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2章 西日本県大会編

第16話  意外な参加者

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曄園小学校 ろう下

 7月10日をむかえて暑さもより高まりを感じさせる。
夏の半ばになったころ、学校は毎年と変わらない生活を
子どもらしく楽しく送っていた。
と、思いたいところで加熱の前にちょっとした出来事。
職員室から箱をかかえて出てきたラッセルが
ぶつからないように歩いている。
別に子どもに配る物でもない、全て私物みたいな物で
自宅に持って帰るためにわたされただけだ。
そこにソウマが自分の手に持っていた物を聞く。

「その手紙はどうしたの?」
「他校の子からここに届けられてきたみたい、
 全部ぼくあてで感想文がたくさん」

2~3通だけ読んだらファンレターの類だと推測、
おそらく展示会で自分の作品を見つけて好まれたのか
学校を特定されて送られたもよう。
まあ、カラーマジュの製造から有名になってしまったので、
絵といっしょに評価された上乗せがこれと同じ様だ。
友だちの前で見せるのもおっくうになる。

「やれやれ、ラッセルはだれよりも多く展示品を
 作ったからな。その分だけ関わってくる人もいそうだね」
「作品を出してる時点であるていどかくごしてたけど、
 アピールは反対に良からぬものをまねく時があるから。
 季節に似合った熱れつなファンも水をかけただけじゃ
 なかなか冷えそうにないよ」
「マリがこれを見たらどう思われるかな、
 それがきっかけで何か大きな事件が起こらないと良いね。
 そうそう、今月のことだけど、ぼくはちょっと用事で
 他県に行かなくちゃいけなくなった」
「えっ?」

引っこしではなく仕事関係で行くだけのようで、
すぐにもどってくることだけは安心したものの、
夏の出だしは意外な方向へ向く。

「親の都合でさ、向こうの花屋でやることができたって。
 それで空いた分というわけでもないけど、
 ウオバト部にまた新しく入る人がいるって」
「また来てくれたんだ?」

それで7月の大会はいっしょにできそうにない。
そこへ代行と言えるような感じだけど、
ずいぶんと準備の良い展開をむかえた気がする。
ソウマの背後から元気のなさそうな声がした。

「「よ、よろしく・・・」」
「マコト君だったのか」

加入したい子はとなりのクラスの人だった。
名はベヒトルスハイム・マコト。
あの去年に起こした教室爆破事件の仕かけ人で、
真っ青に染めた子がここで名前も明らかとなる。
黒髪おかっぱ頭にメガネをかけた外見より、
とりわけ運動ができる子でもないと思うものの、
ウオバトを始めたい動機が不思議である。

「とつぜん入りたいなんてどうして?」
「ぼ、ぼくも、運動不足がたたって、解消したい。
 ラッセル君にあやかり、カラーリング、アピール。
 アートをスポーツに、世間に知らしめ、えへへへ」

カラーマジュのみりょくでやりたいとのこと。
去年から中つ国に広まった色戦法が体力によらずに、
少しでも活動したようで部活に参加したいと言う。
言葉のすき間にあやかるなんて言い方がアレだが、
やりたい気持ちがあれば断る理由もない。
さすがにウオバトで水素グレネードなんて投げたりして
反則なんてするつもりもないだろう。
挙動きょどうふしんな言動に、ふつうの顔をしながら受け入れる。

「そうだね、ぼくらももちろんかんげいするよ。
 曄園自体まともにスポーツもできなかったけど、
 君も何かしら主張したいことがあるだろうし」
「あ、ありがとう、ぼくも、色付け、がんばる」

たどたどしい返事ながらも前向きさはあった。
この学校はみんなとくちょうをもっているから、
いずれどこかで思いもよらないかつやくをするだろう。
ただ、すぐ試合に出すのは少し大変だろうから
こなれるまでベンチとする。
自分たちも彼とあまり大きな差がないけれど、
来年のことも考えて人員が多ければ温存。
とつぜんのシレッとした加入であろうとかまわない。
ソウマが小さくつっこむ。

「「これもフラグかな?」」
「「そこは・・・おさえておいて。
  ぼくも言い分が思いつかなくなるから」」

つまりは変人キャラも必要だと言うつもりはない。
個性的なキャラを1人でも多くなんて思わず、
スポーツにのぞめれば良い。
ソウマとは一度わかれてしまうさみしさがあるけど、
ウオバト部の管理もあるのでそう思っていられない。
だから、自分は彼に心配はないと伝えた。
そういえば、そろそろ県大会の知らせがくるはず。
夏休み前には試合を行うからスケジュールも早めに
知っておかないと後々つまってしまうもの。


「ラッセル君、試合の情報が届いたわよ」

来た、いつもタイミングを見計らうマチコ先生らしく
会話の終わり際に知らされた。


「最初の県大会は・・・シマネか」

同じ中つ国との相手が決まり、こなれないながらも
書類をすみずみまで見て内容を知る。
これといった強ごう校とは聞かない。
とはいえ、すでにカラーマジュがいきわたった今において
自分たちとは異なる方法を使ってくるかもしれない。

「この学校もどうやら何か仕かけをもつ所だって、
 あるカラーリングでプレイをするつもり」
「ぼくらがまだ思いついていない戦法か、楽しみだ」
「ウヒヒヒ」

人の数だけ攻め手も多くあるだろう。
今年の夏もきっと暑く、水でどれだけあびせようと
かなわないほど熱くなれそうだ。
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