ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

伝達路

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 魔道具職人のダニエルさんに頼んでいる魔力の伝達路は順調に伸びているようだ。伸びているとは言っても巻いてあるので、一見するだけではどれくらいの長さかは分からない。しかも工房に入りきらないので、工房の裏手に飛び出している形だ。

「これほど大量の竜の鱗を触った魔道具職人は私が初めてじゃないでしょうか。ここのところ竜が夢に出てきます」
「大変な思いをさせてすまないが、このトンネルが完成するまでは頼む」
「すみません、言い方が悪かったようです。大変名誉なことですから、エルマー様が頭を下げることではありません」

 今日は追加の鱗を運んできたところだ。前回持ってきた分と同じくらいあるので、おそらく伝達路だけならこれで足りるだろう。

 ダニエルさんは特殊な魔法を使って鱗を細く伸ばし、太めの麻紐くらいにしたものを大きく巻いている。細く伸ばした鱗はある程度はしなるものの、麻紐のように小さく巻くことはできないせいで、ある程度の大きさになってしまうのは仕方がない。

 俺の考えはダニエルさんに伝えてあるが、天井の一番上から土魔法で作ったフックが下がっている形にして、そこに伝達路を引っかけていく形になる。そのフックに照明の魔道具をさらに引っかけ、照明部分を除いて天井に蓋をすれば悪戯をされたり盗まれたりすることはないだろう。

 構造的にはトンネルはやや縦に長い半円形になっているので、上の部分を少し塞いで平らにしても圧迫感を感じることは全くない。高さも幅も十分に取ってある。

「私の方ですが、まずは伝達路を作るのにもうしばらくかかります。その間にエルマー様には伝達路を吊り下げるフック部分の設置をお願いします」
「そうだな。ちなみに、どれくらいの間隔がいいと思う? 照明以外にも利用する可能性も考えたいのだが」
「うーん、そうですね。この具合ですと、二メートルならおかしな曲がり方はしません。照明はフックの部分に引っかけるとして、フックとフックの間に三つなら十分でしょう」
「必要なら後から補強もできそうだな。では二メートル間隔で設置することにする。ダニエルさんも大変だろうがよろしく頼む」
「いえ、こちらは毎日が貴重な体験ですので問題ありません。正直なところ、こちらに引っ越したいと思うくらいなのですが、工房のことや他のお客様のことなどを考えると、踏ん切りが付かず……」
「ははは。こちらはいつでも大歓迎だ。別に急ぐことでもないから、その気になったら言ってほしい。もちろんそのときにはきちんとした住居や工房は用意する」
「そのときはよろしくお願いします」



 さて、トンネルの前まで来た。[転移]を使えば一瞬だ。[転移]を覚えた際に魔力量もかなり増えたようで、かなりありがたい。

 カレンから[魔力譲渡]で大量の魔力を譲渡された瞬間は、本気で頭と体が内側から弾けそうなほどの痛みがあったが、あれで魔力が増えたのは間違いないだろう。魔力がどこに溜まってどのように減っているのかは俺には分からないが。

 よくある説としては、どこかに魔力を入れる袋のようなものがあり、それが大きければそれだけたくさんの魔力を持っていることになるというものだ。胃袋があるんだから、魔力を溜める袋のようなものがあってもおかしくはないと。どこにあるのかは誰にも分からないそうだが。

 他には、血と一緒に魔力が流れているという説もある。血が抜けすぎると死んでしまうのと同じように、魔力がなくなると意識を失ってしまうからだ。たしかによく似ている。

 どれくらい増えたのかは分からない。以前なら昼過ぎには魔力切れになっていたんだが、夕方までトンネルを掘っても魔力切れにならなくなった。少なくとも一・五倍から二倍くらいにはなっているはずだ。その魔力を使ってトンネル内の加工を行う。

 『J』と『U』の間くらいの形に加工した石のフックをたくさん用意する。いずれそこに伝達路を通すことになるだろう。ダニエルさんが言うには、照明の魔道具が伝達路に触れる部分は鱗で作るから、触れているだけでいいらしい。それならフックに伝達路を引っかけ、さらにそこに照明をかければいい。わざわざしっかりと固定する必要はないらしい。

 二メートルごとにフックを取り付ける。最終的に全長が九キロ弱だったので、およそ四五〇〇か所に取り付けることになる。さすがに以前の魔力量なら根を上げていただろう。



 ただ黙々と歩きながら設置する。普通に歩けば三時間もかからないが、脚立に上って取り付けて下りるという手順が必要だ。それほどサクサクとはいかない。途中で時間がかかりすぎると思ったので、もっと簡単な方法はないかと考えた。脚立に上がるのが面倒なら、歩きながらできるようにすればいい。

 石で作った棒の先に石でできたフックの曲がっている部分を一時的に繋ぎ、棒を土魔法で伸ばす。石の天井にフックを当て、天井に固定できたら棒とフックを分離させる。土魔法がなければ使えないやり方だな。川や堀の浚渫しゅんせつをしていたときの方法を逆にしただけだが、思った以上に便利だ。繋げたり分離させたりと手間も魔力も必要だが、脚立の上り下りを繰り返すよりはよっぽど早い。

 その作業をしばらく続けていたが、そもそも最初から石の棒を伸ばして天井に当てて接合し、当たった部分をフックの形にしてから切り離せば、わざわざ最初から四五〇〇個もフックを用意しなくてもよかったことに気付いた。フックを作って取り付けるということばかり考えていたから思いつかなかったのだろう。

 一度楽な方法が分かれば、それからは早かった。石を伸ばす、天井に触れさせる、触れた部分をフックに変えて天井に固定する、不要な部分を切り離す。これなら歩きながらでもできる。慣れてくるとほとんど無意識でできるようになる。ただ、単純作業というものは気を抜いた瞬間に失敗することもあり得るので、とりあえず向こう側に出るまでは気を抜かないようにしよう。
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