ズィミウルギア

風月泉乃

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第一章:友と仲間と見守り隊員

【オンライン】28話

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「はぁ、ガブ……こんな所で会うなんてね」
「いやいや、むしろ個々でよかったんだな」

「は? それはどういう――」

「ここなら、遠慮なく喧嘩が出来るんだな」

 オレの足が一瞬で竦んだ。

 いま下手に動こうとすると、転んでしまうだろう。
 シュネーもオレの肩に必死に捕まる様にして、ガブから隠れている。

「おっと、お嬢様達は関係ないから。え~っと、こうかな?」

 フッと体に力が戻ってきた。
 ただ、ティフォだけは動けない様子だった。

「自分よりレベルの低いモノの動きを鈍く出来る。ギアで言うと【威圧衝】って言う。スキルは【制圧】を持っていれば取得が可能になるんだな」

「ご丁寧にどうも、俺のも解いてくれる嬉しいんだけど」

「それは無理なんだな」

「なんで、かな?」

「じゅ、じゃない。ティフォナス殿は逃げるのが上手いから、オイラが逃げ足で唯一、負けを感じるほどに隠れちゃうのはダメなんだな」

 純粋な逃げ足ならガブの方が早いと思う。

 ただ、樹一はかくれんぼやら缶蹴りといった。
 身を隠してやり過ごす遊びに関しては、負けなしで、オレも勝ったことがない。

 彼は異常なまでに、相手の意表を突くのが凄く上手い。
 つまり此処は、隠れには事欠かない。

 森というティフォに有利な場所だと、ガブは判断したのだろう。
 だから、逃げられる可能性を排除するために、威圧でティフォの足を止めている。

「はぁもう、別に逃げないから」
「ふむ、解く前にPVPを受けて貰うんだな」
「分かったよ」

 ピーブイピーってなんだろう。

 オレは本を呼び出して、ペラペラとさっきの言葉を探す。
 シュネーもオレと一緒に探してくれる。

「あ、あった、コレじゃない?」

 この説明書、オンラインゲームの専門用語もちゃんと載せてくれてるんだ。

 オンラインゲーム上でプレイヤー同士が戦うこと、と載っている。オンラインのゲームにおける対人戦闘であり、コンピューターなどではなくプレイヤーキャラクターと一対一、又は、多数対多数で行われる戦闘である。

 とりあえず、戦う事は分かった。

 けど、どうしてガブとティフォが戦うのか、良く解らない。
 オレがどうしようかと、おろおろしているとケリアさんが横に来て肩を軽く叩いた。

「見守りましょうか?」
『え? で、でも』

「大丈夫じゃない? ゲームでの殴り合いだし」

『もう、シュネーは何でそうお気楽なの?』

「あら、アタシもシュネーちゃんに賛成よ」

 少し驚きながら、オレはケリアさんを見た。

「うふふ、アナタには解らない事が多いでしょうけどね。男の子には殴り合ってでしか解決出来ない気持ちってモノがあるのよ」

『あ~、うん』

 とりあえず頷いてしまう。

 ――すいません、ケリアさん。オレは元は男です。

 ティフォとガブが何らや細かい話し合いをし終わると、お互いに距離をとった。

「互いに武器は無し。ただの殴り合いなんだな。けどレベル差があるからハンデとして、この戦いは互いの体力値や力などは基礎値で開始、能力も無し」

 純粋に殴り合いをしようというバトルらしい。

「オーケー、負けても恨まないでよ」
「元より、コレはただオイラの我儘。これ一回だけなんだな」

 二人とも拳を握って、戦闘の構えをする。

「じゃあ、ワタシが開始の合図をするわよ」
 ケリアさんが二人の間に立って交互に二人の顔を見た。

「お願いします」
「よろしく、なんだな」
「では、互い戦。武器無し、能力無し、パラメーター初期値」
 ケリアさんが高々に右手を上げて、一泊の間をおく。

「試合、開始!」

 バッと勢いよく、ケリアさんが手を振り下ろして戦闘開始の合図をする。



 傍から見れば美女と子デブの男性が殴り合って構図に見える。

 一対一の対人戦は、一定の範囲を特殊な円形の線で囲ったフィールドを発生させる。

 地形はその戦闘を行ったフィールドに依存し。
 人数によってバトルフィールドの範囲が広くなったり狭くなったりするという。

 いまティフォとガブが戦っているフィールドは、相撲でよく見る範囲と一緒くらいだと思う。
 対人戦はある程度の融通が利くらしく、コレは極小の広さ。

 ケリアさんが叫んで設定したのは、対人戦を行う際のルールを決めたものだ。

 もっと細かく時間設定だったり、ライフが0になっても死なない、気絶になるというルールも作れる。

「この、ちょこまかと!」

「ははは、ティフォナ氏。いくら初期値とは言え我の実力派は中級レベルでござるよ。それにこのゲームの初期値はそれぞれ弄った初期値、どう動かし、どう動くかを想像し考えて作った、このアバターはウチの理想。懸念を言えば種族やら身長やらを、もっと自由に変えたかったであるが、それはそれなんだな」

 余裕で回避しながらティフォに決め顔で語っていたが、最後の方は私情的な愚痴になったせいか、
 言葉遣いが戻っている。

「お前は盾職だろう、何で回避にガン振りなんだよ!」

 ストレートなパンチを放っても、風の様にサラリと避ける、決め顔は忘れないガブ。

 続けて足払いや、蹴りを混ぜるがそれも軽やかに躱す。

「しっかしティフォナ氏、その格好での戦闘はやりずらいであるなぁ」

 蹴りを放ったティフォがその勢いのまま1回転して、相手の胴を目掛けて真っすぐにけたぐりを放ったが、そこにガブは居なかった。

 ティフォが回転した一瞬、視線が外れた瞬間に後ろへと回り込んでいた。

「な⁉ ぐぁ!」

 ガブは背中から体当たりをする。

 対人戦において、背後や不意打ちはダメージ判定が2倍から3倍に変わる。

「全く、私情だか何だか知らないけど、相当に怒ってるみたいだね」

「そりゃあね~、キミのなした功績は大きいだろうさ。一人と他人数、天秤に掛けられる経験なんて無いし、ウチがその場に居ようと居まいと、結果なんか判らないんだな」

 ガブはティフォがよろけているのに、追撃することはなかった。

「それでも君達の機転で救えた人は多く、自身をワザと犠牲にして囮を買った大馬鹿野郎が、なんの相談もなく勝手に居なくなったのは、キミに責任は無い。それはキミも分かっているのだろうが、それで納得しろと言われても心は追いつかないというのも、想像に難くはないんだな……だけど――」

 ギュッと強く握りしめた拳と、全体重を乗せてティフォの顔面目掛けて殴り込む。

「ウチに相談するなり、八つ当たりするなり。会って話し合う事は出来たんじゃないか? 一人でグダグダ悩んで、周りに心配をかけまくってからに、ケロリとゲームに居やがって、先ずは、やるべき順番が違うんじゃないんかいっ⁉ 頼りなかったんかい、ウチ等で馬鹿やって過ごした時間は信頼における関係もなかったんか? ふざけんじゃないよ、一人で頑張ってんじゃないよ、馬鹿野郎がっ‼」

 彼の言葉は、樹一に対して、そしてオレに対しても言いたかった言葉だろう。

 樹一に真正面から放った言葉は、オレにも強く響いた。

 そして何よりも、心のトゲを取ってくれた様に感じる。


 オレも樹一も、この世界の青い空を清々しく眺めながら、自然と涙が零れた。




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