ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

酔っ払い

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 ハイデに帰ってきてすべきこと。まずは領民たちに対して移住の説明とカレンのお披露目をする。最後は麦の収穫後に移動。移動はカレンとクラース殿、そしてまだ会ったことのないパウラ殿に担当してもらう。移動に使う籠は俺が作る。その間にできる限りのことはするが、俺一人では限度があるからどうするか。

 その間に一度北に戻るか? いや、戻ったところですることはないか。資材は——そうは言っても石材だけだが——ある程度は作って置いてきたから、他用意するなら木材か。多少は向こうでカレンに用意してもらったか。木材もある程度なければ町が作れない。そう言えば、町の名前すら決めていなかったな。

「エルマー様、説明の会合とカレン様のお披露目は明日になりました」
「分かった。移住の説明とカレンの紹介、そしてもう一つ、新しい町の名前の募集もその場で提案したい」
「名前でございますか? エルマー様がお付けになるものと思っておりましたが」
「私もあなたが決めるものだと思ってたけど」
「俺が付けてもいいんだが、どうせならそこで暮らす者たちに決めてもらうのも面白いと思ってな」

 領主は俺だが、そこまで名前にこだわりはない。俺も彼らも、誰もが住民の一人に違いない。

「もしそれで『エルマー』になったらどうするの?」
「それはそれで面白そうだが、あいつはどれだけ自己顕示欲が強いんだと思われそうだな。いくつか挙げてもらった中から選ぶことにするか」

 人名から採った町の名前はもちろんあるが、それは偉人の名前を使っていることがほとんどだ。決まったら国に報告する必要があるからな。

「じゃあ宴会のときに出してもらったらどう? 気分がいいときには色々な候補が出そうね」
「では名前の話も途中で持ち出しましょう」
「そう言えば、カレンは酒は飲んだことはあるのか?」
「ないわよ。美味しいの?」
「美味いかどうかは個人次第だが……いきなり飲んで倒れられたら困るな。試しに飲んでおくか?」
「美味しいのを頼むわ」



 あらかじめ確認しておいてよかった。初めて酒を飲むときは自分の飲める量が分からず、大抵は飲みすぎて潰れたり、笑い上戸に泣き上戸に絡み酒などで周りに迷惑をかける輩は多い。カレンの場合は最初は陽気に笑うだけだった。

「ねえ~~エルマー~~『俺は人間だ。竜とは寿命が違うから先にいなくなるぞ』って言ってみて~~」
「な! どうして今その言葉を?」
「押しかけたのは~~私の方なのよ~~それなのに~~私のことを~~気遣ってくれたじゃない~~」
「それは事実を口にしただけなんだけどな」
「それでも~~嬉しかったの~~エルマー~~大好き~~」

 このように俺が彼女と結婚を決めた場面の再現を求めてきたから恥ずかしいことこの上ない。ある程度までは大丈夫そうだから、飲み過ぎないように指導しなければ。酔った間の記憶はあるようだから、下手なことをするとカレン自身が恥ずかしい思いをするだろうからなあ。



◆ ◆ ◆



「ねえ~~~~あなた~~~~ちゅ~~~~」
「はいはい」
「ダ~~メ~~~~心が籠ってな~~い~~~~やり直し~~~~」



 無理だった。



「エルマー様、カッコいいなあ」
「女としてはそんな熱烈な求婚に憧れるねえ」
「だれが樽に熱烈な求婚をするんだよ」
「ああん? 誰が樽だって?」
「誰って、そりゃお前——グエッ」



「さすがはエルマー様。相手が竜でもお構いなしっすね」
「魔力だけじゃなくてそっちも底なしだったんだなあ」
「やっぱ俺らの領主様はすげーわ」
「そうよ~~すごいのよ~~うちの旦那様は~~格好いいし~~優しいし~~夜も凄いのよ~~最高の旦那様~~」



 俺はカレンを連れて集会所に来た。そこでまず集まった領民たちに移住の話をしたが、そのことに関しては特に問題はなかった。ここにいるのは移住に納得した者たちばかりだ。最終的には俺とカレンを入れて三三四人になった。

 それからカレンを紹介した。カレンが角と羽を見せたときにはどよめいたが、どこからともなく「エルマー様だからな」と聞こえてきた。なんとなく無理やり納得した感じだ。俺は自分ではわりと普通だと思っていたが、そのあたりの認識を改めた方がいいかもしれない。

 そして続いて説明した移動手段にもかなり驚いていた。空を飛ぶのと一か月も一か月半も荷物と一緒に歩いて行くのとどちらがいいかということだが、当然移動時間は短い方がいいということになった。

 それから町の名前の話も出した。いい名前があったら教えてほしいと。もちろんみんなは俺が決めると思っていたようだが、俺はみんなと一緒に決めたいと言った。そんなことを言われてもいきなりポンと出てくるものでもないから、いい名前を思いついたら書いてもらうことにした。その紙は集会所の掲示板に貼りつけてある。

 そして最後、すでにカレンのお披露目は終わっているので、披露宴ではなく単なる宴会が始まった。俺とカレンは主賓なので皆が酒をぎに来る。カレンには口を付けるふりをして飲み過ぎないようにと言ったが、気が付けば酔っ払っていた。そしてこの状態だ。

 カレンはみんなの中を歩き回って話をしつつ、さらにそこで酒をがれて飲み干して、さらに移動して話をして、というのを先ほどからずっと繰り返している。その度に俺は呼ばれ、みんなの前でキスをする羽目になっている。見た目は美少女なカレンが酔っぱらって求婚の場面だけじゃなく、夜の生活も赤裸々に語っているのを聞くと、明日になって恥ずかしさでのたうち回るんじゃないかと心配になる。

「よっ、エルマー様! もう一回どうぞ!」
「もういいだろ」
「カレン様! もっとブチュッとどうぞ!」
「は~いは~~~い! ぶちゅ~~~」

 周りからは手拍子が起きたりしているので、俺も開き直ってカレンの希望に応えているが……こいつは酔いすぎだろう。もうヘロヘロになっている。

「カレン、そろそろ帰るぞ」
まらまらまだまだこれからよ~~~~」
「さて、俺はカレンを連れて戻ることにする。酒は置いておくから、みんなは好きに続けてくれ。それと町の名前も考えておいてくれよ」
「わっかりました」
「了解っす」
らっこだっこ~~~~」

 みんなの威勢のいい声を聞きながら、カレンを抱き抱えて家に戻る。

「あなた~~~~あいしてる~~~~」
「俺もだ」



◆ ◆ ◆



「~~~~~~~~~~⁉」



「んん? どうした?」

 翌朝、カレンの叫び声で目が覚めた。

「わ、わ、私、昨日、昨日、私、人前で……」
「思いっきり夜の生活のことを喋ったり俺にキスをせがんだりしていたぞ」
「やっぱり⁉」
「だから飲みすぎるなと言っただろう」
「だって美味しいんだもん」
「それでお前が俺にどんなねだり方をしているか、どんな体位が好きかまでみんなが知ってしまったわけだが」
「~~~~~~~~~~‼」
「まあ大丈夫だろう」
「嫌われたりしない?」
「それはないだろう。せいぜい夜が激しい愉快な奥さんって思われるくらいじゃないか?」
「夜が激しい愉快な奥さん……」

 ちょっとショックを受けたようだが、気にすることはないだろう。しばらくは恥ずかしいかもしれないが、この町の住民は人が良いのが多い。悪く受け取る者はいないだろう。記憶には残ると思うが。
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