを掘っても魔力切れにならなくなった。少なくとも一・五倍から二倍くらいにはなっているはずだ。その魔力を使ってトンネル内の加工を行う。
『J』と『U』の間くらいの形に加工した石のフックをたくさん用意する。いずれそこに伝達路を通すことになるだろう。ダニエルさんが言うには、照明の魔道具が伝達路に触れる部分は鱗で作るから、触れているだけでいいらしい。それならフックに伝達路を引っかけ、さらにそこに照明をかければいい。わざわざしっかりと固定する必要はないらしい。
二メートルごとにフックを取り付ける。最終的に全長が九キロ弱だったので、およそ四五〇〇か所に取り付けることになる。さすがに以前の魔力量なら根を上げていただろう。
ただ黙々と歩きながら設置する。普通に歩けば三時間もかからないが、脚立に上って取り付けて下りるという手順が必要だ。それほどサクサクとはいかない。途中で時間がかかりすぎると思ったので、もっと簡単な方法はないかと考えた。脚立に上がるのが面倒なら、歩きながらできるようにすればいい。
石で作った棒の先に石でできたフックの曲がっている部分を一時的に繋ぎ、棒を土魔法で伸ばす。石の天井にフックを当て、天井に固定できたら棒とフックを分離させる。土魔法がなければ使えないやり方だな。川や堀の浚渫をしていたときの方法を逆にしただけだが、思った以上に便利だ。繋げたり分離させたりと手間も魔力も必要だが、脚立の上り下りを繰り返すよりはよっぽど早い。
その作業をしばらく続けていたが、そもそも最初から石の棒を伸ばして天井に当てて接合し、当たった部分をフックの形にしてから切り離せば、わざわざ最初から四五〇〇個もフックを用意しなくてもよかったことに気付いた。フックを作って取り付けるということばかり考えていたから思いつかなかったのだろう。
一度楽な方法が分かれば、それからは早かった。石を伸ばす、天井に触れさせる、触れた部分をフックに変えて天井に固定する、不要な部分を切り離す。これなら歩きながらでもできる。慣れてくるとほとんど無意識でできるようになる。ただ、単純作業というものは気を抜いた瞬間に失敗することもあり得るので、とりあえず向こう側に出るまでは気を抜かないようにしよう。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
小さなわたしたちが1000倍サイズの超巨大エルフ少女たちから世界を取り返すまでのお話
穂鈴 えい
ファンタジー
この世界に住んでいる大多数の一般人たちは、身長1400メートルを超える山のように巨大な、少数のエルフたちのために働かされている。吐息だけでわたしたち一般市民をまとめて倒せてしまえるエルフたちに抵抗する術もなく、ただひたすらに彼女たちのために労働を続ける生活を強いられているのだ。
一般市民であるわたしは日中は重たい穀物を運び、エルフたちの食料を調達しなければならない。そして、日が暮れてからはわたしたちのことを管理している身長30メートルを越える巨大メイドの身の回りの世話をしなければならない。
そんな過酷な日々を続ける中で、マイペースな銀髪美少女のパメラに出会う。彼女は花園の手入れを担当していたのだが、そこの管理者のエフィという巨大な少女が怖くて命懸けでわたしのいる区域に逃げてきたらしい。毎日のように30倍サイズの巨大少女のエフィから踏みつけられたり、舐められたりしてすっかり弱り切っていたのだった。
再びエフィに連れ去られたパメラを助けるために成り行きでエルフたちを倒すため旅に出ることになった。当然1000倍サイズのエルフを倒すどころか、30倍サイズの管理者メイドのことすらまともに倒せず、今の労働場所から逃げ出すのも困難だった。挙句、抜け出そうとしたことがバレて、管理者メイドにあっさり吊るされてしまったのだった。
しかし、そんなわたしを助けてくれたのが、この世界で2番目に優秀な魔女のクラリッサだった。クラリッサは、この世界で一番優秀な魔女で、わたしの姉であるステラを探していて、ついでにわたしのことを助けてくれたのだった。一緒に旅をしていく仲間としてとんでもなく心強い仲間を得られたと思ったのだけれど、そんな彼女でも1000倍サイズのエルフと相対すると、圧倒的な力を感じさせられてしまうことに。
それでもわたしたちは、勝ち目のない戦いをするためにエルフたちの住む屋敷へと向かわなければならないのだった。そうして旅をしていく中で、エルフ達がこの世界を統治するようになった理由や、わたしやパメラの本当の力が明らかになっていき……。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる