フリーダムネイチャー

風月泉乃

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【開幕】 間違いの始まり。

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「ふ、ふははは」
「ちくしょうが……」

 折れた剣を強く握りしめているが、力なく床に膝をついている美少女……ではなく美少年と、それを嘲笑うかのようにして目の前に立つ者が一人いた。
広間の周りには、夥しい数の魔物が横たわっている。

「いや~、ここまで本気で戦ったのは初めてだよ。心を動かされたのもね」
 清々しそうな顔でそう語るのは、この城の主である魔王だったりする。
 王と言ってもまだ若い青年である、二十歳前後と言うところだろう。

「はぁ、はぁ、……くそっ」
 折れてしまった剣を握っているのが精一杯で、それを振り回す力も残っていない。
「君みたいな子は初めてだよ」
 魔王は笑いながらそう言う。
「……余裕か、気に食わなねぇ」
 ふらふらしながらも、ゆっくりと立ち上がる。

「やはり面白いな。超高位魔術の連発、かなりのダメージも残っているだろうに……普通なら死んでいてもおかしくはないはずだ」
 息を何とか整えながら、必死にふら付く脚を抑えて立ち上がる。
「言ったはずだ。はぁ、はぁ……他のヤツ等なんかとは違うと」
 絞り出すような声で、彼はそう吐き捨てる。

 その言葉を聞いて魔王が少し驚いた顔で、しばらく少年を見つめる。

「諦めたらどうだ? こんな事で死ぬなんてくだらないだろう」

「却下だ、ド阿呆」

「それは、勇者としてのプライドか?」
「……貴様はアホか? 僕は一度も自分の事を【勇者】と名乗った覚えは無い」

 追い詰められているは少年なのに、どこか優位に立っているように見える。

「初めに言ったはずだ、『そんな肩書に興味は無い』と……」
「まったく頑固な奴だな~」
「どっちがだ……貴様、最初から僕を殺す気で戦ってないだろうが‼」
「あ、バレテタ?」

 魔王が悪戯っぽい笑みで言う。
 立っているのがやっとの少年だった、そんな態度を見せられてか手に力が入る。

「いい加減に俺のモノになれよ」
「誰かに付き従う気は無い!」
「たく、どうしたら諦めてくれるんだ? 別に下僕になれと言ってるんではないのだが」
「だから……はぁ、はっ。諦めて、全力で殺しに来い!」

 少年の殺気は未だに魔王を食い殺すような気魄に満ちている。
 そんな少年を見降ろしながら、

「どう言えばわかってくれる」と、ブツブツ呟いている。
 少年はというと、薄れいく意識をギリギリで保っていたが意識が少し遠のいていた。

「あ~、そうだ!」
 魔王の声にハッと我に返った少年。
 ブツブツと言いながら何かを考えて背中を見せている魔王にイラッとしたが、
(……チャンス?)

――戦闘中に背中を見せた奴が悪い!

 少年は力が入らない足を踏ん張りながら、思い切り地面を蹴って飛び、一歩で魔王の背後から折れた剣を突き刺そうとする。

 マントを翻し、少年を覆って視界を全て奪う。

「ふぇ? がっ⁉」

 さすがに避ける余力はなく、少年は相手の手刀を防ぐことなど出来なかった。

「油断大敵だな」
 パタッと床に倒れ、少年はそのまま気を失った。
 少年が大人しくなったのを確認してから、汗を腕で汗を拭い大きく息をつく。

「しかし、かなり追い込まれたな。流石にもう魔法が使えん……計画実行は明後日だな」
 意地でも余裕を見せていた魔王の方も、少年との戦いは結構ギリギリの状況だったらしく、拳を握ろうとすると腕が少し震えて、力が入りにくい。

「死ぬ気でいたんだろうが、悪く思うなよ。惚れさせたのは君なんだからな」

 ニヤリと怪しい笑みで少年を見降ろし、顔を撫でる。
 と、それだけで終わらず、怪我の具合を調べ始める。

「可愛い顔をしているのにもったいないな、男だなんて……まっていろ、今すぐ、ふふっ」
 不気味に笑いながら、少年を抱きかかえて広間を後にする。
「確か書庫に……あの呪いと変化魔法、それに固定化と性質変化を織り交ぜて、確か――」
 ブツブツと言いながら抑え切れない笑みが漏れて不気味に、笑い声が廊下に響く。


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