スプラヴァン!

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1章 関東編

第10話  フリースタイル、関東

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トウキョウドーム

ワアアアアアアアアアアァァァァァァ

 関東最大の試合場、トウキョウドームで
スイリュウは観客席の最も遠い端からボディーガード
4人にかこまれながら様子を観ていた。

「スイリュウ坊ちゃま、お父上の方には――?」
「いいよ、ここで観ているから」

結局、ぼくは全国大会を観に来ていた。
一度は行かないと言ったものの、キャンセルして
ウオバトの最高部を目にする。
向かいのらいひん[えらい人]席には父もいる。
今日はいっしょに座らずに離れたところからうかがって
上級者たちのプレイを目にしていた。

(アサルトライフル型の距離は約10m、
 ギリギリとどく場所からショットしてねらわれる
 リスクもさけて動いている)

水玉の落下する長さを予測して打点を考える。
もうそこまで行動できる人も増えてきて、
一種の型をとことんできる限りの方法をつくしている。
2096年からたった4年といっても、形は変わらずに
そのまま続いていた。
関東は地方の中でもたくさん人がいる。
でも、新型を作る人があまり出てこない。
個性とは何か、まだ答えが出せないまま様子を見続ける。


「おおっと、選手Dがここで裏取りィ!
 タイミングをみて巻き返しなるかァ!?」
「う~ん、相手が前のめりになりすぎたのを見こして
 見図りにきましたねェ」

大会専属アナウンサー2人がじょうきょうを語って
大きな声に場がもどされる。
今回は他地方の選手と試合しているので他種類との
ウォーターガンどうし。水の発射が別々に飛び出て、
人体との位置取りをせまられる。
それがまだ続いている、解決方法があるのかと
どこかしこにながめていると。

「おっす!」
「コトミ、ノエル、ロール・・・」

クラスの女子3人がここに来た。
どんな組み合わせか、彼女たちも大会を観にきて
ボディーガードの集まりも気にせず歩いてくる。
こんなに暑くても元気に様子をうかがいにきた。

「世界のライバルをお目付けしてるの?」
「まあ、それもあるよ。
 近年になってから上手な人も出てきて、
 ぼくも参考になれるかなって」
「あたしらも野次馬やじうま的に観てたんだけど、
 ホンット“これスポーツ?”って言いたくなるくらい
 メチャクチャだわ、ワハハハ!」

各地方で使っている種類を1つのコートで試合をして
いるだけあってツッコミも本当らしく思える。
子どもの感想そのもので、正論とばかりにほほえんで返す。

「できたばかりのモノはすぐに完成しきれないんだと
 いつも思ってる。どんなにえらい人だろうと、
 物作りにすき間なくこなせるのは難しいし。
 不定形自由形もまだあいまいなところがあるから」
「おんなじ試合場でもこうやって別々の水鉄砲とか
 使ってるからあいまいもあいまいよね~。
 これって水の量とかライフを減らせるポイントとか
 キッチリ調整させてやってるから、
 ああいった連中を相手にしなきゃいけないんでしょ?」
「うん、水を大量に流す道具なんてダメだし。
 関東はどうすれば良いかって」
「そう・・・ね」

前に学校で話したウォーターガンの種類に、
迷いを打ち明ける。ただでさえ女子組に答えを求めよう
なんてことが無理に等しいだろう。
そこをどう対抗すべきかここで言っても仕方ないけど。
そんな時、コトミはある言葉を放つ。










「フリースタイルか・・・それで良いんじゃない?」
「フリースタイル、自由にやれってこと?」
「あ、これ見出し記事で使おうとしてた言葉だ。
 まあ良いや、自由の中から良さそうな作戦とかで
 やってけばって話。
 だって、ウオバトのルールがそれっぽいんだし」
「確かにそうだけど、規格と対抗できそうかな?」
「あたしは種別でどんな試合になるかなんて
 分かんないし、正直言って水出しっぱ合戦だけの
 遊びにしか思えない」
「そうかな?」
「人が多いってことは確かに新しい物を作れる人が
 たくさん出てくるはずかも。
 でも、全然出てこないことだってあるんじゃない?」
「う~ん、どういうこと?」
「ああ、やっぱ固いね。
 理由は単純、あんたが比例思考ひれいしこうだから」
「!?」

コトミはぼくに固いと言う。
意味は人が多いから発明者も必ず多いはずだと思う比例で、
頭の良さとか分布ぶんぷもそっくりだと決めつけているとつく。
不意の言葉に、ぼくはだまって続きをうかがう。

「発明ってさ、個性から出てくるものじゃない?
 数でどうにかなることじゃなくない?
 思いつきとかきっかけで作るんだろうけど、
 それぞれのルートの中をたどって出ることだと思う。
 集まりってのはさ、なんかルールとか固めてるし。
 特に女はそれで、同調の強さを求められているから
 物作りできるのが男より少ないもん。
 まあ、性別はどっちにしても集まるってのは
 逆に個性とかどんどんうすくなっちゃうかも。
 下流や中流社会ってそんなものよ?」
「・・・・・・」

とても小学生の見解とは思えないものの、
確かに当てはまる感じがした。
日本も昔は連結意識が強かったらしい。
だけど、どうしようもなく体がやりたいと
言っているような気がする。
自由型フリースタイル、それぞれの立ち回りから始める。
まさに、形にとらわれないやり方でやっていこうと
彼女はぼくにすすめた。
ノエルとロールも続けて言う。

「そう、だからこれからジックリと様子見しながら
 やっていきましょうってこと」
「・・・そうか、そういう見方もあるかも。
 いつか出てくる人がいるかもしれないから、
 すぐに答えとか出すなって意味か」
「スイリュウ君の方はそういった感じがするから
 大変よね。あんまり固く考えすぎると氷になっちゃうよ。
 あ、そうそう、私の家で作ってきたパンがあるの。
 食べてみる?」
「え、良いの?」

ロールの家で焼いたというパンを差し出してくれた。
最近になってからずいぶんと食べさせてもらっていて、
断れずによく受け入れるようになる。

パクッ モグモグ

今度はきちんと味がある。
ロールのロールパンに生クリームとチョコが入っていて、
子どもの好きそうなトッピングでそえていたようだ。
美味おいしい、と思わせるのも工夫がいる。
パンやクリームそのものに大した工夫をしなくても、
組み合わせで良くさせる方法もある。
先の話を言いたくも、言葉が思い付かない。
とっぴょうしにそこで、ぼくは思わず小さく口にする。


「「トップの・・・トッピング」」
「ん、今なんて!?」
「あ、いや」
「聞こえたー、スイリュウ君もギャグを言うものね!」
「ねえ、もう一回言ってみてー!」
「い、今のは、つい――」

ワオオオオ

会場がいっせいにかんせいしてわいた。
だれかのファインプレーで大きな声が上がり、
こっちのことじゃなく試合の方で間をかき消した。
大したことではないものの、何か一考させる。
すぐに結果や答えなんて出せなくても良い。
水だって元から形もなく、地球から海としてわいて出た。
一市民の彼女たちから言われたことで、ぼくの中にあった
とらわれがどことなく溶かされた感じがする。
そんな平らにあふれるここより、フリースタイルな
立ち回りでこれからを目指そうと決めた。


「ぼくは・・・今まで通りにやっていく。
 関東は関東でのやり方で世界を涼めていこう」



――――――――――――――――――――――――――
関東編はこれで終了します。
日本トップの子は地方へマイペー――ゲフン、
「「フリースタイル」」なやり方を通して来年に備える
決意をした。
これからどんな運命をむかえるのか、
それでは次編にいきます!
時おり、外伝も追加するのでよければえつらんして下さい。
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