ズィミウルギア

風月泉乃

文字の大きさ
上 下
22 / 56
第一章:友と仲間と見守り隊員

【オンライン】13話

しおりを挟む




 ――数秒後。

 
 清らかですっきりとしたお姉さま系な美女になった。
 
「あとはお化粧に」
「もう、すきにしてくれ」
 乾いた笑いを浮かべたティフォは、もう死んだ魚の様な目をしている。
 
 
 服を変えるだけでも印象が変化するのはちょっと面白い。
 
「ねっ、スノー……ボクの事を誘ってるの」
 いままで大人しかったシュネーの体が、プルプルと小刻みに震えている。
 
『シュネー? あの、何言ってるのかな?』
「気付いてないの? それともワザと? ボクの事を試すにしても、それは反則級だよ」
『ごめん、シュネー? 本当に何を言ってるのか理解できない』
「へぇ~、天然? 無意識かな。流石にボク、我慢できない」
 
 ――あれ? そういえばなんでオレはシュネーの二の腕に抱き着いてんだろ。
 
 本当に無意識に抱き着いている自分に、オレ自身が一番驚いている。
 
「スノーってばふらふらトテトテと歩きだしたと思ったら、ボクの腕に甘える感じに抱き着いてくるんだもん」
 
 大慌てで抱きしめていた両腕を解いて、自分の両手を後ろ手に組んで隠す。
 
『あはは、ゴメンね』
 
 人肌がそんなにも恋しかったのか、自分でも良く分からない。
 ただ、無性に気恥ずかしくって小さく舌を出して誤魔化すように笑う。
 きっと頬が赤くなっているんだろう自分でも分かるほどに、熱くなっている気がする。
 
「あぅ、もう無理」
 なにかプツンって切れた音が聞こえた、そんな気がした。
 
『ほぇっ! わ、ちょシュネー!?』
 
 オレはまだ宙に浮いて飛び回る、そんな感覚に慣れていない。
 逃げようにも手足をバタつかせるだけで、前に進んでくれないのだ。
 すぐに捕まって、後はもう人形のように頬ずりやら抱きしめられて、されるがまま。
 ケリアさんのお化粧講座が終わるまで、オレもシュネーから解放される事は無い。
 
 
「さってつぎは貴方達ね……って、どうしたの?」
「ううん、きにしないでください」
『はい、キニシナイデください』
「そ、そう。それにしても、どうしようかしらね~」
 
 ケリアさんは頬に手をあてて考え込む。
 
「元々、スノーちゃんを中心に考えてたか……シュネーちゃんにこのあたり?」
 
 動きやすそうなデニムの見た目はスカートに見える、ショートパンツ、全体的に動きやすさ重視のラフな格好でも上着が妖精イメージかヒラヒラした感じの装飾が多めだ。

 ちなみに、オレの衣装も同じ感じのモノが用意された。
 
「えへへ~、スノーとおそろいだね」
 子供のような無邪気な笑顔で言われると、さっきまでの事を怒るに怒れない。
 
『……妖精用の着替えもあるんだ』
「いいえ、分かれてからちょっと速攻で作って見ただけよ。初期装備みたいなモノだし、デザインだけ決まれば作るのは簡単なのよ」
 
 ある程度のレベルになると、クラフターの能力で面倒な工程が省けるらしい。
 料理で言えば、下準備のされたモノが出てくる料理番組みたいな感じ。
 
『ねぇ、別に初期装備のままでも良いのでは?』
「あら、その装備にしたのはちゃ~んと付属の効力があるのよ」
「え! 良いのかそんなもん貰っちまって」
 
 あ、ティフォが復活した。
 
「べつに良いの。初期装備に比べたら良い装備ってだけよ。実際、この装備はあまり他のプレイヤー達からしたら意味の無いモノだから、使ってもらえる方が良いでしょう」

『そういうことなら、ありがたく遣わせていただきます。ありがとうケリアさん』
「どうしたしまして~」
「スノーとおそろい、サンキューですケリアさん」
 
 オレ達はそれぞれにケリアさんにお礼を言う。
 この装備、確かに戦い向きでは無いモノらしい。
 泥汚れなどに強いようで、汚れに対しマイナスされる効果が付いている。
 そして肉体労働などにも、疲労度の蓄積地にマイナスが付くらしい。
 
「さぁ、これで畑を作ってしまいましょう」
 
 
『あの、ちょっといい?』
 
 いまだシュノーに抱きしめられた。
 仕方なしにそのまま手をあげ、皆が気付いてくれるよう主張して発言する。
 
「どうしたの?」
 
 シュノーの声に二人が振り向く。
 
『気になる事があるから、畑作りよりもそっちを先に調べたい』
「気になる? なんかあったか?」
「こっちを見られても困っちゃうわよ」
 
 ケリアさんの方をチラッとみたティフォに、肩をあげて分からないと主張する。
 
『少し前に来た、このあたりに住んでる村人さん? の言っていたことが気になって』
 
 村と言えるほど人が多いのか知らないけど。
 と言うよりも、このホームの場所から見える範囲に家がぽつぽつ辛うじて見える程度の数くらいしか無いんじゃあないかって思う。
 
「畑作りがどうのこうのってやつだよね、それがどうしたのさ?」
 
 シュノーの問いに自分でも頭の中で整理しながら答える。
 
『畑作りというよりも、なんでこの辺に住む皆が認めちゃうのかってことが気になる』

「あら~、それなら私が言ったじゃない、このフィールドの大地は畑にしようとするとモンスターがわんさか湧いてくるんだって」

『はい、それは前に見ましたから分かっているんですけど、ちょっと気になるんです』

「この辺を見回るだけか?」
「それだけでなにか分かるの?」
『どうだろ、でも多分、なにか分かると……思う』
「そういえば、確かにここに来てからまともに周りを探索してないわねぇ」
「じゃ、とにかくこの辺りを見て回ろうか」
「よ~し、じゃあ決まったなら行こう行こう。さ、行こうね~スノー」
「なんというか、良いのかスノー」
 
 ぬいぐるみのように抱かれたオレを、憐みの目で見てくる。
 
『もう、気にしないことにした。ははっ』
「そうか……、まぁなんだ、頑張れ」
 
 ケリアさんはオレ達を遠目に見ながら、楽しそうに高笑いを上げながら外へ向かう。
 オレ達もその後に続いて出ていく。
 
 
 
 道なんて整備されたものもなければ、何かシンボルになるような大きな建物がある訳でも無い。特徴なんて一切ない草原に離れた位置に家が点在しているだけ。

 転々とある家は乱雑で適当な間隔で建てられている。
 外的から身を守るような柵さえない。

 いや、これは正確な表現ではないか―― 柵が建てられたであろう痕跡はあった。
 
 ここに町を作ろうと、広く大きく囲ったのであろう痕跡っぽい後を見つけた。
 朽ちた木の柵っぽいものが何もない場所で見つかったのが、多分それだろう。

 そしてその名残りなのか、点在する家にはゲームのキャラクター達が住み着いている、その場所で生活している、様子も確認できた。
 
 元々はここに経てたプレイヤーの家が多いらしいけど、管理を放棄した家やきちんと手続きをしていない家には、キャラクターが勝手に住み着いてしまったようだ。

 言付いた人達からのティフォとケリアさんを見る視線は、冷たく敵意を持っている人が多く居るという事も話に聞いた通りだ。
 
「たく、やるせねぇな」
「そうねぇ~、実際に私達が何かしたって訳じゃあないけれど……これわねぇ」
「ボク的にはスノーに被害がなければ何でも良いや」
 
 シュネーやオレに向けられる視線は、敵意は無いけど冷たい感じはある。
 
『ねぇ、なんでファーマーじゃあなくって冒険者が恨まれてるの?』
「そういえば~そだね、ボクらファーマーの方が町作りの力があるんでしょう」
「あ~、言われて見ればそうだな……なんでだ?」
 
 オレ達三人の視線が必然的にケリアさんへ集まる。
 
「ん~、詳しく私も詳しくは知らないからねぇ。確か約束を反故にして裏切ったのが冒険者だったんじゃあなかったかしら……匙を投げたってやつかしら?」
 
 確かバグかと運営に報告して、それがバグではないと言われたんだっけ。
 
『モンスター退治の失敗が原因?』
「でしょうね、倒しても畑とかに湧いて出てくるんだから」
「俺みたいなテイマーで仲間にするっていうのは?」
「無理よ、テイム出来る上限は決まっているでしょう」
 

 ティフォの問いに少し考えたが、ケリアさんはすぐに返した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

処理中です...