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第1話 恐れられた頭文字、再び(1)

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       第1章 プロローグ

 都会の片隅に巣くう悪党ども、奴らがいる限りその悪行は人知れず社会に蔓延はびこるしかなかった。
 しかしそんな中、それを許さんとばかりに決起した強者も現れる。自らの危険も顧みず、果敢に戦うことを宿命とする戦士。その比類なき豪傑さで、これまで幾度となく悪を懲らしめてきたというのだ。
 そのため、悪党どもが警戒するあまり、いつの間にか〝その名〟は裏社会で知られるようになっていた。ただ、幸運なことにその素顔はまだ悪党どもに悟られていない。
 どこの誰なのか? 奴らに知る由もなく、その神出鬼没の登場だけは常に恐怖を抱かれていた。

 そして、今日もまた――強拳が冴え渡った!

「ぎゃあー!」瞬時に男をなぎ倒した。次に別の男にも蹴りを入れ、床に這わせる。
「て、てめー!」今度はドスを持った男が切りつけてきた。けれど華麗に剣先をかわし、電光石火、正拳を食らわす。男はうしろの壁まで吹っ飛んだ。
 続いて一際貫禄のある中年男が目を見開き必死の形相で「やれ、あいつを生きて帰すな!」と声を荒げた。
 何が起こっているのだろうか? それは繁華街の一角に設けたある組事務所で、突如激しい抗争が勃発していたのだ。とはいえ、大人数の男たちを相手に戦っているのは……たった一人! 何と、一人だけで気がつけばもう数十人の男たちを叩きのめしていた。凄まじい強さだ! 哀れな子分たちは痛みを訴え、テーブルや椅子の下でのた打ち回っている。
 加えて男たちの中には、「うわー、逃げろ!」その強拳を目の当たりにして、顔を強張らせ逃げ出す族もいた。
 そして一時も経てば、とうとう親分だけが残された。周りは這いつくばって苦しむ、多くの子分たちで埋め尽くされている。
「クソッ!」その現状に、親分の方は覚悟を決めた様子だ。壁にかけられていた刀を急いで掴み取り、ギラリと抜いた!
 対する攻め手は、構うことなく悠々と近づいていく。
 直後……一気に振り下ろしてきた! が、即座の回し蹴り、刀を弾き飛ばし強力な拳を返す。
「うっ!」親分は呆気なくその場に倒れ込み、「き、きさま、どこの組のもんだ? あけぼの組と知っての出入りか!」と口元からの鮮血も痛々しく、仰向けのまますごすごと退きながら訊いた。
 するとその醜態を、フルフェイスメットで隠れた目線が見下ろす。
「俺の名は……」と籠った声で、名前を明かしたのだ!
「何! お前が?」それを聞いた途端、親分が驚いたように叫んだ。同時に焦りの色も浮かべて。
 やはりその名は、奴らにとってはこの世で一番耳にしたくない、脳裏に刻まれた戦慄のイニシャルだったに相違ない。
 ひれ伏させた悪党どもの顔に、無念さがにじみ出ていた!


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